遅筆にそれが加わってしまうと投稿頻度は死んでしまいます、、が蘇りました。
ファミコロが好きです。
睨み合いの状況は、そう長く続かなかった。
というのも、これといって話したい話題はなく、かといって交渉の余地があるわけでもない。
状況次第では動くこともあるだろうが、今回の場合そうはならない。両社の間には決定的で、確信的で、それでいて天地がひっくり返ったとて変わらない普遍的な違いが存在するためだ。
そりゃまあ、実体と幽体とでは揉みあいには慣れないわけで。
「あなたには悪いですけど、彼は連れて帰りますよ」
「それは残念。穏便に終わらせられたかったんですがねぇ」
そんな会話の折。
カイルを背負い踵を返すノボリの背中へ、どこか名残惜しそうな声がしんと響く。
「雰囲気が似ているでしょう? 『ギンガ団』のあの子に」
「......」
「あなただってそう思ったはずだ。いつだって何かを成すのは、その大任を任されるのは、そういう子供なんですよ」
「そう思わないと言えば、嘘になりますね」
そうでしょうそうでしょう、なんてご機嫌な相槌。
「通常この世界にやってくるのは死者です。弔われた亡骸がもどりのいずみを介して意志のない骸骨となるのみだ」
それは、ノボリとて知っている。
現実世界にて失われた命は、やぶれたせかいで亡骸を模して次の命が宿るのを待っている。いわゆる輪廻転生というやつだろう――というのはラベン博士の受け売りだが。ともかくこういった仕組みを前提とすればこそ、この世界にはギラティナを除く生物は存在しないわけである。
ことわっておけば、ノボリは特例。ウォロは特例中の特例のため、ここでは思考から省いている。
「しかし、彼は生きたままこの世界にやってきた。そのイレギュラーが何かを成すのにかけているんですよね。だからこそ、あなたも彼を助けているわけだ」
「そんな理由ではありませんよ」
「ほう、他にどんな理由があると?」
「倒れていたから助けたんです。他に理由はいらない」
「いらないのでなく、考えたくないんでしょう」
ぬるりと、思考の間を縫うようにして紡がれる声。
「それが悪いこととは言いませんよ? 目的を達成するためにはベストを尽くすべきですから。ただ正義面をしておいて、やってることの本質は同じだってことには反吐がでますがね」
「そうですか。相変わらず、あなたとは話が合いそうにない」
「おや、もう行かれるんですか?」
「ええ」
会話を打ち切り、ノボリは出口へ向けて歩き出す。
正直、ほとほと呆れていた。遥か昔の『あの一件』以降、この男と会話をすればいつもこうだ。
一見会話は成立しているようだが、その実お互いの意見が一方通行になっているだけ。分かり合うための会話ではなく、個人の正しさを押し付けるための説法のような会話だ。
妄執に取り憑かれた人間は、みなこうだった。
長く話し続ければ、こちらの思考までズブズブと侵食されることとなる。
それ故の急ぎ足が出口に差し掛かった、その刹那。誰に零すでもなく、恨み節でもなく、ただただ名残惜しそうな声だけが、しんと洞窟に響く。
「ああ、願わくばそういう運命に愛された子の体をいただけたらと思っていたんですが」
「......いただく、ですか」
ノボリはちらりと背後へ目を向け。
冗談、と一蹴した。
「ただより高いものはないでしょう」
ノボリ自身そのつもりはなかったし、実際もう振り返ることはなかった。ウォロの方も比較的満足がいったらしく、これ以上話しかけてくることはなかった。
代わりに、くつくつと笑い声が聞こえた。
くつくつ、くつくつ。
くつくつ、くつくつと。
▽
とっときの珈琲を用意し直し、古びた椅子に腰掛ける。
拠点、である。
しばらくぶりに落ち着けたことにひとまずの安堵。立ち上る豊かな香りに鼻孔をくすぐられるまま一口。含んでからしばらく、大きく息をついた。
あまり、いい経験ではなかったように思う。
今回の件は、ひとえにノボリの説明不足によるものだ。
おくりのどうくつの本来の仕様も、それを不正に利用しようとしたウォロの結末についても、ノボリは伝えることを渋っていた。どうにも話しづらかった。
子供に聞かせるには残酷すぎるだろう、なんて。子供扱いを拭えていなかったからだ。
「これは悪い癖ですね、っと」
そう結論づけた折、足元に何かがもたれかかる感触。
隣でハサミの手入れをしていたグライオンが、ノボリの右足にぴたりと背中を合わせて眠りこけていた。
お疲れ様ですと優しく声をかけ、頭を撫でてやる。
「モンジャラも、よければどうぞ」
少し外れた位置の毛むくじゃらにも声をかけたけれど、遠慮されてしまって。
