YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

103 / 143
ひっかかるわけないでしょ具合悪じゃあるまいし

 その光は魂と言うべきか。そんな光がブルーマリンの胸に輝いている。

 間もなくして、黄金色にきらめく三叉(みつまた)(やり)が現れ、この柄をブルーマリンが握り締める。天秤座(リーブラ)の力を発現したブルーマリンが、まずは愛の分からない生意気なイヌを裁く。

 

「食らえぇっ! 〝ミリオンボルト〟!」

 

 ブルーマリンが怒りを(あら)わに槍を振り払い、触れる者の全てを焦がす裁きの雷光を、愚かで憎たらしいリングレットに放つが、

 

「リフレクティブサークル!」

「……ぐっ、そういえば」

「あんたの電気、あたしには効かないよ!」

 

 効かなかった。リングレットの生成する盾と言うべき(サークル)に、電気が通じないことを失念していた。

 電気を放てば()ぐには次を撃てないはず。トゥインクルが飛び掛かり、ブルーマリンに右足を突き出すが、この蹴りをブルーマリンは下がって回避する。

 ブルーマリンが槍をかざし、トゥインクルに電撃を放とうとする。しかし、円を構えたリングレットが間に割り込んだので止め、この電気を通さない邪魔な小娘にブルーマリンが舌打ちする。

 手始めの攻防を経て、トゥインクルが前で守る親友に呼びかける。

 

「リングレット。あの人、てんびん座(リーブラ)を使ったね」

「うん。ここが正念場だね。打ち合わせどおり行こう、後ろに下がってて」

「オーライ」

 

 一年生コンビが今一度意識を合わせた。

 トゥインクルとリングレットの一年生コンビは、先輩の二年生コンビから、黄道の精霊が肉体に大きな負担がかかることを聞いている。とっておきのエースカードな黄道の精霊だが、使ったらそれまでであり、そのうえ長くは保てない。それならば少しでも戦いを長引かせてブルーマリンの疲れを待つべきと、一年生コンビは天秤座への対策をあらかじめ練っていた。

 しかし、長引かせる策は消極的とも言え、リングレットが円を構えながらブルーマリンを挑発する。

 

「ねえ、どうしたのブルーマリン? あんたがまごまごしてる間にあの望搗って人、サンシャインとムーンライトにやられちゃうかもしれないよ?」

「…………」

「分かってるよね? あの二人の絶対に敵に回したくない強さは。あんたも強いんだろうけど、あの二人もあんたと同等、いや、それ以上かもしれないよ?」

「くっ、この女」

「ふっふっふ、来ないんだー? だったら、こっちからいくよ!」

 

 リングレットが構える円を大きく広げ、円を盾に前へと駆け出した。

 策を無視するリングレットだが、これも打ち合わせの内である。周りの戦局などどう転ぶか分からず、まして自分たちは人数で負けている。一年生コンビはそれらを考慮し、消極的な対策をあえて採用しなかった。

 積極的に前へ進む。そして、ブルーマリンに無駄な力を使わせ、疲弊したところをトゥインクルが(たた)く。そのような状況を作り出すべく、リングレットが危険を承知で突撃を敢行する。

 ブルーマリンが槍を突き出して円を破壊する。だが、リングレットは高く跳んでおり、

 

「たあああっ!」

 

 右腕を振りかぶって拳を上から叩きつける。

 ブルーマリンが左腕を構えて防ぐ態勢に入る。リングレットの打撃が軽いことは前の戦いで織り込み済み。防いだ後の反撃にブルーマリンが備える。ところが、

 

「〝マグネットコリジョン〟!」

「うぐっ!」

 

 受けた拳が、予想をはるかに上回る重さだったため、ブルーマリンがうめいた。

 左腕をだらりと垂らしたブルーマリン。(しび)れていて握力が利かない。僅かな間で重い拳を身に付けたリングレットに目を見張る。

 ブルーマリンは違和感を覚えていた。拳を防いだとき、腕が引っ張られるような感触があったからだ。「何をした」と怪しむブルーマリンに、着地したリングレットが刈るような蹴りを放ったため、これを下がってかわしたブルーマリンが思わず尋ねる。

