無駄飯喰らい   作:甘栗@

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私生活が予定つめつめなのと、家に早めに帰れる日はぶっ倒れて寝る人間なので更新できずでした。すみません!!
年末に感謝です。煮つけが好きです。

あまりに更新がまばらすぎるので、
一応最新話までのあらすじを用意しています。

あらすじ
・ギンガ団が最終作戦実行中
・最終作戦を止めようとしたカイルはギラティナに襲われやぶれた世界へ飛ばされてしまう
・やぶれた世界で出会ったカイルとノボリ
・身元経歴不明のノボリはカイルに信用してもらうため自分の過去を話し始める
【今ここ】
・未来の記憶を思い出したノボリとショウとの間で、未来への帰り方について対立→バトルに発展


頑張ってノボリさん未来まで生き残って貰おう大作戦③

 

 

 

 

 

 戦いの中で気が付くことだってある。

 

 

 気が付くというよりは、思い出したという方が正しいのかもしれない。

 それくらいに今の戦い方がよく肌に馴染んでいた。この世界に来てから初めてしたものだが、思いつきでやったにしては随分と肌に馴染む。

 記憶と行動は無意識下で結びついたそれだ。原理はノボリには知る由もないが、思い出した戦闘の記憶に身体が反応しているのかもしれない。

 

 そんな戦い方だが、そう複雑なそれではない。

 

「モンジャラ、"ツルのムチ"」

「ジャモ!」

 

 要は『相手の目線』を中心に置いてものを考えることだ。

 

「前と横だよ、避けてピカチュウ!」

 

 処理する情報を増やすことは相手の対応ミスを誘う呼び水となる。

 というわけで複数方向からの同時方向を仕掛けてみたわけだが、返す処理は恐ろしく冷静だった。ピカチュウはバク転の要領で飛び上って左右からの挟撃を躱し、振り上げる"アイアンテール"で振り下ろされる"ツルのムチ"を弾き返してみせる。

 回避と迎撃が一体化した美しい対応。敵でさえなければ拍手していたところだ。

 敵でさえなければ、だが。

 

「それだけではございませんよ」

「ッ、離れて!」

「ピ――」

 

 違和感を感じ取った瞬間に距離を置こうとする精神は見事。

 しかしその実ピカチュウはその場を離れられずにいた。気が付かれることなく伸ばしていたツルがピカチュウの足に絡みついているためだ。

 今回の"ツルのムチ"は『四種類』の用意がある。

 具体的には上から叩きつけるものと左右から捕まえようとするもの。そして、視界に映りづらい地を這うようして伸びるもう一本とでの抱き合わせである。

 ショウが迎撃したのは三種類まで。これ以上ないだろうと考えるには十分なそれだ。

 

「跳ね上げて、"エナジーボール"!」

 

 しめた。

 視界に捉えることができなければ認識が遅れる。認識が遅れれば今度は指示が遅れる。指示が遅れたのなら、最後に遅れるのが対応となる。

 なすすべなく"ツルのムチ"の殴打を受けたピカチュウは上空に跳ね飛ばされ、逃げ場のない空中へ。そこへ向けて球体上に圧縮された草エネルギーがキーンと高い音を唸らせて迫る。

 

「......」

 

 それを視認するや否や、ピカチュウは眉一つ動かさず、尻尾を振るった。

 荒々しさはなく、落ち葉が風に舞うかの如く、ただゆるりと虚空をなぞる。

 そんな尾の跡を引く軌道から溢れるはいくつもの星屑であり――

 

「ちょっとショウ、ここであれ撃つつもり!?」

「うーん本気だね。とりあえずカイさんはこっち来て、バリヤードは"ひかりのかべ"お願い」

「いやいやシンジュの里も団の本部も近いんだけど......? ああもうグレイシア! 氷で補強してー!!」

 

 戦闘の最中、わちゃわちゃしつつカイとテルが避難したのも束の間、

 

「"スピードスター"」

 

 宣言、短く、技の名前と共にその全てが撃ちだされる。

 

 五秒。

 射出されたそれらが"エナジーボール"にぶつかり暴発する。

 まだなお生み出され続ける星屑が周囲一帯を多数撃ち抜いて炸裂し、爆風と砂煙が舞う。

 十秒。

 星屑は離れたモンジャラまで狙い撃たんと光を放ち、さながら流星がごとく弾け乱れる。

 吹きあがる煙すらも突き破り、また新たな爆風が舞う。もはやターゲットに当たっているかすら判別はつかないはずだが、それでも光のシャワーが収まることはない。

 二十秒。

 止まることはない。留まることがない。

 一切の迷いすら感じさせず、まさしく一斉掃射とでも称すべき弾幕を維持しながら、規格外の質量でもってスピードスターによる破壊の嵐が吹き荒れ続ける。

 