代わりに伸ばしたツルをきゅっとノボリの手に巻きつけられた。素直じゃないなあ、なんて笑みが浮かぶけれど、実際彼は他の作業にかかりきりなわけで。
そんな彼が広げる"グラスフィールド"で横たわるカイルを見ていれば、否が応でもウォロの言葉を思い出してしまうものだ。
――そのイレギュラーが何かを成すのにかけているんですよね。
短いけれど、よく残る、加えてよく考えさせられる会話だったように思う。
行動を共にする上で、重要なのは関係の明確化だ。
家族、友人、恩人、彼氏に彼女、はてはビジネスパートナーまで。相手をどういった存在と認識しているかで取るべき行動は変わる。
だからこそ、改めて考えるべきだと。そう思った。
そこまで整理した上で、はてさて実際、自分が彼――カイルのことをどう考えているのだろう、なんて。
「ノボリさん、申し訳ない」
そんな思考に横入りしてくるのが、起き上がったカイルだった。
相も変わらず全身真っ黒の地味な恰好で、悪かった目つきは渦の影響もあり濃くなったクマで更に人相が悪くなっている。
ぽつり、ぽつりと懺悔が溢れる。
「正直疑ってた。だから何も言わずにおくりのどうくつに向かった。結果あいつに誑かされた」
全部が全部自分の失態だ、なんて彼は繋げる。
「そこを助けられたのは素直に感謝してて。ただ、まだ信じきれてない自分がいます」
「ええ、そうみたいですね」
短く返してから、数呼吸分の間があり。
二口目の珈琲を含みつつ、まあそうだろうな、なんて思う。こんな短期間接しただけの相手に対し全幅の信頼をおけるかと問われれば、そんなことはない。
寧ろその裏や意図を疑ってしまうのだろう。なればこそ、目の前の少年に軽々しく信用しろだなんてノボリには言えなかった。
代わりにできるのは、少しでも親身に話を聞くことくらいなもので。
ここはどっしりと構えて話を聞こうと考え、
「俺は、ギンガ団から追われる形でここに来ました」
予想の斜め上から飛来した事情に、面食らった。心構えは後ろ向きにすっ転んでいた。
あのギンガ団から追われる身になっているとなると、果たしてウォロに並ぶか近しいレベルのことをしでかしたのではないか、と。
そう身構えたものの、ここしばらく見ていた彼の姿とはあまりにも合致しない。
幸いポーカーフェイスには自信のあるノボリである。
落ち着いて聞くと定めた以上、静観を決めこむのが大人というものなので。代わりに珈琲を口に含んだ。
......手は震えていなかったかだけが心配である。
その動揺を知ってか知らずか、カイルはそのまま会話を続けて。
「あの煙ーーウォロとノボリさんが話していたこと、朧げだけど記憶があります。あなたがギンガ団の誰かと関わりがあるように聞こえました」
「......」
「死んだと思われてる方が何かと動きやすいもんで、俺の情報を流されても厄介だ。......恩を仇で返すのは、あまり好きじゃないんだけど」
そう言ってボールに手を掛けようとしたカイルの首元に、鋭い殺気と共にツタとハサミが向けられる。
「二人共、やめなさい」
戦闘態勢に入った二体を諌めるも、カイルはそれを気にもとめていない様子で腰元のボールを3つ手に取り。
それぞれ放り、中からはクチート、エーフィ、チャーレムがそれぞれ飛び出す。
「これだけ、確かめさせてほしい。あなたは敵ですか」
そう零す彼の黒瞳には、覚悟の色があった。
年齢不相応に感じるほどの強烈な使命感。けれどそこには迷いや葛藤の感情が僅かにあり、だからこそノボリを見極めようとしているのだろう。
この状況下でもその冷静さを保っていられることには、正直感服するところだ。
言葉や態度でこそ戦闘態勢に入っている。
ただ本気で何かをしてやろうという気がないことは背後のポケモンたちを見ればわかる。
「敵ではないつもりですよ」
故にこそ、可能な限り柔らかい口調でもって伝えること。
加えて、自分の手札を開示するのがわかりやすい潔白の証明となるだろう。別に隠していたわけでもあるまいし。
「ただ、事情や目的はそれぞれあるでしょうから。お互いに詮索しない約束でしたけど、私が独り言を言うくらいは構わないでしょう。なに、ちょったした身の上話です」
咳払い。
次いで思い起こすは、記憶と歴史の遥か先にある望郷。存在することだけは必然であり、幾重にも連なる歳月だけがノボリをそこへと至らせることができる。
聞けば、そんなものは冗談だと人は笑うだろう。当のノボリ自身、数百年を経た今ですら信じきれていない。
けれど、確かにその世界は存在するのだ。
他でもないこの肉体と、記憶が何よりの証拠だった。
ノボリにも目的があり、彼にも目的がある。
邪魔建てするつもりなど毛頭ない。別に好き好んで話すような内容ではないけれど、そうすることで僅かでも彼の信頼足り得るのなら、まあ別にいいかななんて思ったりする。
