最初に気づいたのはいつだったろうか。
否、最初から分かっていたはずなのだ。
そう、最初からだ。
元々、政府の計画自体胡散臭かった。
この滅び行く世界から生き延びる唯一の方法。
それは未来に向けての眠りだった。
ガキの頃はバカばっかりやっていたオレだったが、今は違う。
技術屋の身で、そんなシステムの話を聞かないのはおかしい。
徹底された秘密管理なんてどこかで必ず漏れてくる。
それが無いって事は、存在しない事に等しい。
だからオレは事前に予防策を用意した。
その予防策は、予想以上に早く出番が来た。
コールドスリープ装置だと思われた機械は、人体を溶かすための装置だったのだ。
その理由は後に知ったが、兎も角そのおかげで予防策は起動した。
オレの身体が生命活動を停止、またはそれに近しい状態になった時に起動するように設定していた。
この装置にはオレの記憶、人格のバックアップを保存してある。
そのもしもが起こった時、電子化したオレが生まれるという仕掛けだ。
―――
――
―
オレは何も知らない一般人に成りすまして事を見守った。
プロジェクト箱舟、その概要はある意味で予想通りだった。
当然、コールドスリープの技術など存在しなかった。
肉体を捨て、電子の世界へ逃げ込む。
そして、いつか来る地上の復活を待ち続けるのだ。
それは、肉体を失ったオレも同じであった。
オレはまず、もう一人の自分と綾香を探した。
しかし、”マザー”と呼ばれる管理AIの目を盗んで行動するのは容易ではなかった。
巧妙に偽装しているとはいえ、あまり目立った行動は出来ない。
更にはこの広大な世界だ。 その中での人探しは困難を極める。
唯一の救いは、この世界でも現実と同じ容姿をしているという事だ。
―――
――
―
少しずつ、地道に、かつ繊細に……
長い永い時をかけて、オレは彷徨い続けた。
”マザー”の記憶改ざんからも上手く逃れ、長い時を……
そしてたどり着いたのだ。
卍エクスカイザー卍という存在に。
「なんだよ、お前?」
久々に出会った半身はかなり擦れていた。
その霊基は所々欠損が見られ、遠くない将来に消滅するであろう事も予想がついた。
そして、自分がどうすべきかも。
「悪魔さ。」
「ははっ、悪魔かよ。」
「その悪魔と契約する気はあるか?」
オレはそう彼に尋ねた。
ガキだった頃のオレなら、必ず食いつくはずだ。
「いいね、今のオレには悪魔との契約がお似合いだろうしな。」
「……」
「で、どんな契約なんだ?」
その暗い瞳でこちらを見やる。
しかし、その目はまだ死んでいなかった。
「そうだな――まずはお前の胸の内全てを話せ。」
―――
――
―
彼の話で全てを把握した。
電子化の悪影響なのか、彼女はまたあの悪夢に囚われてしまっている。
あいつと結婚して、二人で乗り越えたと思っていたのに……
だとすれば彼女の霊基も危険なのは明白である。
事を急がねば手遅れになる可能性もある。
「で、お前とどうやって契約するんだ?」
そう言って、卍エクスカイザー卍はこちらを睨む。
オレは彼を見据え、口を開く。
――ただ、彼女を救えと。
―――
――
―
最初から決まっていた事だ。
コピーであるオレの最後。
それは、オリジナルに全ての記憶を受け渡す事。
結果オレは消え、完全な”高瀬明”が復活する。
しかし何故だろうか、少し――寂しいな。
ここで、オレの記録は終わった。
目覚めると荒野にいた。
それまでくすぶっていた怒りはもう無い。
オレの中で欠落していたものが埋まっているのが分かる。
そう、オレは高瀬明だ。
この偽りの世界で、唯一の真実を知る者。
どうやら、あの悪魔は”ホンモノ”だったようだ。
”彼女を救え”
あの悪魔の声が脳内に響く。
お前に言われなくても分かっているさ。
オレの女を取り戻す、それだけだ。
邪魔する奴は、神様だろうと殺してみせるさ。
まずは情報収集からだ。
一番近いのは――リクセントか。
オレは外套を羽織り、リクセントの方角に足を進める。
その場に残されたのは、かつて卍エクスカイザー卍と呼ばれた抜け殻だけだった。
―――
――
―
「あら、死んじゃったのね――残念。」
超越者候補だったモノを見つけて、彼女はひどく落胆した。
しかし、何か面白い遊びを見つけたという笑顔を見せる。
「そうね、この玩具を使えば楽しい遊びが出来るかもね。」
ソレを拾い上げると、彼女は空間の隙間に投げ入れた。
「楽しんでくれるかな、oリナoちゃんは。」
そう言って、彼女も空間の隙間に消えていった。