”選定の塔32階”
”制限レベル??”
階段を下ると何故か階層は上に進んだ。
ここはそういう仕組みらしい。
「そういえば、vアルマ姫vは私が卒業してから何してたの?」
現在のレベルを見る限り、とっくに卒業を迎えているはずだ。
しかし、所属は青空教室のままである。
「私ね、ディリスタさんのお手伝いをする事にしたんだ。」
その話し方は、vアルマ姫vではなく現実の加奈子のものだ。
あんな事はあったが、一応私には気を許してくれているのだろう。
「それで卒業せずに残り続けてるのね。」
「そうなの、私も色々考えてね……それよりも!」
急に怒ったような口調になり腕を引っ張られる。
「アナタこそ今まで何してたわけ! 連絡もないし皆心配してたのよ!」
「それは……」
今の状況なら、もう言ってもいいか。
「ユキさんと二人でマザーと戦ってた。」
「――やっぱりそうなんだ。」
そう言うと少し寂しそうな表情を浮かべる。
私はただ、皆には純粋にゲームを楽しんでいて欲しかった。
全てを知った今、それすらも叶わない夢となったが……
「ごめん、ユキさんに口止めされてたから……」
「――それはお互い様かもね。」
「え?」
彼女は一瞬悲しい顔を見せるが、すぐに普段通りの笑顔に戻る。
「私は試練を乗り越えたのですわ! オーッホッホッホ!」
「ふふっ。」
それはもう、いつものvアルマ姫vであった。
久々に見る彼女の姿に、少し心が休まった。
「さて、さっさと上に行きますわよ!」
「そうね、行きましょ。」
”選定の塔35階”
”制限レベル??”
やっとこの洞窟フロアも折り返しという所だ。
モンスターがバックアップ体だという事は伝えていない。
成長しているとはいえ、あまり精神的には良くないだろう。
この真実を知るのは、私一人でいい。
「確か、ボスは10階に1体ですわよね?」
「うん、今まで通りならね。」
しかし、目の前には一人の男が私達を待っていた。
その姿は薄れた過去の記憶にいる男――
「流石に、オレを忘れてしまったカナ?」
「もしかして、ユキヤですの……?」
そうvアルマ姫vは口走る。
しかし彼の姿は、元々のユキヤさんとはかけ離れている。
顔のグラフィックは崩れ、手足は黒く変色し、そして爪は鋭く伸びている。
その瞳は狂気で満ちている。
「アマリにも遅いからタイ屈だったヨ!」
「本当にユキヤさんなの?」
一体彼に何があったのだろうか?
卒業後に音信不通ではあったが、この状態は普通じゃない。
「ジャア始めようゼ!」
ユキヤさんは構えるとこちらに駆けてくる。
まずい、想像以上に早い!
”グルル!”
私より先にルナプスが反応する。
相手に体当たりをかけて初撃を止める。
「”バーストショット”」
バーストショットで相手を吹き飛ばし、距離を取り直す。
正直ルナプスがいなかったら危なかった。
「迷ってる場合じゃない、やらなきゃやられるわよ。」
「わ、分かってますわ!」
vアルマ姫vに喝を入れ、自身にも気合を入れ直す。
あれはもう、多分本来のプレイヤーではない。
カテゴリー的にはモンスターだ。
攻撃力は分からないが、かなり素早いタイプだ。
こちらにはヒーラもいるし、余程の攻撃を受けなければ恐らく大丈夫。
まずは相手の足を止めるか……
「スゲェだろ? これガ邪神ノチカラだよ!」
私は数個スタントラップを設置する。
ユキヤはじわじわとこちらに近づき様子を伺っているようだ。
「最初カラこうしてイレばよかった! この力に頼っテいれば! こんな!」
明らかに正常な状態じゃない。
狂っている、と表現するのが適当なのだろうか?
「こんナ苦シい事はなかっタのにぃぃ!」
大きく跳躍してこちらに飛び掛かってくる。
私は大きく後ろに避けて、罠に誘い込む。
「お前モ苦しメェェ!」
「一人でやってろ。」
スタントラップが炸裂する。
足が一瞬止まった瞬間を私は待っていた。
「”ピンポイントシュート””ハイクイックショット”」
「ゴのぉぉ!」
攻撃をもろに受けて叫ぶ。
HPはプレイヤー時のままなのか、先ほどの攻撃でもう半分以下になっている。
「苦しいって言うなら終わらせてあげる――元仲間としてね。」
私は狙いを定めて彼に矢を……
「やめてくれ。」
「ッ!」
寸前で狙いの逸れた矢がヤツをかすめる。
今のはなんだ?
一瞬ヤツの顔がお兄ちゃんに見えた……
「外レだぜ?」
「お前、今何をした。」
何かの魔法?
物理的な干渉?
「面白いダロ? 記憶を読んデ何にデもなれルのさ。」
再び姿が変わる。
今度は見た事のない女性の姿になる。
「嘘っ……!」
今度はvアルマ姫vの記憶から変化したようだ。
その姿を見た彼女は震えている。
きっと彼女にとって大事な人なのだ。
「可哀想に、震えているのね。」
「ゆりねぇと同じ顔で喋らないで!」
ヤツはその反応を見て楽しそうに笑っている。
まるで悪魔だ。
「一体何がしたいわけ……?」
「言ったダロ? お前達モ苦シめと!」
なんて戦いにくい相手なのだ。
まさか精神攻撃してくるとは思わなかった。
なんとか他に手を――
「グガッ!」
「――馬鹿にしないでよね。」
意外な行動だった。
おそらく、それは相手も同じらしい。
その隙をついて懐に入ったvアルマ姫vは、ナイフを突き刺したのだ。
「ナぜぇぇ!」
「――少し前の私なら効果てきめんでしたわね。」
彼女は、私の想像以上に成長しているのかもしれない。
今回ばかりは本当に助かった。
もし私一人だったら……
「”メテオ”」
「ピギッ――」
炎の最上位魔法メテオ。
その劫火は弱ったユキヤを焼くには些か過剰な火力だった。
ありえない。
コイツが、ここにいるわけがない!
「マザー!」
「本当は出てくる予定じゃなかったんだけど、ゴミ掃除が必要になってね。」
既にユキヤは消し炭となり消滅していた。
なんともあっけない最後だ……
「えっ、ユキさん……?」
「違う、こいつがマザーよ。」
その姿は、最後にユキさんと別れた時と同じ服装だった。
それが意味する事は多分……
「似合ってるでしょ?」
わざと挑発するように見せつけてくる。
やはりユキさんはもういないのだ。
あの時にユキさんを装って指示をしていたのはこいつだ。
「こんな所に出張ってきて、殺してもらいに来たのかしら?」
「本気で出来ると思ってる? 貴方に?」
絶対的な自信。
慢心ではない、本当にありえないと思っているのだ。
彼女のテリトリーである選定の塔にいる限り、無敵だと言いたいのだ。
「やってみないと分からないんじゃない?」
「いいわね――ただ、それは今じゃないわ。」
辺りが強烈な光に包まれる。
しまった! 目くらましか!
「最上階は50階よ、早く登ってきなさい。」
声はするものの、彼女の姿はどこにもない。
今はその時ではないという事か……
「先に行こうか。」
彼女は黙って頷いた。