メイド長春雨   作:緑雨

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3話 笑み

 今起こっている現象を、説明する程の科学的知識を私は持っていない。ただ、1つだけ言える。水面に人が立つなんて夢幻なことが可能だとは信じられなかった。

 背後から、由良が笑う声が聞こえる。混乱している私の動きを笑っているのだろうか。

 

「こんな軽い艤装(モノ)の力で私が浮かんでいる、ということは考えられません。私が夢を見ているのか、この水になにか仕掛けがあるのか…」

「初めてだと信じられないかもしれないけど、ね? 大丈夫、艤装があればどこの海でも浮かべるから」

 

 幾ら説明を受けても、脳がありえない(NO)と判断を続ける。かといって、他の可能性も非科学的すぎる。

 試しに海水を舐めてみる。普通のしょっぱい海水だ。

 顔に海水をかけてみる。顔がベタベタとする。意識も、はっきりとしている。

 つまり、これは夢でもないし水に仕掛けがあるわけでもない。私は今、非科学的な現実と向き合っている。

 

「わけがわからない。この小さくて軽い艤装(モノ)にどんな力が…」

「これはね、かつての大戦を戦った船の魂が入っているの」

「……残留思念(船の魂)封印された(宿った)のが、この艤装(モノ)なわけですか。なんとも幽霊的(スピリチュアル)な存在ですね。信じられませんが、信じるしかないようで」

 

 言葉を紡ぎながら、脳をフル回転させる。前の世界に比べて、この世界がなんだとおかしいとは思っていた。だけど、ここまで常識(前世の記憶)が通じないとは思わなかった。

 深く考えても、明確な答えは出ない。この世界はそんな不思議な世界なんだと結論付けて続きを聞く。

 

「この艤装に宿った船の魂が、私達を支えてくれてるの。それで、海に浮かぶことができる。船霊って言われるような、そんなものなの、ね? わかる?」

「それじゃあ、私の艤装(モノ)に宿っているのはどんな船霊なんですか?」

「駆逐艦春雨、だよ」

 

 少しずつ、辻褄があってきた。職場(鎮守府)と言う名前、私につけられた偽名(春雨)。それに、モノ(艤装)の存在。全て、かつての大戦(第二次世界大戦)の海軍に由来している。

 だけど、私はこの世界での14年で艤装(モノ)の存在も、職場(ここ)のことも耳にしたことがない。就職試験の時にボタンを押して使った(投げた)爆弾も含めて、とんでもない軍事兵器。

 そんなものになんで私は気付かなかった。知らなかった。

 

「言ったでしょ? これは国の機密(シークレット)。平和な世の中の裏で、私達は艤装を使って戦っているの、ね」

「…何と?」

未知なる脅威(深海棲艦)、だね」

 

 思わずニヤけてしまいそう。それぐらい、今の気分は上々。

 脳がありえる(YES)と判断した瞬間から、無限に思考が巡る。

 難しい科学なんて関係ない。非科学的な艤装(モノ)が、私のよく知る歴史を結びついた。

 簡単(シンプル)な話だ。かつての大戦(憧れた歴史)の兵器を使って侵略者(インベーダー)を撃つ。やってみたかったんだよ、そんなゲームが。

 ここは現実(リアル)だけど、私にとっては死後の世界。生とか、この世界の未来とかどうだっていい。

 深海棲艦(インベーダー)戦争(ゲーム)、楽しみだね。

 

「取り敢えず、春雨ちゃんは訓練だね。今のままじゃ、危険だから、ね?」

 

 模擬訓練(チュートリアル)は、嫌なもの。だけど、笑みが止まらなかった。

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