YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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やれ打つなハエが手を擦る脚を擦る

「決めるで! 〝ミラージュステップ〟! ほぉぉぉぉっ!」

 

 駆けるキューシルバが、ヘイズに属する三人を翻弄する。

 三人はあっちこっちへ振り向いて攻めあぐねている。キューシルバは三人を囲むように走っており、その速さはなんと残像を生み出していた。

 水星モデルの戦士キューシルバの個性は「速さ」だ。その速度は常人はもちろんのこと、闇の力を宿すヘイズでも捉えることは難しい。

 

「そこにゃあっ!」

 

 惑う三人の隙を突いたキューシルバが、石火の速さで三人のうち二人を貫くように飛び込んだ。

 二人が(きり)()み回転しながら打ち上がる。そして、頭から墜落し、この強烈なダメージにより二人が気を失う。

 

「お、おい!」

 

 残る一人が倒れた二人に呼びかけるが、

 

「フィナーレです! 〝チルドマレット〟!」

「うっ、おおおっ!?」

 

 宙を見上げてうろたえる一人。グレナデンが手にする(ほうき)の先を、大きな氷の塊に変えて振り上げていた。

 氷の塊が、残る一人の脳天に(たた)き付けられる。そして氷が四散し、その衝撃によって一人も(しろ)()をむいて倒れ込む。

 キューシルバとグレナデンのコスモス陣営が敵の三人を撃破する。

 

「皆さん、勝ちました! こっちはやっつけました!」

 

 グレナデンが箒を高く掲げ、仲間のコスモスに敵を倒した旨を知らせた。

 赤の戦士と魔女っ()戦士に特段負傷は見当たらない。五体満足の完全勝利である。

 

「オーライ!」

 

 サンシャインがグレナデンの(しら)せに応える。サンシャインとムーンライトの二年生コンビは、いま敵の首魁(しゅかい)である望搗という男と戦っていた。

 枯林という双子の姉弟は既に倒れている。妖精に選ばれしコスモスの中でも二年生コンビの強さは一つ抜けている。双子が敵う相手ではなかった。

 

――ヤクサァイッ!

 

 (とどろ)くばかりの()(たけ)びが(くう)を震わせ、十メートルはあろうかと言う超巨大な(こん)(ぼう)が、二年生コンビに振り下ろされる。

 地を穿(うが)つ巨大棍棒の一撃。これをサンシャインが左へ、ムーンライトが右に跳んでかわす。そして二人が見上げると、剣闘士が装着するような青銅の(よろい)(かぶと)を身に着け、右手に今しがた地を叩いた巨大な棍棒を持ち、左手に巨大な盾を持つ、全長にして二十メートルを超す巨人が立っている。

 二人が構え、これに巨人も身構える。この巨人の後ろに立つ、

 

「〝ヘルクレス座(ヘルクレス)〟、コスモスを打破せよ!」

 

 望搗という男が、自らの使役する巨人型精霊・ヘルクレス座に命じた。

 精霊とは、未来の使者に選ばれたヘイズまたはコスモスが受けられる支援強化プログラムの通称である。星座をモチーフとしており、装着あるいは召喚することができる。

 だが、支援強化はただという訳ではない。その代償は使用した者の肉体に負荷がかかり、使い過ぎると身を(むしば)んでしまう事は既に触れている。また、各星座には使用者との相性があり、これが適合しないと行使もままならず、最悪では命を落としてしまう。

 黄道十二星座をモチーフとした精霊がとりわけ強い支援を受けられるが、それだけに負荷も高い。なお、精霊について以前「(とら)われている」と表現したが、この表現は訂正する。正しくは敵がこの支援強化プログラムを占有しており、コスモスはプログラムを撃破する度に妖精がコピーし、それをコスモスの子に渡している。それと精霊と呼ばれるわけだが特に深い意味はなく、体に宿す装着型プログラム、あるいは召喚という様式が精霊のようなのでそう呼ばれている。

 

「うりゃあああっ!」

 

 高く跳び上がったサンシャインが、巨人の胴体に回し蹴りを放つが、この蹴りは盾に阻まれた。

 巨人が右腕を振り、宙に浮かぶサンシャインに棍棒を()ぐ。その様子はまさにハエを叩くハエ叩き、殴られれば小さな身が潰れ、地に落ちるしかないだろう。避けられない横からの暴力がサンシャインを襲う。

 

「負けるかぁ! 〝キャノンストレート〟!」

 

 だが、ハエの(ごと)(わい)(しょう)なる身でも、時には一刺しで人を仕留めることがある。そうでなくともハエはヒトにとっての病原体を抱え、伝染病を媒介する脅威で知られている。

 黄金に輝く太陽のハエ、サンシャインが利き手の左手を突き出し、迫る棍棒を全力で殴り付ける。すると、棍棒が木っ端みじんとなり、この飛び散る木片に望搗という男が目を見開く。

 得物を失って(ひる)む巨人の喉元に、もう一匹の銀色に(あや)しく光る夜のハエ、ムーンライトが籠手を(とが)らせて近付き、

 

「切る! 〝マッソルカッティング〟!」

 

 右の籠手で斬り付け、巨人の喉を鋭く切り裂いた。

 巨人が首を押さえて膝を折る。これにムーンライトが巨人の頭上に移動し、とどめを刺すべく横に回転し始める。

 フィギュアスケートのように回るムーンライト。身にまとう着物の裾と袖が舞うようになびき、(つま)(さき)がドリルの如く変化する。

 

「粉々に削る! 〝スレイブミルストーン〟!」

 

 そして、ムーンライトが巨人を頭上から踏みつけ、この痛烈な掘削を受けた巨人が消滅した。

 消えた巨人に、望搗という男が顧みる。今は亡き同志が敵わなかった二人のコスモス、サンシャインとムーンライトのことはその口から聞いていた。

 亡き同志は、敗れて悔しがりつつも(うれ)しがっていた。理解を示しつつもいまいち分からなかった男だが、いざ実力を目の当たりにするとその心情が()に落ちた。

 ――たった十四歳の少女二人が、これ程までに強く、そしてまぶしいとは。 

 

「メテオさんは、こんな子たちと戦っていたのか……」

 

 亡き同志は魅せられたのだ。闇に身を()とした者にとって、二人の強さはあまりにもまぶしかった。

 望搗という男が、サンシャインとムーンライトが宿す光に敗北を悟った。

 

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