「君達が新しくカプセルから目覚めた者達か。」
マーカーにたどり着くと、急にNPCが話かけてきた。
「おぉすげぇ、まるで本物の人間みたいだ。」
目の前にいるNPCは30代半ばほどの偉丈夫だ。
顔の表情の動き等はまさに本物のようだ。
「まず君達には、その体に慣れてもらうための訓練を受けてもらう。
この奥にいる魔物が見えるか?」
草原の奥に目を凝らすと、RPGの定番であろうスライムが徘徊している。
「最初の訓練として、スライムを5体倒してもらいたい。」
そう言うと、赤色の液体が入った瓶を5個くれた。
アイテムを手に取ると、文字がポップアップする。
”ライフポーション”
「なるほど、回復アイテムか。」
「よっしゃ! スライム共覚悟しろ!」
「ちょっ――!」
卍エクスカイザー卍はアイテムの確認もせずに、敵に突っ込んでいく。
流石にゲーム初心者でもこんな事はありえないと思うのだが……
私は慌てて彼の後を追う。
――
―
卍エクスカイザー卍は手に持った剣を、綺麗なフォームで振っている。
その動きはとても素人とは思えない。
なるほど、攻撃のモーション自体はゲーム内の設定に準じるのか。
ダイレクトログインとはいえ、動きには補正が入るようだ。
つまり私も――
「今援護します!」
特に意識する事なく、スライムに矢を放った。
真っすぐ飛んだ矢はスライムに突き刺さる。
ポップアップで表示されたHPバーが無くなるのが見える。
”ギ¥%&ァ!”
声ならざる絶叫を上げてスライムが溶けていく。
「やるな! この調子でどんどん行こうぜ!」
そう言うと、彼は次のスライムめがけて駆けて行く。
私もその後ろに続く。
確かにこれは爽快だ。
何の訓練もせず、達人の感覚を味わえるのだ。
普通のVRでは味わえない快感だ!
「これで――5体目!」
私の放った矢が、最後のスライムに止めを刺した。
「やったな!」
そう言って、彼は両手を強く握ってきた。
まるで現実のように、ほんのりと体温が感じられる。
私は少し恥ずかしくなって、顔を背けた。
「HP減ってますし、ポーション呑んだ方がいいですよ!」
「ポーションって……さっきもらったコレか?」
そう言って彼は、バックから先程のライフポーションを取り出す。
真っ赤な色で、実に飲みにくそうだ。
お互い無言で見つめあう……
「お、お前もHP減ってるよな?」
私はその問いに頷く。
大体何を言いたいのか予想がついたので、私もバックからポーションを取り出した。
「せーので行くぞ? せーの!」
『ごくごく!』
二人同時にポーションを飲む。
――ん? これは意外と……
「甘くて美味しい……」
「見た目はアレだが、普通に美味いな!」
「ふふふ……」
馬鹿みたい。 馬鹿みたいだけど……
「あははは!」
二人で馬鹿みたいに笑った。
「なかなか見えてこねぇな。」
「そうだねぇ……」
クエストを終わらせた私達は、次のクエスト先であるエルシャの町を目指していた。
適度にモンスターは湧いてくるが、全てスライムだけで苦戦する事もない。
レベルも3に上がり、スキルも使えるようになった。
時間を確認すると、もう23時を示していた。
「うーん、もうこんな時間かぁ。」
「いっけねぇ、オレ明日学校なんだよ。」
「あら、学生さんなんだ。」
意外だった。 雰囲気だけで言うなら、社会人成り立てくらいかと思ったけど。
「それはお互いっぽいけどな。 とりあえず町に着いたら落ちるか。」
「うんうん。」
私はそっと彼の横顔を見つめる。
確かに彼はお馬鹿なタイプだが、悪い人には見えない。
「どうした? オレのキャラメイクどっか変か!?」
「そ、そんな事ないよ!」
彼は急に慌てて自らの腕や足を確認し始めた。
「えっと、普通にカッコいいかな? 名前はアレとして。」
「褒めるかけなすか、どっちかにしてくれよ。
この名前カッコイイと思うんだけどなぁ……」
「ふふっ。」
そんな和気藹々な会話をしている間に、エルシャの町が見えてきた。
「うっひょ! ついに来たぜエルシャの町!」
彼は飛び上がって喜んでいる。
こういう所は少し可愛いと思う。
私はこっそりと彼にフレンド申請を送った。
「ん、あぁ! これがフレンド申請か!」
「だめかな……?」
「そんな事ねぇさ! 明日は何時にINできる?」
彼は申請を承認しながら、そう聞いてきた。
「うーん、大体20時くらいかな。」
「おk、ならその時間にまた落ち合おう。」
「うん!」
「じゃあ、また明日な!」
そう言って彼は手を振りながら消えて行った。
さて、私も――
”ログアウト”
コマンドと同時に視界が真っ白になった。
「んっ……」
明かりの眩しさで目が開けられない。
どうやら現実世界に戻って来たらしい。
「凄かったな……」
そう一人で呟く。
確かにアレは今までのゲームとは違う。
もっとこう、世界に引き込まれるというか、開放感というか……
私――僕は、ゆっくりとベッドから起き上がる。
VRヘッドを外してベッドに置くと、フラフラと台所まで向かう。
歩いたのはゲーム内での話なのに、何故かやけに喉が渇いていた。
冷蔵庫から2リットルのお茶を取り出すと、1/3程一気に飲み干した。
「学校、行きたくないな。」
―――
――
―
「おい早瀬、今日はクリームパンとイチゴ牛乳な。」
「……」
僕は惨めだ。
言われた通りにして安息を手に入れる。
ゲームと現実の差に涙が出てくる。
まぁいいさ、帰ったらまたあの自由な世界に行けるのだから。
「買ってきた。」
「サンキュー。」
そう言うと勇は早々にクリームパンに齧りついた。
僕はそのまま立ち去ろうと――
「おい、早瀬。」
ドキン! と心臓が大きく拍動した。
「お前よう、ゲームとかやんの?」
「え?」
意外な質問に驚いた。 それはどういう意味なのか?
「オタクっぽいからな、そういうの得意とか思っただけだよ。」
「あぁ、得意だけど?」
「ん~、まぁいいわ。」
ん? よく分からない。
「明日もしっかりパシリしてもらうからな。」
「……」
特に深く考える事でもない。
ただ単にオタクを馬鹿にしたかっただけだろう。
まぁ、パンピーにはよくあることだ。
そう考えながら僕は教室を出た。