ポケットにリアル   作:ふみどり

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いわゆる「ゲームの主人公」でます。女の子、名前は「ユウリ」設定。


俺の天使が癒してくれるので頑張れます

 綺麗に晴れた空に、その光を浴びて輝くナックルシティの石畳。柔らかい脚がその道を叩くたびに聞こえる本当に僅かな足音と、しゅるりと俺の腕に絡むリボン。日の光を浴びるのが大好きな俺の天使は、鼻歌を歌いそうなくらいご機嫌でその愛らしい笑顔を振りまいている。きっとわかってもらえると思うのだが、俺は今死んでもいいくらいに幸せです。

 

「ご機嫌だねえ可愛いねえ」

「ふぃ~」

「良い天気だもんなぁ」

 

 返事をするようにゆらりゆらりと揺れるリボン。ここは天国です。

 まとめ買いした日用品がずっしりと腕に響くが、そんなことも気にならないくらいに俺の天使の愛らしさがとどまることを知らない。は~こんなにメロメロ振りまいて大丈夫? どっかの不埒な輩に狙われたりしない? 万が一そんなことになれば俺が全身全霊で守ってみせるし報いをくれてやるけども。

 そんなことを思っていると、ニンフィアたんが何かに気づいたように少し離れたところに目をやった。釣られて目を向けると、いい加減あいつ本当に暇なんじゃないだろうかと思えてくるこの街の顔らしき後ろ姿。そして、そいつと談笑しているらしい少女。まだ十歳かそこらに見えるが、このあたりではあまり見ない顔のように思えた。

 キバナのファンかな、と思ったそのとき、おもむろにキバナ(成人済み)が少女(十歳くらい)に手を伸ばす。ぐしゃぐしゃとその頭を撫でて、その手が頬に下りようとするのが見えて―――。

 

「でんこうせっか」

 

 付け加えると、俺が言うより先にニンフィアたんは走り出していました。さすが俺の天使、いたいけな少女を守らなければならないと思ったのだろう。その決断のはやさ花丸です。そして普段から可能な限り急所を狙うべしと話をしてある俺の天使は、的確にキバナ(ロリコン)の脇腹を狙っていた。

 ぐふ、と変な声を上げてキバナが崩れ落ちる。

 

「な、あ……ってカエデにニンフィア!! お前らいきなり何しやがる!!」

「さすがの俺もロリコンはどうかなって」

「何の話だ!!」

 

 と、改めて見てみれば、先ほどまでキバナの影に隠れて見えなかったのか、少女の隣には同じ年頃の少年がもうひとり。しかもその顔、髪色、どう考えても。

 

「……もしかしてダンデの弟くん?」

「そ、そうだぞ」

「じゃあ君はその幼馴染みさんか」

「そ、そうです」

 

 衝撃抜けきらぬ少年少女を見て、思わず頷いた。何だ、ロリコンじゃなくてただ後輩たちと戯れてただけか。早とちりだったなぁとニンフィアたんに話しかけると、天使は失敗☆と言わんばかりにぺろりと舌を出した。小悪魔なニンフィアたんサイコー!

 

「おいまず俺に謝るべきじゃねえのかお前よォ……!」

「端から見てると完全に未成年に手を出す大人だったぞ。気をつけろよ」

「何で俺が注意されてんの!?」

 

 ぎゃーぎゃーとわめくキバナをよそに、改めてふたりに顔を向ける。

 

「いきなり悪かったな。俺はカエデ、それからパートナーのニンフィアだ。ダンデやソニア、キバナとも知り合いで、この街でパティスリーを開いてる」

「ああ、アニキから聞いたことあるんだぞ! ひともポケモンも食べられるスイーツを作るパティシエの友達がいるって!」

 

 前にお土産にもらったクッキーめちゃくちゃ美味しかったんだぞ、とダンデと同じ顔で笑う少年はホップというらしい。私も食べたことあると顔を輝かせた少女は、ユウリと名乗った。

 

「それにマリィからも聞きました! マリィがジムチャレンジに出るときに、ネズさんがモルペコのホールケーキ買ってきてくれたって!」

「ああ、そんなこともあったな」

 

