投稿頻度安定しないから書き溜めするかぁ、と思い立ったが凶日。遅筆と多忙に加えて書き溜めまでしたことで1年遅れてしまいました。
ある程度書き溜めたのとストーリー自体もある程度大詰めに寄ってきているので、ちまちま出していきます。
失踪の予定は変わらずないので、たまに見てやるかくらいでお付き合いくださいませ。
炙りイカ風のスティックが好きです。
随分と荒々しい起こされ方をした。
例えるならば、地面がそのまま海原が如く波打ったかのような。
そう錯覚するほどの巨大な地震である。右へ、左へ、これまた右へ。そうして体を揺さぶられ、無理やりに意識を引き上げられる。
普通ならば文句の一つも出てくるところだろうが、浮かんでくるのは寧ろ感謝の念だった。眠りこけていた結果間に合わなくなったのでは笑いごとにならない。
起き上がり、寝ぼけ目を擦る。
そのまま窓際に向かえば、明かりもなく薄暗いままの世界が視界に広がった。雑居ビルの4階に構えたこの拠点は、これといって高いわけではないけれど見渡しがいい。
あちらこちらでは宙に浮かぶ大地――浮島が地震の影響で何故かグラグラ揺れており、彼方ではどす黒い煙らしき何かがもうもうと立ち込めていた。
何ともまあ、見ていて気分の悪い眺めである。
"この世界"では、時折巨大な地震や瘴気が発生する。
ただしそれらはプレートのズレによって引き起こされたり、環境廃棄物が生み出したりなど、世の中にて広く知られた通説通りには起きていないそうな。
では何故そうなっているのか。どういった原理で成り立っているのかと。そんな事情は知る由もないけれど、ともかくそういった形でこの世界は回っているのである。
そして、地震、瘴気。これらが表す意味は、
「機会だ」
単に危険な災害というわけではなく、ここではまた違った意味に捉えられる。
軽く伸びと準備運動を行い、感触を確かめるようにモンスターボールを数度握る。それから五階への階段を上がり、屋上のドアを開いて。
「おっと」
ビュウと吹き抜ける風で官帽が飛ばされそうになったのを、間一髪。手を添えて抑えた。
外に出てまず感じるのは、相も変わらず淀んだ空気感だった。ここにきてすぐの頃は大分苦しめられたけれど、今ではこの通り慣れてきてしまっているのだから不思議だ。
住めば都とはよく言ったものだと思う。
して、
「今日も今日とて、ですね」
呟きつつ"習慣"をこなす。
官帽のつばを掴み、ひっくり返す。そうして見つめる裏側にはインクで濃く記された「ノボリ」の文字があった。
読んでから数秒。心の中で二度ほど反復し、意味を噛みしめる。
ノボリ。他でもない自分の名前だ。
――あなたの名前も、ついでに自分たちのことも、忘れないでくださいね?
「ええ、忘れてませんよ。テルさん、ショウさん」
ニコリと笑みを浮かべながら、書き主たちへの思いを馳せて。
握るボールを大きく、大きく空へと放る。
「では、参りますか。ギラティナよ」
次いで、ここより数個離れた浮島にて渦巻く瘴気をギロリと睨みつけて。
トン、と。地面を蹴る音だけを空に残し、うつ伏せの姿勢のままビルから飛び降りた。風切り音がゴウと耳を打つ。地面も見る見るうちに近づく。
しかしながら不思議と焦りや恐怖はなく、代わりに感じるのは確かな安心感。
その最中上空では開閉音が響き、飛び出すは虚空に藤色の残像を残して目にもとまらぬ速度で滑空する姿。
長い尻尾に加え、両腕の巨大なハサミとその後ろから広がる漆黒の翼。
キバサソリポケモンのグライオンは状況を理解するよりも早く空を駆け、ノボリの肩をガッシリとホールド。下へと向かっていた勢いを翼で巧みに操り、ジェットコースターさながらの軌道でもって再び上へと舞い上がった。
助走は十分。グライオンと浮島から次の浮島へと渡りつつ、進行方向へと向く風や竜巻があるかを感覚で探り、乗ったり乗らなかったりして瘴気の発生源へと急ぐ。
そうこうしている内に大分異変の発生源へと近づいてきて。
小刻みに起きる地響きや、あちらこちらで新たな瘴気が生み出されていたりなんて様子も確認できるようになってきた。
そして、この世界の主の姿も。
―――――――ッッッッッ!!!!!!!
