無駄飯喰らい   作:甘栗@

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高評価、お気に入り登録ありがとうございます。
またまた仕事続きで投稿が遅れ気味です。
ペース遅いですが、ちまちま続けていくのでお気に入りしていただいている方もそうでない方も暇な時に見てやってください。

ムニエルが好きです。


激情と冷酷

 

 

 

 

 

 人が嫌いだった。

 

 

 痛いことをされた覚えがある。悲しかった、苦しかった思い出がある。

 どうしても忘れたくて、けれど消そうとしたって全然消えてくれなくて。こびりついたその記憶が、まるで火傷みたいにいつまでもジクジクと心の深いところを蝕む。

 

 時折、なんでもなく涙が溢れそうになる。

 どうしようもなく暴れてしまいたくなる。

 

 苦しくて、悲しくて――憎くて。この"感情"に身を任せて、暴れてしまいたくなる。

 

 都合がいいときだけ優しい顔をして、それ以外の時には心底嫌そうな顔をする。

 どれだけ信じていたって、嘘をつくし、簡単に裏切る。

 

 これで好きだなんていえる方が間違っている、なんて。

 そう考える私はきっと間違っていないと思う。

 

 

 

 

 

 

 いつからか、何かをねだることが多くなった。

 

 

 他人の芝は青く見えるなんて言うけれど、実際そういうものだ。

 

 あの人が何かを食べていれば、自分も食べたいと思う。

 あの人が何かをしていれば、自分もやってみたいと思う。

 

 おいしい、楽しい。そんな体験を、一緒に味わって共有したい。

 そう考えるのは、きっとそんなにおかしなことじゃないと思う。数ある選択肢から私を選んでくれて、うんと可愛がってくれて。それだけじゃなく、たくさんのおねだりに困った顔をしながらも応えようとしてくれて。

 星の数ほどある命の中で、私は数少ない幸せ者のはずだ。

 

 だからきっと、私は遠い未来で神様にだってねだるのかもしれないのだ。

 もしも生まれ変わったなら、またあの人のところがいい、なんて。

 

 

 

 

 

 

 怖い。不気味。恐ろしい。

 

 

 得体がしれないナニカが目の前にいる。

 透き通るような金色の瞳で、心の中を全て覗かれているような心地になる。

 

 この目を見ていると、あの頃を思い出しそうになる。

 昔、嫌な顔をされた時によく似ていた。あの冷え切った目線が、品定めをするような目つきが、私の体の奥底からぞわりと広がる悪寒を引き出す。

 暑くもないのに汗が流れてやまないし、足も縫い付けられたみたいに動かなくなる。

 

 怖い、逃げ出してしまいたい。

 

 となりにはあの人が立っている。

 

 怖い、一緒に逃げたい。

 

 あの人も震えている。けれど向き合っている。

 

 怖い、守りたい。

 

 あの人が私の頭を撫でる。

 

 怖い、けれど、安心する。

 

 あの人が私の目を見て頷く。私も頷きを返す。

 

 

 ――守りたい、一緒に戦いたい。

 

 

 

 

 

 

 洞窟に入り、その先の遺跡らしき場所で佇むエムリットに出会い。

 

 けれど、カイルは動けないでいた。

 そこそこにトレーナーとしての経験を積んでいるが故、対峙したポケモンの力量はある程度理解できるつもりだった。

 実際先のギャラドスと戦ったのも、力量を見たうえで勝てると判断したからだ。

 

 ただ、今目の前にいるポケモンは。

 

「......っ、」

 

 どういった戦いをするのか。どれだけ強いのか。間合いはどこまでなのか。

 その断片すらも見計ることができない。まるで、何も見えない暗闇を覗き込んでいるかのような。そんなえも言われぬ不気味さだけが感じ取れた。

 息をすることすら忘れていたことに、苦しくなって初めて気が付いて。

 

「ふぅ、」

「……」

 

