無駄飯喰らい   作:甘栗@

8 / 16

お久しぶりです。

なるべく早めに投稿したかったんですが、若干メンタルいかれてて筆が取れない状態でした。最近は少し安定してきたので、またのんびり書いていきます。
お気に入り、高評価ありがとうございます。かなり励みになってます。
コンビニのハリッサ風味タンスティックが好きです。
皆さん食べてみてください。


クラヤミネイバー

 

 

 

 

 

 夢を見ていた。 

 

 

 生まれた時から、小さかった時から、家族はいなかった。

 いつからか意識があった。どこか寂しいような心地がした。最初に感じていた包み込むような温もりは、気が付けばなくなっていた。

 小さくぎゅうぎゅうに詰められた世界から飛び出して、パリパリと殻を破る。

 

 そうして、暗い卵の中から顔を出して。 

 

「産まれたな。わざわざ無理を承知で竜たちの島に忍びこんだかいがあった」

 

 小さな暗い世界の外で広がっていたのは、また暗い世界だった。

 

「やはり美しいですね。これはいい見世物になりますよ」

 

 薄暗い部屋の中、濁った瞳がギョロギョロとぼくの体をねめつけていた。

 遠くから響くは悲鳴にも似た鳴き声と、誰かの怒声。そうして感じる嫌な視線も、声も、とてもとても恐ろしくて。

 だから、閉じこもることを選んだ。

 

「だが、ミニリュウのままというのではいまいち見栄えに欠けるな」

「というと?」

「ハクリューまで進化させるのがいい。"これ"を使えばレベルは上がるだろう」

 

 塞ぎ込む自分の前に置かれたのは、小さな包み紙。

 中には小さな丸いものが入っていて、なんだか綺麗だ、なんて思ったりする。

 

「なるほど、丁度いいですね。使いどころにも困っていたところですから」

 

 そんな話をしながら、ぼくの口にそれが詰め込まれた。

 舌に乗ったものは『ふしぎな』味がして、しゅわしゅわと弾けながら口の中で溶けていく。コロコロと口の中で転がしている間に、それはどんどんと小さくなって。

 

「......?」

 

 同時に、体の中で何かが大きく膨らんでいくような心地がした。

 それからは毎日、その丸いものがごはんの度に出された。これといって不味いわけでもないので、特に疑問もなく黙々と食べていた。

 不思議なもので、それは食べれば食べるだけ――強い、強い、力を感じるのだ。

 

 だから、今日も今日とてこの丸いものを。不思議な味の飴を食べる。

 

 しゅわしゅわ。

 しゅわしゅわ、しゅわしゅわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、寝ている間に身体が二回りほど大きくなっていた。

 

 どういう原理かはわからないし、別に知らなくともなんざ問題はない。

 ただその日からは毎日の食事が飴では無くなって、少ない上に薄味の、全然美味しくない汁物に替えられた。

 

「さっさと食え」

 

 上から頭を押さえつけられて、汁物を無理やり食べさせられる。

 それだけならばまだしも、時たま殴られたり蹴られたりと痛い思いをさせられることもあった。

 

「芸をやってみせろ」

 

 こういう感じでうまいことやってみせろと言われて、できなければ鞭でぶたれた。

 ご飯がもらえないことだって珍しくなかった。

 

 痛くて、お腹が減って、嫌なことをたくさんされて。

 それが当たり前になっていたものだから、毎日不満が頭に溜まっていた。したくもない我慢を強いられて、それをずっと抑えていられるほど、良い子なつもりもなかった。

 あの日、あの時、いつも通りのことをされて。何かが、ぷつりと途切れた。

 

「あがっ......!!?」

 

 その日、ぼくは初めて人をころ

 

《おもいでをめぐるのもいいけれど だいじなのはいまだ》

 

 スライドショーのようだった景色は、聞こえる声と共に白い背景へと変わった。

 流れる血と同じ。真紅に染まりそうだった意識も、同時にすうっと澄んだそれに変わっていくのを感じる。

 

《すこしだけ きおくをのぞかせてもらった》

 

 別に構わないけれど。覗いたとて楽しいものが見えるわけでもないのに、とは思う。

 聞こえる声にはどこか物寂しそうな感情が乗せられていた。

 

《うつわがそだつまえに なかみがおおきくなってしまったんだね》

 

 憐れまれているらしい。正直、あまりいい気はしない。

 

《そういわないでほしい いやなことも よかったことも ひとしくきみのきおくだ》

 

