「おいで、ルナプス!」
右手の薬指にはめた指輪が呼応して光り出すと、ルナプスが転移してくる。
相変わらずどんな原理かは分からない。
ルナプスの頭を撫でてから背中に乗る。
辺りに敵影は無し、ルナプスも特に警戒していない。
しかし、マップは表示されない。
とりあえず、道なりの、真っすぐ進んでみようか。
幸い横道は無く、獣道のようなものが続いている。
まるで奥へと誘われているような不気味さもある。
――
―
行けど行けども獣道、敵の姿は無く、鳥の鳴き声しか聞こえない。
「こちらoリナo、内部を探索中だが何もいない。」
「”おかしいわね、こっちはさっきから敵だらけよ。”」
通信でユキさんの声が聞こえてくる。
こちらとは違い、かなりの数の敵がいるようだ。
「もしかして、入場者のレベルでマップが変化するとか?」
「”ありえるわね、リソースは規格外に使えるわけだし。”」
”ウゥゥ!”
突然ルナプスが唸りだした。
奥に目を凝らすと、人影が見える。
ただこんな場所に人などいるわけがない……
何か罠なのは間違いないが――接触してみよう。
私は慎重にルナプスを前に進めさせる。
人影に近づくと、石の上に老人が座っていた。
その瞳は閉じられ、瞑想に耽っている様子だ。
これは話しかけていいものか悩む……
「迷い人か。」
「ふえっ!?」
急に話しかけられたので、流石に驚いた。
「この森は命を欲する、命が惜しければ立ち去る事じゃ。」
「ここはどんな場所なんですか?」
しっかりとマイクで音声が拾える距離まで近づく。
ルナプスは相変わらず威嚇している。
「この深淵の森は生き物なのじゃよ、生きるために命を欲する――お前さんのような冒険者のな。」
「――物騒な森なんですね。」
「この第一の間、誘いの間までならまだ引き返せる、即刻立ち去るのじゃ。」
老人は微動だにしていないが、威圧するような空気を発している。
そもそも、何故そこまで拒むのだろうか?
「では、逆に奥には何があるんです?」
「――生と死を司る者、その力の源じゃ……お主もそれを求めて来たのだろう?」
生と死を司る者の力――また物騒な設定だ。
そういう設定でここを形成したのならば、奥にはマザーが待っているという事だろうか?
だとしたらこのまま奥に……
「そうか、お主は進むのじゃな。」
「え?」
まるで思考を呼んだような答えが返ってきた。
老人は目を見開き、ずっとこちらを睨んでいる。
「言っただろう、ここは誘いの間と呼ばれる区域――
お主を森の奥へと誘う罠だらけなのじゃよ。」
まるで、今自分が言った事は嘘だと言いたいように聞こえる。
「つまり、餌の私を食べるために奥に誘ってると、そして貴方はそのための道具って言いたいの?」
「どうかのう……? 真実は自分で突き止めるがいい。」
老人は不気味に笑いながら、徐々に石へと姿を変えていく。
「言っておくが、お前さんにとってここは地獄だぞ。」
そう言い残して完全に石となった。
「地獄……?」
意味深な言葉だけ残して、石はもう何も言わない。
その石の奥に道が続いている。
私はゴクリと生唾を飲み込んだ。
進まなければならない、例えどんな地獄が待っていても。
「行こう。」
心配そうに私を見ていたルナプスも、私の指示で再び歩きだす。
そのまま進んで行くと徐々に木々が減っていく。
「これは……遺跡?」
開けた場所に現れたのは遺跡だった。
木々に囲まれ、青く生い茂る蔦に絡まれた施設。
「ユキさん、遺跡のような場所に出ました。」
――返事が無い。
待機しているメンバーにも繋がらない。
「行くしかないか……」
私はそのまま遺跡の中へと足を踏み入れた。