子供扱いも辞めようと考えていた頃合いである。この少年には、全てを話そうと思う。
「少しだけ、過去の話をしましょう」
そんな、他愛もない切り口だった。
▽
出発進行、と。
思い返せば、浮かぶのはいつもこんな言葉だ。
当初はうわ言のように呟いていたのだけど、聞く人間はみな不思議そうに首を傾げるのみ。いわゆる死語というか、少なくともこのヒスイの時代に伝わるそれではないらしい。
どころかそれを呟いている謎人間自体、どう接したらいいのかも定かじゃないのだろう。さて面倒な荷物を拾ってしまったなとでも言いたげな苦笑いを向けられるのが常だった。
何よりも辛かったことは、多分忘れている。
しかし確かにあったはずだ。それを裏付けるかのように、手首に、首に、恐らくは自傷ととれる傷跡が残っていた。
目が覚めてすぐ、寒かったことをよく覚えている。
当然だ。明らかに気候に合っていない服を着て倒れていたものだから。
目覚めてしばらく、何より心細かったのが身に沁みている。
誰もいない極寒の大地を散策し、食べるものも無いためひもじく、状況を理解しようにも目覚めるまでの記憶が何一つ無かった。
目覚め、頼る相手がいなかった。
道中、話す相手がいなかった。
倒れても、助けてくれる相手がいなかった。
当然だ。ずっと一人きりで、その上何も持ち合わせてはいなかったのだから。
故にこそ、冷えきった指先に触れる手の温かさが何よりも心に染み入るのだと。
それを教えてくれたのが、まだ歳派もいかない少女だったのをよく覚えている。
「お疲れノボリさん、記憶の手がかりは見つかったかな?」
「僅かではありますが、久々に前進しましたね」
「それは何より。あの子のおかげだね!」
「ええ、本当に」
目の前の少女――カイとそんな会話を転がしながら、ノボリはふとそんなことを思い出していて。
記憶の手がかり云々はもはや決まりきったやり取りである。ついでにぽろぽろと日常会話を挟める程度にはノボリも相手も慣れ親しんでいた。
「後任の育成は進んでる?」
「ぼちぼちですね。素質はあると思いますが」
「まあキャプテンだからねー......。簡単になれるわけじゃあないけど、穴が空くのは良くないんだよなぁ。頑張ってもらわないとね」
「時間は僅かですが。できる限りは育てますよ」
「そうだね。頼んだよ、現キャプテン?」
「ええ」
今ではこんな屈託のない笑顔を向けてくれているのだけど、当初は彼女もわかりやすく眉を八の字型に歪めていたわけで。
「ふふ。実際ね、最初はどこぞから追い出された無法者の戯言かと思ってたんだよ」
苦笑。そう言われれば納得である。
「何だったら他の団からのスパイか、なんて疑っちゃったりしてさ。セキもデンボクさんもそんなことする人じゃないのにね」
「ふむ。記憶喪失で、手持ちもないまま、わざわざこの寒冷地帯にやって来た設定ですか」
「しかもそんな軽装でね」
からからと笑い、カイはご機嫌に足をぶらつかせて。
ほうと息をつけば、それが白いモヤとなって空気中にゆるりと溶ける。
要するに身を刺すような寒さなわけだが、カイは大胆に肩と足を露出した格好で余裕そうだ。白い肌の頬には僅かに朱が混じっており、全くもって寒くないわけではないらしい。
そして格好の大胆さに違わず、それなりに思い切った判断だってえいと下せてしまうのが彼女なわけで。
流石にシンジュ団の長と呼ばれるだけある、なんて。ノボリとしては素直に感服するばかりだ。
「そんな人が今じゃシンジュ団のキャプテンだもんね。いつもお世話になってます」
「いえ、拾い上げて貰ったからこその今ですから」
対抗勢力であるコンゴウ団のセキ、ギンガ団のデンボクの両団長は、良くも悪くも大人だ。
冷静であり視野も広く、思慮深い。そんな人間たちがこのわかりやすい厄介事の種を見た時、一時の世話こそすれ団にまで迎え入れようとは思わないだろう。
ある種、カイの思い切りの良さに救われたわけだ。
「長くはありませんが、できることはやりますよ」
「当然。いっぱい頼らせてね」
そんな他愛もない会話をぽつり、ぽつりと続け。
「しかし、急にやってきたあの子がきっかけになるなんてびっくりだよね」
「......ええ」
おもむろに呟くカイに、短く返す。
この語り口から思い当たる人間は一人しかいない。
恐らくは『ノボリと異なるルート』を辿ってこの世界へとやってきた子供だった。その証拠に言葉が流暢であり、不思議と馴染みがあり、明らかにこの世界ではオーバースペックな端末を扱っていた。
何より、記憶が存在したのだ。
――出発進行、って、電車、え......?