 ――君には今まで、一つも良かったことなんてなかったのかい? なんて。

 そんな言葉を皮切りに、先と同様記憶が流し込まれてきた。今度は苦い思い出とほの暗い景色ではなく、ほのかに温かい。

 例えるなら、のどかな陽だまりみたいな記憶が。

 

 小さいながらもとても力持ちな子がいる。

 不思議な力で、何かと面倒を見てくれる子がいる。

 身体を動かすのが好きで、まるで踊るような動きをする子がいる。

 姿を変えるのが得意で、とても、とても強い子がいる。

 

 さっきみたいに、真っ赤に染まっていた全部を真っ白にして落ち着かせてくれた。

 こんな自分にだって手を差し伸べてくれた、すごく優しい人がいる。

 

《"きみたち"はかれとよくにている》

 

 打って変わって、全てを包み込むような、優しい声音だった。

 

《いまはただ やすんでほしい ねむるのがいい すこしだけ つかれただろうから》

 

 言われてみれば、そんな気もする。戦ったのなんていつぶりかもわからないし。

 どこからか聞こえてくる声は、決して強いるわけではない。あくまでも判断するのは自分自身であることを念頭に置いた上で、提案をしてくれている。

 命令ではなくて、提案をだ。その事実と心地だけを噛みしめて、瞳を閉じて。

 

《おやすみ》

 

 静寂の中、そんな言葉と、モンスターボールが閉じる音だけが、小さく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 元来、カイルに戦う理由なんてものはなかった。

 

 強いて言うならば、依頼を受けたから。その達成をする必要があるから。

 そんなある種の責任感が主であり、そこにカイル個人の感情が介入する余地はなかった。特に傭兵のような仕事をしていく以上は、それが邪魔になることがほとんどだったものだから。

 思い起こす。思い起こす、

 

 感情を殺せない者は二流だというのが、『先生』の教えだった。

 職も行き場もなかったあの頃に、お腹が空いてばかりいたあの頃に、とかくそう言い聞かせてもらったものだ。

 

「飛んで放て、"ベノムショック"!」

「ロォッグ!!」

 

 そして、感情も、仲間も、敵も、何も殺さず何かを成すのが一流であり。

 

「来るぞ!"きあいだま"!」

「チャァァム!!」

 

 その逆に、『何も殺すことができない』のが、三流以下なのだと。

 似て非なるそれらの違いについては、今は置いておくとして。カイルはその教えにあえて唾を吐き、そして背を向ける。

 というのも、他でもない自分自身が、何を殺す覚悟もない三流以下である自覚があったから。

 

「おおおおおあああ!」

 

 そんな思考を吐き出す声で塗りつぶし、目の前の状況に意識を向ける。

 ドクロッグの左右の手から放たれた紫の光球にチャーレムの打ち返す"きあいだま"が炸裂し、今では大地と岩肌のみが広がるリッシ湖の上空で爆発が起きる。

 

「飛べチャーレム!」

 

 カイルの指示に合わせ飛び上がるチャーレムが、視界を覆う白煙にまぎれて接近し。

 

「"はっけい"!」 

「"どくづき"!」

 

 互い、撃ち抜く掌底と拳が空に乾いた音を響かせる。

 逆の手で鳩尾を狙うチャーレムの手をドクロッグは器用に身を翻して躱し、そうして反転させた体勢から回し蹴りを放った。

 想定外のそれも冷静に防ぎ、反撃に転じ、更にその反撃に対しての応戦を繰り返す。

 カイルも、目の前のサターンも、叫ぶように放つ指示は同時だった。

 

「「"インファイト"!!」」

「ロオオォォォ!」

「チャアアァァァ!」

 

 互い、落下しながらの熾烈な超接近戦闘。

 放つ拳も、防ぐその手も、返すカウンターも、振り抜く蹴りも、その全てが虚空を轟と切り裂く音を残し、その速度はただひたすらに上がっていって。

 着地の瞬間に再び拳を打ち合わせ、二体は再び距離を取り直す。

 

「アグノム。それにエムリットを連れて何をするつもりだ?」

「ユクシーだっているさ。あの三体が――いや、あの三体から抽出することで得られるエネルギーが、ギンガ団の野望を果たしてくれるわけだよ」

 

 眼前佇む幹部――サターンは、不機嫌そうにガジガジと爪を噛んでいた。

 いかにも不機嫌そうな表情である。彼はその猫目でもってカイルを睨みつけ、手を払うような仕草で。

 