 

「あなた、いつの間にそんな強く」

「あんたに軽いって言われて考えたの。あたし磁力を少しなら操れるからさ、攻撃のときに磁力を使って、相手を引き寄せられないか、って」

 

 壁にぶつかる車と、車と車の正面衝突。後者の方が被害が大きいのは容易に想像つくだろう。

 ボクシングでは、襲い掛かってくる相手に一撃を与える「カウンター」と呼ばれるパンチがある。先の正面衝突と同じ理屈の威力ある反撃技であり、リングレットは磁力を操って相手を引き寄せることで、カウンターと同原理の攻撃を生み出していた。

 リングレットは以前ブルーマリンに負けている。積極的に前へ進んだ理由は、磁力で引き寄せる新たな攻撃で見返したかった思惑もあった。

 

「このっ、〝サンダーパルス〟!」

「効くもんか!」

 

 ブルーマリンが槍をかざして電気を放つが、やはりリングレットが描く円に阻まれる。

 そして、攻めに転じるリングレット。ブルーマリンに飛び込んで回し蹴りを放ち、これを左腕の痺れがあるので体全体で受けたブルーマリンだが、拳同様に重かったためによろめいてしまった。

 更にリングレットが攻め立てる。踏みつけるような蹴りを着地せずに繰り出し、よろめくブルーマリンを倒す。そして宙返りをしてから着地したリングレットが、

 

「もらったあっ!」

 

 畳みかけるべく、起き上がるブルーマリンに拳を振り上げる。

 ブルーマリンが自らのおごりを悔やむ。思い返せば電気が通じないことは天敵だった。それを、年下の生意気な小娘と見て侮ってしまった。

 認識を改めるブルーマリン。己の能力を工夫して短所を僅かな期間で克服した、眼前に迫る戦士リングレットアークは(まが)うことなき強敵だ。しかし、年上の(きょう)()と好きな人への(おも)いを胸に奮い立つ。

 ブルーマリンが左手を確認する。痺れは収まり、握り締めることはできる。それならば――。

 

「……あっ」

「捕まえた」

「くっ、離れない……」

「もう逃さない。小賢しい真似ばかりして。覚悟なさい」

 

 苦くつぶやいたリングレットにブルーマリンが告げる。リングレットの右拳を、ブルーマリンが回復した左手で(わし)(づか)みにした。

 焦るリングレット。拳を引きはがそうとしても剥がせず、ブルーマリンの握力による痛みに顔を険しくするが、この詰まった状況を打破する妙案を思い付く。

 ブルーマリンが右手の槍を構え、金色の刃を(もっ)てリングレットの体を貫こうとする。ところが、リングレットが驚いた顔を浮かべてブルーマリンの後方を指し、

 

「ああっ! あの望搗って人!」

 

 ブルーマリンが想いを寄せる男の名を呼ぶ。

 

「えっ!?」

「隙あり! たああっ!」

 

 後ろを振り向いたブルーマリンに、リングレットが左の拳を振るった。

 リングレットが鷲掴みから抜け出す。実にバカバカしいリングレットの案だったが、望搗という男はサンシャインにムーンライトという実力者と戦っており、これがブルーマリンにとっては気がかりであったために有効であった。

 しっかりと磁力を伴ったリングレットの拳に、ブルーマリンが揺らいで片膝を突き、これにリングレットが満を持して親友を呼ぶ。

 

「今だよトゥインクル!」

「うん! いっけぇ! 〝トゥインクルブラスト〟!」

 

 トゥインクルが全てを照らす光を放った。

 白き光に()み込まれたブルーマリンの絶叫が響く。トゥインクルが放つ光はまさに必殺の光線、これにて決着がついたと思われた。

 ブルーマリンが、片膝を突いた格好で、槍を頼りに持ち(こた)えている。

 

「こ、こんなところで、倒れるわけには……」

「はんっ、ムダだって。トゥインクルのビームを浴びて立てる人なんていないんだから。あたしも一回食らったから知ってるし」

 