 ――三十秒。

 

 嵐が止んだ。

 一帯をドーム状に囲っていた"ひかりのかべ"と氷はとっくに役割を終えて砕け散っていた。内部で振るわれた猛威により視界が最悪なため、どちらとも一旦は見の体勢。

 先とは打って変わって不気味なほどの静けさだけがこの場を支配している。

 そうしてしばしの沈黙。次第に砂ぼこりが晴れて。

 

 荒れ果てた大地と、よろけながらも立つモンジャラの姿がそこにはあった。

 

「ッ、モン、」

「よく耐えてくれました、モンジャラ」

 

 無残に粉砕された"げんしのちから"の破片。節々に焦げ跡の残る"ツルのムチ"。

 防御のため二重三重に展開したそれらを、けれど星屑の嵐はゆうに貫通してみせた。......本当に"スピードスター"なのだろうか。あれでは"りゅうせいぐん"と称した方がまだ合点がいく。

 

「流石ショウだね」

「いやいやいやいや......」

 

 控え目に言ってやりすぎだとノボリは思う。

 ショウは納得したように頷いており、カイは更に深々と頭を抱えていた。

 

「これで!」

 

 ショウは優秀な指示手である。

 次第に煙が晴れ、映るは深手を負ったモンジャラと向かい合うピカチュウの姿。次にどう動いていくべきか、戦場にノボリが仕掛けた仕込みなどはないかと。見るからに優勢だとしてもそうした確認を怠らない冷静さ、そして観察眼が彼女にはある。

 そして、だからこそよく引っかかる。

 

「ピカッ!?」

 

 ショウの観察眼の届く範囲よりも、『遥か外』。

 そこから根気よく伸ばした"ツルのムチ"を重ね、束ね、最大限の重さと質量そのままに思い切りピカチュウに叩きつける。

 

「なっ、どこから!?」

(相手の目線、ですか)

 

 指示手は視界に入った情報を用いて最善手を考えるものだ。

 用意された数字による計算問題のようなもので、ショウであれば容易いだろう。であれば数字の中彼女では知りえない変数を紛れ込ませればどうだろう。当然ながら解は狂うにきまっている。

 要するにノボリだけが知る情報があれば、最善手を狂わせるのはそう難しくない、ということだ。

 

 ノボリ自身かつてそうして戦っていたことを断片的な記憶と共に思い出していた。

 そして、やはり恐ろしく肌に馴染むのだ。

 

「モンジャラ、追撃です」

「ピカチュウ、躱しながら近づいて!」

 

 更に多数放たれた"ツルのムチ"が、ピカチュウ捕まえようと幾重にも伸びる。

 その大部分を素早い身のこなしで避けると、逆にそのツルを辿る形で利用しモンジャラへと迫り。そうして勢いそのままに振り下ろされた"アイアンテール"をツルが受けとめ、鍔迫り合いの形に入った。

 

「"げんしのちから"」

「ジャモ!」

 

 地面から4つの巨岩が浮かび上がり、周囲を旋回し始める。

 ただし限定的な軌道であり、具体的にはショウの視界をなるだけ遮るようにして巨岩が虚空を踊る。最終的にはピカチュウを押しつぶさんと迫らせる想定だが、今のまま放てばモンジャラにもその余波が来る。故にこの後ノボリには距離を取るための攻防が続く。

 ショウとてそれは理解しているだろうから、後はどちらが相手の意図を上回るかだ。

 

「"かみなりパンチ"!」

「ピッカァ!」

「耐えてください!」

 

 バチバチと弾ける雷を宿した前足がモンジャラをもろに殴りつける。尻尾を振り下ろし、切り返し、身を翻して更に追撃の"かみなりパンチ"を叩きこむ。

 ショウとしてはこのまま削り切る判断だろうが、そうはいかない。

 

「そこ、受けとめましょう!」

「モ、モジャ!」

 

 トドメとばかりに放たれた右の前足は、けれどすんでのところで届かない。

 答えは単純。幾重にも絡まるツタがパンチを絡めとったからだ。その勢いを殺しきり、ただでさえすばしっこいピカチュウの動きを強力に制限できる、決めてとなる一手だった。

 

「よく凌いでくれました。では――決めましょうか」

「モジャン」

 

