深淵の森
「遅いわよ。」
「――すみません。」
ユキさんに呼び出されて、急遽リクセント城下町の路地裏にやってきた。
壁に手を触れると、グラフィックが裂けてポータルが出来る。
「さあどうぞ。」
ポータルにアクセスする。
移動先は文字化けで読む事はできない。
――
―
移動した先は、いかにも作戦室といった雰囲気だ。
中央の長テーブルの上には電子の地図が広がっており、奥には巨大なモニターがある。
周りには、他にもユキさんが呼んだであろうプレイヤーが数人いる。
「全員そろったわね。」
テーブルの真ん中に来ると、ユキさんはとある場所を指さした。
地図には×印がつけられ、名称が書き足されている。
「深淵の森……」
「私が現地で確認してきたから間違いないわ。 今回はこの森の対応をどうするかの話し合いに呼んだの。」
その言い方からすると、恐らくは”マザー”の仕業なのだろう。
ついに表立った干渉を始めたという事だ。
「新イベントとして運営側は発表して誤魔化したけど、実際に入ってみないと分からないわね。」
「ちなみにどんな扱いのMAPになってるんですか?」
「インスタンスダンジョン扱いね、しかもソロ入場限定。」
中々に面倒な仕様のようだ。
つまり中を調査するにも、一人で行動しなければならない。
それなりの危険も付いて回る中の単独行動だ。
「ともかく、一度入ってみない事には何も分からないわ。」
『……』
周りも無言の肯定――
危険だろうと入るしかないのだ。
それは勿論私もである。
「私とoリナoがそれぞれ入るから、残りはバックアップをお願い。」
『了解です。』
「――了解です。」
当然の如く潜入するメンバーにされている。
監視対象である私が動いた方が、何かしらのアクションを期待できるという意味もあるだろうし。
「では2時間後に現地集合で、いいわね。」
2時間もあれば準備しても余りある時間だ。
覚悟を決めて来いって意味なのだろうか……?
ギルドルームの自室にて、私は預けたアイテムの確認をしていた。
情報が何も無い場所に行くならば、多くの状況に対処できる装備品が必要だ。
属性耐性のアクセサリー各種、対物理と対魔法用の防具、消費アイテムetc...
「何をガチャガチャやってるんだい?」
「あ、サブマスター、お疲れ様です。」
サブマスターが部屋を覗きに入ってくる。
そう、ドレイクさんだ。
ここは”紺碧の猟団”のギルドルームなのである。
「ははん……さては抜け駆けする気だね?」
「何のことです?」
「隠したって無駄だよ、あんたあの森に行くんでしょ。」
別に隠すつもりも無かったが、どうやらバレバレのようだ。
その様子から察するに、ドレイクさんはまだ挑戦しないようだ。
「えぇ、そのつもりです。」
「その心意気、アタシは好きだよ? まぁ帰ったら中の様子を教えておくれ。」
「分かりました。」
青空教室を卒業したのち、私はしばらくソロでの活動を続けていた。
確かに紺碧の猟団には誘われていたが、たかだか50レベル台で入るのも気が引けた。
しかし、レベル80にもなるとドレイクさんに強制的に連れてこられてしまったのだ……
まぁいつかはって思っていたわけで、それが早まっただけだが。
私はアイテムをバッグにしまいこみ、立ち上がる。
別に恐怖は無い――と思う。
確かにいつか我が身だ、彼らと同じようにならないとは限らない。
特に今回は罠の可能性も高い。
明らかに私達と誘っているのだ、あの森は。
私は深呼吸をして、部屋を出た。
どの道、選択肢など前から無いのだ。
現地に着くと、何人かのメンバーが機材を設置していた。
現実で言うモニターだ。
見た感じ、1台がもう稼働している。
「ユキさんは?」
「もう先に入られました。」
ユキさんが見当たらないのは、やはりそういう事らしい。
つまりこの映像を映しているのはユキさんだ。
「ユキさん、中の感じはどうです?」
「”なかなかハードよ、ソロ用に敵のHPが調整されているとはいえ、レベルは皆100”」
カンスト相手は、自分のレベルでは少々辛い……
最悪様子見だけで撤退するという手もある。
「”取り合えずこのまま進んでみるわ”」
「分かりました、私も入ってみます。」
メンバーの人に受け渡されたブローチを装備する。
どうやら中にカメラがついているようだ。
流石にユキさんの同僚達なだけあって、規格外の装備を作るとは流石だ。
私は最後に装備品とアイテムの確認をする。
――よし、行こうか。
”深淵の森”
”制限レベル無し”
森の前でポップアップが表示された。
制限レベル無しという見慣れない表示がある。
敵にレベルが100なのに制限なし?
疑問は尽きないが取り合えず中に入ろう。
私は謎多き森に足を踏み入れた。