「あいつらが欲しいならくれてやるさ。俺たちは抽出したエネルギーが欲しいだけなんだよ。なぁ、それさえ完了すれば後はお役御免だからさぁ!」

「......あー。悪いけど、俺はわがままなんだ。今じゃないと納得ができない」

 

 適当な会話を挟みつつ、引き出した情報も含めて思考を巡らせる。

 飛行船にて光が落ち着いてから、状況は色々と変わっている。ここらで一度整理したいところだったので丁度よかった。

 

 飛行船についてはよしなに対応してくれたらしく、爆発は遥か上空で起きるのみだった。

 とんでもない轟音が鼓膜を突き抜けてきたことに多少の文句はあるけれど、逆に言えばその程度で済んだのだから本当にエムリット様様である。

 リッシ湖にカイルたち含む乗員をテレポートさせ。地上に着いてからは暴れまわっているハクリューの額にぴたりとくっついたかと思えば、立ちどころに落ち着きを取り戻させた。

 

(正直助かった。ゆっくり休んでくれ、ハクリュー)

 

 穏やかな表情で眠ってしまったハクリューには、ボールで休んでもらうことにした。

 当然その分の戦力ダウンはあるけれど、それでも戦わせたくないのが本音で。今の状況はカイルとチャーレムだけで切り抜けてみせたかった。

 

「......」

 

 アグノムを助けると決めた。そのためにできることは可能な限りやるつもりだ。

 しかしながら、『やりたい』と『できる』との間には限りなく大きな溝が存在するわけで。

 ちらと見渡せば、周囲にはちらほらと集まりだすギンガ団員たちの姿がある。あれらを全て相手取った上でアグノムを奪還できるとすれば、それはきっとさぞかし凄腕のトレーナーだろう。

 

「よっし、チャーレム」

 

 そんな芸当は、カイルにはできない。

 けれど、カイルにはカイルなりのやり方があるのだ。

 

「思い切り蹴り上げろ!」

「ムチャッ!」

 

 チャーレムは渾身の力で地面を蹴りあげ、巻きあがる砂ぼこりが前方の視界を遮断する。

 

「下らん、振り払えドクロッグ!」

「グロッ! ......グロッ!?」

「"ねんりき"」

 

 振り払った砂ぼこりは、けれどチャーレムの"ねんりき"によって動きだす。

 それらはまるで意思を持ったかのように、流動的な動きでもってドクロッグの背後――サターンへと向かっていって。

 

「なッ、砂が!?」

 

 驚き怯む姿に、思わず口角が上がる。

 ポケモンでなく自分が攻撃されるとは、夢にも思っていなかったのだろう。当然だ。他でもないカイルだって、最近改めてその事実を痛感させられたばかりなのだから。

 ポケモンバトルにおいて、一番の弱点はトレーナーである、と。首元の嫌な感触と共にその経験を思い出しつつ、砂ぼこりと同時に駆け出し。

 

「そこだっ!」

 

 掌底、一閃。

 あらん限りの力をサターンが抱えていたカプセルに打ち付けると、その勢いで腕の中からカプセルがすっぽ抜けた。

 そのタイミングを見逃さないチャーレムが、華麗なジャンピングキャッチを決めて。

 

「チャッ、ム」

「よっ、ナイスキャッチ」

 

 そうして、着地と共にそのまま駆け抜ける。

 かえって上手く行きすぎていると、そう考える位に順調だった。カイルの想定していた通りに事を運んでいた。

 後はこのまま逃げ出すだけで片が付く、そんなはずだった。

 

「っ、?」

 

 けれどその気持ちに反し、ぴたりと足が――否、身体が止まる。

 今までに感じたこともないような悪寒に、背筋をつうと撫でられたからだ。

 先のエムリットなど比にならないような、巨大で、偉大で、圧倒的なナニカから、品定めを受けたような。

 そんな心持ちだった。

 

「くだらない」

 

 声。

 ボスであるアカギを彷彿とさせる、サターンの言葉。

 

「くだらないくだらないくだらない、」

 

 言葉は熱を持つ。

 冷え切ったそれに薪をくべ、油を注ぎ、そうして煮えたぎった怒りがこもる。呼応するかのように力強く踏み込んだドクロッグが、カイルたちの前に猛毒の拳を携え立ち塞がる。

 そうしている間にもサターンの頭には怒りの熱が溜まり、高まり、

 

「くっだらないって、言ってんだよ!!」

 

 噴火した。

 何度も力強く足を踏み鳴らし、ギリギリと歯を食いしばり。まるで子供の癇癪を思わせるような、いかにもといった激怒である。

 

