ポケットにリアル   作:ふみどり

9 / 10
たぶんXにだけあげていたものに修正を入れて投稿。
「ポケットにリアル」を本にすることにしましたので宣伝も兼ねて。


結局常連になったらしい

 ショートケーキに描いた白波をしげしげと眺める生意気な瞳。

 さっきから一向にスイーツを買う様子を見せない少年に、いったいこいつは何をしに来たのだろうと本気で首をひねった。

 

「……あー……ビート、さん? ポプラさんのおつかいかならそっちのシフォンケーキがいいと思いますよ」

「別におつかいじゃありません」

 

 すぱっと言い切られてソウデスカ以外の言葉が出てこない。なにこのクソ生意気、一応敬語は使わなければと思うが普通に癪だ。

 いや単純にどれを買うか悩んでるだけなら必要以上に声を掛ける気はないのだが、なんとなく違うのは雰囲気でわかる。だってこの少年、さっきからショーケースを見るふりをしながらちらちらとカウンターの奥を窺っているし、俺にも意識を向けている。何か言いたいことでもあるのだろうか。

 そういえばこの少年はポプラさんの跡継ぎでフェアリーの使い手になったばかりなんだっけと思いだし、中庭でひなたぼっこをしている俺の天使に声をかけた。

 

「ニンフィア、おいで」

「!」

 

 愛らしい天使がぴこりと耳を動かして起き上がる。軽い足取りでトコトコと俺のもとに駆け寄り、ひょいっとスイーツのショーケースの横の彼女専用ソファに飛び乗った。

 なーに、と言わんばかりに首をかしげる俺の天使マジ、いやほんとまじかわいすぎない……?

 

「……ニンフィア」

 

 そんな俺の天使を見て、ぼそりと言葉を落とすビート。お目当てはこっちかと思って呼んでみたが、どうやらあたりだったらしい。いや俺の天使は強いうえにかわいすぎますからねほんと、ファンができるのも致し方ないんですよこれが。

 

「うちのニンフィアにご用でしたか?」

「……用、というほどのことはないのですが……」

 

 先日のバトル、素晴らしかったので。

 小さな声で落とされた賞賛に、思わずニンフィアたんと顔を見合わせた。

 先日のバトルというのは、ワイルドエリアでのダンデとのバトルのことだろう。ユウリからそのバトルの噂を聞きつけたビートは、ポプラさんに背中を蹴飛ばされるようにワイルドエリアに送り出されたらしい。何でも、あのニンフィアは相当なピンクだから勉強になると言われたとかなんとか。相当なピンクという言葉の意味はよくわからないが、おそらく褒められていると思われるので悪い気はしない。

 もっとも、俺の天使が素晴らしいのは当然のことなのだけれど。

 

「あなたはずっと、ニンフィアだけを?」

「俺は別にトレーナーじゃないので。ニンフィアだけが俺のパートナーです」

「……あれだけの強さをもちながら、トレーナーじゃないなんて」

 

 不服そうに言われた言葉に、つい苦笑する。

 バトルすることが当たり前なのだろう彼からすれば、俺みたいのは不思議なのかもしれない。何となく、バトルで勝たなければ自分の存在意義がないかのように思っている節があるのは感じている。ダンデやユウリとはまた違った意味でのバトル狂と言ったところだろうか。彼のようなタイプは折れると脆いが、開き直ると結構強かったりするので馬鹿にしてはいけない。

 

「非常によく考えられたバトルだと感じました。種族としてこうげきやすばやさが低めのニンフィアにあえて『でんこうせっか』を覚えさせたのも、フェアリータイプなのにフェアリー技を含まない技の構成も……この子は珍しい特性をもっているんですね」

「解説をしたわけでもないのによく……っと、これはジムリーダーに言っていい台詞じゃないですね。申し訳ありません」

「……いいですよ。どうせ僕は新米ですから」

「君、感情が全部顔に出るんだな。不満なら不満って仰ってくださって構いませんよ、今のは俺が悪いです」

 

 ついつい子ども扱いしちゃうのはよくないよな、と天使に話しかけると、ふぃい、とニンフィアたんはも~と言わんばかりにリボンでぺちりと俺の手首をはたいた。ノってくれる天使まじ優しい。

 長いまつげを揺らしてまばたきをしたビートは、小さな声で言った。

 

「……あなたは僕を子ども扱いしないんですか」

「いや、子どもは子どもだから危ないときなんかは子ども扱いしますけど。でもポケモンの知識に大人も子どもも関係ないし、まして君はジムリーダー、その道のプロでしょう。少なくともその方面で上から目線でものを言っていいはずがありません」

 

 俺だって素人がスイーツについて意見してきたらちょっとむかつきますし、と軽く言ってみせると、ビートも納得したように頷いた。

 改めて、ピンクをまとった少年はショーケースの中をぐるりと見る。

 

「……プロですもんね」

「ええ。どれも俺のニンフィアが認めた自慢のスイーツです」

 

 ひとのポケモンも楽しめる、やさしい味のスイーツ。鮮やかなきのみで彩られたショーケースは、確かに俺の自慢だった。

 費やしてきた時間と労力を、自分にも他人にも軽んじさせるつもりはない。

 

「気になるものはございますか?」

 

 明らかにさっきとは違う瞳でスイーツを見つめるビートが少し微笑ましくて、ショーケースに肩肘をつきながら尋ねた。

 ビートはきらきらと星のように瞳を輝かせて、口を開く。

 

「どれも気になって……おすすめはありますか? それに、さっきポプラさんにはシフォンケーキがいいって」

 

 ショーケースから目を離そうとしないビートに、少し笑う。ちらりとニンフィアたんと目を合わせると、楽しそうに笑った俺の天使は立ち上がって少年の隣に降り立った。長いリボンをゆらりとはためかせ、ぺちぺちとあるケーキを指し示す。

 

「ふぃ」

「それがおすすめですか?」

「以前にポプラさんが紅茶に合うって仰ったのはそちらですね。あと今のおすすめはその隣のラムの実のタルトです。ちょうど今が旬で、味も濃くて栄養価も高い」

 

 ふたつともください、と即座に言葉が返ってきた。軽く笑いながら、ハイハイとケーキ用の箱の用意を始める。

 ひとつずつでよろしいですかと尋ねれば、ジムトレーナーさんたちもいるのでとりあえず五つずつ、と即答された。律儀ですねと思わず言うと、さっきまで殊勝な顔をしていたはずの少年はクソ生意気な顔を取り戻して鼻を鳴らした。

 

「何を言ってるんですか。ジムリーダーなんだからジム運営に協力してくれているスタッフを労るのは当たり前でしょう?」

 

 あ~この少年、やっぱりかわいくねえ。

 ポプラさんがこのクソ生意気な新米ジムリーダーをきっちり躾してくれることを祈りつつ、俺はせっせとスイーツを箱に詰め始めた。

 




こちらに載せた本編+番外にニンフィア視点の書き下ろしSSとおまけをつけて本にします。
※この番外SSは本に含まれません。
詳細はXにて。
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