 一度、落ち着いて呼吸を整える。

 普段なら真っ先に攻撃を仕掛けるマーズも、今回ばかりは慎重に様子を見ている。急いては事を仕損じることはカイルだってわかっている。

 相手から仕掛けてこない以上、こちらも冷静な対処を心がけるべきだ。

 

 ちらと横を見れば、クチートも怯えているようだった。

 

 トレーナーの焦りは、そのままポケモンの焦りへと繋がる。

 ふりだけでもいい。心の中がどれだけ荒れていたとしても、形だけの落ち着きを装ってでも、何よりポケモンの安心をさせてやることがトレーナーの務めだから。

 

「クチート」

「チ、ト」

 

 そっと、クチートの頭に手を当てて。

 震えを抑えて、優しく撫でる。

 

「クチート、大丈夫だから」

「......!」

 

 丸い目を見て、小さく頷く。

 クチートの目に光が戻る。そうしている内、心なしか呼吸も安定してきた。

 エムリットは何を言うでもなく、その様子を見ていた。

 

 じっと。じっと、

 

《かまわない》

 

 ふいに、そんな声が頭の中に響いて。

 カイルは驚愕を真顔の面で覆い、目線だけで必死に左右を確認する。そうして見渡せど、左右にいるのはクチートとマーズだけ。

 誰かの悪ふざけ、というわけではない。となれば、

 

「エムリット、なのか?」

《ひとのこと はなすのは ずいぶんとひさしい》

「ちょっとカイル、今更当たり前のこと言わないでよ」

「あれ?」

 

 もしかして、マーズさんには声が聞こえてない?

 

《すこし ねむったほうがいい》

「ちょ、なっ、え……」

 

 エムリットはふわり、マーズの目の前に移動して。

 互いに瞳を見つめ合う。そのうちに彼女の目が回り、エムリットが小さな指を額に当てて。

 ふらり、

 

「マーズさん!」

 

 名を呼び、倒れ込む彼女の体を支える。

 脈拍と呼吸は、問題ない。

 

 ただ、起こしても反応がなかった。

 軽く叩いても、ほのかに赤い頬に触れても、返ってくるのは微かな吐息ばかり。

 一見、ただ眠っているだけのようにも見える。けれどカイルの記憶の端をよぎるのは、いつか聞いた神話の一節だった。

 

 その ポケモンに ふれたもの

 みっかにして かんじょうが なくなる

 

 神話にせよおとぎ話にせよ、手放しに信じるような性格をしているつもりはない。

 しかしながら、目の前に伝説のポケモンが存在する以上、伝わる伝承全てが嘘だとも限らないことになる。

 そう考えれば考えるほど、警笛がごとく跳ねる鼓動の音がうるさくなるのを感じて。

 

 やまない不安と、零れそうになる弱音。

 それを、大きく、大きく深呼吸をして体から追い出した。

 

《さて はなしをしよう》

「……ああ、少し待ってくれ」

 

 腰の辺りからボールを拝借し、呼び出したブニャットにマーズさんを預ける。

 本来であればカイル自身が守ってあげたいところだけれど、流石に眼前佇む伝説を相手にしながら守り切る自信は持ち合わせていない。

 とりあえず、二人には洞窟の出口付近まで下がってもらうことにした。

 

 冷静さを保つことが、何よりも重要だとわかっている。

 焦りや怒りといった感情が、重要な局面における判断を狂わせる。

 

 カイルは、それを痛いほどよく理解していたから。

 

「――"ふいうち"」

 

 氷点下が如く。冷え切った声音でもって指示を飛ばす。

 

「チ」

 

 音もなく駆けるクチートがエムリットの背後をとると、大顎を大きく開き。鉱石をも砕く鋭利な牙は、けれどガチンと虚空を噛み抜いた。

 "テレポート"、

 

「後ろだ。地面を砕いて対応しよう」

 

 カイルたちの背後、舞うように周囲を旋回するエムリットが"スピードスター"を放つ。

 対しクチートは地面に牙を突き立て、嚙み砕き。それを大顎の中に含んだまま、颯爽とカイルの前へ飛び出して。

 

「"ぶんまわす"」

 

