無駄飯喰らい   作:甘栗@

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やぶれたせかいってあれだけで終わらすの勿体ないよなぁ、なんて考えていたり。
ハードグミが好きです。


オキテヤブリ③

 

 

 

 

 

 風化する中、残す言葉。

 

 帰るため、はたまた出会うため。

 

 御伽にて語られる頃より、それは存在している。残り続けている。目的も、大儀も、意思も、何も存在しはしないが、役割が繋ぎとめる。

 取って食うことはされないが、迷い込んだ子羊たちが集う広場がある。

 残されたものを紡ぐ。形作る。そうして彼らはまた還っていく。

 

 カタチに、ナカミを詰め、還っていく。

 

 洞窟が紡ぎ、彼らはカタチを成す。

 足りないナカミを、彼らは探す。

 

 彼らは進む。

 

 導くための、案内を残す。

 

 

 ……3ほんの はしらを ぬけて……

 まどろむ ……の もとへ……

 ……が 30を こえるまえに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界そのものは"ねんりき"の応用である。

 仕組み自体はそう難しくはなく、ただ身にまとっているオーラを大きく広げただけのものに過ぎない。ただそれを成立させ続けるのは字面ほど簡単ではなく、特殊な技能と訓練が必要になる。

 感覚的には、部屋の広さ程ある円盤での皿回しをランニングしながら長時間やり続けるのが近いだろう。カイルとしては上手いこと例えられたと思っている。

 ちなみに同じ話をマーズにしてみた際には「は?」と一蹴されてしまった。解せない。

 

 少々、思考が横に逸れたけれど。

 要するに仕組みは単純。故に検知できるものもまた単純であり、それは動いている物体に限定される。

 

「あー、話は通じるか? 戦闘の意思はないんだけど」

 

 生物、もしくは何かしらの動作、攻撃。

 実際のところ、判断材料としては、それだけ検知できれば十分である。

 更なる動きがあればエーフィからの連携もあるため、カイルはひとまず待ちの姿勢を取ることにした。

 

「......」

 

 動きを待つ。霧が立ち込めている。

 動きを待つ。何も起きず、時間だけが過ぎる。

 動きを待つ。カチカチ、と何か硬いものが擦れるような音がする。

 未だエーフィからの反応はないけれど、嫌な予感だけは警笛となってガンガンと頭に響いている。

 

 こういう時は、

 

「早めの対応。クチート、"ぶんまわす"!」

「チィーーーット!!」

「エフィッ!」

 

 ボールの開閉音と共に飛び出したクチートが、力いっぱいに大顎をグルグルと振り回して。

 それは竜巻のような空気の流れを呼び起こし、部屋中の霧をそかに集中させ――エーフィが"ねんりき"で思い切りそれを弾けさせた。

 簡易的な"きりばらい"である。一時的にではあるが部屋の霧は晴れ、目の前にいる何者かの姿が覗く。

 そうしてカイルは会話、戦闘、偵察、逃走、etc......と取るべき選択肢を頭に浮かべ――

 

「骸骨、?」

 

 その全てが、驚愕の二文字で埋め尽くされた。

 

 骨、である。

 

 要するに死体であり、亡骸であり、動くはずのないものだ。

 霧の晴れた視界、カイルたちの目の前には人体を模した形を成す骸骨が歩いてきていて。その周囲では新たに形成されつつある別の骸骨たちの姿も見えた。

 それも、単体ではなく複数。人体を模したものに留まらず、四足歩行のものや巨大なものまで、恐らくはポケモンであろう姿も散見される。

 

 わりと度肝を抜かれたけれど、ひとまずは思考を回し直す。

 骨となっている以上死んでいるのだから、生き物とは呼べないだろう。つまりノボリの「ギラティナ以外に生物は存在しない」という発言は一応は嘘ではないことになり、これは一本取られたなぁ、なんて考えるくらいには冷静さも保っていた。

 

「クチ―?」

 

 じりじりと近づいてきている骸骨たちに対し、好奇心旺盛なクチートは大顎を釣り餌のように骸骨たちへと揺らして――

 

