「遅い……」
卍エクスカイザー卍に呼び出されて、校舎の前で待たされること30分。
未だに彼は現れない――
「呼び出しておいてこれはないわよねぇ。」
いい加減待ち疲れた。
このまま何も言わずに帰ってやろうかという気持ちにさえなる。
「……お待たせ。」
タイミングよく、中から卍エクスカイザー卍が出てきた。
その表情は硬く、いつになくシリアスな雰囲気を醸し出している。
「で、用事って何かな?」
「それなんだけどさ……」
視線を左右に逸らしたり、何か言い出しそうになりながら急に止めたり……
一向に話が進まない。
「用事が無いなら今日はもう落ちるけど?」
「まってくれ!」
彼は一度深呼吸をし、こちらを見据える。
「俺と付き合ってくれ。」
「――馬鹿じゃないの?」
突拍子もない言葉に、本音が口から漏れた。
付き合うって……それは交際って意味よね?
流石にそれは――
「馬鹿ってなんだよ! 俺は本気だぞ!」
「あのねぇ……これはゲームよ? 本気の恋愛してどうするよ。」
「だって、好きになっちまったもんはしょうがないだろ。」
たまに本気の恋をしてしまう人がいるとは聞いた事がある。
しかし、自分が経験する日が来るとは思っていなかった。
そもそもで、リアルの私は男であって付き合うなんて不可能だ。
「――ごめん。」
「そっか、ダメだよな。」
何故か断る言葉を発する時に、胸がチクりと痛んだ。
「ほら、別に付き合わなくてもゲームは一緒に遊べるでしょ? そんなにしょぼくれないの。」
「所詮友達止まりだろ? 慰めはよしてくれよ……」
「だからそんな――ってちょっと!」
ショックのせいなのか、彼はそのままログアウトしてしまった。
残された私は非常に後味が悪い。
「最悪……」
再び言葉が口から漏れた。
ログアウトした私は、ベッドに寝転がる。
明日も学校だし、そろそろ寝ないといけない時間だ。
来客を知らせる通知が来る。
しかも現実の方だ。
私は急いで仮想空間からログアウトする。
――
―
ベットから起き上がり玄関に向かう。
しかし、この時間に一体誰が……非常識にも程がある。
「はい、どちら様――って田辺。」
「――よぉ。」
意外な人物の来訪に驚きを隠せない。
そもそもなんでここに……
「邪魔するぜ。」
「ちょっ、どういうつもりで――」
田辺は勝手に部屋に入るなり、ソファーに腰掛けた。
「お前の部屋質素すぎてつまんねぇ。」
「なら帰ったら?」
「それこそ俺の勝手だろ?」
威圧的な態度に言い返せなくなる。
慣れてるつもりだったが、やはりコイツは嫌いだし怖い。
「――最近学校きてないけど。」
「あ? 学校なんて行く意味あるのか?」
「まぁ……無いんじゃないかな。」
「お前は昔からそうだな。」
田辺は急に立ち上がり、僕の目の前まで来て見下ろしてくる。
その形相は、最近見たような気がする。
「昔からそうやって、誰かに従えばいいって思ってる。」
「……」
昔から? 昔からなんて……
「ずっと親の言いなりでよ、テメェの意思はねぇのか?」
「そんな事……」
まるで僕の事を全て知っているような物言いがなんだか腹立たしい。
そもそも、自分の記憶と何か食い違いが……
ゲームで感じた眩暈が襲ってくる。
倒れそうになった所を田辺に支えられた。
「おい、大丈夫か?」
「――大丈夫。」
口ではそう言ったものの、立ち上がれない。
コイツに助けてもらってる事自体が嫌なのにどうにもならない。
「お前だってほんとは嫌なんだろ? そんな――」
頭が痛い。
もうこれ以上聞きたくない……
眩暈と頭痛の中、無理矢理田辺の腕から逃れた。
「なんだよ、お前も俺を拒否するのかよ。」
「ん……?」
「やってられねぇよな、ゲームでも現実でもフラれてさ。」
ゲームでも……?
後半はあえて聞かなかったことにするとして、今ゲームと言ったのか?
「何不思議そうな顔してんだよ、俺だってゲームくらいするさ。」
脳裏に卍エクスカイザー卍の顔が浮かぶ。
いや、そんなまさか……
「俺としたことが、VRだからって現実と混同しちまったよ。」
「……」
あぁ、やっぱり、彼なのだ。
何も言葉が出てこない。
感情だけが自分の体の中で渦巻いている。
「現実ではお前にこんな扱いだし、ほんとやってらんねぇわ……」
「……」
「お前、ほんと大丈夫か?」
分からない。 何がどうで――
僕は誰だっけ……?
「おい!」
色々なものが混ざり合い、せめぎあう。
溶け合った感情と思考が真っ白になって――
そのままブレーカーを切るようにプツンと意識が途絶えた。
―――
――
―
”この子は――”
”――隠して――このまま”
誰かの声が聞こえる。
聞き覚えがあるような無いような……
”――しかない”
「はっ――!」
目が覚めるとそこは病院だった。
確か部屋でアイツと話してて……
周りを見渡すがアイツはいなかった。
個室に僕一人だけだ。
頭痛はさっきまでに比べればかなり落ち着いている。
僕はもう一度ベットに横になる。
「そっか……」
アイツが卍エクスカイザー卍だったんだ――
僕はそのまま瞳を閉じて眠りについた。
「この役立たずが。」
女性のビンタで男が吹き飛ぶ。
男は立ち上がろうともせずに、床に転がっている。
女性はそんな男は無視して、デスクに座ってキーボードを叩く。
「まぁ、やっと1つは役立ったわけだけど。」
モニターにはoリナoの映像が映っている。
その映像を見て、女性はニヤリとほほ笑んだ。
「これで直接の干渉ができるわ。」
床に転がる男――ユキヤ@邪神はデータに分解されて消える。
”マザー”は見向きもしないで全てのモニターを表示させる。
「見極めてあげる、oリナoちゃん。」
一人だけの広い部屋に、彼女の笑い声だけが響いていた。