翌朝、部屋で目を覚ます。いつもの家で安心するけど、働き始めたのだから自分の家が欲しい。マンションの一室でも親名義で借りようかな。
さっとクローゼットを開け服を探す。昨日着ていったスーツは堅苦しいからやめておこう。かといってほかに着る服もない。雰囲気に合わせて軍服でも着ておこうか。いや、やめよう。お手製の軍服だと職場をバカにしているとか言われて刺されるかもしれない。まぁ、襲われても負けないけど。
せっかくだし、普段着で行こう。服は指定されていないんだし普段着では怒られないだろう。私は親に縫ってもらったメイド服に袖を通す。前世の名残か、来ていると落ち着く。
着替えて私は家を出る。まだ空は暗い。初日だし、人より早めに出勤しよう。
門を通り敷地に入る。昨日のプレハブ小屋はもう撤去されていて、敷地がしっかりと見まわせる。思ったよりも広いし海までつながっているみたいだね。
建物も複数並んでいる。大きな建物を中心に各方向に施設がある感じかな。
適当に歩き回る。一つの建物はまるで学生寮のように質素で単調な作り。窓から中を覗き込んだけど、部屋がたくさん並んでいて各部屋が個人の生活に使う部屋みたい。ほぼすべての部屋で人が寝ている。適当に石を拾って壁に投げつける。大した音はせず、中の人も起きなかった。
近くの建物はまるで工場のような作りの建物。ここ全体を鎮守府というのなら、工廠かな。反対側には銭湯のような建物がある。ここで働く人用の入浴場なのかな。別に家で入ればいい。使うことはないね。
海側はそのまま海に出ていけそうなつくり。船でも使うのかな。いや、まさかね。
入口まで戻ってくる。そろそろ、真ん中の建物に入ろう。
扉を開ける。中は長い廊下。その両隣に部屋がたくさん並んでるのか。片っ端から開けてもいいけど、時間がかかるからさっさと最上階まで登ろう。
階段を駆け上って三階へ。その中でも突き当りにある部屋を開ける。
「どなたかいますか?」
部屋の中には昨日も会った偉そう人と初めて見る桃色髪の変人がいる。なぜ髪の色を染めるのだろうか。普通に黒でいいだろう。
「もしかして春雨ちゃん?」
「そうですが」
「朝早くから来たのは偉いけど、扉はちゃんとノックしてからあけよう? ね?」
そういったその桃色髪に背中を押されて部屋から追い出される。
しっかりとノックをしてもいい。ただ、初日から下に見られるようなことはしたくない。礼儀を守って損はないだろうけど、言いなりになるのは嫌。力を込めて蹴破った。
扉が砕ける。破片があたりに散らばる。ずいぶんもろい扉だね、これ。
「いったぁ…」
扉の前で開けるのを待っていたみたいで、破片が少し刺さっちゃったのかな。まぁ、関係ないか。
「ノックするの嫌だったの?」
「嫌ではありません。ただ、人には従いたくありません」
「春雨ちゃんって不思議な子なの? ね?」
「別にそういうわけではありませんが」
適当に話を合わせておこう。面倒ごとは嫌いだ。
「由良、そいつと真面に話すのはやめたほうがいい。常識が通じない」
偉そうな男が口を開いた。この桃色髪は由良って名前だったんだ。
「春雨。朝早くからご苦労。昨日は説明し忘れたが、今日からは宿舎にある部屋を使ってくれ。仕事は追って説明する」
「名前聞いてもいいですか? 名前も知らない人を信用はできません」
「お前も名乗っていないだろう。面接のときにお互いに名乗る予定だったのに」
「過去は過去です。今は私は春雨だと名乗ります。あなたも名乗るべきです」
「本当にお前は口が達者だな。まぁいい。俺は提督だと名乗っておくよ」
「本名を名乗るつもりはないと」
「お前が名乗らないからな」
提督、か。もしかして、人の名前も海軍に寄せてる? 私は小さいから駆逐艦の春雨ってことなのかな。背が伸びたらどうするんだろ。私まだまだ伸び盛りなのに。
「由良、案内してやれ」
「わかりました、提督さん」
由良に連れられて部屋を出る。どこに連れてかれるのかな。もしかして、牢屋とか?
………
「ここに入って、春雨ちゃん」
本当に変なところに閉じ込められたんですけど!?