思わず耳を塞いだが、それでも関係なくつんざくような巨大な叫び声。
暗闇に染まる世界の中で唯一、神々しい白銀と黄金をあしらった肉体といくつも広がる漆黒の翼を併せ持つその姿。
ギラティナ、である。彼は怒りの感情が先だって感じられる怒号を辺りに響かせながら、発生する瘴気を自らから生じる闇で覆い包んでは消していく。
そうしてお熱となっている瘴気について、発生するルートは大きく二つ。
空中に自然発生するものと、虚空に開いた穴から入り込んでくるもの、である。
そして今回ノボリが用があるのは後者――それも瘴気ではなく、開いている"穴そのもの"。グライオンとアイコンタクトし、ギラティナの背後から開いた穴へと向かう。
とても大事な目的があった。会いたい人がいた。そのために今日まで何度も試行錯誤を重ね、『時間軸』がずれない様細心の注意を払った上でタイミングを見計らっていた。
そうこうしている内に、ギラティナは穴の向こう側へヌルリと飛び込んでいった。
思っていた以上の好機に、思わず脂汗が浮かぶのを感じる。普段であれば、ギラティナは空いた穴へと近づく者への迎撃を最優先で行ってくる。
原因は不明なのだけど、恐らくはこちら側とあちら側とでの往来を禁じる意図があるらしい。
しかしながら、今回は全くもってその逆。迎撃は完全に二の次であり、現在の彼は発生した被害を抑え込むことに躍起になっている様だった。
好機。好機。好機、こうき、こうき、コウキ、
「グライオンッ、そのまま真っ直ぐ――ッ!?、」
急いる気持ちはそのままに穴へ向けて滑空し、もう少しであちら側に抜けられるかといったところで――目の前に、いくつかの人影が覗いた。
正しくは人間が一人にポケモンが二匹。咄嗟の判断で一人は受けとめたが、ポケモンたちは取りこぼしてしまう。
「モンジャラ、その二匹を!」
投げるボールからはツルじょうポケモンのモンジャラが飛び出し、全身を包む太いツタの中から二本がグングンと伸びて落ちゆく二匹のポケモンをがっしりと掴んで見せ。
伸びた三本目のツタは、伸ばしたグライオンの尻尾に巻いて固定された。
「グゥゥゥラアアアアアア!!」
グライオンが気合で飛んでくれている中、ノボリは必死に頭を巡らせる。
そもそも飛行方法自体、あくまで滑空なのだ。つまるところその性質上、複数人を連れて運ぶこと自体が向いていない。どころか今の状況では明らかにキャパオーバーだった。
大急ぎで下方にある浮島を指さして指示を出す。
「申し訳ない、あそこまで頑張れますか!」
「グ...グライオ!」
「モンジャー!!」
モンジャラが背後に"アシッドボム"と"エナジーボール"を放ち、ぶつかり合うことで生じる爆風がグライオンの追い風となった。
乗るための風が、しかも強烈なものが吹いているのならば、後はどうにでもなるわけで。
命からがら近場の浮島へと逃げおおせ、グライオンを労いつつ先ほどの少年とポケモンたちの安否を確認する。
「男の子、クチート、チャーレム。皆息はあるみたいですね」
随分と熾烈な戦闘を潜り抜けてやってきたのか、少年の来ている黒の上下はあちらこちらが滲む血と泥でくすんでしまっていた。
それはポケモンの方も同様で、体中のあちこちに痣や生傷が残っている上に意識もない。ある程度はわかってはいたことだけれど、『この後の展開』には協力は得られ無そうである。
「さて。大分な重労働を強いた直後で申し訳ないんですが、もう一つ重労働をこなさないといけないわけで」
気が付けば辺りは瘴気でいっぱいになっており、開いていた穴が大きく歪んだかと思えば、再びギラティナがこの世界へと戻ってきていた。
白銀の体に深々とした漆黒の影を纏い、瞳には怒りを宿したいかにもな臨戦態勢である。
向こうでの対応が一通り片付いたようで、優先順位は入れ替わっているようだった。この世界とあちら側の世界との往来を禁じる、番人としての働きを果たそうとしていた。
「グライオン、モンジャラ。凌いでください」
「ライオッ!」
「ジャモ―」
暗い世界、暗い空、暗い空気、その最中。
ノボリの言葉に、二匹は心強い返事でもって返し、その刹那。
辺りを包み込んでいた瘴気を振り払うように生じる爆炎が、浮島を包み込んだ。
▽
――そんな具合でしたかね、と。
