Another line   作:空野 流星

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真実の世界

 

 

”チェック完了、ハッチ開きます”

 

 

 

ゆっくりと意識が覚醒していく中、無機質な音声が聞こえる。

 

それと同時に何かが開く音が聞こえた。

 

 

ゆっくりと瞼を開くと、見覚えのある天井が視界に入った。

 

仮想現実内では深淵の森と呼ばれた場所にある廃墟。

 

現実ではジェネラルコーポレーションの本社ビルだ。

 

 

カプセルから起き上がり、周りを見渡す。

 

同じ機械がいくつも並んでいる。

 

確か仮想現実に移動する際に全員が入ったものだが、今はどれも空になっている。

 

説明では聞いていたが、恐らくは霊基を分離後に全てクローン体を作るための材料になったのだろう。

 

今考えるとぞっとする話だ。

 

 

私は感覚を確かめるように手足を動かす――特に違和感なく動いてくれる。

 

ずっと寝ていたわけではないから当然なのだが……

 

 

私はひとまず操作出来そうな端末を探す。

 

この部屋にどこかに、管理用の端末があるはずだ。

 

あとは服も欲しい……

 

当然作られたばかりの身体であって、衣服を纏っていないのだ。

 

 

部屋の中央にある端末に触れる。

 

長い年月が立っているはずなのに、特に問題なく起動する。

 

私は仮想現実の同じ場所へとアクセスを試みる。

 

これは事前にユキさんが説明してくれた通りの手順だ。

 

 

 

「おはようoリナoちゃん、それとも水野綾香さんって呼べばいいのかしら?」

 

 

「ユキさん、そっちの状況は?」

 

 

「”マザー”に動きはバレてるけど、ダミーデータを使って場所の特定は防いでるわ。 」

 

 

 

受け答えする余裕を見る所、まだ”マザー”からの攻撃はないようだ。

 

しかしそれも時間の問題だろう。

 

 

 

「ユキさん、”マザー”の狙いは私ではなく、卍エクスカイザー卍の方なんです。

 

彼も超越者だったんですよ……」

 

 

「――そういう事ね。 彼の事は盲点だったわ。 でも、”マザー”が彼を捕まえる前に決着を付ければ……」

 

 

「そうですよね…… 次はサーバールームを目指せばいいんですよね?」

 

 

「そうよ。 手筈通り携帯端末を回収してサーバールームに向かって。」

 

 

「分かりました。」

 

 

 

私は部屋の端にあるロッカーを開ける。

 

中には研究者が使っていたであろう古びた白衣が引っかけてあった。

 

私はその白衣を羽織り、ポケットの中から携帯端末を取り出す。

 

年代物のはずだが、携帯端末の電源は問題なく入った。

 

 

先程の端末の前に戻り、通信状態を携帯端末とリンクさせる。

 

使えそうなマイク付きイヤホンを取り出して接続する。

 

 

 

「ユキさん、聞こえます?」

 

 

「おーけー、ここまでは予定通り。 サーバールームまでの道は大丈夫ね?」

 

 

「もちろんです。」

 

 

 

部屋から出ると見覚えのある廊下に出る。

 

そう、深淵の森の施設と同じ構造なのだ。

 

私は長い廊下を歩きだした。

 

 

 

 

携帯端末のライトで廊下を照らしながら進む。

 

断線しているのか電灯は点いておらず廊下は真っ暗である。

 

おそらく施設のほとんどは老朽化で機能していない。

 

”マザー”もサーバー周りの維持優先で、他には手が回っていないのだろうか?

 

逆に言えば、”マザー”がこちらに手出してくる可能性は低いという事だ。

 

 

廊下の壁は崩れ、あちこちに植物の蔦が絡まっている。

 

足元には整備用のロボットの残骸が数体倒れている。

 

サーバールームへの入口は天井が崩れて塞がっている。

 

 

 

「ユキさん、入口が瓦礫に塞がってます。」

 

 

 

――返事がない。 交戦状態に入ったのだろうか?

 

となると打開策は自分で見つけるしかない。

 

しかし、これは明らかに人間の手ではどうしようもない。

 

それこそ機械にでもやってもらいたい所だが……

 

 

当然そんな都合よく稼働しているロボットはいない。

 

サーバールーム内にはいるだろうけど、この端末から指示を飛ばせるだろうか?