「悪いけど、どれだけお前に駄々こねられても渡すつもりはないよ。こっちは二人から、――何だったら、一人は伝説のポケモンから依頼を受けてるんだ」

「こっちはギンガ団全員の野望が乗っかってる。アカギ様から直々の命令と、その分の期待が乗っかってんだよ!!」

 

 互い、揺らがぬ意思。

 その間にも息を荒げたサターンはドクロッグに対して攻撃の指示を、

 

「ドクロッグ、"どくづ"――」

 

 指示を、

 

「――......?」

 

 声にならない言葉だけが、カイルの喉を抜けるのを感じた。

 感じていた悪寒はより確かなものとなっていく。前方のサターンたちも何かを感じ取ったらしく、強張った表情のままその場で固まっていて。

 

(違う、あいつじゃない)

 

 その姿を見て合点がいき、僅かばかりの疑念を振り払う。

 違う。異なる。圧倒的にかけ離れている。それだけ言葉を尽くしてでも否定したい。先に感じた悪寒は、決してサターンから発されたものではない。

 正しくは、カイルたちの間の空間から。『何もないはずの場所』から、そのプレッシャーが発されているのだ。

 

「サターン様、今加勢します!」

「裏切り者を囲め!」

 

 動くに動けず、膠着状態に陥ったカイルたちを囲むようにギンガ団員たちが集まってきた。

 彼らはナニカに気が付いていないらしく、攻撃こそしないもののじりじりと距離を詰めて来る。

 

「ッ、来るな!」

「いっ、いいぞ。そのまま囲い込むんだ」

 

 振り払うようにして呼びかけるカイルの言葉は、気にかけては貰えない。

 その間にも次々とポケモンたちがボールから飛び出し、周囲の円陣に加わっていた。

 臨戦態勢に入ったゴルバットはギラリと輝く牙を覗かせ、口端から青白い炎を零すデルビルが前足で力強く地面を踏みしめる。

 

 これ見よがしに後ずさりで距離を取ろうとしているサターンの姿もあり、ようやっとカイルも根本的なことに気が付いた。

 全力で、可及的速やかに、ここから全力で逃げ出さなければならないのである。

 なればこそ、こんなところで止まっている暇なんてないわけで。凍り付いた背筋に気持ちと根性で熱を入れ、止まない足の震えを殴りつけて抑えこむ。

 

《そう はやく はやくここからはなれて》

(エムリット?)

《さいしょのばくはつがおおきすぎた ひこうせんのばくはつもおおきかった "あっち"にもむしできないひがいが でているみたい》

 

 感じるテレパシーからは不安が読み取れ、事態を重く捉えているらしいエムリットの感情が伝わってくる。

 しかしながら、話している内容が要領を得なかった。

 

("あっち"?)

 

 爆発はともかく、"あっち"と称するそれが何を意味するのかがわからなかった。

 問いかけるもそれに対しての返答はなく、ただただエムリットから五月雨式に念話が送り込まれてくる。

 

《ちょうのうりょくをつかいすぎた "テレポート"でにがしてあげられない》

 

 カイルたちの目の前に、黒い雫が生まれた。

 

《かれがくる はやくにげださないと とりこまれることになる》

 

 雫は音も無く地面に滴り落ち、焦げ茶色の地面に漆黒の染みを残す。

 染みは見る見るうちにリッシ湖の大地全てを覆うほどに広がり、カイルたちの足元は全て漆黒の影に埋め尽くされてしまう。

 

《かれがくる つよい つよい いかりをやどし このばをおさめに》

 

 影から再び雫が浮かび上がり、それは球体へと姿を変える。

 中でナニカがボコボコと膨れ上がり、禍々しい翼を、雄々しい頭を、巨大な身体を形成し、中でナニカが膨らんでいくのが分かる。

 やがて完全に身体が構築したらしく――球体が、内から見ているだけで飲み込まれそうになる闇をまき散らし、弾けた。

 中から覗く姿は、明らかにこの世のものとは思えないそれだった。

 

《かれが ギラティナが くる》

 

 白銀の肢体に、黄金色をあしらった頭部。

 闇を宿した――否、闇そのものという他ない、赤黒い翼。

 

《"あっち"にしょうじたひがいの せいさんを おこないに》

 