まるで、挨拶がてら交わす会話のような。夕食のレシピでも話すかのような。
ともかく目の前の男は、そんな日常の何でもない一幕を話すかのような様子で語ってみせた。聞き手としては話の内容と当人の温度差で風邪を引きそうな心地だけれど、それはさておき。
「マジですか」
「ええ、マジです......この言葉も、久々に使いましたね」
一応の質問には即答。眼前に座る男の口元には確かに笑みが浮かんでいる。
てっきりポーカーフェイスなのかと思っていたが、存外そういうわけでもなかったらしい。
「まあ、それ以上でも以下でもありませんよ。たまたまあなたが落ちて来る場面に居合わせて、後はひたすらギラティナから逃げ回っていただけです」
それができなかったから自分はここにいるんだよなぁ、と複雑な心境ではあるけれど。ひとまずそのちっぽけなプライドはポケットにしまい込んでおくことにする。
「その節はどうも。えっと、なんと呼んだらいいか」
男は数秒、きょとんとした顔をして。
程なくして合点がいったように頷くと、官帽のつばを掴んで僅かに頭を下げた。
「自己紹介がまだでしたね。ノボリと、そう呼んでください」
「カイルです。よろしくノボリさん」
ぎこちない笑みを浮かべる男――ノボリは、黒を基調とした駅員風の恰好していた。
というより、駅員そのものにも見える。格好もそうだけれど、硬い表情や言葉遣いに、崩れない姿勢。なにより彼の立ち振る舞いがそう感じさせるのかもしれない。
「応急処置は済ませましたが、今は安静にしてください。疲労は動きも判断も鈍らせますから」
「そりゃ何から何まで。お気持ちはありがたいんですが、大したものは返せませんよ」
「不要です。急病人やトラブル対応は慣れたものですから」
苦笑。
やはりというか、彼は本当に駅員さんなのではなかろうか。
「でっかいお客様の対応までしてもらったみたいで」
「ええ。随分と大きくて、加えてしつこかったもので。そちらは大分骨が折れましたよ」
「でしょう」
話を全て真に受けるつもりはないが、あの規格外の能力を誇る影の化身――ギラティナの追跡を振り切ったというのであれば、その実力は折り紙付きだろう。少なくとも幹部程度はゆうに上回るはずだ。
ただ、そうなると一つ大きな疑問が浮かぶわけで。
それだけの能力を持ち合わせた人間。
その名前も噂も、カイルはギンガ団内部で耳にしたことが無かった。最終作戦に向け、組織をあげて有望な人材の情報を集めていたにも関わらずである。
その情報網にかからない人間がいるとすれば、シンオウにやってきて日が浅い流れ者か、訳ありの逃亡者か。
前者ならばともかく、後者なら関わることでまたしてもその渦中にカイルが巻き込まれる可能性がある。
正直、これ以上の厄介事はゴメンだった。
「急で悪いんですけど。ノボリさん、何か訳ありだったりしますか」
「......というと」
「こういっちゃあれなんですが、自分は訳ありの人間です。話すと長いし、あなたもこの件に関わることとなる。だから、必要以上に話すとお互いのためにならない」
あなたもそうならなおさら、と。
そう付け加えると、ノボリはふむと口元に手を当てる仕草を見せる。
「お互いに不要な詮索はよそうというわけですね」
「そういうことです。寄り道してる余裕は、正直無くて。一刻も早く戻らないといけない」
ぴくり、と。ノボリの眉が僅かに寄った。
「考えは理解しました。ただ、戻るのは難しいでしょう」
冷たく言い放たれた刹那、身体が跳ねた。
飛び上がるようにして距離を取り、ノボリのいるドア側とは反対、窓際へと移動。
耳を澄ませ、部屋の状況を全て視界に入れて確認。最大限の警戒をした上で腰元のモンスターボールへと手を掛け、戦闘態勢へと移る。
冷静。自分自身にそう言い聞かせつつ、カイルは次の言葉を待って。
「どうやら、本当に訳ありみたいですね」
ノボリはといえば、どこか物悲しそうに微笑を浮かべていた。
そんな会話の後、ノボリに連れてこられたのは雑居ビルの屋上である。
「......なんだ、これ」
途中不気味なくらいに人の気配がしなかったこと。
また窓から覗く他の建物と比べこのビルだけは手入れが行き届いているらしいことが若干の気がかりだったのだけど、それを一時思考の端へと追いやられるほどの光景がそこには広がっていた。
