YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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イエス! コスモス66ROCK!

(そろそろ六時半か。出発しなきゃ)

 

 三月十日日曜日。(つい)に決戦の日を迎えた。

 僕が妹と親に気付かれないよう忍び足で宿を()つ。決戦の場所は、先月に僕と彼女と坎原さんが誘われた公園だが、その公園は山梨県の奥深くにあり、電車を乗り継いで二時間半、更にバスに一時間乗らなければとても着かない場所にある。

 奥深い場所の上に決戦の時刻は朝七時だ。始発に乗っても全然間に合わない。では、どうしたのかと言うと、今回は坎原さん(スポンサー)の御厚志によるものではなく、なんと親が(きゅう)(きょ)「山梨に旅行へ行こう」と、決戦の公園から歩いて十五分ほどの所にある宿を都合良くも取ったのだ。

 昨日ぼくは家族と共に宿入りし、いま親と妹に気付かれないよう出発した。あまりにも不自然であり、この件を彼女に電話で問い合わせてみると、彼女は「たぶんべーちゃんが何かしたんだと思う」と答えた。

 

 宿を発った僕が決戦の公園へ向かう。山に囲まれた場所なので辺りは薄暗い。

 今は冬も明けたばかりの三月、しかも山梨の奥深くであり、気温は凍えるほどに寒い。だが、寒さなど感じていられなかった。理由は歩いていると、襲われそうな感覚に囚われるから。「何に?」と言うと、オバケでもイノシシでもクマでもなく、「敵に」である。

 朝七時に決戦だ、敵も近くにいると思っていいだろう。僕が薄暗い道をビクビクと何度も振り返りながら走ってしまう。

 

「あっ、鈴鬼くん。おはよー」

 

 敵を気にしながら走っていた僕だが、幸い敵には出くわさずに無事公園へ着くと、女の子六人がたき火を囲んでおり、うち一人の彼女が僕に気付いて呼んだ。

 手を大きく振る彼女に、僕が走って向かう。たき火を囲む面々は彼女の他、坎原さんに陽さんに美月さん、このまえ水族館で会った震堂という人に己枦という子だ。たき火の暖かさと、コスモスに守られているという危険地帯を抜け出したような安心感が、心細かった僕に大きな息を()かせる。

 呼吸を整える僕に彼女が()く。

 

「鈴鬼くん、はあはあしてる」

「うん。一人はやっぱ心細くて」

「ごめんね。それじゃ迎え行った方がよかったね」

「まあ、遭わなかったからいいんだけど。それにしても早いね。いつから来てるの?」

「六時くらい。朝四時に起きてね、紫暗ちゃん()からひとっとびで来たからもう眠いよー」

「朝四時。それは早すぎだね。真っ暗だったでしょ?」

「うん。とりあえず東京駅から中央線を真っ()ぐ行けば、八代(やつしろ)まで着くから迷う事なかったけど、こんな真っ暗な飛行初めてだったからちょっと怖かったよー」

 

 彼女が眠いと言いつつも笑顔で旅路を答えた。

 昨日、彼女は電話で「夜の八時に寝る」と言っていた。彼女たちは昨日、あのネズミで有名な遊園地の近くにある己枦という子の家にお泊りしており、今日彼女たちは朝の四時に起き、そこから戦士の力でこの公園まで飛んで来たようだ。

 僕が己枦という子を見ると目が合い、会釈されたので会釈で返す。なお、八代というのは山梨県の県庁である。

 

「坎原さん。今日日曜だけど、ライダー間に合うの?」

「なに鈴鬼くん。鈴鬼くんもライダー観てるの?」

「そういうわけじゃないけど」

「録画予約してるから問題ないっしゅ。今日は見逃せないんだ、この戦いに必ず勝って、帰って観ないとね」

 

 坎原さんに尋ねると、坎原さんが好きな男児向け特撮番組の予約に抜かりはない、と答えた。

 彼女と坎原さんから、緊張とか恐れとかそういったものは感じない。そんなことを僕が思うと、

 

「よく来たねー、少年」

 

 陽さんがにっこりとした笑顔で、紙コップを片手に僕を呼ぶ。

 

「その少年って言うの久々聞きましたよ」

「あははっ。ま、相手が来るまではゆっくりしようよ。はい、お茶」

「ありがとうございます。この公園、たき火して大丈夫なんですか?」

「管理人さんに訊いたけど、火の始末をしっかりしてくれれば構わないってさ。それよりさ、これ見てよスズキ君。みんな」

 

 陽さんが皆を呼ぶと、皆が首を縦に振った。

 ただし、己枦という子だけは首を縦に振っていない。と思ったのも(つか)の間、皆がする次のアクションに僕が動揺する。

 なんと己枦という子以外の皆が、上着をおもむろに脱ぎ始めたのだ。突然の脱衣に僕がドギマギしてしまう。

 