「クチッ!?」

 

 ガチリッ、と。

 四足歩行型が大顎へと嚙みつこうとしたのを、すんでのところで躱した。次いで人体型が覆いかぶさるようにして迫るが、飛び上がるようにして距離を取り直した。

 不意打ちで驚きつつも、速度はないため食らうことはない。

 問題はそこではなく、

 

「......だいぶ多いな」

 

 音は次第に数を増す。集まる骨も見る見るうちに増えていく。

 霧の向こう側にも感じる気配は少なくない。わかりやすく攻撃の意思はあるようだけど、目的も意思も不明な上、会話も成り立ちそうにはない。

 

「クチート、エーフィ」

 

 であればこそ、カイルたちがとるべき行動も決まってくるというもので。

 アイコンタクト、

 

「とりあえず、逃げるぞ!」

「チル!」

「フィン!」

 

 それはもう脱兎のごとく、壁画のある石室から逃げ出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

  

 潜ってしばらく、いくつか把握できたことがある。

 

 一つは、想定内。もう一つは完全な想定外。

 後者については単なるカイルのポカなのでどうしたものかと頭を抱えているのだけど、それはさておき。

 一つずつ整理をしていこうと思う。前者として、この洞窟がただの穴蔵ではないことである。

 

 基本的に石室はいくつかの石室に繋がっている。

 次の石室も、また次の石室もそうして連なっており、部屋の構造も同様だった。相も変わらず部屋には霧が立ち込めており、中心には例の如く壁画が鎮座している。

 ご丁寧に骸骨が現れる点まで同じなのだから、正直カイルとしては御免被りたいところだった。

 

「クチー!!」

 

 しかして。

 "アイアンヘッド"で徹甲弾と化したクチートが、着弾と共に硬質化した大顎を思いきり振り回して。

 風切り音、遅れて何かが崩れる音が、嫌に響く。

 

「フィ」

「チトッ」

 

 額の宝石を光らせるエーフィが二股の尻尾で左右逆方向を示すと、クチートは左側へと音を置き去りに駆け、霧の中へと大顎を伸ばし――ガチリと金属音。

 そのまま噛みついた骸骨へと蹴りを叩き込むと、その場でぐるりと一回転して、大きく大顎を振るい。

 

「チィッ」

 

 気の抜けた声に似合わぬ凶悪な大顎からは、目にも止まらぬ速度で投石が行われた。

 正しくは、最初に大顎で齧り取っていた頭蓋骨なわけだが。ともかく放たれたそれは、右側から迫っていた骸骨を気持ちよく粉砕する。

 

「フィルフィル」

 

 それから一拍。

 エーフィの尻尾の先がぐるりと円を描くと、クチートは即座に壁画の台座を蹴りつけ大きく飛び上がって。

 

 刹那、周囲の空気に変化が現れる。

 真っ白の霧の中に、鮮やかな桜花の色が混ざる。

 凪いでいたはずの洞窟内部に、澄んだ空気の流れが生まれる。

 留まることなく流麗に漂うそれらは紡がれ、束ねられ、そうして見る見る間に質量を増やして。

 

「チィット!!」

 

 主の号令により、"ようせいのかぜ"は解放される。

 春一番さながらの力強い風は一瞬にして周囲一帯を桜花色に染め上げると、ゴウと唸るような音を響かせ、薙ぎ払うようにして石室内に吹き荒れた。

 逆巻く風が抜ければ、洞窟内は再び静寂に閉ざされる。攻撃の余波で霧は晴れ、辺りには再びバラバラになった骨が無造作に散らばっており。

 着地するクチートも、傍らのエーフィも、どことなく自慢気な表情を浮かべていた。

 

「......はは、」

 

 苦笑。

 そんな状況を尻目に、カイルはええこれ大丈夫かなぁ、なんて思っていたりもする。

 というのも、骨である。要するに死者を思いきり攻撃しまくっているわけで、若干、というかかなり罰当たりなような気がするけれど。

 この際は考えないでおこうとカイルは思考をオーバースローで放り投げた。

 なにせ今重要なのはそんな考えではなく、この洞窟の情報を整理することである。

 

