Another line   作:空野 流星

29 / 50
苦悩の間

 

 

遺跡の中は深い霧で覆われ、前に進むだけでもかなり困難な状況だった。

 

建物の中なのに何故こんな……

 

 

 

「どうしたものかしら……」

 

 

 

入口から右壁伝いに進む――

 

霧は深まるばかりで、前は以降に見えない。

 

 

 

「ルナプス、何か見える?」

 

 

 

――ルナプスは首を横に振る。

 

兎に角進むしかないようだ。

 

 

少し肌寒い……

 

空気が変わったというか、言葉では表せない変化だ。

 

何かいる……?

 

 

しかし、ルナプスは反応を見せない。

 

私は一度足を止めて周りの気配を探る……アルマ族の特技の1つだ。

 

人の気配が――1つ。

 

 

 

「ルナプス、そのままゆっくり前進……」

 

 

 

小声でルナプスに指示をする。

 

モンスターではないが、何があるか分からない。

 

警戒して近づくのは当然だ。

 

 

――弓を構えてゆっくりと近づく。

 

徐々に霧の中に人影が浮かぶ。

 

 

 

「動くな。」

 

 

 

人影の背後で弓を構えて警告を発する。

 

 

 

「その声……?」

 

 

 

人影はこちらに振り向く。

 

見た目は壮年の女性だ。

 

 

 

 

「あんた、こんな所で何やってるの!」

 

 

「え……えっ?」

 

 

 

その女性が急に怒鳴ってきた。

 

あまりの唐突な展開に、どう反応していいか困る。

 

そもそもこの人は誰なのだろうか?

 

 

 

「でもその恰好――理樹、あんたやっと普通になったのね。」

 

 

「――誰?」

 

 

 

私は一層警戒を強める。

 

こいつ、私の現実での名前を呼んだ。

 

”マザー”が用意した罠かもしれない。

 

 

 

「誰って、お母さんの顔も忘れたのかい?」

 

 

「お母さんって……冗談でしょ?」

 

 

 

私のお母さんは――どうだっけ?

 

 

ズキン!

 

 

最近よく起きる頭痛がまた襲ってくる。

 

こんな時に……!

 

 

 

「あんた、ふざけるのもいい加減にしなさいよ?」

 

 

「私にお母さんなんていない……」

 

 

 

頭を抱えながら言葉を紡ぎ出す。

 

そう――いない。

 

私は家で一人暮らして、両親は子供の頃に――なんだっけ。

 

 

思い出そうとすると、頭痛は一層ひどくなる。

 

自分の事なのに、まるで他人事みたいな感覚。

 

目の前にいる女性から、母親だという感情が沸き上がらない。

 

 

 

 

私の態度にイライラしているのか、女性の表情が険しくなってくる。

 

 

パチン!

 

 

右頬に痛みが走る。

 

頬を叩かれたと理解するのに、少し時間がかかった。

 

 

 

「あんたはいつまでもそんな訳の分からない事を!」

 

 

 

――女性は涙を流していた。

 

その姿はまさに母親、という雰囲気だ。

 

しかし、やはり私には他人事にしか感じない。

 

そもそもこんな場所にいるわけがない、これは”マザー”の攻撃だ!

 

私は腕を振り上げて、ビンタし返そうとする――

 

 

しかし、私の手は空を裂いただけだった。

 

女性は影も形も残っていない。

 

結局は幻影だったという事だ。

 

 

 

――ちょっと待った。

 

私はルナプスに乗っていたはずだ、何故今一人なのだ。

 

 

 

「おいで、ルナプス!」

 

 

 

指輪が反応しない、どういう事だ。

 

 

 

”ダーメ、ここからは一人で来てね。”

 

 

「誰!?」

 

 

 

突然、脳内に声が響いた。

 

辺りを見渡すが、人影は見えない。

 

もちろん気配もない……

 

 

 

”次で最後よ、頑張って私の所まで来てね。”

 

 

 

その声はまるで楽しんでいるような声音だ。

 

おそらく――”マザー”だろう。

 

 

徐々に霧が晴れ、目の前にエレベーターが現れる。

 

試しにボタンを押してみると、エレベーターがこの階に向かって動き出す。

 

どうやら電源が生きているようだ。

 

 

ここでは分からない事が多すぎる、でも進むしかないのだ。

 

まとめて”マザー”に問い詰めればいい事だ。

 

 

私は開いたエレベーターの中に乗り込んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。