Another line   作:空野 流星

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あの日の思い出 -side ディリスタ-

 

 

”青空教室”

 

初心者の育成のために立ち上げられたギルドである。

 

それは僕の自己満足であるかもしれない。

 

でも、約束でもあるんだ――

 

 

 

―――

 

 

――

 

 

 

 

 

あれは確か、エレウシスオンラインのβテスト3日目だった。

 

 

エルシャの町で買い物をしていると、やけに騒がしい二人組を見つけたのだ。

 

ヒューマンと狐耳のアルマ族の女性。

 

これが彼女たちとの出会いだ。

 

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

「いやね、調子乗ってポーション買い過ぎて武器新調するお金無くなっちゃって。」

 

 

「回復アイテムはRPGの基本よ? ユキちゃんは初めてなんだから私に任せておいて。」

 

 

 

そう言う眼鏡のヒューマンの女性は両手に大量のポーションを持っていた。

 

ユキと呼ばれた狐耳のアルマ族の女性はこの世の絶望かのような落ち込み具合だ。

 

 

外に出てモンスターを狩ればいいだけの話なのだが……

 

 

 

「それなら、一緒にIDに行きませんか? 敵を倒せばお金も稼げますし。」

 

 

 

元々、お節介な性格な僕は自ら面倒事を引き寄せたのだった。

 

 

 

「え、いいの!? エーリカ! この人に着いてけば大丈夫みたいよ!」

 

 

「あらあら、申し訳ないです。」

 

 

 

―――

 

 

――

 

 

 

 

 

”試練の洞窟1F”

 

 

 

「なんだか、薄気味悪いわね。」

 

 

「ユキちゃん、ダンジョンとはこういうものですよ。」

 

 

 

3人で訪れたのは一番始めのID、試練の洞窟だった。

 

αテストでソロプレイした僕には、もうここも見慣れたものだ。

 

 

 

「ここなら他のプレイヤーもいませんし、ゆっくり敵と戦えますよ。」

 

 

 

湧いている敵の数と位置が固定なのもまたIDの利点である。

 

これを利用して何度も練習したものだ。

 

 

――早速モンスターが現れた。

 

スライムが3体、ゴブリンが2体だ。

 

 

ユキがキャスター、エーリカがヒーラー。

 

ここはファイターである僕が壁になって戦うのが定石だろう。

 

 

 

「”ウォークライ”」

 

 

 

スキルに反応したモンスター達がこちらに向かってくる。

 

僕は盾を構えてその群れを待ち構える。

 

 

 

「さあ、今の内に!」

 

 

「”ファイヤボール”」

 

 

 

ユキが呪文を唱えて攻撃を始める。

 

炎の玉はスライムやゴブリンを焼いていく。

 

 

 

「”ヒール”」

 

 

 

こちらのHPの減り具合を見て、エーリカが回復をしてくれる。

 

彼女の方はどうやら経験者のような感じだ。

 

 

 

―――

 

 

――

 

 

 

 

 

やや危なげだが、なんとかボスの部屋までたどり着いた。

 

ここのボスは”キングゴブリン”だ。

 

行動自体は単純なものが多く、普通に戦うだけで撃破可能である。

 

 

 

「”ガッツ””ウォークライ”」

 

 

 

盾を構えキングゴブリンを見据える。

 

何度もソロで戦った相手だ、問題ない。

 

 

 

「二人共、ボスと言っても基本の戦い方は一緒だ。 力まず行こう。」

 

 

 

後ろで二人も武器を構える。

 

僕は一気に近づき――

 

 

 

「”シールドバッシュ”」

 

 

「”ファイヤボール”」

 

 

 

合わせてユキも攻撃を始める。

 

キングゴブリンは苦悶の表情を浮かべて後ずさる。

 

それを見逃さず攻撃を続け、HPを削っていく。

 

 

 

「”ウォークライ”」

 

 

「”ファイヤボール”」

 

 

”グ¥ゲ&ェ!”