 ジムチャレンジが開幕する少し前、ネズが店に顔を出した。ネズが店に来たのはあのティーパーティ以来で、お久しぶりです、と言われたときには少し驚いた。なんとなくわかっていたが、見かけによらず礼儀正しいひとだ。

 

『ケーキの注文をしたいんですが』

『承りますよ。ホールケーキですか?』

『ええ。……妹が、ジムチャレンジに出ることになりましてね。その応援というか見送りというか……まあ壮行会みてぇなのをやりたいって身内が言い出しまして』

 

 そういえばスパイクタウンでは熱狂的なファンがチームを組んでいるとか何とか。確かエール団だったか、彼らと一緒に旅に出る妹にエールを送りたいのかもしれない。それで特別なケーキを、と言うネズに、少し考える。

 

『妹さんもあくタイプのトレーナーです?』

『そうですね。パートナーはモルペコです』

『モルペコ……』

 

 確かはらぺことまんぷくでフォルムチェンジする、おもしろいポケモンだ。結構可愛い顔をしているし、それを生かすのも良いかもしれない。そういうケーキは今まで作ったことがなかった。

 

『じゃあ、モルペコでデコりましょうか』

『……は?』

 

 おっと、言葉が足りない。

 けげんな顔になったネズに苦笑して、俺は思いついたケーキの構想を話す。いくつかネズの意見ももらって、そうしてできあがったのがモルペコにデコったホールケーキだ。ちなみにはらぺことまんぷくで二種類作りました俺は頑張った。

 あとになって素直に喜ぶのが苦手そうな少女と頬をいっぱいに膨らませたモルペコの画像がSNSのDMで送られてきたのでご満足いただけたらしいとは思っていたが、思いのほか喜んでくれていたようだ。すっごい可愛かったし美味しかったって言ってましたよ、と笑うユウリに、そりゃ何よりだ、と頷く。

 

「つーかネズもアンジュに来てたのか」

「その一回だけだけどな。あのデコケーキはなかなか作り甲斐があった」

「お前って仕事熱心なのかそうでないのかよくわかんねえよな」

「こんな真面目な俺に何てことを」

 

 はいはいとキバナは疲れたようにため息をつく。何でそんな顔をされねばならんのか。俺たちの話をよそに、ホップがしゃがんでニンフィアたんと目を合わせた。続いてユウリも視線を合わせる。

 

「綺麗なニンフィアなんだぞ。それにすごい強そうだな!」

「うん! すごい美人さんだし手強そう」

 

 よろしく~とリボンと握手をかわす少年少女。見る目のある子どもたちだな、と頷いた。目線だけキバナにやると、小さく頷きが返される。なるほど、一見して高レベルな相手に気づけるくらいに腕の立つトレーナーらしい。幼くてもジムチャレンジャーは伊達ではない、か。幼いと言っても、ダンデがチャンピオンになったのも同じ年頃だったわけだし、と思ったときに、何か心にひっかかるものを覚えた。

 ダンデと、同じ年頃のポケモントレーナー。そして、おそらくは最後のジムリーダーであるキバナに挑戦しにこの街に来た、子どもたち。最近では思い出すこともほとんどなくなっていた、「外」の視点が一瞬だけよみがえる。

 この世界(ものがたり)にとって、この子たちは、いったい。

 

「……ふぃ?」

「ん? ああ、いや、ちょっとぼーっとしてただけ。ふたりはキバナに挑みにきたんだろ。すぐにジムに行くのか?」

 

 ニンフィアたんの愛らしい声で現実(こっち)に引き戻される。俺の言葉に、ふたりはちょっと苦笑して頬を掻いた。

 

「もうちょっと鍛えてからにしようと思います。絶対勝ちたいですから」

「ワイルドエリアで修行してから挑戦するんだぞ」

「おーおー良い心掛けだ。キバナさまといい勝負ができるようにしっかり対策して来いよ」

「そうか。遠慮せずにキバナをぼこぼこにするんだぞ」

 

 お前ちっとは俺の応援しろ、とキバナにつつかれるが、綺麗に無視をした。有望なトレーナーの踏み台になることもジムリーダーの仕事なのだから、ふたりが強くなった暁にはしっかり負けてあげてほしい。

