”試練の洞窟”
”制限レベル10-15”
ID前に到着するとこのポップアップが表示された。
「さて、私はここで観察してるから二人で頑張ってきなさい♪」
そう言ってユキさんは手を振っている。
私と卍エクスカイザー卍は互いに12レベル、条件は満たしている。
「ユキさんをPTから除外してっと……心の準備はいい?」
「オレはいつでも行けるぜ!」
その返事に私は頷く。
二人で洞窟へと足を進める……
日の光は少しづつ失われ、ひんやりとした空気が肌を刺す。
まるで本物のような感触に、私は少し身震いした。
「大丈夫か?」
彼は心配そうに私を見ている。
「大丈夫、ちょっと寒いだけだから。」
そう言ってもう一歩前に出た。 その時――
”試練の洞窟1F”
急にポップアップが表示された。
「ここがスタート地点って事か。」
そう言って彼が剣を抜く。
それに合わせて私も、弓を取り出した。
洞窟の構造自体は一直線の単純構造。
松明が設置されているおかげでモンスターの姿はよく見える。
数は――スライムが3体、ゴブリンが2体だ。
苦戦する事は無いが、ダメージも相応の覚悟が必要だろう。
いや、こういう時は……
”もしもーし、聞こえる?”
ユキさんに渡されたスマホから声が聞こえてくる。
「はい、聞こえます。」
”良かった。 見た限り、今から攻略を始める所ね。
先に言っておくけど、ヒーラー無しの攻略は赤ポはボスまで温存する事。”
「ですよね……」
ヒントはくれるが答えは言わないという感じだ。
そう考えながら自分のスキルを確認する。
単体に攻撃、円形範囲、貫通攻撃……
「うーん。」
「oリナo、どうする? 突っ込むか?」
「ごめん、今覚えてるスキルって何があるの?」
「自分の防御アップするのと、よくわからんやつだ!」
よくわからんやつって……
「えっと、文面読んでもらっていい?」
そう言うと、彼は頷いてスキルの説明文をポップアップさせたようだ。
「何々、”ウォークライ”、自分中心の半径10mのモンスターのへいとを上げる?
やっぱりわからん。」
「あぁ、ヘイトか。 やっぱりタンク職なだけあってそういうスキルもあるのね。」
「なんだそれ?」
「簡単に言うとね、敵の注意を自分に向けさせるのよ。
そうすると脆い魔法使いやヒーラーを守れるでしょ?」
それを聞くと、なるほど! っと言って手を叩いた。
やはり彼はMMORPG初心者のようだ。
「なら、お前の事も守れるんだな!」
「ちょ、えっ……」
あまりの不意打ちの言葉に赤面してしまう。
狙ってではなく素なのだろうが、かなり恥ずかしい。
でも待てよ、これは使えるかもしれない。
「いい作戦を思いついたよ。」
「どうするんだ?」
「敵の近くで”ウォークライ”を使って、私の方に逃げて来るだけでいいよ。」
それを聞いた彼は、きょとんとした表情で マジで? と言いてきた。
「本当にそれだけでいいよ、お互いこれでダメージを受けずに済むから。」
「分かった! お前を信じるからな!」
そう言って彼は、ゆっくりと敵に近づく……
索敵範囲内に入った瞬間、近くのモンスターが反応する。
「”ウォークライ”」
彼がスキルを発動した瞬間、近くにいるモンスター全てが彼めがけて走ってくる。
「早くこっちに!」
「おうよ!」
狭い通路なだけあって、綺麗に一列に並んでいる。
後は――
「”ピアシングシュート”」
”グ¥%ゲ&!”
放った矢はモンスター達を貫通して飛んでいく。
”ピアシングシュート”
攻撃力は通常攻撃と変わらないが、敵を貫通する効果を持つスキルだ。
このように遮蔽物が少なく、狭い場所ならば殲滅効率は高い。
”うん、いい判断だ。”
腰に下げたスマホから、ユキさんの賞賛が聞こえた。
3度目のピアシングシュートで、モンスター達は消滅する。
私は安堵して弓を下した。
「なんか、お前だけに任せちまったみたいで悪いな。」
「大丈夫、ボスでは頑張ってもらうから♪」
「任せとけよ!」
ボスでは盾として彼には頑張ってもらわなければならない。
そのためには少しでも消費は抑えておきたい。
私はバックから白色のポーション――スタミナポーションを取り出し、一気に飲み干した。
物理職はSPを消費してスキルを行使する。
魔法職ではMPだ。
大抵のゲームでは、どちらもMPに統一されていることが多いのだが……
「よし、このまま進もう?」
「あぁ!」
後は単調作業のようなもので、敵を確認しては引き狩りだ。
幸い、強いモンスターもおらず、順調に進めている。
「階段だな。」
3本目の白ポーションを飲み干しながら階段を視認する。
「”1Fクリアおめでとう♪”」
スマホから呑気な声が聞こえてくる。
「”この階段を下りるとすぐボスフロアが見えるから頑張ってね♪”」
「だって……?」
「ボスかー、ワクワクすんな!」
あー、彼の単純脳が羨ましい。
私は頭を抱えながら、お互いのステータス情報を確認する――
共にHPはMAX、SPは彼が2/3ほど、私が8割ほど。
「ボスみたいだし、白ポーション飲んでおいてね。」
「おうよ。」
彼は明るく笑うと、バックから白ポーションを取り出して一気飲みした。
「よし、じゃあ行こうか。」
私達はゆっくりと階段を下りて行った。
階段を下り、通路を少し進むと開けた場所に出た。
ボス戦らしい円形のドームのような形状。
一体、どんなボスが待ち構えているのか。
周りの松明に明かりが灯り、部屋が明るくなっていく……
ボス登場の演出のようなものだろうか?
