選定の塔
選定の塔。
その最上階は雲を突き抜け見えない。
”いっしゃいませ♪ 選定の塔へようこそ!”
呑気なアナウンスが聞こえてくる。
聞き覚えのある声――マザーだ。
”oリナoちゃんならもう少し早く来ると思ったんだけど。 まぁ一番乗りなのは間違いないわよ?”
「御託はいいからさっさと開けて。」
”面白味が無いわね。 まぁいいわ。”
ゆっくりと巨大な扉が開かれていく。
私は左手の弓を握りしめた。
”さぁおいでなさい。 最上階で待っているわ。”
私は扉をくぐり中へと入る。
それを確認したかのように扉は閉じられた。
”選定の塔”
”制限レベルなし”
塔の外見とは裏腹に、中には森が広がっていた。
明らかに大きさに対して広さが合っていない。
どうやら常識が通用しない空間らしい。
「おいで、ルナプス!」
右手の薬指にはめた指輪が呼応して光り出すと、ルナプスが転移してくる。
「お前はこんな時でも来てくれるんだね。」
そう言って撫でてやると、嬉しそうに頬を擦りよせた。
私はルナプスの上に跨り、真っすぐ進み始めた。
木々が生い茂り、足場もかなり悪い。
開けた場所もなく地図も使えないため、どこに向かえばいいかも分からない。
闇雲に進むべきではないだろうが、アテが無いのも現状だ。
とにかく前に進むしかない。
「これは、ポータル?」
森の中を彷徨っていると、見覚えのあるものを発見した。
町でよく見かける転移用のポータルだ。
本来ならばギルドルームや他の町への移動に使われるものだが、これがどこに繋がっているのか。
端末に触れて移動先を確認する――どうやら1ヵ所だけのようだ。
”選定の塔2階”
成程、これで上の階層に行けるわけだ。
端末を操作して起動させる。
しかし、広がる視界は同じ森の中だ。
”選定の塔2階”
”制限レベルなし”
間違いなく移動は出来ているようだ。
先程と違うのはモンスターが徘徊している事だ。
見慣れたゴブリン……しかもレベル1だ。
いくら制限レベルなしでも、ふざけていると言える。
「”ハイクイックショット”」
あまりにも呆気なくゴブリンが消滅する。
まぁレベル1なら当然だろう。
しかし、消費を抑えるためにもなるべく戦闘は回避するのが賢明だろう。
問題は次のポータルがどこにあるかなのだが……
―――
――
―
”選定の塔10階”
”制限レベルなし”
ポータルを探す作業を繰り返し、やっとの思いで10階に到達した。
この階、今までと少し様子が違うようだ。
木々に囲まれているのは変わらずだが、開けた場所に巨大な門がある。
そしてその門の前には……
「キングゴブリンか……」
ある意味で懐かしいボスモンスターだ。
彼と共に倒した初めてのボス……
どうやらこいつを倒さないと進めないらしい。
私は弓を構えてキングゴブリンを見据えた。
キングゴブリンは大きく棍棒を振り上げ、こちらへと向かってくる。
私は”スタントラップ”をセットして後方に下がる。
更に弓に矢をつがえて狙いを定める。
「”ハイパワーブレイクショット”」
ハイパワーブレイクショットは相手の物理攻撃力を大幅に低下させる事が出来る。
物理攻撃しかしてこない脳筋ボス相手には効果覿面だ。
スタントラップを踏んだキングゴブリンはスタン効果でその場に膝をつく。
当然そのつもりでいた私は次の攻撃の準備は出来ている。
「”ハイアーマーブレイクショット”」
手を緩めるつもりはない。
こいつは初期のボスだけあって特殊な行動は無い。
近づかれなければ何も問題はない。
私はルナプスを走らせ、相手の後方に回る。
元々HPは多くないのか、既にゲージは2/3まで減っている。
「”ピンポイントシュート””ハイクイックショット”」
こちらに攻撃させる暇を与えずに攻め続ける。
このままいけば問題ない。
「”バーストショット”」
よし、あと一息だ。
”グガァァァ!”
キングゴブリンが咆哮する。
これも記憶にある。
特殊攻撃前のサインだと予測したが、当時は結局何もしてこなかった。
敵のレベルも一致しているし、今回もフェイクだろう。
キングゴブリンは思いっきり棍棒を地面に叩きつけた。
そこまでは同じだった、しかし――
「冗談でしょ?」
キングゴブリンのHPゲージが、みるみるうちに回復していくではないか。
流石に軽率だったか、これは予想できなかった。
「”ハイクイックショット”」
回復するならば、それ以上の火力をぶつけていけばいい。
そう考えての攻撃だったが――
”グルルル!”
私の放った一撃は、一ミリもキングゴブリンのHPを削ってはいなかったのだ。
相手のステータスを確認すると、見慣れないバフがかかっている。
おそらく先程の行動で付加されたのであろう。
詳しい効果は分からないが、異常に硬くなった原因はおそらくソレだろう。
問題は、ビーストマスターにバフ解除のスキルが存在しない事だ。
それでも……
私は再び弓を構える。
それでも、戦うしかない。
ダメージは少ないが、攻撃を重ねればいつかは!
「”バーストブレイク”」
誰かがキングゴブリンへと大剣を振り下ろす。
バーストブレイクはグラディエーター最強のスキルだ。
敵に防御無視の大ダメージを与え、更にバフも打ち消す事が出来る。
”グガァァ!”
強烈な一撃にキングゴブリンがよろける。
その一撃を見舞ったのは――
「まったく、何も言わずに出るなんて少しつれないんじゃないかい?」
「ドレイクさん……!」
「アタシだけじゃないよ。」
そう言って後ろを指さすと、その先には二人の人影があった。
アレンさんとアメリ△だ。
「他にも勇士を募ったのだが、誰も集まらなくてな……我ら3人で馳せ参じた。」
同意するようにアメリ△も頷いた。
「そういうわけだ、アタシ達も加勢するよ。」
「どうして――来たんですか。」
そう、本来なら私がケリをつけなくてはいけない事なのだ。
「つれないねぇ、ここをクリアしなきゃ元の世界には帰れないんだろう?」
「そういう事だ。 もし、それでも――」
”ガァァ!”
アレンさんの言葉は、キングゴブリンの攻撃によって遮られる。
仕方ない、一時的にでも共闘して帰ってもらおう。
私はキングゴブリンを見据える。
――ちょっと待った、おかしい。
次の階に行く扉はあんなに小さかったか?
「――すみませんアレンさん。」
「なんだ?」
「次の階に行く扉が、どんどん小さくなっているんです。」
その言葉を聞いたアレンさんは、全て納得したかのように笑った。
「ならば、君の道を作ろう。」
その号令にアメリ△とドレイクさんが構える。
「”ウォークライ”」
「”ハイパワーブレイク”」
「”メテオ”」
3人のスキル発動の声を後ろで聞きながら私はルナプスを走らせる。
アレンさんのスキルに反応したキングゴブリンは、私から視線を外して3人の方向に向かう。
「こいつを倒したらすぐに追いつく、行くんだ!」
扉をくぐる瞬間に、アレンさんの声が聞こえた気がした。