 覆われ、束ねられ、球体を成していたツタがある。

 一房一房丁寧に解かれていく。その中身が露わになる。見るなり離れようと暴れるピカチュウだが、ツタがしかと巻き付いて離れない。というか、ここだけは死んでも離したくない。

 かくしてそれは放たれる。激しい攻防の最中に形成したまさしく隠し玉、今度は猛毒を圧縮させた歪な球体がすぅと差し出され――

 

「ッ!? 尻尾で守って!!」

「"アシッドボム"」

 

 刹那で指示を飛ばすがもう間に合わない。

 炸裂した"アシッドボム"が大きく、大きく猛毒をまき散らしながら大きく弾けた。

 

「~~~~~ッピィ、」

 

 再び空中に打ち上げられたピカチュウに対し、ノボリは攻撃の手を緩めない。

 何せ年齢にそぐわない恐ろしい能力の使い手であり、その手持ちである。最後の最後まで仕留める心構えだけは崩さずいかなければ、逆にこちらが飲まれてしまうことをよく知っている。

 幸い流れはノボリにある。距離を取ったことで"げんしのちから"が本格的に動かせるためだ。

 

「ピカチュウ、それ使って逃げ回って!」

 

 しかしピカチュウはそれを足場として利用し、別の巨岩へと飛び移っていく。

 

「無茶苦茶でございますね......、"ツルのムチ"」

 

 "げんしのちから"は巨大な岩を相手にぶつけ、それを内側からエネルギーにより弾けさせる技だ。

 しかしこうして岩から岩へと素早く飛び移られては、弾けたエネルギーや石礫が直撃しない。どころか悪くなった視界から隙をつかれる可能性すらある。

 持久戦に持ち込む体力はないため、余波では論外。当てるなら直撃以外ありえない。となればやはりツルで押さえつけるのが手っ取り早いわけだが、

 

「右、左、次は上の岩に!」

 

 鋭い指示と的確に従うピカチュウがそれを阻む。

 躱す、飛び移る、迎撃する。当たらない攻撃を放ち続ける意義も脳裏を掠めはしたが、手を緩めれば返ってくるのはあの"スピードスター"である。あれをもう一度耐えきる体力はとうに残ってはいないだろうから、連撃により手番をノボリが握り続ける優位は確かに存在する。少なくともこうした攻撃をしている内はタメが必要なあの技を撃つことはできないわけで。

 であれば、寧ろ手数を増やすべきだろうか。注意を逸らしてツタで捕まえれば決着は早い。

 

「......」

 

 そこまで思考を巡らせて気が付く。

 ――決着を、焦っている?

 

 "げんしのちから"がピカチュウのすぐ近くで弾ける。

 飛び散る破片がいくつもぶつかり苦しそうな表情を浮かべるが、どれも致命傷には至らない。

 

「"エレキネット"」

 

 空中から展開された巨大な"エレキネット"が散らばる破片とツタを巻き込み無効化する。

 

「"10まんボルト"」

 

 その刹那に地面から伸ばしたツタは、雷撃により焼き焦がされ阻まれる。

 

「"アイアンテール"」

 

 ノボリの攻撃はそれだけに留まらず、正面から二本ツルを伸ばしていたのだけど。

 ピカチュウはその内一本を"アイアンテール"で弾くと、もう一本のツルを掴み。ぐいと馬鹿力で引っ張り上げてモンジャラを自分の側へ引き寄せて。

 

「これで逃げられないですね」

 

 ショウに、妖しい笑みが浮かぶ。

 

「ッモンジャラ!」

「思い切りお願い、ピカチュウ」

 

 ――"かみなり"、と。

 

 

 静かな宣言。その直後、轟音と極光が周囲一帯を満たしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 土地には歴史があり、歴史には史実がある。

 

 

 忘れたくないような出来事を書き起こす。こういった経験が後に活きるだろうと備忘を残す。危険な存在や出来事を正しく恐れるべく、伝承として記しておく。そういった小さな体験や知恵を織りなし編纂したものが歴史と呼ばれるものであり、それに触れることで当時の人間たちの思想をなぞることができるのだ。

 その大部分にはポケモンが関わっているため、ロマンの有無については怪しいところだが。

 

 物珍しい話というものは存外に人の興味を引く。

 一介の村人では噂話にしかならないそれであっても、行商人たちにすれば会話のタネになるもので。それが集めて分析したがりな研究員などであったなら、更に話は変わってくる。

 ただの噂話だって文字に起こせばそれなりの量になるもので、そんなものを山のように積み上げたのがラベン博士の手記の数々だった。

 ギンガ団本部の一室を埋め尽くさんという勢いで積みあがるそれらには、素直に畏敬の念すら覚える。

 

