ところで、三沢君、剣山と明日香さんのデッキが見当たらないのですが…GXのヒロインって誰でしたっけ?いやまぁ、『GXのヒロインはユベルだろ?』と言われたらぐうの音も出ないのですが…。
サイバー流道場にて、才災とマスター鮫島は向かい合っていた。
「教員、ですか?!」
「才災君は、教員免許を持っていましたね?」
「え、ええ…。しかし、何故。」
「会須阿阪(かいすあさか)市、を知っていますか?」
「それは勿論。名門校、帝楊(ていよう)学園と株式会社シュレイダー・トイズ・ジャパンの本社を擁する地方都市。海が近く、交通の要衝という事で寿司が旨いとか…」
「帝楊学園の校長からデュエルモンスターズに関するカリキュラムを取り入れるため、オファーが来ました。非常勤講師ではありますが、受けてもらえないでしょうか。」
「しかし、私に務まるとはとても…。」
「私も、海馬コーポレーションからデュエルアカデミアの校長にならないか、というオファーが来ています。」
「?!そ、それでは一体だれがサイバー流をまとめるのですか!」
「私と貴方が離れても、もう大丈夫だと思いますけれどね」
「…え?」
マスター鮫島は微笑みながら告げる。
「才災君がサイバー流に入って組織改革を進めた結果、サイバー流は大きく発展しました。8つの地区には門下生をまとめるサイバー・ランカーズがいます。次世代教育については十分かと」
「は、はぁ…。」
「まぁ、異性との出会いを求めてサイバー流に入っている者が居る事に思うところはありますが、ね。」
「サイバー流に何かあれば、どうします?」
「その時は、私が動きます。ああ、そうそう。インダストリアルイリュージョン社が新たなサイバー流のカードを作ってくれました。持って行ってください。」
「私に、ですか?恐れながら、マスター鮫島が持つべきかと」
「ほっほっほ。当然私自身の分は、確保済みですよ」」
そういえば、この人はこういう人だった。プロを招いたときはちゃっかりサインをもらっていたことを思い出す才災。
確か、バトルシティ決勝トーナメント進出者のサインは全員分確保していたはず。
カードを提示され、才災は考える。
まだ渋っている才災に、鮫島は告げる。
「ちなみに。超名門校なので非常勤講師でも年収は高いとか」
「引き受けましょう。」
金はすべてでは無い。だが、金はあって困るものでは無いのだ。
就職先が決まった物の、息子は地元に残りたいということで才災は単身赴任することにした。
名門、帝楊学園。
「ようこそ、才災勝作さん。」
「日高(ひだか)校長先生、ですか?」
「ええ。マスター鮫島からお噂はかねがね。政治的、経済的な手回しでサイバー流をあそこまで大きくするとは…」
「門下生が優れていたからですよ。」
「なるほどなるほど…。では、こちらへ」
校内を案内される才災。
「いやはや、見事なものですな」
「清掃業者を入れておりますから。さて、他の教員と顔合わせを…。いえ、どうやら着任早々、お願いすることになりそうです。」
「はて?」
窓から駐車場を見た校長が、ため息をつく。
知り合いの車だろうか?