 

 

 

「――いい事考えた。」

 

 

 

私はニヤリと微笑を浮かべる。

 

 

”おいで、ルナプス”

 

 

端末にそう呼びかける。

 

そこにあるのは”マザー”なのだ。

 

当然エレウシスオンラインの領域も含まれる……そして規格外の塊のルナプスならば。

 

 

 

ガン!――と扉の奥で音が鳴る。

 

扉の内側から押し付けるような音。

 

更にガンガンと音は激しくなっていく……

 

 

凄まじい轟音と共に扉ごと瓦礫が吹き飛ぶ。

 

いやぁ、まさかそこまでするとは思わなかったよ……

 

火薬の匂いがする事から何をしたのかは容易に予想がついた。

 

 

 

「シンロカクホ。」

 

 

 

無機質な機械音声が聞こえる。

 

扉のあった場所から二足歩行のロボットが出てきた。

 

飾りっ気の無い骨組みのような見た目、2m程の身長で機械音を鳴らしながらこちらに歩いてくる。

 

腰にはメンテナンス用の工具がセットされている。

 

 

 

「ルナプスなの?」

 

 

「コウテイデス」

 

 

 

どうやら上手くいったようだ。

 

無線に乗って移動できると信じていた。

 

 

 

 

「これが……”マザー”」

 

 

 

正直、サーバーと言うからには一般的な箱型を想像していた。

 

しかし目の前に広がっているのは、プールと表現した方がしっくりくる。

 

しかしプールの水は不気味な黄金色である。

 

技術屋でもなんでもない私からすれば、これがコンピューターなのかすら怪しい。

 

 

ともかく、ユキさんの指示通りまずはアクセスをかけなければならない。

 

近くにある端末に携帯端末を接続する。

 

後は先程ユキさんが送ってくれたデータを逃し込むだけだ。

 

ルナプスはその間周囲を警戒してくれている。

 

 

――表示されているバーが100%を表示する。

 

 

 

「ユキさん、聞こえますか?」

 

 

「―――」

 

 

 

やはり応答は無い。

 

何があったかは心配だが、今は自分の仕事を終わらせなければならない。

 

 

静かな音を立てて何かが動き出す。

 

次第にプールの水が波を立て始めた。

 

 

 

――何かが浮き上がってくる。

 

その形状は、私達が眠りに入った機械と同じ形をしていた。

 

あれがユキさんの言っていた”マザー”の中核なのだろう。

 

静かに動かされたカプセルは端末の前で停止する。

 

 

カプセルの中を覗き込むと一人の女性が眠っていた。

 

いや、眠っているという表現は不適切なのだろう。

 

 

彼女は、人としては死んでいるのだから。

 

唯一のコールドスリープの被験者にして、”マザー”開発者の一人娘。

 

救えなかった娘をそのままマザーの中核にするという悪魔の所業だ。

 

予想はしていたが、やはりその容姿はユキさんや”マザー”と瓜二つの顔だった。

 

 

 

 

あとは中核と接続するだけだが――

 

 

 

「ごめん、やっと落ち着いたわ。」

 

 

 

イヤホンからユキさんの声が聞こえてくる。

 

息も絶え絶えの様子で、激しい戦闘があったのが予想出来た。

 

 

 

「ユキさん、中核への接続準備が出来ました。」

 

 

「ありがとう、早速作業に入りましょうか。」

 

 

 

私は中核に備え付けられた端末に携帯端末をケーブルで接続する。

 

後はユキさんの仕事だ。

 

 

ユキさんと中核が繋がる事で、”マザー”の全権限を手に入れる事が出来る。

 

これにより、現在の”マザー”を消去する事が出来る。

 

あとはプロジェクト箱舟の最終段階、人類復活のプロセスを進めるだけである。

 

 

 

「あぁ、なるほど……」

 

 

「ユキさん?」

 

 

「どうりで完全に機能が使えなかったわけね。」

 

 

 

やや興奮気味なユキさん。

 

私にはよく分からないが、余程楽しいのだろう。

 

 

 

「超越者が生まれて、初めて計画が始まるのは盲点だったけど――もうどうでもいいわね。」

 

 

「ユキさん?」

 

 

 

違う、何か様子がおかしい。

 

本当に、今話している相手はユキさんなのだろうか?

 

 

 

「ご苦労様、これで”マザー”は完璧になったわ。」

 

 

「何がっ……!」

 

 

 

凄まじい激痛が襲う。

 

何かの力で体の中をまさぐられるような、無理矢理引っ張られるような痛み。

 

今まで経験の無い痛みだ……

 

 

 

「さあ、帰ってきなさいoリナoちゃん。」

 

 

 

そこで私の意識は途切れた。

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