 それとは別にちょっとした恨み節もあるわけだが、快く調査を許可してくれた当人にはとても言えない。

 だからこそノボリは、心の中でこう綴るのだ。

 

 ――頼むから整理整頓をしろ、と。

 

「ふぅ」

 

 ノボリは書類を綴じ、既に積み上がった山にまた一つ加える。

 別の山からまた新たな書類を取り出すと、パラパラとまた目を通していく。ただひたすらそんな作業を繰り返すこと丸数日、借りていたギンガ団の一室はもはや書斎顔負けの様相となっていた。

 

「ノボリさん、何か目ぼしいものはあったかなぁ......」

 

 床でのぺーっとし始めたカイからはそう尋ねられる始末である。

 ここが書斎や図書館とすれば、さしずめノボリは司書とでもいったところか。

 

「向こうで休んでいても大丈夫ですよ?」

「ん、知恵熱でおかしくなっちゃいそうだから一旦ここで横にならせて。ごめんね? あんまり探せてないんだけど......」

「いえいえ、全然気にせず休んでください。疲れがとれたら戻ってきてくださいね」

「うーん。ショウとグレイシアだけが私の癒しだよ」

 

 早々に次の書類へと手を伸ばしつつ、ショウ、カイとそんな会話を零す。

 ちなみに床と同化し始めたカイには虚無顔のグレイシアが慣れた様子で抱かれている。南無三。

 

「まだまだ頑張らないとだもんね。途方もない作業だけど、この中から『ときわたり』の伝承を見つけ出さないといけないんだから。途方もない作業だけど......」

「ええ。知恵熱とまではいきませんが確かに息は詰まりますね。そもそも本当に存在するのか」

「ノボリさん」

 

 割って入るようなカイの声。ただ少女のものでなく、長としての威厳溢れるそれだった。

 

「申し訳ございません。私も、少し疲れているみたいですね」

「ノボリさん。噂が信じられないのならラベン博士を信じればいいよ。あの人がここにあるはずだって言ったんなら、私たちはそれを信じてここを探すだけ。そうでしょ?」

 

 そう柔らかに諭され、ノボリはただ頷きで返す。

 組織を束ねる上では理解や目的の一致などもあるが、何よりも信用と信頼が重要となる。年齢や血筋でなく自らの行動によってそれを獲得してきた、誰よりも理解しているカイだからこそ言える、そんな言葉だった。

 ――床に寝そべってさえいなければ、もう少し恰好がついただろうか。

 咳払い、次の資料に目を移していく。

 

 そんなこんなで、数日前の戦闘から状況が動いていた。

 

 現在進行形でノボリたちが進めているのが、とある事象に関する文献漁りである。

 ノボリたちが実行予定だった『やぶれた世界』を用いた帰還方法は棄却され、その代わりにショウが発案したのが『ときわたり』なる帰還方法だった。試しにラベン博士に問うてみたところ、以前ウォロから聞いた話をまとめた文献が資料室にあるはずだということで。現在はそれを目当てに書類や伝承を漁っている。

 

 肝心のラベン博士は文献をしまったのは何となく覚えてるが場所はわからないとのことだった。

 であれば捜索を手伝ってもらおうとしたところドタバタと忙しないせいでそこかしこで埃が舞い、地面の紙を踏んですっ転んだかと思えば、調査済みの紙束をぶちまけて未調査の紙束と混ぜるという職人技を遺憾なく発揮してくれたため、一旦はお払い箱と化している。

 本人はすすり泣きながら、せめて今できることとしてもどりのどうくつにある『ゲート』の様子を確認しに出かけて行った。いかにも文献漁りが苦手そうなテルは嬉々として護衛に出かけている。

 

 簡単な経緯を辿ればこんなところだろうか。

 文献漁り自体は既に数日が経過しているため、もうそろそろ何か進捗が出てくれないと士気の維持に関わってくるというもので。

 咳払い、

 

「そういえば、なにか目ぼしいものでしたか。個人的に興味をそそられるものはありましたよ」

 

 話つつ、ノボリは読破済みの山を記憶だよりに指先で探っていく。

 それなりの分厚さがある紙束。逆にペラの一枚。細かい会話が纏められた冊子。歴史が様々ならそれをとった手記も様々、ということだろう。その中から一際豪華な早朝の本を抜き出す。

 

「これとか、読んでいて面白いかもしれません」

「うん? どれどれ......ふーん、へぇ。ほぉ......」

 