「『1 10』、か」

 

 最初の壁画は、全ては読めなかったが文章だった。

 次の石室で見た壁画は、『0 1』、そのまた次のものは『0 2』......といった具合に、刻まれるのは文章でなく数であり、それらは部屋を経る毎に増えていっているのだ。

 そうして数字は増え続け、前回の部屋が『0 9』の記載だったわけなのだけど、今現在の石室では『1 10』と記載されている。

 

 変化のなかった左側の数値が変わったのだ。

 そもそも部屋の様子も異なった。基本的な構造自体は同じものだけれど、壁画の刻まれる台座の中心には、大樹の幹を思わせる程の立派な石柱が存在していた。

 

「なるほど。この柱がある部屋は、左側の数が変わるってわけね」

 

 変わることは理解できたが、それが何を意味するのかは不明である。

 ただカイル自身、自分が考えれば納得のいく答えを導き出せるスマートな人間ではない自覚があったので、事実だけを受け取って考えることは中断した。

 習うより慣れろよ馬鹿なんだから、なんて言い聞かせながら、次の部屋へと移る。

 

 断っておくと、この時点で引き返す選択肢は既にカイルの中にはない。

 こちらは完璧に想定外の内容だった。というのも、立ち込める霧やら最初の全力逃走やらが原因で、道が何一つわからないのが実情。石室の見た目や構造がどこもかしこも似通っているのもあるだろう。

 何より骸骨たちが居座る、どころかじわじわとカイルたちを追ってくるため、退路が塞がれてしまっていることもあった。見事なまでの八方塞がりである。

 

 しかし、不思議と迷いはない。退路が無いのなら進路を見定めればいいのだ。

 その上この洞窟は現実世界に繋がっているのだから、カイルとしてはそうする他ないだろう。

 

 して。

 以降の部屋では『1 11』のように左側には1が固定されて刻まれていた。

 どうやら柱はただのオブジェクトというわけではなさそうだな、なんて考えつつ、無限に湧き出て来る骸骨たちを蹴散らし、石板のチェックも欠かさず行い。そうして石室を五つほど跨いでいる内、カイルたちは二つ目の柱の部屋に辿り着いた。

 

「やっぱり。『2 16』になってる」

 

 確認もほどほどに、次の部屋へ向かう。

 入口からここまでで実に十六部屋目となる。どれだけ広いのか、深いのか、出口はどこなのか、そのどれもが不明な以上、不要な戦闘はなるべく避けることにした。

 そうして、広すぎる洞窟に若干の嫌気がさしつつも進む。『2 20』を超えたあたりで、若干ながら空気感が変わった。どことなく霧が濃くなってきたような、加えてひやりと空気が冷えている心地さえした。

 

 部屋を跨げば跨ぐほどに、その心地は次第に強まっていく。

 左右のクチートとエーフィにも緊張の色が見え始め、カイル自身も何か感じるものがある。

 

 以前エムリットと出会ったときにも、似たような覚えがあった。

 第六感とでもいうべきか、五感とはまた違ったところがざわつき、肌が粟立ちだす感覚。間違いなく言えるのは、このまま進んでいった先には何かがある。何かがいる、と。

 ある種の確信を携えながら、けれど脱出の糸口が足らされているからこそ引き下がることはせず、カイルたちは先を急いで。

 

「『3 25』か。だいぶ進んだな」

 

 

 "三つ目の柱"の部屋で呟くその言葉は、ゆるりと霧の中に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 不思議な子だと、そう思った。

 

 

 歳で言えば、恐らくは20にも満たないだろう。

 世間では10歳を超えればある程度の1人前として扱う風潮もあったりするが、個人的に言えばいやいやまだ子どもだろう、なんて思ったりもする。

 旅に出る子もいれば、出ない子もいる。ポケモンと友達になれる子も、なれない子もいる。

 危険な経験をしている子も、まあいるだろう。

 