 しかし、ワイルドエリアで修行か。それなら、と俺は頷く。

 

「ふたりとも、修行は明後日からにして明日はうちの店に来ないか」

「え?」

「ダンデから依頼を受けてるんだよ」

 

 ジムチャレンジが開幕してすぐ、ダンデは俺に連絡を寄越してきた。なりゆきだったが、弟とその幼馴染みに推薦状を渡してしまったと、苦笑をしながら。

 

『ふたりがバッジを七つ集めてナックルシティを訪れたら、そこまで到達できたご褒美をあげてくれないか。ふたりとそのポケモンたちに、お腹いっぱいスイーツを食べさせてあげてくれ』

 

 もちろん俺の奢りだぜ、と笑う声に、問い返した。キバナに勝ってからじゃなくていいのか、と。するとダンデは、ちょっと悪戯っぽい色を声に含ませた。

 

『バッジを八つ集めたら次はトーナメント、俺と同じ舞台に立つことになるんだぜ。対等な立場でバトルする相手にご褒美あげるだなんて変な話だろ?』

『なるほど確かに。……一応確認しとくけど、ダンデ』

『何だ?』

『金に糸目はつけねえな?』

 

 そう言うとダンデはひと笑いして、もちろんだぜ、と返した。まあ稼ぎまくってるくせに使う暇のない金だ、せいぜい消費させて経済をまわしてやろうと思ったのを覚えている。

 

「……ダンデのかっこつけ……」

「あれが素だからアイツすげえよな。明日も店は休みだし、遠慮しなくていいぞ」

「ほ、本当にいいんですか……!?」

 

 目をきらっきらさせたユウリとは対照的に、ホップは少し悩む様子を見せる。苦手なら無理しなくて良いけどと付け加えると、慌てたように首を振った。

 

「そういうわけじゃないんだぞ!」

「? なら何で」

「いやその、……ポケモンも、食べられるスイーツなんだよな……?」

「ああ。ふたりの手持ちのポケモンたちにも振る舞ってくれって言われてる」

 

 う、とホップは言葉を詰まらせた。そして自分のボールに目をやる。それを見て、ユウリもあ、と声を上げた。

 

「ホップの手持ちって……」

「ああ……」

 

 ふたりは目を合わせて頷き、悲痛な顔。そして絞り出すように、ホップは言った。

 

「カビゴンがいるんだぞ……!」

 

 三秒ほど、沈黙がおちる。キバナがさっとスマホロトムを取り出して、検索を要求した。なかなか珍しい平坦な声で、カビゴンの生態、とひとこと。そしてロトムは、少しばかり遠慮した様子で、検索結果を表示した。その画面を、無言で見せられる。

 

『四百キロ食べないと満腹にならないと言われる』

 

 同時に、頭の中でダンデの声がリフレインした。

 

『お腹いっぱいスイーツを食べさせてあげてくれ』

 

 なるほどあの野郎。ちくしょうあの野郎。なんだあの野郎。

 もちろんわざとではないことはよくよくわかっているが、何故あいつの依頼というのはこうも厄介になるのだ。目の前には心底申し訳なさそうな顔をしたホップがいるが、いやお前は悪くない。これをお前のせいにするほど俺は根性腐ってはないので安心して欲しい。

 大丈夫、俺は職人だ。難しいからとベストも尽くさず一度受けた依頼を反故にするのは主義じゃない。おもむろに自分のスマホロトムを取り出して、言った。

 

「ロトム、きのみ以外の材料を一揃い、大急ぎで一週間分追加。追加料金でも何でも払うからできるだけ今日中、もしくは明日の朝までに届けるよう伝えてくれ。本当に申し訳ないって謝っといて」

「ちゅ、注文書送ったロト」

「あとSNSに明後日は臨時休業の告知」

「了解ロト……」

 

 そして目線をニンフィアたんにやる。以心伝心ばっちりの俺の天使は、しゅるりとリボンを伸ばした。がっちりと、キバナの腕に巻き付く。

 

「え、何だよ、どうしたニンフィア」

「キバナ、今ここにいるってことは暇だよな」

「……えっ」

「ひ ま だ よ な」

 

 いや暇なわけじゃ、と言い募ろうとするキバナに、にこりと笑う。ぎちりと、ニンフィアたんのリボンが力を強めた。

 