 大きくぐるぐると回転。

 そのまま遠心力に乗せて含んでいた石つぶてを前方いっぱいに投げつけることで、迫りくる"スピードスター"を全て相殺した。

 いくつも爆発が起き、悪い視界の先では次の行動に移るエムリットの姿。

 

 額の宝石を妖しく瞬かせ、そっと両手を合わせて。

 刹那、カイルたちの上空の空間が捻じ曲がったような感覚。

 

「上、?」

 

 宝玉とも見紛うような虹色の光の塊が、天井付近から落ちて来る。

 近づくにつれ大きくなる光――"じんつうりき"をこのサイズ感で放てるのはやはり規格外だ。規模のわりに発射が早いのもあり、気が付くのが遅れてしまっている。

 現状躱しきるのも、相殺も不可能。であれば、

 

「耐えるぞ、クチート」

「チィ!」

 

 硬い大顎を抱きかかえ、伏せるようにして防御態勢。

 落ち行く"じんつうりき"が眩い光と共にゴウッ、と爆風を引き起こし。けれど砂煙の中にはそれでも立つクチートの姿。

 

《......おどろいた》

「チィ、トッ!」

 

 とは、いえ。ダメージを受けていることに変わりはない。

 ここまでのやり取りでエムリットに有効打を与えることはできず、戦況は防戦一方のまま。何かしら対策を打たなければここまま押し切られることは容易に想像がつく。

 であれば、様子見はいらない。出し惜しみをする必要だってありはしない。

 

 良くて相打ちか、そうでなくても一撃を入れられるか、といったところだろうか。

 ともすれば、マーズさんの仇はとってあげられないかもしれないけれど。

 

 それでも、

 

《?》

 

 カイルは首元のネックレス。

 その先端の宝石を握りしめると、その内側から七色の光が生まれる。

 

「クチート、全力だ」

「チート!」

 

 カイルの光に呼応するように、クチートの腕輪に付いた宝石からも同じ光が発された。

 互いの光は幾重にも広がる線となって繋がり、クチートの体を包み込み。

 

「メガ――《ちょっとまった》」

「っ!?」

 

 待ったの一言と共に、不可視の力――"サイコキネシス"で口を抑えられた。

 発しようとした言葉は音にはならず、指示を途中で止められたクチートも慌てた様子でカイルを見ていた。

 これはまずい、と。カイルはそう考える。

 

 ポケモンバトルは、基本的にはトレーナーの指示に沿って戦いが行われる。

 広い視点からトレーナーが指示を出し、ポケモンがそれに従って動く。そういった分担がこの世界でのスタンダードなのだけど、これには大きな弱点が存在する。

 

 今この状況が、まさにそれを表していた。

 

 カイルはエムリットの"サイコキネシス"を受け、指示が出せない状態。

 現在は口元を抑えられているだけだが、このまま喉まで絞められれば、楽に天国までの片道切符を握ることは想像に難くない。

 やはり足を引っ張るのはトレーナーの方、だなんて。

 そう考えすらし始めた頃合いで、口元を抑える力が消えた。

 

 頭に響くのは、鈴を転がすような声音。

 

《おちついた?》

「ごほっ、なんの......つもりだ」

《なにか かんちがいをされているように かんじたから》

「勘違い?」

 

 エムリットは困ったように眉間に皺を寄せ、

 

《あの おんなのこ。きっとなんにちも ねむれていなかったはずだ》

 

 恐らく、マーズさんのことだろう。

 普段見ているこっちまで胃がもたれそうなほど甘党な彼女が、今日は砂糖とミルクをふんだんに使ってでもコーヒーを要求してきたのを思い出す。

 最近の任務の重要性と難易度、またその責任者を任されているという事実。それだけの心労が重なっていれば、眠れないのもなんら不自然な話ではない。

 

 カイルが頷くと、エムリットも頷きを返して続ける。

 

《だから いちどねむってもらっただけ。それいがいにはなにもしていないよ》

「あの子の感情を奪ったりとかは、してないのか?」

《ひつようにかられれば そうすることだってあるかもしれないけれど。すくなくともあのこにそうするりゆうは ぼくにはないだろう》

 

