Another line   作:空野 流星

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銀の狼

 

 

体長240cmもあろうかという巨体。

 

その毛並みは、この暗がりでも分かるくらい綺麗な銀色だ。

 

 

銀狼は唸り声をあげてこちらを睨んでいる。

 

私は睨み返しながら弓を構える。

 

しかし、相手から攻撃を仕掛けてくる様子はない。

 

そのせいか攻撃を躊躇してしまう……

 

 

 

”そこに貴女の相棒となるべき獣がいます”

 

 

 

そういえばそんな事をあのビーストマスターは言っていたな。

 

まさかこの銀狼が?

 

 

 

”扱いきれなければ殺される事もあるのですよ?”

 

 

 

もう一つ嫌な言葉も思い出してしまった……

 

 

つまりは、この銀狼をパートナーに出来るかどうかがクエストのクリア条件なわけだ。

 

とは言うものの、何をしていいやら。

 

ひと先ずは弓を降ろす。

 

 

 

「こ、こんにちわ。」

 

 

 

言葉通じるのかな?

 

見た目はただの狼だし、人の言葉が分かるとは思えない。

 

 

 

「……」

 

 

 

やはり返事はない。

 

――しかし、先ほどまでのきつい視線が少し緩んだ気がする。

 

 

 

 

「貴方はここで何をしてるの?」

 

 

 

通じるか分からない会話を続けてみる。

 

黙っていても何も変わらないだろうし……

 

 

少しずつ歩み寄ってみる。

 

先程よりも表情が険しくなる、明らかに警戒されているようだ。

 

一度歩みを止めてこの狼を観察してみる。

 

 

――特に変わった所は無さそうだ。

 

大きさ以外は写真等で見る狼と変わらないように見える。

 

ちょっと撫でてみたいかもしれない……

 

 

相変わらず狼の視線はこちらを見たままである。

 

このなんとも言えない空気が非常にもどかしい。

 

 

 

「……」

 

 

 

カラン、と乾いた音が響く。

 

私は手に持った武器を投げ捨てた。

 

狼は首を傾げた。

 

こうして見ると犬のような仕草だ。

 

 

再び歩みを進める。

 

どうせゲームなんだ、失敗したらやり直せばいい。

 

 

グルルと低い唸り声を上げてこちらを睨んでくる。

 

大丈夫、大丈夫……そう自分に言い聞かせる。

 

 

 

「貴方と仲良くなりたいのよ、何もしないわ。」

 

 

 

その言葉に反して狼は腕を振り上げた。

 

私はとっさに腕を前でクロスさせて防御の姿勢をとった

 

 

 

 

――思った程の衝撃はこなかった。

 

吹き飛ばされたわけでもなく、自分はその場に立ったままだ。

 

 

ズキン!

 

 

視界が赤と白に点滅する。

 

今まで経験した事がない痛みに声も出ない。

 

私はその場に座り込んだ。

 

 

本来ならば痛みに対する軽減設定がされている。

 

しかし、この痛みはその設定限界を超えてるのでは?

 

 

感覚の曖昧な腕をなんとか動かしてポーションを取り出そうとする。

 

しかしその度に痛みが襲い、視界がチカチカと点滅する。

 

カランと赤ポーションが手から落ちる。

 

その場に寝そべり、口で蓋を開けて中身を飲み干す。

 

 

少しずつ痛みが和らいでくる。

 

普段は回復薬としてしか見る事が無かったが、痛み止めの効果もあったのかと感心する。

 

 

痛みの治まった腕を見てみるが、血まみれになっている。

 

おそらく腕を振った衝撃がかまいたちのような真空波を発生させたのだろう。

 

服の端で血をふき取る――赤ポーションのおかげか、出血は既に止まっていた。

 

こう見るとなかなかえげつない傷口だ。

 

設定次第ではここまでリアルになるのだと少し恐ろしい。

 

 

銀の狼は先程のやり取りをずっと見ていた。

 

その瞳は蔑むわけでも敵意でもない。

 

 

突然銀の狼が動いた。

 

ややふらついた動きでこちらに歩み寄ってくる。

 

 

再び攻撃されるのではと身構える。

 

狼は顔を腕に近づける、急に傷口を舐め始めた。

 

 

 

「くっ、くすぐったいよ。」

 

 

 

痛みは無いがくすぐったい。

 

彼?からしたらお詫びのつもりなのだろうか?

 

――血の匂いに釣られたとは思いたくない。

 

 

 

 

舐めるのを止めると、その場に座り込んだ。

 

 

――今、気づいた。

 

座り込んで露わになった右後ろ脚の怪我。

 

私はゆっくりと、その足に近づく。

 

 

傷はそれほど深くはないが、ごく最近まで出血していたような感じだ。

 

さて、この場合はポーションを飲ませればいいのかな?

 

使い方自体はきっと同じよね……

 

 

 

「お口開けてね、大丈夫だから。」

 

 

 

狼は大人しく口を開ける。

 

流石に、この口で嚙まれたらと思うとゾッとするものがある。

 

 

狼はあまり美味しくなさそうにポーションを飲み込む。

 

現実とは違い、このポーションは即効性がある。

 

さっきの自分と同様にもう治っているはずだ。

 

 

怪我をしていた足の血を舐めとり始める。

 

思った通り多少の傷の後だけ残しほぼ治っている。

 

この傷の後も、少し時間を置けば消えるはずだ。

 

 

どうやら傷のせいで警戒が強かったらしく、今は敵意を感じない。

 

むしろ懐いてるようにも感じる。

 

今もこうして顔を擦り付けてくる。

 

しかし、ここからどうすれば……?

 

恐らく相棒としての何かしらの契約があるのだろうけど。

 

通常ならNPCから購入するし……

 

 

私が困っていると、狼は何か思い出したようにフロアの奥に歩き出した。

 

そこで何かガサゴソと漁り始める。

 

 

しかし契約といえば――うん、まずは名前か。

 

言霊で縛る的なアレよきっと。

 

フェンリル、じゃありきたりだし、普通の名前じゃなんか違うし……

 

 

狼がこちらに戻ってきた、口に何か咥えている。

 

鉱石の光が反射して光る――これは、指輪?

 

 

指輪を受け取ると、満足そうにその場にお座りした。

 

私はその指輪を右手の薬指にはめた。

 

 

 

「君の名前は今日からルナプスよ。」

 

 

 

ルナプスは黙って頷いた。

 

 

それと同時にクエストクリアのポップアップと、転職完了のポップアップが表示される。

 

どうやら無事終わったようだ。

 

流石に疲れたので今日はもう休みたい……

 

新スキルの確認は明日にしよう。

 

 

私はルナプスと一緒に洞窟を後にした。

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