午前の授業が終わった事を知らせるチャイムの鐘が教室に響く。
いつもの日課で購買に行き、昼食を購入する。
そして教室に戻って気づく、今日はアイツが休みだったのだと。
仕方ないので2人分の昼食を頬張る。
苺ジャムが妙に甘ったるい。
「なんだよお前、二人分買ってきたのかよ。」
「……」
アイツの取り巻きだ。
構わず放っておいてくれればいいのに。
「お前も大変だよな、あんな奴に目をつけられててさ。
しかし、アイツもがいなきゃこんなに平和なのにな。」
まるで自分も開放されたような言い方だ。
案外仲間にも嫌われていると思うと、意外と可哀想という感情も浮かぶ。
「案外アイツも一人なんだな……」
「何か言ったか?」
「なんでもない。」
僕はそのまま残りパンに齧りついた。
「あらまぁ、これまた立派な……」
ルナプスの姿を見てユキさんは心底驚いている様子だった。
「そもそも、これ仕様上にないし、どうなってるのかしら……」
「やっぱり仕様外なんですか?」
情報とは違う転職クエスト、ショップで購入不可能な相棒。
規格外の塊みたいな出来事に遭遇したのだから、何かしら意味があるとは思う。
「ただのバグなのか、それとも――敵が塩を送ってきたのか。」
何か専用のコンソールを取り出してルナプスのデータを調べ始める。
ルナプスは不思議そうに首を傾げてその様子を見ている。
「データだけみたら、私達が組み上げているものと差異は無いわね。
相手側からのトラップらしきものも見当たらないし……このまま扱ってても大丈夫だと思う。」
「そうですか。」
ルナプスの頬を撫でてやると、私の顔に擦りついてくる。
「とりあえず今日は少しソロで狩ってみます。」
「折角転職したものね、気を付けるのよ。」
私はルナプスの背に乗る。
ふさふさの毛が座り心地良い。
「じゃあ行ってきます。」
手を振るユキさんを背に町の外に向かう。
とりあえずは1ランク下の狩場で試してみようか。
「大体こんなものかな。」
ルナプスの背から降りてその場に座る。
背に乗って戦うせいか、今までとは全く感覚が違う。
まず、一部のスキルが消えて新たなスキルが追加されていた。
追加されたスキルは4つだ。
”パワーブレイクショット”
”アーマーブレイクショット”
”マジックブレイクショット”
”メンタルブレイクショット”
効果はファイターの同名のスキルと同じで、それぞれ相手の能力を下げるものだ。
逆に属性攻撃が無くなってしまっている。
これはビーストマスターという職が、火力よりもデバフに重点を置いているせいだろう。
そしてこの子、ルナプスが唯一無二のメリットとなる。
通常は一緒に戦う相棒を扱うのがビーストマスターである。
しかし、ルナプスは乗る事によって移動速度も早める事が出来る。
その反面、ルナプスが攻撃する場合は私が下りるか、そのまま共に接近する必要がある。
この場合、降りるか乗り続けるかの選択で状況によって使い分けが必要だ。
「あれ……?」
ふとフレンド欄を覗くと、同じ狩場に卍エクスカイザー卍がいる。
彼のレベルは32、この狩場の推奨は40以上だ。
背伸び狩にしてはかなりきつすぎる。
私はルナプスに乗ると、バッグから双眼鏡を取り出した。
一体どこに……
辺りを見回してみる。
5,6人のプレイヤーがソロ狩りをしている。
――いた。
ポーションをがぶ飲みしながら戦っている。
「いくよ。」
私はルナプスを走らせた。
「貴方、ここでなにしてるの?」
「ん、なんだoリナoか。」
卍エクスカイザー卍の姿はあまりにも酷かった。
手足には多くの切り傷、鎧はすぐに修理が必要な程ボロボロだ。
無理な戦闘を続けていたのが見て取れる。
「お前転職出来たんだな、おめでと。」
「そんな事より一旦町に戻りなさいよ!」
「なんでだよ、俺だって1日中レベル上げ頑張ってるんだよ。」
そう言って次の敵に向かって行こうとする。
私はとっさに彼の肩を掴んだ。
「そんな無理な上げ方で効率出るわけないでしょ? 兎に角町に――」
「うるさい!」
私の言葉を遮って彼が叫んだ。
まるで何かに取り付かれたかのような、鬼のような形相だ。
一体何が彼を……
「俺はレベルを上げなきゃないんだ、邪魔しないでくれ。」
「……」
私は何も言えなかった。
言う権利なんてなかったのかもしれない。
恐らく彼を追い詰めている原因は私だ。
彼は再び次の敵に切りかかる。
その返り血を浴びながら戦い続ける。
彼は、私と一緒に遊びたいだけなのだ。
その純粋な気持ちが焦りとなり、彼を追い詰めている。
私はそれに気づいてあげられなかった。
でも私にとって、このゲームはもう遊びの範囲を出てしまっている。
あんな事さえなければ、皆でもっと楽しく遊べていたのだろうか。
「明日の卒業式は来てね……」
今の私には、その言葉しか言えなかった。