 少なくとも目の前の子は、明らかに年齢に見合わない経験をしているのが見て取れた。

 薄い呼吸を繰り返す彼とその手持ちのポケモンは、見ているこちらが痛々しく感じるくらいには手傷を負わされていた。

 致命傷こそないが、それでも命に死神の指が掠めるくらいの状況ではあったと思う。

 

 ギラティナに攫われたらしく落ちてきて、幸いノボリが助けられたから良かったものの。

 あのまま下に落ちて倒れていたのでは、その実感に違わぬ結果になっていただろう。おかげ様で現実世界へ抜け出すことは叶わなかったわけだけれど、それによって彼が助かったのなら、まあいいかな、なんて。

 そうノボリが思うのは、お人好しが過ぎるだろうか。

 

「そんな顔、しないでください。大丈夫ですから」

 

 ギラティナを撒いてから、しばらく。

 傷ついた大顎を向けるクチートと、微弱な念力を纏った掌を向けるチャーレムに対し、ノボリはあくまでやんわりと語りかける。

 

「あなた達も、そこで寝てる彼も、治療が必要なんです」

 

 事情は至って単純。

 少年の応急処置をしようとしたところ、横で伏せていた二体がぱちりと目を覚まして間に挟まるようにして立ち上がったからである。

 その二体だって、とてもこれから一戦交えられるとは思えない満身創痍なはずなのに。

 

 それだけトレーナーを守りたいのだろうなとわかるからこそ、微笑ましい気持ちになる。

 ポケモンは賢い生き物だ。聡い者が育てれば賢く育つし、粗雑な者が育てれば荒っぽく育つ。トレーナーから冷たい対応を受けるのなら、彼らもまた冷たい対応でもってそれを返すだろう。

 こういった場面でこそ、普段からの育て方による影響は強く表れるものだということを、それなりにトレーナー経験を積んでいるノボリはよく理解をしている。

 

 故にこそ、立ちはだかる二体には微笑が浮かぶ。微笑ましい気持ちになる。

 ある種健気なその行いを、ノボリは蔑ろにはしたくなかった。手持ちからそれだけ慕ってもらえている以上、彼はさぞかしいいトレーナーなのだろうな、とも思ったから。

 

「モンジャラ、"グラスフィールド"」

「モンー」

 

 気の抜けた返事を返す毛むくじゃらが二本の触手を地面へと埋め込むと、薄い光がノボリたちを囲いこむサークル状に浮かび上がる。

 太陽の光を思わせる温かさを感じたのは一瞬、

 

「モンモンッ」

 

 ブワリ、と。

 次のモンジャラの一息で、サークル内に青々と茂る豊かな草原が生まれた。

 "グラスフィールド"には、範囲内の生物の体力回復効果が存在する。うろ覚えだが、草木から得られる栄養素による自然治癒力の向上だとか、確かそんな原理だったはずだ。

 本当は目に見える傷の治療からしたかったのだけど、まずは信用を得なくてはならない故仕方がない。

 

 大した医療設備はないが、それでも問題はなかった。贔屓目を抜きにしてもノボリのモンジャラはかなり優秀である。致命傷でもない限りは命を拾える能力があった。

 助けると決めたからには、必ず助けてやらないと自分も寝覚めが悪い。戦闘の意思はないし、寧ろ傷を癒してやりたいのだと。だから、自分たちを信用してくれ、と。

 そんな睨み合いを長時間設け、最終的にはクチートたちが安心して眠ることで事なきを得たため、その後は治療に専念することができた。

 

「あーっと、あの黒いデカブツ。ギラティナにですね、何故かわからないけど襲われまして」

 

 その甲斐あって無事に目を覚ました少年――カイルは、どう見ても訳ありな上にそれを隠すのが下手くそで。別に根掘り葉掘り聞く理由もないし、何より聞いたとてノボリがしてあげられることもとくにはなかったので、必要以上には詮索をしないことにした。

 詮索は、しないけれど。ある程度『やぶれたせかい』について理解すれば、考えることはゆうに想像がつく。

 

 今までにも来訪者はいた。

 皆同じことを口を揃えて聞いてきた。教えたことで絶望した者や、感謝の言葉を告げてすぐに消息を絶った者もいた。

 

