YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
敵の精霊を撃破したサンシャインとムーンライトが、着地して望搗という男に首を向ける。そして、
「残るはあんただけだよ。さあ、降参なら黒い玉を出して」
サンシャインが左の手のひらを差し出して要求した。
望搗という男は、覆しようもない敗北を既に悟っている。同志はみな倒れ、味方のコスモスであるブルーマリントリアイナも変身を解除された状態で気を失っており、自身の
しかし、口惜しかった。男は夢半ばで幕を引かなければならない事実を認められずにいる。
「どうして」
「うん?」
「どうして、君たちは分からない。君たちはこの国が、このままでいいと言うのか……」
望搗という男が諦めきれずに憂いを吐露した。
サンシャインとムーンライトのまぶしさに感服した男であるが、一方で二人に嘆いている。そのまぶしき力に志がないからだ。
男はこの国を憂うからこそ破壊を企てている。この国は変わらなければ、いつまで経っても他国の言いなりで、いつか皆が大切にしているものを根こそぎ奪われてしまう、と心配している。だから志がなく、力を感情のままに振るう二人を惜しんでいる。
二人に嘆いているが、認めてもいる男。だからこそ、この国が患う問題を知って欲しい、この国の民を救うために力を使って欲しい。そう望む男に対し、二人は既視感を覚えていた。それは冬に入る前の十一月、目の前で力を使い果たして亡くなった男。
まずはサンシャインが対話を試みる。同じ
「あんたって、本当にこの国の未来を心配してるんだね」
「そうだ。僕はこの国を」
「ちょーっと待ったぁ、まずはあたしに言わせて。えっと、気持ちは分かるよ、あたしも思わないわけじゃないし。この国ってさ、マスコミがやってることってケッコー過激じゃん? 割とどうでもいい個人の問題を必要以上に取り上げたりさ、今まで黙認してきたことを急に悪く言ったりさ。自分たちが悪いと思ったら、全部ニュースにしてみんなにいいふらすぞーって、やりすぎだってよく思うんだよね」
「…………」
「人なんて誰だって過ち犯すものなのに。あたしね、やることやってるんだったら多少の事は目をつむっても良くない? なーんて思うんだよね。ほら、なんだっけムーンライト、三国志好きのチンキュー先生が前に言ってた人」
「サンシャインったら。授業はすぐに忘れちゃうくせに、先生の余談は覚えてるのね。えーと、
「そう、ホーセー。エクリプス知ってる?」
男が答える。男は国の破壊を企てるだけあり、国家の興亡を歴史から学んでいる。なお、タメ語で話すサンシャインだが、異性の敵に親身となって寄り添うべく無意識に使っている。
「劉備に
「それかな? うちの学校の歴史の先生が言ってたんだけど、その人って個人的な恨みで同僚を殺しちゃうような悪い人なんだって。でもそのリュービ? のために献身的に働いて、ものすごい成果を上げた人なの」
法正は今サンシャインが述べたとおり、個人的な恨みで同僚を殺害する、決して褒められた性格の人物ではなかったらしい。
だが、法正は取り立ててもらった劉備のために策を巡らせ、劉備に
男が
「法正のことは知っているが、君は何を言いたいんだ?」
「あんたその人に比べれば性格良くて律儀じゃん。正々堂々と戦おう、ってみんなに言ってくれて、あたしヘイズにも約束守ってくれる人いるんだって感心した。だからさ、隠し持ってる黒い玉を捨てて、裸一貫で正々堂々とこの国を変えてよ」
「バカな」
望搗という男がサンシャインの要求を拒んだ。
現実はそんな甘くない。自分はそんなに立派じゃない。世の中を知らない子供の意見に男が
男が秘している親の罪を理由に黒い玉が必要な訳を話す。
「君たちが生まれる前の話になるが、僕の父親は飛行機をハイジャックし、
「……そうなんだ」
「そんな男の子供である僕は、ずっと周りから避けられていた。僕の言葉など、誰も耳を貸すはずがないだろう」
「そんなわけ」
「そんなわけだと? 甘いな、現に僕は常に悪者にされ、ヘイズに身を置くしかなかった。これが現実というものだ。いくら善行を積もうとも、生まれ持った罪を消すことはできない。そんな僕が話を聞いてもらうためにはどうすればいいと思う?」
「……わかんない。なんなの?」
「それは力さ。無視できない圧倒的な力、無理にでも聞いてもらう恐怖から生まれる力。だから僕にはアリマニドが必要なんだ」
望搗という男の
しかし、サンシャインは諦めない。わがままな思いは子供の特権である。子供だ何だと笑われようとも、
「ううん、あんたの言うとおり力なのかも知れないけど、でも、黒い玉なんて必要ない」
闇の力の破棄という要求は曲げずに貫き通す。
「あんた頭良いんだし、黒い玉なんかなくたって、人に話を聞いてもらえる力を手に入れられるんじゃない?」
「フッ。だとすると暴力か? 僕に反社になれと言っているのか?」
「いやー、あたしの両親警察官だから、そういうのは勘弁してほしいけど、でも、闇に
根拠のないサンシャインの言い分を、望搗という男が心の中で笑った。
しかし、男が偏屈であったことを併せて自覚する。更生を願うサンシャインの思いまでは笑わなかった。
