エレベーターは下へと向かって降りていく。
駆動音も聞こえず、小さな箱の中で静寂が支配している。
階を示す影響パネルは割れていて、どこにいるのかも表示されない。
無限に続くかと錯覚しそうになる静寂に包まれ、私はじっと扉の前に立っていた。
相変わらず通信は途絶していて、外とは連絡が取れない。
勿論ユキさんとも繋がらない。
私はため息をついて視線を落とした。
本当にこのエレベーターは動いているのだろうかという不安さえ出てくる。
しかし、”マザー”は次で最後と言った。
「……」
試しにパネルの開くボタンを押すが、反応はない。
確か、こういう時映画だと上から出たりするのよね。
私はエレベーターの天井を調べてみる――案の定メンテナンス用に外に出る蓋がある。
蓋を外して、上部に身を乗り出す――暗くてよく見えない。
バックから松明を取り出して辺りを照らす……
「なるほどねぇ。」
予想通りエレベーターは止まっていた。
上の方に出られそうな入口が見える。
「ここを登って行けって事ね。」
私はエレベーターから出ると、梯子に手をかけた。
年代が立っていても、意外としっかりしている。
そのまま梯子に足をかけて登り始める。
カツン、カツンと乾いた音が響く。
松明を口に咥えて梯子を登って行く。
早く登らないと流石に口元が熱い……
「はぁ……」
やっとの思いで登り切る。
奥に続く真っすぐな通路を、点滅する蛍光灯がうっすらと照らしている。
きっとこの奥に……
少し休憩した後、私は奥へと歩みを進めた。
「分かれ道か……」
通路を真っすぐ進んでいると、道が二股に分かれていた。
そしてご丁寧に看板が立て掛けてある。
”今を望むなら右、未来を望むなら左を選べ”
実に意味深な問いかけだ。
”マザー”が何をさせたいのかよくわからないが、おそらくどちらにも罠はあるだろう。
ならばこの選択肢に意味は無いのだろう。
まぁ私なら――
右の道を選んで歩みを進めた。
不気味な通路はどこまでも続く……
「っ!」
私は咄嗟に通路の脇に張り付いた。
――通路の真ん中を真空波が通り抜けていった。
殺気に気づかなければ、恐らくはあの真空波の餌食になっていただろう。
人影がこちらに近づいてくる。
あれは……
「嘘、でしょ?」
現れた人物は卍エクスカイザー卍だった。
しかし何か様子がおかしい。
なんというか、まるで人形のように生気を感じない。
「何のつもり?」
「……」
弓を構えて問いかけるが、やはり返答はない。
そもそも彼がこんな場所にいるわけがない。
彼は再び剣を構え直し、こちらを見据える。
どうやら戦う以外選択肢は無さそうだ。
「”ハイパワーブレイクショット” ”ハイアーマーブレイクショット” ”スタントラップ”」
私は容赦なくスキルを放った。
ルナプスがいないため、事実上の弱体化状態ではある。
しかし、相手はプレイヤーではない。 あれはモンスターのようなものだ。
単調な動きをするだけのコンピューターに過ぎない。
放たれた矢は綺麗に胸に的中する。
”ハイパワーブレイクショット”は攻撃した相手の攻撃力を大幅に減少させる事が出来る。
”ハイアーマーブレイクショット”防御を大幅に減少させる。
更に”スタントラップ”を綺麗に相手の足元に設置した。
これで相手は一歩でも動けば5秒間のスタン状態になる。
当然ジャンプで逃れようとしても反応する。
予想通り、彼が動こうとしてスタン状態になった。
5秒間あれば更にスキルを叩き込める――
「”ハイダスター” ”ハイクイックショット” ”バーストショット”」
更にスキルを3つ発動させる。
それぞれかつてのスキルの上位版だ。
特に”バーストショット”は”パワーショット”だった頃よりも大幅に威力が上昇している。
最後の”バーストショット”を受けて後方に大きく吹き飛ぶ。
弓にとっての相手との距離は大きなアドバンテージだ。
相手が近接ならば尚の事有利になる。
――私は咄嗟にサイドステップで衝撃波を避けた。
やはりこれくらいでは倒れないようだ。
彼は大きく跳躍してこちらに近づいてくる。
スキル? いや、こんな長距離を移動するスキルなんて知らない!
ガキン!
金属がぶつかり合う音が響く。
彼の剣を弓で辛うじて受けた。
「”ピンポイントシュート”」
私はスキルを放って後方に飛びのいた。
移動速度低下状態ならば距離を作れるはずだ。
ポイズントラップを設置しながらCTを確認する――
やはりパートナーがいない状態では火力不足だ、何か決定打が欲しいところだけど。
辺りを見回す――
やや広めの通路、点滅する電灯……
1つだけ思いついたが、ダメージ判定が出なければ意味は無い。
「……やってみますか。」
そう一言だけ呟いて弓を構える。
彼は剣を振る態勢に入っている――おそらく、また真空波を飛ばしてくるつもりらしい。
私は上に向かって弓を2発撃つ。
それと同時に天井に向かってジャンプした。
彼は予想外の動きに1舜攻撃の手が止まる。
パリン!
1発目の矢は電灯を割った――薄暗い通路が一部だけ暗闇に包まれる。
そして2本目の矢は電灯の電源コードを切断した。
私はそのまま切断されたコードを掴み取る。
種族がアルマである私には、この暗がりでも相手の姿はよく見える。
私は着地と同時に、そのままコードの切断面を相手の口に突き入れた。
バチバチという音と肉が焼ける異臭が鼻をつく。
私はコードから手を放し、距離を取る。
当然弓を構えて警戒は解かない。
ソレはそのまま倒れ込んで動かなくなった。
私は弓を下して安堵のため息をつく。
「”へぇ、ほんとに殺しちゃったんだ。”」
突然背後から声がした。
私は慌てて背後に振り向き弓を構える。
――誰もいない。
「”まぁいいわ、この奥で待ってるから”」
導くように通路に明かりが灯される。
そこに彼だったソレはもう無くなっていた。