今でも忘れやしない。忘れられるはずもない。
天冠の山麓で会話をした折、いつもの癖で呟いた一言を聞くや否やぽろぽろと涙を零されたのだから。
後に聞いた話だが、ノボリの口癖はどうやら子供の元いた時代に生きる言葉であるそうで。
そも、生きていた時代そのものが違うことに気が付けたのは行幸だった。
恐らく、ノボリは子供と同じか近しい時代にいたのだ。
それがどういうわけか色々と失いつつこの時代に流れ着いている。何かしらの目的があったのか、何かに巻き込まれたのかは定かではない。
しかし事実として起きていることを並べればそんな流れであるのだ。
「すみません!」
「お待たせしちゃいましたか!?」
噂をすれば、元気の滲み出る声と共にテントに入ってくる姿がある。
「や、テルにショウ。私たちもさっき来たところだよ」
「そうですね」
「いやもう、ラベン博士もシマボシ博士も全然逃してくれなくって!」
「撒くのに苦労しましたねー」
紺色のギンガ団員服に身を包み、どちらも赤いマフラーがトレードマークの少年少女たち。
どことなく幼さが抜けきっておらず、歳でいえば15にも満たないであろう彼ら。しかし紛れもなく、ヒスイを混沌に陥れた事件を見事に解決せしめた子どもだ。
湖に住まう伝説のポケモンと心を通わせ。
時空を操るポケモンをも撃退し。
その全てにおいて暗躍し、ついには世界の影をも従えた男をも倒してみせた。
どれもこれも、ノボリには成し得ない偉業である。
まるでーーと考えたところで、脳裏によぎるは『彼らとは異なる子供の影』であり。
台車のような規則的な音。向かい合う子供。それとタイミングを同じくしてボールを投げる己が姿。
そこまで情景が浮かんだ刹那、思考が弾けた。
「......ぐっ、」
刺激。痛み。
脳天に直接電撃でも流されたかのような痺れ。
「っ! ノボリさん、またなんだね!?」
「......ええ。いい加減慣れてきました」
倒れそうになったすんでのところでカイに支えられ、二人の子どもたちはどこか納得したように頷き合っていた。
「例の件ですね」
「その通りです。把握が早くて助かります」
細かい事情は伝えていないが、なんとなくは察して貰えたらしい。
ひょいとボールが放られ、現れるは小さな身体。
神々しくも、どことなく可愛げもあり、それらが両立する不気味さにブルリと身が震える。
ソレがいるだけで空気が変わるような気さえする中、額の赤い宝玉がノボリを見透かすかのように光り。
《なるほど そういう こと か》
そんな言葉と共に、現れたポケモンーーユクシーはゆるりと頷くのだった。
いわゆるテレパシーというやつだろう。頭の中に直接声が響くとは聞いていたけれど、実際体感してみるとどことなくむず痒い感じがする、なんて。
「さて、役者は揃ったね」
そんなことを考えていた折、"切り替わった"カイの声がしんと響き渡る。
所謂ペルソナとでも言うべきか。それはいつもの明るい女の子といったそれではなく、数ある人材を、意思を、言葉を束ねるべくして成る団長としての声色と立ち振舞いだった。
「みんな、集まってくれてありがとう。前々から進めていた話だけど、そろそろ実行に移そうと思うんだ」
あの年齢でありながら、既にその姿を確立させている。
そんな彼女に改めて畏敬の念を感じつつ、ノボリもまた深く帽子を被り直して。
「それじゃあ話して行こうかな。あの、」
ーー頑張ってノボリさん未来まで生き残って貰おう大作戦について、と。
凛とした声でまとめられたそれに、ノボリを含め多方から苦笑の気配がした。
投稿頻度が終わってる作品にも関わらず見てくれてる方と新規で見ていただいた方に感謝しかありません。
早めに投稿できるよう頑張ります。
文字数減らしてポコポコ出せたらいいのかなー、と。
(結局書きたいこと溢れて文字数増えちゃう気もしますが)
よろしくお願いします。