無邪気に黒い玉を捨てろと言い、そんなサンシャインの純粋さを男が羨ましがる。
「フッ。君は、真っ
コスモスの子は、こうもまぶしいのか――。望搗という男が自嘲した笑みを見せ、これにサンシャインが照れつつも笑い返すと、
「ねえ」
代わってムーンライトが、ゴーグルを外して望搗という男に尋ねる。
「なんだ?」
「未来の麦で作ったパン、私にも食べさせてもらえるかしら?」
「なに。さっきと、言ってることが違うが」
「今だけよ。私はただ純粋に、おいしい物を食べてみたいと言ってるだけ。おいしい物は、全てを忘れさせてくれる……」
目を閉じて祈るように述べたムーンライトの言に、望搗という男が不可解な顔を浮かべた。
間もなくしてムーンライトが、目を開いて男に告げる。
「エクリプス。私は未来の食材を広めようとすること、言い換えれば食を使ってこの国を破壊しようなんてことは許さないわ」
「…………」
「でも、おいしい物を広めるのなら賛成なの。ごはんは笑顔、おいしい物は人を幸せにする……。国を破壊するとか全部忘れて、今の食材でコツコツと、おいしいという幸せを広げてみないかしら?」
望搗という男が、ムーンライトの言わんとしていることを理解した。
ムーンライトは「食を利用するな」と言いたいのだ。食べるという人が生きる上での幸せを、国の破壊に利用するな、と。
男がムーンライトの主張と食に対する
「コツコツと、か。僕は食の専門家ではないから、おいしいという幸せは難しいが」
「そうかしら。トゥインクルとリングレットから聞いているわ、あなたの作ったパンすごくおいしかったって。未来の麦のおかげなのかもしれないけど」
「そうだよ。僕は農業学校で学んだ程度で、食に関しては素人さ」
「いずれにしろおいしいに過去は関係ないわ。だから未来のパン、お願いします、私に食べさせてください」
「ねえムーンライト、あんた食べたいだけでしょ? ったく、そこだけは謙虚になって」
未来のパンを所望するムーンライトにサンシャインがあきれ、男はくすりと笑った。
そして、サンシャインが男の手をつかむように握る。
「ねえエクリプス。お願いだから、黒い玉を捨ててやり直して」
「…………」
「嫌なことも辛いこともたくさん待ち受けてると思う。でも、くじけないで。あんたならきっとできる」
「……僕は、コスモスを殺している人間だぞ? 許せるというのか、こんな僕を」
願うサンシャインの手を振り払った男が、過去にコスモスの子を殺した罪を自白した。
前にウルカと名乗るヘイズの女性にコスモスの子を殺した過去を述べた男だが、その話は本当であり、後悔したことも本当であった。故に男は、許されるわけがないと考えているが、対してサンシャインはお互い様と、
「あたしらだって、殺しちゃったよ。殺したくなかったけど」
目を伏せて宿敵を殺した罪を告白する。
「メテオさんのことか」
「メテオ知ってるんだね。そう。あんな思い、もうしたくないの」
繰り返すが、かつての宿敵メテオは闇の力を使い果たして死に、直接手を下したわけではない。しかし、メテオを戦ったサンシャインにムーンライトの二年生コンビとトゥインクルは、自分たちが殺したも同義と捉えていた。
皆が罪の自白を契機に口を閉ざす。サンシャインとムーンライトは感傷に浸り、望搗という男も空を望んで故人を顧みる。なお、男はコスモスの子を殺した報酬で未来の麦の製法を聞き出している。
(……メテオさん。
見上げる男の心には変化が現れていた。メテオが生前に告げた喜び、それを目の前にして理解し、闇の力よりも光のまぶしさを望み始めている。
男が首を下げてサンシャインとムーンライトに視線を移す。そして、その心に宿すまぶしい輝きを、自分も欲しいと思った。
やり直せるのだろうか――。男が
「ほほっ、ほほほっ」
笑い声に皆が首を向けると、異様な黒い格好をした小さな女の子が、この時の止まった決戦の公園を笑いながら歩いていた。
小さな女の子は一言で表すと
はるか昔から現れたような黒い装いの子供が望搗という男に呼びかける。
「エクリプス。まさか貴公が、後れを取るとはの」
「面目次第もございません。〝
「責任は重いぞよ。まあ、後事はこの卑弥呼に任せるがよい。ここにおるコスモス、一人残らず始末してくれよう」
現れた小さな子供に、コスモスの子たちは訝しげな顔を浮かべていた。
だが、リングレットだけは違った。その優れた容姿を険しくし、
「あれが、ラスボスだ」
一人確信して親友のトゥインクルにつぶやく。
「リングレット」
「あれを倒せば、全部終わる!」
「ちょっとリングレット!」
「はあああっ!」
リングレットが飛び掛かり、右の拳を黒き巫女姿の子供に振り上げる。だが――。
「余は時を超えて現れし
「効かない!? あたしの
「不敬であろう」
「うああっ!」
子供がリングレットの拳を軽く受け止め、そして吹っ飛ばした。
宙に高く放り上がったリングレット。抵抗できず地面に
「か、坎原さん」
吹っ飛ばされたリングレットを後方で見ていた彼・鈴鬼小四郎のそばに、
「スズキ」
「忠四郎」
妖精が現れ、そのウサギの顔が動揺を表していた。
「これは計算外だベエ。まさかアイツが、こんなジョーカーを切ってくるなんてベエ」