 

 

 

悲鳴を上げ倒れ込むキングゴブリン。

 

特に混乱することもなく、安定した流れで決着はついた。

 

後ろを振り向くと、エーリカは座り込み、ユキは寝ころんでいた。

 

 

 

「お疲れ様、これでIDは終わりだよ。」

 

 

「集中しすぎて疲れたぁ~」

 

 

「流石に初めてのVRは堪えるわね……」

 

 

 

動けない二人に変わり、ボスドロップ品を回収する。

 

落ち着いたらみんなで分配しようか。

 

 

 

「さて、休憩したら入口まで戻ろうか。 ちなみに、帰りは敵がリスポーンしてるから気を付けるように。」

 

 

 

二人から恨めしそうな視線を感じるが、まぁ気にしないでおこう。

 

 

 

―――

 

 

――

 

 

 

 

 

思えば、この経験が始まりだったのかもしれない。

 

困ってる誰かを助けたい。

 

その思いが僕を突き動かした。

 

 

 

「悪いな二人共、急に呼び出して。」

 

 

「いいのよ、それで用事って?」

 

 

 

彼女達も立派に成長し、遂に転職を終えていた。

 

ユキはエレメンタラーに、エーリカはプリーストだ。

 

 

 

「実は、ギルドを立ち上げようと思うんだ。」

 

 

「ディリスタが? また急な話ね。」

 

 

「前々から考えてたんだけどね…… 初心者支援ギルドを作ろうかと。」

 

 

 

そう、右も左も分からない初心者を支援する。

 

それが僕がやりたいと思った事だ。

 

メリットなんて無い、自分のレベル上げも疎かになるであろう。

 

それでも僕は、そこに楽しさを見出したのだ。

 

 

 

「それでさ、二人にもメンバーになって欲しいんだよ。」

 

 

「――いいわよ。 エーリカは?」

 

 

「もちろん、私も協力させて。」

 

 

 

彼女達は二つ返事で了承してくれた。

 

あまりの嬉しさに涙が出てくる。

 

 

 

「こらこら! 男泣きしない!」

 

 

「ご、ごめん!」

 

 

 

袖で涙を拭う。

 

流石に恥ずかしくて顔を背けた。

 

 

 

「それで、ギルド名はもう決めたの?」

 

 

「いや、まだなんだ。」

 

 

 

そう答えると、名案があるとばかりに笑顔でエーリカがこちらを見やった。

 

 

 

「”青空教室”、なんてどうでしょうか?」

 

 

「”青空教室”かぁ……いいかもしれないな。」

 

 

「なら早速作りにいこうよ!」

 

 

「あぁ、そうだね。」

 

 

これが、”青空教室”誕生の瞬間である。

 

そして同時に誓った、このゲームが終わるその時まで、必ず信念は曲げないと。

 

そう――3人で約束した。

 

 

 

―――

 

 

――

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

ユキは眠るディリスタの横で端末を操作している。

 

その表情は、明かりも無い部屋のせいで伺い知る事は出来ない。

 

 

 

「記憶改変はとりあえずこれでいいかな……」

 

 

 

そう呟く彼女の言葉は今にも消え入りそうだった。

 

 

 

「ごめんねディリスタ、でもこうしなければ貴方もエーリカのように……」

 

 

 

安らかに眠るディリスタ。

 

知らずのうちに、彼の中からエーリカの存在は消えるのだ。

 

 

 

「でも、約束は守るよ。 ”青空教室”だけは貴方の中に……」

 

 

 

彼の信念の形。

 

その設立の記憶は書き換えても、根本は変わらないはずだ。

 

そう信じて、彼女は端末を閉じた。

 

 

 

―――

 

 

――

 

 

 

 

 

珍しくユキから連絡が来た。

 

どうやら、勧誘出来そうなプレイヤーを二人見つけたらしい。

 

新規が最近減ってきたこのご時世、なんとしても確保したい所だ。

 

 

 

「oリナoと卍エクスカイザー卍か。」

 

 

 

どうやらIDを体験させてからこちらと合流するようだ。

 

まだ時間もあるし、必要なアイテムを倉庫から出しておこうか。

 

 

久々に心躍るのが自分でも分かる。

 

さあ、”青空教室”の出番だ。

 

 

僕の1日が、今日も始まる。

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