ズンーーズンーー
重い足音がこちらに近づいてくる。
「ゴブ、リン……?」
そう、デカいゴブリンだ。
名前がポップアップで表示される。
”キングゴブリン”
分かりやすいというかなんというか……
「”ガッツ”」
卍エクスカイザー卍が自己バフで防御力を上昇させる。
「”ウォークライ”」
キングゴブリンが彼を見据える。
私も気合を入れ直して、キングゴブリンを睨む。
これが初めてのボス戦だ――
「絶対勝とう。」
「当たり前だ!」
その相槌が合図になった。
キングゴブリンは大きく棍棒を振り上げ、彼めがけて振り下ろす。
ガキン!
――金属音が響く。
卍エクスカイザー卍が左手に持っていた盾で防いだのだ。
「うぉぉ!」
必死に耐える姿に少し感動してしまう。
それも一瞬だけで、私はキングゴブリン目掛けて矢を放つ。
「”ブレイブショット”」
このスキルは通常攻撃の2倍の威力の矢を放つ。
勿論、スキルレベル1での威力だ。
いつもと違い、弓は赤色のオーラを纏っている。
これは弓に炎属性が付加されているためだ。
つまり、このスキルは魔法でなくとも属性攻撃を可能とする。
そして――
「”ゴブリンの弱点は炎、このIDではアーチャー、キャスターが火力を担うのよ。”」
期待通り、という感じの声音でユキさんが言う。
そうだ、後はファイターが壁をし、ヒーラーが回復する。
しかし今は二人だけのパーティ。
壁役の赤ポーションのストックと私のDPSが勝利のカギだ。
初手の”ブレイブショット”が相手の腹部に刺さる。
キングゴブリンは一瞬こちらを見るが、痛がりもせず、2撃、3撃目の攻撃を彼に向けて放つ。
その度に乾いた金属音が部屋中に響く。
「”ブレイブショット”」
CTが終わると同時に、再び”ブレイブショット”を放つ。
今度は明らかに敵意を向け、こちらに向き直す。
――まずい、恐らくターゲットがこちらに移動した。
キングゴブリンはその巨体を揺らしながらこちらに駆けてきた。
「くそっ!」
気づいた彼がこちらに駆けてくるが、恐らく間に合わない。
私は攻撃に備えて、両腕で身を守る態勢を取る。
――ゴツン!
強烈な衝撃が全身を襲った。
「――っ!」
両腕で防ぐも、5メートルほど吹き飛ぶ。
ゲーム設定で痛みはかなり緩和されているとはいえ、痛いものは痛い。
「”ウォークライ”」
追いついてきた卍エクスカイザー卍がヘイトを自分に戻す。
恐らく、こちらにタゲが移った原因はDPSの上げ過ぎではない。
CT明けに、常に”ウォークライ”を発動していないのが原因だ。
恐らくはネトゲ初心者、である彼には酷な事かもしれない……
「はぁ……ごめん、そのまま続けて。」
出来る限り私がフォローするしかない。
私は立ち上がって弓を構える。
彼に合わせてDPSを下げるわけにはいかない……
恐らくまたこちらにタゲが移る事になる。
「”ブレイブショット”」
――駆けた
”ブレイブショット”を放った私は、卍エクスカイザー卍に向けて駆けた。
簡単な話だ……
先程彼は、こちらに敵が向かって来た時点でタゲの移動に気づいた。
ならば、タゲ移動後に追いつける位置に調整してあげればいいのだ。
彼の立ち位置から後ろ5メートル程の背後に陣取った時点でCTが終わる。
「”ブレイブショット”」
炎の矢がキングゴブリンに直撃する。
HPバーを見ると、残り半分まで減っていた。
先程の減り具合から、あと4発くらいだろうか?
「防御バフ切れるわよ!」
「くっ……”ガッツ”」
彼は急いで”ガッツ”をかけ直す。
今の状況でバフが切れるのは致命傷だ。
「”ブレイブショット”」
「”ウォークライ”」
もう一度炎の矢をお見舞いする。
それと合わせ”ウォークライ”を発動してくれたおかげで。タゲの移る様子もない。
"ぐぉぉぉ!"
キングゴブリンが咆哮する。
現実なら痛みで吠えたと思えるが――おそらく違う。
何かしらのサインか。
「何か来るよ、警戒して。」
私は距離を置いて身構える。
卍エクスカイザー卍のその場で盾を構えた。
”グガァァァ!”
キングゴブリンは思いっきり棍棒を地面に叩きつけた。
その衝撃は地面を抉り、砕けた足場は辺りに散らばった。
「え?」
それ以上何も起こらず、キングゴブリンは通常の行動に戻る。
あまりにも拍子抜けで唖然としてしまう。
彼の同じようにぽかんとしている。
初心者への配慮なのかバグなのか……
こういう行動あるから今後は気を付けようねという戒めが正解なのだろう。
調子を狂わせられたが、気を取り直して”ブレイブショット”を放つ。
キングゴブリンのHPはあと一撃という所まで減少する。
「うぉぉぉ!」
卍エクスカイザー卍が止めの一撃を繰り出す。
”グ¥ゲ&ェ!”
耳障りな悲鳴を上げてキングゴブリンが倒れる。
そのまま他のモンスターと同じように溶けて消えた。
『やった!』
二人同時に喜びの声を上げた。
流石に少し、疲れた……