YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「先生に捕まって遅れた。早く行かなきゃ」
放課後。下駄箱から靴を取り出した僕が、急ぎ靴を履いて学校の裏門へと走った。
僕の名前は
無味無臭。友人にそう言われる程パッとしない。趣味なんて言えるものは特になく、強いて挙げるならゲーム、だろうか。
自分を上中下の更に上中下で表すと、勉強は中の下くらいだろう。赤点こそ採った事はないけれど、決して褒められたものではない。そして運動は下の中、おまけに背はクラスの男で前から並べば二番目に低い。そんなだから今まで目立てたことがなければ、女の子にモテたこともなかった。
僕は、取り柄らしい取り柄など皆無な人間だ。人は何かになれる、なんて何かのキャッチフレーズで聞いた覚えがあるけど、まったくもってなれる気がしない。きっとこの先も平々凡々な人生を送り、他人に迷惑をかけないよう慎ましく生きるのだ、と思っていたけれど、
「庚渡さん」
「あっ、鈴鬼くん」
そんな僕に、女の子の友達ができた。人生って何があるか分からない。
「ごめん、待った?」
「ううん。今きたトコ」
僕を待ってくれた、丸眼鏡をかける小さな彼女の名は、庚渡紬実佳さんと言って僕が好きな子である。
彼女とはクラスメートであり、最近友達になった。だからまだ、付き合ってはいないが、いつかは
彼女のどこを好きになったのかと言うと、なんと彼女は変身するのだ。彼女はお姫様みたいな黄色いドレスを着た姿に変身して悪と戦う、漫画みたいだけどリアルな戦士で、僕は先月、悪いヤツに操られている怪獣と戦う彼女をたまたま目撃し、その勇姿に一目
戦う彼女はとても素敵で、僕はたちまちにして恋に落ちた。怪獣に変身なんて「なに子供みたいなことを」と思われるから誰にもこの事は打ち明けられないけれど、僕だけが彼女の秘密を知っている。あと、彼女は眼鏡を外すととても可愛いのだ。
「それじゃ帰ろうか」
「うん」
返事をした彼女のにっこりとした顔に、僕が胸から湧き上がるじんわりとした幸せを感じた。
誰もいない体育館の裏手を
僕が僅かに先を歩く形で彼女と一緒に裏門を出る。手をつなぎたいが、それはまだ早い気がする。
「ねえ鈴鬼くん」
「なに?」
「そろそろ中間テストだけど、鈴鬼くん勉強してる?」
「いや、あんまり……」
問う彼女に僕は苦笑を浮かべた。
一週間後、中間テストが始まる。僕の学力は前述したとおり。褒められたものではない。
家では宿題を嫌々こなす程度にしか勉強していない。それどころか、毎週月曜に発売される週刊「
彼女は勉強しているのだろうか。怠け者な僕にあきれただろうか。
「そうだよね。はあ、ゆーうつ。テストなんてなくなればいいのに」
しかし彼女もテストに関しては似たような気持ちを抱いていたようで、僕が胸をなで下ろした。
ため息を吐いた彼女が続ける。
「でもテストの点わるいと、おこづかい減らされちゃうんだよね」
「小遣いかぁ。僕の家はテストの点とは関係ないけど」
「いいなー」
「ってことは、テストの点が良かったら増えるってこと?」
「うーん、どうだろう。私バカだから、親がびっくりするくらい良い点なんて採ったことないんだよねー」
今度は彼女が苦笑した。
彼女が秀才という話は、僕が中学に進学してから今まで聞いたことがない。一見マジメそうだから僕より頭が悪いということはないだろうが、案外と似たり寄ったりかもしれない。
ガリ勉してそうな丸眼鏡をかけているのに、と僕が思ったところでひらめきが走った。僕が彼女に、勉強を教えられないか、と。しかし
「うちのお母さん、私を塾に行かせようか、家庭教師を雇おうか考えているんだよね」
彼女が言ったキーワードに僕はビクリとした。
キーワードとは家庭教師。それは勉強以外にも、学校では教えてくれない処世術やその他
もしも彼女に家庭教師が付き、しかも、それが男だったとしたら。大の男、僕よりもはるかに大人な大学生が、
(紬実佳ちゃん、この式はね、こうしてこう解くんだ)
(わっ。先生分かりました。ありがとうございます)
マンツーマンで彼女に教えるんだ。しかも、
(紬実佳ちゃん、よく頑張ったね。ちょっと休憩しようか)
(はい)
(へー。今どきの中学生って、こんなに進んでるもの読んでいるんだ)
(せ、先生! 部屋の雑誌を勝手に読まないでください!)
(まあまあ。紬実佳ちゃんも、こういうことに興味あるの?)
(えっ。いや、その……)
(もし良かったら、僕が教えてあげようか?)
(あ。先生、ダメです。そんな……)
うわあああっ。絶対にいかん、家庭教師なんてどんな過ちが起きるか分からない。何が何でも阻止しなければ。
「庚渡さん」
「なに?」
「僕が、勉強教えようか? 庚渡さん戦いの事もあるしさ」
何気なく伝えたつもりだが、その実は決死の提案だ。僕は彼女に教師役を申し込んだ。
胸を高鳴らせて言った僕のセリフに、彼女が目を眼鏡越しにぱちくりさせている。
「えー、鈴鬼くん頭よかったっけ?」
間もなくして彼女がクスクスと笑い始めたため、これに僕が思わず、
「それは、これから頑張って勉強するから!」
と、つい語気を荒げてしまった。
ぽかんと口を開けている彼女。まあ、それはそうだろう。頭の悪い僕が彼女に勉強を教えようなんて、身の程しらず過ぎて自分でもあきれてしまう。
でも、家庭教師だけは阻止しなければならない。彼女の部屋に一番乗りする男は僕だ、彼女と結ばれるのは僕なのだ――。そう僕が、彼女を熱く見つめていると、
「うん。じゃあ教えてね。期待してるから」
彼女は優しくほほえんで申し込みを受け入れてくれた。
絶対に
瞳を燃やす僕が、彼女と共に裏道を抜ける。
「そういえばね、
そして大通りに出たところで彼女が告げた。
「ええっ? あの黒い変なヤツ?」
「うん」
「大丈夫だった?」
「なんとかね。今度の敵は大きなネコでね、すごくすばしっこくて危なかったの。でもそのとき」
そのとき、と彼女が言ったときだった。
「うごふっ!」
「鈴鬼くん!」
驚いた彼女。僕が後ろから何者かに突き倒された。
歩道に突っ伏した僕が左手を後ろに回される。痛い、とても痛い。立ち上がろうにも後ろから押さえ付けられていて立つこと敵わず、僕が首を回して後ろをのぞき見る。
誰なんだ、僕を倒した暴漢は。しかし意外にも、さわやかな香りが僕の鼻をかすめる。
「確保ぉ! 大人しくしろこのヘンタイめぇ! 紬実佳ちゃん大丈夫!? こいつに変な事されてない!?」
「〝
僕は見知らぬ女の人に、警察官が犯罪者を捕まえるようにして取り押さえられていた。