「実際に四百キロのスイーツを用意するのは現実的じゃない。だが栄養満点でカロリーも高く、腹にたまりやすいきのみをふんだんに使ったスイーツなら満腹感は得やすいはずだ。この時期に収穫できてその条件に当てはまるきのみと言えば、パーフェクトきのみオボンを置いてほかにはない。そしてキバナ、俺お前にオボンの群生地に案内してやったことあるよな」

「俺はお前の使いっ走りじゃねえんだが!?」

「頷かないとあることあることSNSに流してやる」

「脅すな!! てか何だよあることあることって!!」

 

 一応嘘を流すつもりはないと言う意思表示です。

 ひとしきり叫ぶと、NOと言わないタイプのガラル紳士は頭を掻いた。

 

「……お前、素直に頼むって言えねえのかよ」

「言わなくてもやってくれるだろ」

「ほんっとにお前なぁ……」

 

 報酬として俺の手持ち分のスイーツも追加、と白旗をあげたキバナに、任せろと頷く。ここまで来たら少々増えても変わりはない。

 話がまとまったのを察してか、ふたりもさっと手を上げた。

 

「お、俺もきのみ採りに行くの手伝うんだぞ!」

「私も行きます!」

「……お客側に手伝わせるのも気が引けるけど、まあ今回は仕方ないか……」

 

 幼くてもバッチを七つ集めてきたトレーナーだし、キバナの先導があればワイルドエリアでも何とかなるだろう。一応、わかってると思うけど、と断って付け足す。

 

「結構奥地に行くことになるから、キバナから離れないようにな。無理もしなくていい」

「ワイルドエリアなら慣れてるから大丈夫だけど、わかったんだぞ!」

「たくさんきのみ採ってきますね!」

 

 よろしく、と頷くと、ニンフィアたんもふぃあ、と続いた。

 さて、俺とニンフィアたんはすぐ店に帰って、今あるだけの在庫を使って片っ端からスイーツを作ろう。数を作らなければならないからと言って質を下げるわけにはいかない。職人としての腕の見せ所だ。

 今日は徹夜になるだろう。作って作って作りまくって、明日は食わせるだけ食わせて、明後日は死ぬほど眠り、ダンデに請求書を送るのだ。ここまできたらやるしかない。

 

「ニンフィアたん、頑張ろうか」

「ふぃ!」

 

 フライゴンと二羽のアーマーガアが飛び立ったのを見送って、俺もまた彼らに背を向けた。

 

 

 *

 

 

 

 結論から言うと、次の日の夕方には大喜びでスイーツを頬張るポケモンたちと若きトレーナーふたりの笑顔が店にはあった。すでに体力の限界にきていた俺とキバナは、それを眺めながら中庭の地面に座り込む。

 お前の仕事ってマジ大変なんだな、ときのみ採取のほかにも力仕事でこき使いまくったキバナは言った。俺は力なくそうだろ、と返す。

 

「でも、悪くねえだろ」

 

 視線の先では、ホップのカビゴンがオボンのパウンドケーキをまるごと頬張っている。美味いか、と主人に尋ねられて、とても良い笑顔で一声鳴いた。満腹になるかどうかは賭けだが、少なくとも味には満足してもらえたらしい。

 隣でキバナが小さく笑う気配がした。ロトムを呼び出して、その光景を写し取る。画面のそれを確認して、言った。

 

「……良いのが撮れたわ。お前にも送っとくな」

「ん」

 

 SNSにはあげるなよ、と隣にあった褐色の手に余っていたオボンをのせると、わかってるっつーの、とお人好しのドラゴンはそのきのみに齧りつく。

 よく熟したオボンは、しゃくりと小気味の良い音を立てた。

 

 

 *

 

 

 ちなみに後日、ダンデから「請求書のゼロの数が間違ってないか?」とメッセージが来たので、「間違ってねえわバーーーーーーーカ!!」と返信した。

 めちゃくちゃ疲れたけどニンフィアたんがよしよしして労ってくれたので俺はとてもやりきった想いでいっぱいです。どんなお仕事も天使がいれば幸せなのですニンフィアたんサイコー!!

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