 伝えない方が、もしかしたらためになるんじゃなかろうか、なんて。

 そんな思考も浮かんだけれど、状況を整理する彼の黒い瞳に浮かぶ覚悟が、それを否定させた。帰らなければならないのだと。ある種の指名感が宿っていた。

 ノボリとしても、雑談の話題や、有意義な内容は多いほうがいいだろうと思ったので。事情の詮索をしない代わりに、彼が聞きたいであろうことを教えてあげることにした。

 

 すなわち、脱出の方法である。

 

「グラィッグライオ!」

 

 失敗した、と。そう思った。

 事の発端は、空を散歩していたはずのグライオンが焦った様子で戻ってきたことだった。彼には環境に何かしらの変化が起きた時には戻ってくるように言い聞かせてあるが、これだけ慌てているのだからただ事ではないのだろうと。そんなことを考えて若干身構える。

 

「ラグラグ」

「うーむ、流石にそれだけだとわかりません」

「ラァイオ!!」

 

 両手のハサミを大きく使ってジェスチャーをされたが、あまり要領を得ない。

 程なくしてええいじれったいとばかりに彼に首根っこを掴まれ、そこから少々の空中散歩をすれば、答えはすぐ目に入ってきた。

 

「......なるほど、そういうことですか。まずいですね」

 

 連れてこられた場所――もどりのいずみを見下ろしながら、ノボリは大きく息をつく。

 朱の混じる湖の水からは次々と骨や肉片が浮かび上がり、それらは人体やポケモンの形を成して湖の中心部分へと向かっていく。

 中心の小島。またそこにある送りの洞窟は、既に骸骨たちの大名行列が大挙して押し寄せていた。この様子から察するに洞窟へ潜ってからそれなりに時間が経っているだろう。

 

 この大地自体他の大陸とは異なり、特殊な構造をしている。

 故に勢いは止まることはなく、もうしばし潜る内、この骸骨たちの数は更に増えることとなるだろう。ほぼ無限に湧き出るそれを退け続けるのも限界があるし何より、今のカイルたちでは現実世界へと"抜け出すための条件"が整っていない。

 

「グライオン、あそこへ向かってください」

「グラィッ」

 

 滑空から直滑降に近い形で速度をつけ降下し、着地と共にグライオンの"クラブハンマー"が地面を大きく砕いてクレーターの跡を残す。

 そこにいた骸骨は当然粉々であり、周囲にいた連中も発生した衝撃波でまとめて吹き飛ばした。

 少しばかり胸は痛むけれど、それを気にしている余裕は今のノボリにはない。

 

「モンジャ!」

 

 ボールから飛び出したモンジャラが身体のツタを数本伸ばし、周囲の骸骨たちを"パワーウィップ"で横薙ぎに一掃する。

 そうしてできたスペースの中、ノボリは大きく深呼吸をして波立った心を落ち着かせる。戦闘態勢へと入ったグライオンとモンジャラが次の技の準備に入る。

 

 カイルという少年は、ノボリにとってまだまだ子供だと判断していた。

 子供だと思っていたからこそ、残酷な事実を伝えずにいた。送りの洞窟の用途について、何かと理由をつけてはぐらかしてきた。

 彼からしてみれば、大分煮え切らない思いだっただろう。不信感だって持たれたかもしれない。事実こうしてなんの相談もなく洞窟へと潜っていってしまっている。

 

 ――現状のカイルでは、おくりのどうくつに潜る意味などないのに、である。

 

 用途については、後日改めて伝える場を設けるとして。

 きちんと共有していれば防げた事態だからこそ、これは勝手な判断で共有を渋ったノボリの失態だろう。自分が原因のミスである以上、自分でリカバリーを行う必要がある。

 官帽を深く被り直し、伸ばす人差し指を洞窟入口、ひいては群がる骸骨たちに向ける。

 

「少々、手荒くいきますよ」

 

 

 呟く言葉は、次いで浮島へ響き渡る爆発音によってかき消された。

 

 

 




大体一週間ほどで更新します。
もう少々お付き合いくださいませ。
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