 息も絶え絶えに体を震わすブルーマリンを、リングレットがからかって諦めさせようとするが、

 

「いかない! はあああぁっ!」

「うわっ!?」

「きゃあっ!」

 

 驚く一年生コンビ。ブルーマリンが槍の石突を地に叩きつけると、空から急に雷が落ちた。

 落ちた雷は、槍の穂先に避雷針の(ごと)く当たり、電気を帯びるようにまとったブルーマリンの姿に一年生コンビがたじろぐ。

 ゆらりと立ち上がったブルーマリン。紫電ほとばしる槍を掲げ、

 

「くたばれえっ! 〝ライトニングバースト〟!」

 

 天の怒りと言うべき雷土(いかづち)を放つ。

 

「リ、リフレクティブサークル!」

 

 リングレットが慌てて円を描き、自身と後ろのトゥインクルを守ろうとするが、

 

「えっ!? そんな!」

 

 思わぬ事態に狼狽(ろうばい)する。今まで電気を防げていた彼女の円が、雷土を受けて瓦解したのだ。

 雷土がリングレットを貫く。次いで後ろのトゥインクルも貫き、一年生コンビがガックリと膝を突く。

 倒れた一年生コンビ。円を張ったために致命傷こそ免れたが、

 

「ま、まずい……」

「あんな力が、残ってたなんて……」

 

 つま先から頭の先までを(さいな)む痺れと、燃えるような熱さに立ち上がれず、

 

「殺す、殺してやる」

 

 ブルーマリンがそんな二人へ槍を片手に歩み寄る。

 鬼の形相を浮かべるブルーマリン。怒りと憎しみが彼女を支配し、もはや目の前に倒れている二人のコスモスを消すことだけしか考えていない。

 笑顔が消えた。優しさも消えた。その上さらに()ちて本当の鬼になる気なのか。

 ――そんなの、見たくない!

 

「〝アイヴィーチェイン〟!」

 

 ハウメアが、生み出したツタを放ってブルーマリンを止めた。

 

「もうやめてッス! こんなの絶対にダメっス!」

「ハウメア」

「ねえさんの気持ちは痛いくらい分かるッス! でも、それ以上行ったら戻れなくなっちゃうッス! お願いしますねえさん、元の優しいねえさんに戻ってくださいッス!」

 

 振り返ったブルーマリンに涙を浮かべて訴えるハウメアは、最近の(ひょう)(へん)したブルーマリンに懸念を抱いていた。

 男のためなら人殺しでも何でもする。そんな家業の廃業も忘れて愛に狂ったブルーマリンにハウメアは悩んでいた。そして、そんな悩めるハウメアに、妖精は目を付けていた。

 ブルーマリンは妖精を毛嫌いしているが、ハウメアはそうでもなく、妖精は(ひそ)かにブルーマリンを止めるようハウメアに接触していた。だからハウメアは緒戦、ブルーマリンを戦いから遠ざけるべく、一人で一年生コンビに挑んだりもしている。

 挑んだ結果あしらわれたハウメアだが、力がない訳でもない。彼女とて妖精に選ばれし光の戦士だ。前に妖精が彼・鈴鬼小四郎に秘策があると告げたが、その秘策とはこれである。

 

「……はっ!?」

 

 振り返ったブルーマリンが目を大きく開いて驚く。

 

「わあああぁっ!」

「はあああぁっ!」

 

 一年生コンビが飛び掛かっており、二人同時にブルーマリンを殴り付けた。

 残る力を振り絞った、白く輝く拳と磁力を伴った拳。これにブルーマリンが吹っ飛び、金色の槍が消え、次いで変身も解除される。

 伊井兌(いいだ)唯紗奈(いさな)という十七歳の女の子が地面に横たわる。トゥインクルとリングレットの一年生コンビが、最大の強敵と目されるブルーマリンを撃破した。

 

「ねえさん。裏切っちゃって、ごめんなさいッス……」

 

 気を失った伊井兌唯紗奈に、両膝を突いたハウメアが泣きながら謝った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。