エレウシスオンラインへようこそ
授業の終了を知らせるチャイムが鳴っている。
僕は気にせず窓の外を眺めていた。
コンクリートジャングル、という言葉が当てはまるビル街の風景。
何が面白いわけでもなく、僕はずっとその風景を眺めていた。
「おい、早瀬。」
誰かが僕を呼んだ。
反射的に声の方を向くと、健全な学生とは思えない程髪を茶色に染めた男が立っている。
「聞こえねぇのか?」
「――聞こえてる。」
こいつは田辺 勇。
まぁよくいる不良だ。
そして僕は早瀬 理樹。
御覧の通りいじめられっ子っていう立ち位置だ。
「ならさっさと俺の昼飯買ってこいよ、焼きそばパンと牛乳な。」
「……」
僕は無言で席から立ちあがる。
「腹減ってるんだから早くしろよ?」
中途半端に伸びた黒髪を払って、僕はそのまま教室を出た。
―――
――
―
何故僕は刃向かわないのかって?
僕は平和主義者だ、無駄な争いはしたくない。
ほら、こうやって言われた通りの事をしておけば何もされないし、文句も言われない。
勇は渡した昼食を、ご苦労と一言だけ言って食べ始めた。
だから僕はあまり気にしない。
そもそも、現実に対しての執着が少ないからだ。
――それに、今日の僕は機嫌が良い。
ついにエレウシスオンラインをプレイ出来るからだ。
いくつもVRMMORPGをプレイしてきた僕だが、こいつは別格だ。
初めてのダイレクトログイン形式を採用している。
ダイレクトログインとは、精神をデータ化してゲーム内のアバターに転送する。
つまりゲームの世界に入り込む事が出来るのだ。
おかげで、専用の機材を購入するのに時間がかかってしまった。
「なんだよお前、ニヤニヤして気持ちわりぃぞ。」
何を言われようが関係ない、今日僕はエレシウスオンラインの世界へと旅立つんだ!
専用機器であるVRヘッドを装着し、ベッドに寝そべる。
ログイン中の体の安全のためにも、横になるのが良いらしい。
"脳波チェック中――しばらくお待ち下さい"
VRヘッドから機械音声が聞こえる。
僕は深呼吸して呼吸を整える。
"脳波安定――ダイブ開始"
瞼を閉じているのに目の前が真っ白になる。
それと同時に体がフッ……っと浮いたような感覚。
徐々に真っ白な視界に色が付いていく……
"エレウシスオンラインへようこそ、まずは種族を選んで下さい"
再び機械音声が聞こえた。
目の前には3つの文字が浮かび上がっている。
ヒューマン
エルフ
アルマ
えっと、確か……
ヒューマンが人間タイプの万能型、エルフは魔法に秀でた種族、アルマは獣人で攻撃型だったっけ。
「アルマで。」
"音声認識致しました、それではキャラメイクに移って下さい"
今度は目の前にキャラクターの3D映像が映し出される。
この辺は普通のゲームと同じだなぁと思いながらメイキングを進める。
勿論性別は女性で、可愛い系で仕上げる。
"それでは最後に、クラスと名前を設定して下さい"
これも事前に調べている。
初期職はファイター、アーチャー、キャスター、ヒーラーの4種類。
ここから上位職に転職する事になるのだが、それも予定は決めてある。
「クラスはアーチャー、名前は……oリナo」
"名前のチェック中……使用可能です。
以上で設定は終了です。それでは良い旅を――"
再び視界が真っ白になる。
遂に僕の……いや、私の冒険が始まるのだ!
「あぁ……!」
目を開くと、そこには大自然が広がっていた。
一部に倒壊したビルらしきものも見える。
設定では人類が滅亡して長い月日が流れたという世界観らしい。
大きく息を吸って吐く。
風が私のセミロングを茶髪を揺らした。
なんという事だろうか、初めて空気が美味しいと感じた。
肌の感触もまるで本物のようだった。
当然、手足もいつものように動く。
「すっご……」
つい、口から賞賛が零れる。
とてもこれがゲームだとは思えない。
自分の心臓が高鳴るのが分かる。
私はこれからこの世界を冒険するんだ!
「うひょー、こいつはスゲーや。」
「ひっ!?」
急に人の声がして、驚いて変な声が出てしまう。
「お、アンタも今日始めたの?」
目の前には一人の男が立っていた。
金の短髪をなびかせながら、金の瞳はこちらを見つめていた。
「そ、そうです。」
いつものように、声音を変えて話す。
他にも多くのMMORPGをしてきた私にとって、女声は慣れたものだ。
「そいつは奇遇だな! オレの名前は卍エクスカイザー卍だ。 アンタは……oリナoちゃんね。」
名前を呼ばれて、相手の頭上に名前が表記されている事に気づく。
”卍エクスカイザー卍”
なんていうか、うん。 名前に卍やらを付けてる相手にろくな奴はいない。
まぁ経験上の話だが……
「よ、宜しくです。」
「いやぁ、君みたいな可愛い子もゲームなんてやるんだね。
折角だしさ、一緒にメインクエスト進めないか?」
普段なら断る所だけど、手探りの今の状態ではPTプレイの方が安心だろうか?
特にデスペナの仕様が分からないうちはその方がいいかもしれない。
「私で良ければお願いします!」
「任せておけって!」
しかも都合よく卍エクスカイザー卍は前衛職のファイターだ、都合がいい。
私は所持品のバックから地図を取り出す。
この周辺の地図に金色のマーカーがついた場所がある。
「恐らくここがメインクエの受注場所だと思います。」
「このまま真っすぐ歩けばいいわけだな、モンスターもいなさそうだしさっさと行こうぜ。」
胸を張って歩き出す卍エクスカイザー卍の後ろを、私は小動物のようにちょこちょこ歩いてついて行った。