 一見、筋が通っているようにも感じるけれど。それでも手放しに信じて腹を割って話そうというつもりはない。

 何せ目の前にいるのは、人間以上に大きな力を備えた、価値観の違う存在。

 カイルと同じ尺度でものを考えていると思い込むのはよろしくないのだ。

 

「マーズさんが起きるまでは、信用しないぞ」

《まあ それならそれでだいじょうぶだよ》

 

 そんなこんなで会話に区切りをつけ、一応マーズの様子を見に外まで向かい。

 若干あきれ顔になりつつあるブニャットの背中で、それはもう幸せそうな顔で寝ていたのでそのまま放置してきた。

 去り際に不機嫌そうな舌打ちが聞こえた気がするけれど、きっと気のせいに違いない。

 

「ッフィ、」

「ちょっと沁みるか、ごめんな」

「フィル」

 

 戻ってからは、クチートとエーフィの応急処置をすることにした。

 強敵相手に戦ってくれた二人を労ってあげたかったし、第一エムリットにどう話しかけたらよいのかもわからないし。

 

「チト―、」

「はいはい、お前もありがとうな」

 

 治療をしているカイルとエーフィの間に潜り込んできたクチートが、わたしもわたしもとばかりにまるっとした瞳で見上げてくる。

 頭を撫でると、その手を小さな両手で掴んで頭に押し付けられた。

 可愛らしくて大変よろしい。

 

 いつの間にか、最初に洞窟に入った時の緊張は感じていなかった。

 それはクチートたちも同じらしく、今のように普段通りのじゃれ合いなんかもしている始末。そんななんでもない光景を、エムリットもまた眺めていた。

 

 何を言うでもなく、ただ、じっと。

 ここではない、どこか遠いむかしを眺めているような、そんな目で。

 

 ふと、呟くような言葉が聞こえてきた。

 

《かまわない》

 

 カイルは眉を寄せる。

 

「......さっきも言ってたけど、どういう意味なんだそれ」

《ちからをかしてくれと、そうたのみにきたんじゃ?》

 

 何を当たり前のことを、とばかりに返された。

 ある程度の事情は把握しているらしい。

 

「条件は?」

《というと?》

「話がはやくて助かるんだけど。お前ほどのポケモンが、なんの理由もなくその力を貸してくれるとも思ってないっていうのが本音だ」

 

 大きすぎる力には、使うための責任が伴う。

 伝説とまで謳われるその力を、なんの条件も制約もなく行使してくれるとはとてもじゃないけれど思えなかった。

 仮に条件が存在して、後からその分の代償を請求されたりなんかしてもたまったもんじゃない。

 ただほど高いものはない、とはよくいったものである。

 

 エムリットは、驚いたように目を丸くしていた。

 次いで手を口元にあててくつくつと笑い、

 

《きみは、よこのポケモンにもそうしてもらってるの?》

 

 横の、クチートを指で示されて。

 エムリットは続ける。

 

《おおきなちからは ぼくいがいのどんないのちにだってそんざいする。それにいちいちけいやくをもちかけるなんて、かえってめんどうなはなしだ》

 

 クチートとお前を一緒にされても、とは思うけれど。

 確かに人間を超えた力を有すという点については、どちらも同じそれだ。その中でただたまたま、自分に特殊な能力があるだけ、なんて。それくらいの認識なのかもしれない。

 恐らくだけど、エムリットは自分とそれ以外のポケモンを区別していないのだ。

 

 ただ、こと契約という話に関しては、クチートと取り決めたものがある。

 カイルは足元の相棒とアイコンタクト。

 

「悪いけど、クチートとはれっきとした取り決めがあるんだ」

「チ!」

《?》

 

 怪訝そうな表情のエムリットに対し、カイルは虚勢と張り付けた笑顔と共に。

 

「毎日三食昼寝付き、これが俺の手持ちの契約だな」

 

 まあ、お金に余裕があるときに限ったものだけれど。

 

《(笑)》

 