 そうして姿を現したナニカ――ギラティナはギロリと周囲を見渡すと、巨大な足で地面を二度ほど踏みつける。

 それと連動して地面から伸び出した影が、かぎ爪のような形状となって揺れ動き始めた。

 伸びる影は一つから二つ、二つから三つ。最終的には数えるのも馬鹿らしくなるほどその数を増やして。

 

「たっ、退却!! 退却ーー!!」

「うわあああああ!!」

 

 一閃。

 蜘蛛の子を散らすように逃げ出すサターンとギンガ団員たちを、規格外の"シャドークロ―"が薙ぎ払った。

 

「......ちょっと、まずいな」

 

 正直言って、戦闘を挟まず逃げ出せるような。そんな都合のいい展開は期待できない。

 とはいえそもそもの目的があるわけで。せめてアグノムとエムリットだけでも逃がしてやりたいとは思うのだ。

 

「チャーレム」

「ムッチャ!」

 

 呼び声に応えるチャーレムが振り抜く手刀、"かわらわり"でカプセルを両断する。

 中からはアグノムがずるりと力なく出て来るけれど、一人で逃げ出す余力は残っていないらしく、そのまま地面に倒れこんでしまった。

 正直休ませてあげたいとは思うけれど、目の前のギラティナがそれを許すはずもなく。

 

「クチ―!」

「チャァァム!」

 

 カイルたちの背後から襲い来る影たちを、ボールから飛び出したクチートが大顎による"かみくだく"で根本から断ち切り。

 打ち漏らした影はチャーレムが"ねんりき"で根本から捩じり切った。 

 

《みちをつくるよ》

 

 高く飛び上がるエムリットが夜空の星に勝るとも劣らない数と輝きの"スピードスター"を放ち、伸びた影と地面を撃ち抜いて爆発を起こす。

 攻撃の余波でカイルたちの前方の大地が抉れ、そこからは影が無くなっていた。

 

《はやく はやく》

 

 これで走れるだろう、と。案内するように前に浮かぶエムリットが手をこまねく。

 手元にアグノムを抱えたままクレーターを滑り降り、息をきらしつつ登り。

 

「くっそ、走りにくいなもう!」

 

 舗装されていないことに若干の文句はあるけれど、そのおかげで"シャドークロ―"の危害から免れているのだからこれ以上の贅沢は望めない。

 とかく、ギラティナからの敵意を向けられていないうちにここを離れなければ、と。

 その一心で走り続けていたのだけど――、

 

「ッ、」

 

 影とは違う。地面そのものが大きく盛り上がり、さながら壁のようにカイルたちを囲んだ。

 恐らく"シャドークロ―"はほぼオートで動いていたと見える。何せ、特に動いている人間を追尾している様子だったから。

 けれど、この"だいちのちから"は違う。カイルたちを囲い込むように放たれていた。意図的に狙っている攻撃だった。

 

 ギラティナの意識が、こちらへと向いていた。

 

《ふせぐ》

 

 同時に上から落ちてきた影の塊を、エムリットが"サイコキネシス"で受けとめる。

 その間にチャーレムが壁に対して"はっけい"を放つのだけど、ギラティナの力が関与しているためか用意には砕けずヒビが入るのみに留まる。

 

《は、やくッ》

 

 同じ場所にクチートが"アイアンヘッド"を放ち、ヒビが少しばかり広がった。次いで"かみくだく"で牙を突き立て、齧り取るようにして壁を削る。

 鼻血を垂らしつつも防ぎ続けるエムリットに対しギラティナは周囲の影を集め、上空の塊が更に一回り大きく膨れ上がっていく。

 

《...っ ......っ、 はや、く》

 

 ダメ押しでチャーレムが"はっけい"を放ち――衝撃が壁を撃ち抜いた。

 人間の頭程度の大きさの穴が空き、向こう側の景色が覗く。今度は迷うこともない、まずはアグノムを穴の向こう側に放り出した。

 後は、

 

「エムリット、ごめん。依頼は最後まで果たせない」

《っ、まっ――!?》

 

 チャーレムが宙のエムリットを抱きかかえ、先と同様に穴の向こう側へと放り出す。

 刹那、"サイコキネシス"が途切れたらしく影の塊が再びカイルたちに向かって下り始める。

 

「マーズさんにも、マークさんにも合わせる顔がないな。.....お前らも、最後まで付き合わせてごめん」

「チト」

「チャム」

 

 そんな短い会話だけを最後に挟み、寄り添ってくれる相棒たちの温もりを感じ。

 

 

 カイルは めのまえが まっくらになった。

 

 

 

 

 




大体2週間から1か月くらいで投稿するつもりです。
よろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。