「じゃーん」

 

 そして、皆が見せびらかしたある物に、僕は目を疑った。

 

「どう鈴鬼くん? このシャツ、めっちゃアゲーでカワイーでしょ?」

 

 尋ねる彼女が着ているシャツには、「I ♥ SHIAN」という文字がプリントされていた。

 ♥には、己枦という子の顔がプリントされている。そんなTシャツを己枦という子以外の皆がそろって着ている。 

 肖像権の持ち主は、顔を両手で覆って恥ずかしがっており、そんな己枦という子を(しり)()に僕が訊く。

 

「ど、どうしたのこれ?」

「紫暗ちゃん、こんなTシャツを作られちゃうくらい、お父さんからものすごい可愛がられててね、昨日そのお父さんからもらったの」

「だから今日、気分アゲてくためにも、みんなでこれ着て戦おうって決めたんだ。ま、変身しちゃえば関係ないんだけどね」

 

 彼女に続けて陽さんが説明した。

 自分の顔がプリントされたTシャツ、作られた側からすれば恥以外の何でもないだろう。僕が己枦という子に同情する。

 空気が寒いため、己枦という子以外が上着を羽織る。そして敵が来るまでの間、皆が茶を片手に歓談を続ける。

 

「えっ、震堂さん、コスモスにママがいるんですか?」

「そうなんよたまちゃん。奈良にむちゃんこ強い、地球モデルの二児のママさんコスモスおるで」

「そんなに強いんですか?」

「もーワンダフルでパワフルでスーパートロピカルパラダイスだで。うちら束になっても全然敵わんてー」

「陽さんと美月さんでもですか?」

「無理なんちゃうかな紬実佳ちゃん。もうなんちゅーか、ウチらヘナヘナなおなごとはメンタルからして違うんよ。どんだけ痛めつけられても、〝赤ちゃんを産んだときの辛さに比べれば〟って全部耐えちょるし」

「うわあ」

「それに、一回お腹が膨らんだ状態で戦ったことあるとかなんとか」

「え、妊娠してる状態で、戦ったの」

「おそろしいやろ? 近畿にゃーあの人がいるもんだでヘイズも近付かんってハナシやね」

「そんな人とどこで知り合ったんですか?」

「ウチがまだコスモスになったばっかの頃、助けてもらったことあるんよ。子育てとコスモスを両立させるとか、どえりゃーマザーや、って思ったで。今回のこと電話で話したら〝フレッフレッ〟ってチアフルされてもーたわ」

 

 みんなリラックスしていた。まるでこれから始まる死闘など無い事かのように。

 悲観的に考えてしまう僕は、女の子六人の楽観的な態度に気を()んでしまうが、その反面で頼もしさを感じた。――しかし、そんなユルくて楽しい時間もここまでであり、

 

「あっ」

「来たわね」

 

 現れた姿に、彼女が声を上げ、美月さんが目を鋭くした。

 時刻は七時三分前。公園に、黒い衣装と仮面を付けた敵が六人、伊井兌という人とサンバイザーをかぶる子が現れた。

 震堂という人が火を消す傍ら、美月さんが時を止める装置を取り出して時間を止める。それから皆が、変身するための鏡を懐から取り出す。

 

「みんな、変身しよう」

 

 陽さんの合図に、皆が視線を合わせて首を縦に振り、それに併せて僕が後ろへと大きく離れた。

 いよいよ始まる、決戦の時。彼女はもちろんのこと誰一人として欠けて欲しくない。みんな良い人だから。

 僕は、神様など信じない性質(たち)だが、今このときばかりは六人の完全な勝利を願ってしまう。

 

「シンダーエラ、ターンイントパッショナリー! 溌剌(はつらつ)とした日々を未来に! 光の戦士サンシャイン!」

「シンダーエラ、ターンイントミスティカル! 希望に満ちた日々を未来に! 光の戦士ムーンライト!」

「シンダーエラ、ターンイントラヴァーズ! 愛にあふれる日々を未来に! 光の戦士トゥインクルスター!」

「シンダーエラ、ターンイントマジェスティック! とこしえの尊い日々を未来に! 光の戦士リングレットアーク!」

「シンダーエラ、ターンイントラーピッドリィ! 天駆ける自由の翼を未来に! 光の戦士キューシルバエルメス!」

「シンダーエラ、ターンイントイマジネイティブ! あるがままの闊達(かったつ)なる創意を未来に! 光の戦士グレナデンウィッチ!」

 

 六人の女の子が、各々(おのおの)変身する際の口上を述べ、光の戦士へと変身した。

 

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