 うけた。

 エムリットは咳払い、

 

《それと あなたたちのかんじょうを みせてもらった。ずっとむかしのものから、すこしだけさいきんのもの。いまげんざいのものに いたるまで》

 

 ――気に入ったんだ、と続ける。

 どこか嬉しそうな表情で、凛と心に響くその声で。

 

《いいかんけいだとおもった。それできにいった。ちからをかすのもわるくないと、そうおもった。それいがいに なにかりゆうはひつようかな》

 

 そう結んで、にこりと笑うエムリットの姿に。

 いつしか、カイルは恐怖も不気味さも感じてはいなかった。快く頷きを返すと共に、腰元から取り出したモンスターボールを差し出す。

 

「いいや、必要ない。エムリット、少しの間だけどよろしく頼む」

《こちらこそ》

 

 そうして伸ばされた小さな手が、開閉ボタンに触れて。

 飛び出した光がエムリットを包み込み、ボールの中へと納まる。

 

 それから少しだけ、かたりと揺れて。

 程なくして、捕獲完了を知らせる音が洞窟内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い空間の中、男は佇んでいた。

 

 浮かぶ気泡、何かが送り込まれ、吸い上げられるチューブ。

 培養液入りのカプセルには、伝説のポケモン――『ユクシー』の姿がある。

 

 ギンガ団の最終計画を実行に移すため、幹部と全戦力の三割を向かわせてエイチ湖から連れてきたそれだ。

 いかに伝説のポケモンとて、数の力には勝てないのは自明の理。

 残るシンジ湖とリッシ湖にも分散させた戦力をそれぞれ向かわせている。右側に並ぶ二つのカプセルには何もいないが、じきに集まるだろう。

 

 男には野望がある。他の何を捨ててでも叶えたいもの。

 ――否、叶えなければならないものがある。

 

 それが自分の、そしてこの世界のためになるからだ。

 そのために多少の犠牲が出ることだって、きっとあるはずだろう。当然のことながら、自分自身がそうなる覚悟だってしている。

 しかしながら、これから創られる新世界の前ではどれもちっぽけなそれだ。

 

 私利私欲に塗れた社会。

 薄汚れた固定概念。

 

 ――不必要な喜怒哀楽、"感情"。

 

 そのどれもこれもが、不要な塵芥。

 なればこそ、それらを切り捨てることになんの躊躇をすることがあるだろう。

 

 カプセル左右のモニターに映る、計画実行中の文字。

 男が片方を操作すると、数秒ほどのコール音の後に若い男の声が聞こえてきた。虐待を受けた子供を思わせる、どこか怯えたようなそれだ。

 

「アカギ様、計画の方なのですが、その、」

「いや、いい。サターン。相手が相手だ」

 

 アカギと呼ばれた男は、小さく頭を振る。

 モニター越しに会話をしているのは、幹部であるサターン。向かわせているのはリッシ湖であり、計画の目的はいしポケモンの『アグノム』。

 この地方に伝わる伝説にて、いしのかみと讃えられているポケモンだ。

 

「到着から今まで、戦闘を?」

「はい。アグノムも疲れてはいるはずなのですが、依然抵抗が激しいままでして......」

 

 サターンの言葉を受け、アカギは幾ばくか考える素振り。

 それから、尋ねる。

 

「サターン。頼んでいたモノは?」

「ええ。一応完成はしているのですが、」

「それを使えばいい」

 

 何一つ表情も、声音も変えず、アカギは淡々と続ける。

 "落とせ"、と。

 

 それだけを言い残してモニターを閉じ、もう片方のモニターに視線を向ける。

 幹部であるマーズに任せたのは、感情を司るポケモン。

 

「感情、か」

 

 呟き、聞き、咀嚼し。

 

「シンジ湖には、私が向かうとしよう」

 

 止まない雨の中、降りしきる雫よりも冷たい言葉を残し、飛び立つ男。

 ギンガ団リーダー、アカギもまた、シンジ湖へと向かっていた。

 

 




次は投稿目標は一週間です。
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