先に入った校長が、呆れたように肩を落とす。
「古杉(ふるすぎ)議員…。本日、お会いする約束はしていないはずですが」
「おやおや。さすがは天下の帝楊学園だ。参議院議員のワシが来ているというのに、アポイントメント無しでは会ってもくださらないとは。」
図体のでかい男と、それよりも図体のでかい青年。
「…ご用件は後日伺いますので。お引き取りを」
「デュエリストを育成する非常勤講師を、探しているのだろう。せがれだ。」
「ご子息、ですか…。」
粗暴そうな男が、無礼な態度で前に出てくる。
「そういう事だ。今日から世話になるぞ!」
「…残念ですが、既にその枠は埋まっています。お引き取りを」
「何だと!」
才災が中に入ってくると、古杉親子は驚く。
「誰かと思えば、才災とかいうプロリーグで鳴かず飛ばずで終わった奴か!そんな奴より俺を雇うべきだ!」
「誰を雇うかは、私が決める事です。お引き取りを」
だが、古杉親子は引く気配を見せない。
「…才災さん、さっそくですがお願いできますか?」
「わかりました。」
この手の輩はどこにでも沸くのだな、という感想を抱きながら才災は前に出る。
そんな才災を、見下す古杉。
「俺とデュエルだと?サイバー流が」
「そうです。負けるのが怖いなら逃げてもいいですよ。」
「融合召喚しなければ戦えないサイバー流ごときに誰が逃げるか!いくぜ!」
「「デュエルッ!!」」
才災 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
古杉 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
「俺の先攻、ドロー!カードを2枚伏せてターンエンド!」
才災 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
古杉 ライフ4000
手4 フィールド
魔法・罠 伏せ2
「私のターン、ドロー!サイバー・ドラゴン・フィーアを召喚!魔法カード、融合!手札のサイバー・ドラゴンと場のサイバー・ドラゴンとなったフィーアを融合!サイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚!バトル、サイバー・ツイン・ドラゴンでダイレクトアタック!」
「永続罠発動!闇の呪縛!サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃を封じ、その攻撃力を700ポイントダウンする!」
「速攻魔法、サイクロンを発動!対象は闇の呪縛です!」
「カウンター罠、魔宮の賄賂!サイクロンは無効だ!」
「ですが、一枚ドローします。メインフェイズ2に入り、カードを1枚伏せてターンエンドです。」
才災 ライフ4000
手2 フィールド サイバー・ツイン・ドラゴン
魔法・罠 伏せ1
古杉 ライフ4000
手4 フィールド
魔法・罠 闇の呪縛
「俺のターン、ドロー!魔法カード、増援を発動!デッキから重装武者-ベン・ケイを手札に加えて、召喚!」
「?!その、デッキは…」
「さらに装備魔法、魔導師の力、デーモンの斧、ガーディアンの力、団結の力を発動!これにより、魔導師の力で2500ポイント、デーモンの斧で1000ポイント、団結の力で800ポイントアップして4800!さらに、ガーディアンの力が攻撃するとき魔力カウンターが乗り、そのカウンター一つにつき攻撃力がさらに500ポイントアップ!」
周りの教員がその攻撃力に感心したように声を漏らす。
「ほぅ、これは…」
「特撮の戦闘を見ていて思う事だが、最初からこんな風に必殺技を出せば良いのだ。バトル!」
「…メインフェイズ終了時に罠発動!サイバネティック・オーバーフロー!墓地のサイバー・ドラゴンとフィーアを除外して、ベン・ケイと闇の呪縛を破壊!」
デーモンの斧を装備し、オーラを纏っていたベン・ケイと闇の呪縛が打ち砕かれる!
同時に動きが可能になったサイバー・ツイン・ドラゴンは、咆哮を上げる!
「何ぃ?!くそっ、ターン、エンドだ…」
才災 ライフ4000
手2 フィールド サイバー・ツイン・ドラゴン
魔法・罠
古杉 ライフ4000
手0 フィールド
魔法・罠
「私のターン、ドロー。終わらせる前に言っておきます。必殺技は決して外さない一撃を放つ瞬間を見極めてこそ、必殺技。だからこそ、必殺技というのです…バトル!サイバー・ツイン・ドラゴンで、二回ダイレクトアタック!」
「うぎゃあああああ!」ライフ4000から1200、1200から0
「くそっ!大金を払ってオークションで競り落とした癖に、全然役に立たないではないか、ガーディアンの力は!」
「私の勝ちですね、お引き取りを」
「ぐっ…ひきあげるぞ!」
這う這うの体で逃げていく親子。ややあって、車を急発進させる音が響く。
「お見事です、才災さん。マスター鮫島が推薦状をしたためるだけの事はありますね」
「えっ?!」
そんな話は聞いていない才災は驚く。
「おや、ご存じ無かったのですか?」
「初耳です。」
