”選定の塔40階”
”制限レベル??”
さて、なんとかボスフロアまで辿り着いた。
予想通り、煌きの洞窟の最深部と同じ構造だ。
かつてルナプスがいた場所には、見覚えのある人が立っていた。
「よく来ました、私はビーストマスターのアルカ。」
あの時と全く同じセリフを話始める。
NPCである彼女も、マザーの操り人形なのだろう。
「貴女は、ビーストマスターになって後悔していませんか?」
「……当然よ。」
「よろしい! ならここで最終テストとしましょう!」
急に洞窟が揺れ始める。
いや、これは揺れているわけじゃない?
何かの振動で揺れているように感じるのだ。
「これが私のパートナー、災厄の獣ですわ。」
3つの首を持った獣。
まるでケルベロスのような見た目だ。
グルルと唸りながらこちらを睨んでいる災厄の獣。
ルナプスはそれに動じずに睨み返している。
「vアルマ姫v、いける?」
「だ、誰に言ってるのかしら!」
杖を握る手が多少震えているが、なんとか戦えるようだ。
私はゴクリと唾を飲み込み、弓を握り返した。
今までと同じ、ただ倒すだけだ。
右の首のケルベロスがこちらに顔を向けて口を開く。
間違いなく攻撃の前触れだ。
「vアルマ姫v、急いで回避!」
急いで射線軸から逃れる。
吐き出されたのは紅蓮の業火。
あんな攻撃、一撃でも受ければ瀕死か即死レベルであろう。
開始早々ヒヤッとさせられる……
「まさか今ので終わりだと思ってます?」
アルカが指示すると、今度は三つの首が口を開く。
右は紅蓮の業火。
左は凍てつく冷気。
中央は荒れ狂う雷撃。
この表現がぴったりの攻撃だ。
3方向にくる同時攻撃――この狭い範囲での回避は不可能だ。
「”プロテクトゾーン”」
vアルマ姫vが防御魔法を唱える。
プロテクトゾーンは物理・魔法ダメージを一定時間半減する強力な防御魔法だ。
これで3属性攻撃を耐えようという考えなのだろう。
既に攻撃後のために回復魔法の詠唱を始めている。
となると、攻撃をしのいだ後は私が攻めていかなければならない。
やはりダメージを抑えるためにブレイク系からか。
それともハイダスターで行動キャンセルを狙うべきか?
思考の途中で凄まじい衝撃が襲ってくる。
なんとかその場に踏みとどまり、痛む体に喝を入れる。
「”ハイダスター””ハイマジックブレイクショット”」
「”キュアエクステンド”」
先程受けたダメージが一瞬で回復していく。
最上位回復魔法のキュアエクステンドは、詠唱が長い代わりに味方全員を全回復出来る。
回復役がいるだけで本当に助かる。
だが、それだけで勝てるわけでは無い。
”その通りだ。”
「え?」
聞き慣れない声が聞こえる。
それは脳内に直接語りかけてきた。
”我はルナプス…… そう、お主が付けた名だ。”
「ルナプスが話してるの……?」
”そうだ、今まで黙っていてすまなかった”
話す事が出来た事も驚きだが、何故このタイミングで話し始めたのだろうか。
今まで会話しようとしなかった事にも意味はあるはずだ。
”本来ならばこのように話す事も主に禁じられているが、今はそうも言っていられない。”
「どういう事?」
”この災厄の獣を倒すためだと言っておこう。”
という事は、ルナプスには何か勝てる手段があるという事なのだろうか?
”こやつを倒すには、無傷では無理だ。 相応の犠牲が必要だ。”
「何それ、私達じゃ無理って事?」
”無理だ。 だから我が奴の弱点を突く。”
弱点……そうか!
いくら強力でも、所詮はアルカのパートナーだ。
使役する者がいなくなれば行動不能になる。
「つまり、私が足止めしてる間に、貴方がアルカを仕留めてくれるわけね。」
”そういう事だ。”
「でも、それならば遠距離攻撃の私がアルカを攻撃するべきじゃない?」
そちらの方が確実だと思うのだが、何故ルナプスがアルカを攻めに行く必要があるのか。
”お主は気づいていないかもしれないが、アルカは特殊な障壁を展開している。
あれを破壊できるのは、この場では我だけだ。”
アルカを目を凝らして観察してみるが、障壁らしきものは見えないし、バフとして付与されているように見えない。
”あの障壁は災厄の獣が展開しているものだ。 マスターをチェックしても判別できんよ。”
「本当に仕留められる?」
”当然だ。”
「分かった、信じるよ。」
しかし私は、ルナプスの相応の犠牲が必要だという言葉が引っかかっていたのだ。
「回復よろしく!」
「ちょっと!」
ルナプスと共に前に出る。
まずはこのまま攻めて、アルカへの注意を逸らせる!
「”バーストショット””ハイクイックショット”」
こちらの攻撃に反応して再び口を開いて攻撃態勢に入る
またあのブレス攻撃をしてくるつもりだろう。
「ルナプス跳んで!」
大きく跳躍して災厄の獣の真ん中の頭へと着地する。
「”ハイダスター”」
近距離でスキルを放つ。
私を振り落とすために、頭を激しく振り始める。
「ルナプス、お願い!」
”任せてもらおう”
私が下りると、ルナプスは再び大きく跳躍する。
もちろん狙いは――マスターであるアルカだ。
「え?」
一瞬の出来事にアルカは対応が遅れた。
そのスキが私達の勝機となる。
ルナプスの牙が、アルカの喉元に深く刺さり……そのまま噛み千切った。
大量の血を吹き出しながら、千切られた首が床を転がる。
「やった!」
私達の勝ちだ!
このまま、この獣も消滅して終わりだ。
私は頭から飛び降りる。
しかし消える気配はない。
それどころかルナプスに向かって飛び掛かったのだ。
「どうして!」
”いや、これでいいのだ”
再びルナプスの声が頭に直接響いてくる。
”災厄の獣のスキルが発動しただけだ”
スキル……? それは一体どんな効果なのだ。
”マスターが死亡時、その相手を即死させるというものだ”
そうか、そういう事だったのだ。
ルナプスは最初から分かっていたのだ。
だから”相応の犠牲が必要だ”と言ったのだ。
”誰かが死ぬのを分かっていて見過ごせなかったのだ……許せ”
だからって……!
”我は元々、お主を護衛するために生み出された。
しかし、今回の行動は命令だからではない、自らの意思で決めたのだ”
……嫌だ。
そんな話は聞きたくない。
”一緒にこの世界を旅し、いつの間にか命令とは関係なくお主を守りたくなっていた。
本当に楽しかった……”
これからだって一緒に!
私は、また大事な人を……!
”――逝く前に一つだけ予言をしてやろう。 お主の望みは、1つ叶うよ”
それなら、いかないでよ!
その瞬間までが異常に長く感じる。
まるでスローモーションのようにゆっくりと、大きな口がルナプスに振り下ろされようとしている。
”もう泣くな、笑って見送ってくれ”
私は無理矢理笑顔を作る。
”そうだ、それでいい。 もうすぐお前の元に……”
無慈悲にその顎は振り下ろされた。
それと同時に、災厄の獣も消えていく。
右手の薬指にはめた指輪が崩れていく……
それはルナプスとの契約が切れた証拠だ。
「ルナプス……」
そうだ、笑って見送らないと。
私は涙を拭い前を見る。
「今までありがとう、あとは私に任せて。」
マザーが待つ最上階まで、あと少し。