 実際途方もない数を読み進めてきたノボリとしては、いくつか目を引く内容があった。

 今しがたカイに手渡したのは、その内の一つ。『うみのかみ』なる存在についてのものである。基本的にはおとぎ話が主だが、内容自体はさらっと見ただけでも読み応えがあったはずだ。

 

「......」

 

 あいにく感想は聞けなかったが、黙々と次のページを捲り始める答えを姿ととってよいだろう。

 そうして各人のやる気の維持にも注力しつつ、更に数冊ほど読み進めた折。息をつきながら、これまで進めてきた作業量もそれなりであるなとノボリは気が付いて。

 それこそ調べるべき山はまだまだ残っているが、一旦今までの成果を参考に調べる方向性を改めてもいいかなと思うくらいには状況が煮詰まっているのを感じていた。

 

「ここらでふるいにかけていくとしましょうか」

「ですね! とりあえず、なんとなくすごそうなものだけまとめておいたので見てみてください」

「ところでショウ、その紙束全部?」

 

 グレイシアの頭を撫でくりしつつ呟くのはカイである。

 ショウはにこやかに追加の紙束を持ってきた。

 

「地域別にしてあるから、こっちにもいくつかありますよ。折角だし書類も整理しちゃいました」

 

 戦々恐々と言った様子のカイの視線の先には、頭一個分のくらいの高さに積み上がった紙束が3つほど鎮座していた。何だったらノボリの分の山だって控えているわけなのだけど、ここはカイのやる気を削がないよう折を見て足してやるべきか。

 

「しかし、まこととんでもない量でございますね」

「ラベン博士はさ、情報集めるのとまとめるのは得意なんだね。整理するのは苦手なんだろうけど」

 

 苦笑の気配。

 

 しかしそうして集めた書類を整理していけば、見えて来る方向性というのもあるもので。

 

「ジョウト?」

「そうです。このあたりに伝説のポケモンに関する文献が集中しています。他の地域にもあるようですけど、ここは特に多い」

「ふむ。遠い昔に起きた出来事の文献は他に散らばっていますが、目撃したものや体感したものに関してはこの地域が多いように感じます」

「そういえば、さっきの『うみのかみ』もそのあたりの地域のお話だった気がするなぁ。えーとどこだったっけ」

 

 

 かくして、目的に迫っているなんとなしの実感も得つつ文献漁りは続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 水面下で起きている事態について、おおよそ全容は把握することができないものだ。

 

 

 大抵、発生する頃には事態は後戻りができない形まで進行しているのが常である。

 当然何かを起こそうという輩は行動が露見しないよう細心の注意を払うものだから、何かしら意味を持ってあえて知らせるか、相当な愚か者でもない限りは、発生前に察知するというのは至難の業と言えるだろう。

 ヒーローは遅れて来るのではなく、ヒーローがやってくる前に事件が起きるものなのだ。

 だからこそ、発生前に違和感に気が付けたのなら、それは相当に幸運なことだ。

 あるいは、悪運か。

 

「博士、これって」

「......テルさん。急いでコトブキ村に戻りましょう」

 

 時に、悪役とは強固な意思や理念、目的に沿って動く存在である。

 故にこそ一度や二度の失敗で簡単に諦めることができない。何せそれは今までの自分の人生の支柱となってきたそれを自ら手折ることと同義だから。

 

 否、そんな単純な言葉で表すことすら最早無礼だ。

 

 そういう生態。そういう本能。そういう生き方に従って動くただの生き物なのだ。

 

 だから、生きている限りそうするしかない。

 

「ええ、一刻も早くこれを伝えないと」

 

 呟く言葉が、しんとした空気の中で嫌に響く。

 

 開いていたはずの『ゲート』が閉じられたもどりのどうくつの中に、二人はいた。

 調査の最中明らかになった事実の中に、現実世界と対になるゲートはギラティナ、ひいては指示手の意思によって開閉されるものだ。

 もどりのどうくつのおとぎ話が存在する通り、ギラティナの意思でこの場所は開かれていたはずで。それが閉じられているとなれば、すなわち第三者の意思が絡んでいることを意味する。

 

「ウォロは、まだ何か仕掛けるつもりかもしれない」

 

 

 まだ何一つ終わってなどいない可能性を握りしめ、二人はコトブキ村へと向かった。

 

 

 

 

 

 




年末休みを利用してこの機に更新を企んでいます。
更新が亀というかナマケモノすぎてお話にならない状態なのですが、新規でお気に入りしていただいた方々や継続して読んでいただいてる方々に感謝の念が止まりません、、。
お気に入り、評価、感想いただけたらブーストがかかる気がします。
では、ありがとうございました!
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