「そうですか…。皆さん。デュエルモンスターズが社会の主流になる事はもはや避けられない流れ。であれば、我が校はそれを教える授業も取り入れるべきです。才災勝作さんに任せたいと思うのですが、異論がある方は?」
一人の教員が声を上げる。
「校長先生、彼はどこの生まれですか?名家ですか?」
「…そうではありませんが。」
「そんな者を、我が校に迎え入れるというのですか!」
「重要なのは、デュエルモンスターズを教えられるだけの技量がある事です。家柄があるに越したことはありませんが、その要件を満たす人物となると数が限られます。」
「探せばいるはずです!ご再考を!」
「では、探してきてください。その方の方が才災さんより優れていれば再考します。」
「…失礼します。」
その教員は去っていく。
「やれやれ。血筋は大事ですけれどね…。」
話を打ち切り、校長先生は財布から紙を取り出す。
「お疲れ様でした。夕食はこちらをどうぞ」
「寿司処(すしどころ)の食事券?!二人前?!」
「寿司が有名ですから、是非とも本物の寿司を味わってください。お酒は自腹でお願いしますが…。」
「いえ、今日は寿司を堪能することにします。」
早速、有名な寿司をたらふく食べれると期待しながら、才災は向かう。
「…日高校長」
「どうしました、斎王君。」
黒髪黒目で中年の男が、校長に話しかける。
「デュエリストとしての力量は高いのでしょう。ですが、プロとして大成しなかった男です。あの海馬瀬人は一流の人材を集めて、デュエルアカデミアを作り上げています。我が校も」
「斎王(さいおう)君。我が帝楊学園の理念は何ですか?」
「それは、名家の優れたご子息、ご令嬢に帝王学をはじめとした英才教育を施し、一流の人材に育て上げる事…」
「プロデュエリスト育成校では無いのです。大事なのは、デュエルモンスターズの基礎的な知識を知らない事で不利益を被らないようにする事。良き選手が良きコーチになれるとは限らないでしょう?」
「確かに…。」
「まぁ、彼が相手の戦術や戦略を批判・否定するような人物ならお断りでしたが、ね」
その夜。才災が寿司を堪能している頃。
会須阿阪市の、小堀遠州風の和風庭園を構える邸宅にて。
「やってくれたな、古杉」
「も、申し訳ございません…」
日高校長を始めとした教員に対して打って変わった態度で、古杉参議院議員は平身低頭して眼前の老人に許しを乞う。
「帝楊学園の臨時教員の席、お前の息子には荷が重かったか。マスター鮫島ならまだしも、才災などという小者一匹抑えられないとはのぅ…」
「つ、次こそは必ず!」
「チャンスも無限にあるわけでは無いのだ…。帝楊学園を制し、教員の席を独占してしまえば我が党の議員や支援者のご子息、令嬢に箔をつけられる…、その意味が分からんお前では無かろう?」
「ははっ。入学させるための謝礼金を一人当たりたった2000万円払わせるだけで、我が党の財政は大いにうるおいます…。」
「そうだ。この世は金が全て。」
老人は、そう呟いて金箔が浮かぶ日本酒を飲み干す。
「椅子取りゲームである以上、まずは席に腰を下ろしている邪魔ものを突き飛ばさねばならん。」
「と、いいますと?サイバー流にダメージを与えて教員でいられなくさせるおつもりで?それとも、奴の妻と息子を」
「そうしても良かったのだが、最近はもっと効率よく『行方不明』に出来る手段が出来てな…。フフフ。」
古杉議員が去った後、老人は男を呼び寄せる。
「西湖(さいこ)、行けるか?」
「サイバー流に転向した、才災を始末出来るなんて運が向いてきた。」
サイコ流のプロデュエリスト、西湖はかつてサイバー流に転向した才災に敗れ、調子を崩してスポンサーとの契約も解除。
サイコ流でも継承者の座を年下の門下生に奪われ、今までの悪行三昧もバレて実家にも居場所が無くなってしまった。
「見事、始末した暁には望む物を与えよう。今のうちから考えておくといい。再びプロリーグに戻るもよし、金を手に余生を過ごすも良し。」
「もうプロリーグに戻るのもごめん被る。金を手にしたら外国へ逃げさせてもらう」
「フッフッフ、そうか。」
老人は、目の前の西湖 良平(さいこ りょうへい)を見つめる。
サイコ流師範が引退した際に、脅迫と賄賂を駆使してその座に収まった小者。
サイコ流の継承者としてプロ入りしたが、相手が罠カードを大量に採用している相性の良いプロにはかろうじて勝てる程度の腕でしかない。
元々、サイコ流継承者の育成にも消極的で、自分よりも若くて才能がある者に嫉妬し、その者がプロ入りしようと願書を出したときは期日までに提出せず、プロ入りを遅らせるなどの問題行動を起こしていた。それが才災とのデュエルで底が露呈した。
他にも叩けば埃が出る男だが、こういう汚れ仕事をさせるにはうってつけだ。
こやつの兄はまともな性格をしており、傷ついた西湖家の名誉を復興させるべく勤しんでいるが…。
必殺技をいきなり放つ事、に対して批判的な話になりましたが…ダイの大冒険のようにいきなり必殺技を出す事で自身と相手の力量さを図る、という考えも一理あると思っています。