一言で表すならば、奇妙、と。きっとそう表すのが丁度よいのだろう。
周囲のビルよりも上層にあるため見晴らしが非常によく、上も下もよく見渡すことができた。
遠めに見える地面は切り立った崖のようになっており、その先には虚空ばかりが広がっていて。覗く空には太陽が無く、また雲も一片たりとも存在しない。
仄かに明るいような、薄暗いような。どちらともつかない空模様である。
当然これだけでも、中々に変なのだけど。
極めつけは、そんな空のあちらこちらに浮かんでいる地面たちである。――地面というか、島というか、大陸というか。
とかく大小さまざまなサイズ感の大地が思い思いの向きで宙に浮いているのだ。
場所によっては、水が下から上に向けて流れていたりなんかもしており、およそ物理の法則が捻じ曲がっているとしか考えられない景色である。
「重力がないわけじゃない。けど、明らかにおかしい」
「その通りです。およそ、理論では説明がつかない光景ですね」
恐らくだが、周囲の大地だけでなくここにも同じようにおかしな重力があるのだろう。
何かしら行動に影響が出るのならば確認の必要があるのだけど、カイル自身頭脳に自信はない。思考や仮説を束ねたとて結論にはどうせたどり着けないわけで。
習うより慣れよ、である。ええいままよ。
「ほっ、おおぉ?」
想定を裏付けるように、ジャンプをすればふわりと。
あっ思ったより上に飛んでく。
「カイルくん!」
「エフィ―!?」
「ぐぇぇ、」
咄嗟にボールから飛び出たエーフィに"ねんりき"で首根っこを掴まれ、地面まで降ろされた。
「痛た......ごめんエーフィ、正直助かった」
「.....!」
横目で鋭く睨まれてしまった。すみません。
「ひとまずよかったですが、気を付けてください。重力が一方通行の場所もありますので」
苦笑。本当にすみません。
「なるほど、移動一つとっても気をつかわないとってわけか」
「そういうことになります。日や時間によっても変わるので、一度通ったことのある場所でも気は抜かないようにしておいてください。といっても、あなたにはその子がいるので大丈夫かもしれませんが」
「エフィ」
当然とばかりに足元から一息分の声が聞こえて。頭を撫でてやるとぐりぐりと手に擦りつけられた。
あれから多少休んだからか、エーフィの体調は超能力を使用できる水準まで回復しているらしい。相変わらず頼もしいやつである。
して。自分自身で実験をしただけあってそれなりに収穫はあった。
何というか、浮かぶ各島にそれぞれ異なる磁場や重力が存在するようなイメージが近いかもしれない。
重力の弱い島から足が離れることで力の釣り合いが取れなくなり、それよりも強い重力の島へと緩やかに引き寄せられていくわけだ。
今のような高いビルの上。島の中心から離れた場所であれば、尚更だろう。
しかしおかしい。
『こんな場所』カイルの知識には――というか世の中に存在するわけが。
「ある程度、把握されてきたかもしれませんが。敢えて言いましょう」
思考がある着地点へと結ばれそうになっているところで、裏付けるようにノボリが語った。
「ここは現実世界ではありません」
息を呑むカイルを意にも介さず、淡々と続ける。
「しかしあの世でもない。ここは現世でも常世でもない、裏側に存在する場所」
ただ、感情のない声だけが、空に溶ける。
「"やぶれたせかい"と。そう私は呼んでいます」
人生、そう大きな転機は訪れないものである。
なにせ、通常は平々凡々とした出来事が積み重なっているのが日常であり。
それに飽いたものが何かしらの行動を起こすなり機会を探して動き回ったりなどすることで得られるのがいわゆる転機というものだからだ。当たり前の日常を当たり前にこなすだけの人間の延長線上には、そのまた当たり前の明日へと繋がるレールが敷かれている。
例えば登校中、食パンを咥えた学生とぶつかることなんてないし。
突如として空から女の子が落ちてきたりなどしない。
「はっ、」
――目覚めれば異世界なんてことだって、ありはしないと。
そう考えていたカイルの常識という名の辞書には、どうやら訂正の必要がありそうだった。
手直ししたりで1~2週間前後でポコポコ出していきます。
よろしくお願いします。