YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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神仏習合する牡牛座のプリン×ス

「た、たまちゃん」

 

 倒れた親友にトゥインクルが、

 

「こんのぉ! よくも、リングレットを!」

 

 怒りを(あら)わにして黒き巫女(みこ)姿の子供に飛び掛かった。

 白く輝かせた拳を振り上げ、子供に(たた)き付けんとするトゥインクル。しかし、

 

「下郎が。ぴいぴいと騒ぐでない」

「うっ!? きゃああっ!」

 

 その拳を子供に軽く受け止められ、親友と同じく吹っ飛ばされた。

 宙に放り上がったトゥインクルが成す(すべ)なく地面に叩きつけられる。この倒れたトゥインクルの元へ、彼・鈴鬼小四郎が駆け寄る一方で、

 

「子供めえっ! 凍っちゃえ、ナイトブリザード!」

 

 グレナデンが(ほうき)を振り払い、吹き荒れる風雪を子供に浴びせかけた。

 グレナデンは小学六年だが、子供は更に幼い。外見は小学三年生くらいに見え、そんな子供が気ままにふるまっている姿に、グレナデンは憤っている。

 間もなくして雪が晴れ、グレナデンが氷漬けで動けない子供の姿を想像する。しかし、そうはならなかった。黒き巫女姿の子供が、球状の透ける膜に包まれている。

 

「なんですかそれ!? バリアー!?」

 

 (きょう)(がく)するグレナデン。子供は(バリアー)を張って風雪を防いでおり、グレナデンが自身の技を難なくいなされた結果にショックを受ける。

 

「ほほ、涼しかったぞよ。もう一回やってくれんか?」

「このおっ」

「なんじゃ、やらんのか。では用はない。消えよ」

 

 子供が指した人差し指からレーザーのような光線を放ち、これにグレナデンが貫かれた。

 グレナデンが膝を折って伏せ、光に包まれてその魔女っ()姿の変身が解除されてしまう。こうしてコスモス三人を片付けた子供がニヤリと笑うが、この油断というべき僅かな隙を感じ取ったキューシルバが、

 

「マッハダイビング!」

 

 得意の速さで子供の小さな背へ突撃する。

 しかし、振り向いた子供が左手を突き出し、片手だけでキューシルバを止める。

 

「ほほ。ぬし、やるでないか。少し危なかったかの」

「なっ、なんで気付くね。タイミングはどんぴしゃだったけ」

「ネズミは駆除せねばならんな」

 

 子供がキューシルバの腕をつかんで振り上げる。すると、

 

「うっ、わあああっ!」

「ほほ、駆除じゃ駆除じゃあ」

 

 驚くキューシルバに笑う子供。キューシルバの体が、まるでぬいぐるみのように軽々と放り上がった。

 子供がキューシルバの腕をつかんだまま叩き付ける。二度三度と遊ぶように叩きつけ、そうして動かなくなったキューシルバの体を、子供が壊れたおもちゃを捨てるが(ごと)く放り投げる。

 地べたを転がるキューシルバまでもが光に包まれ、変身が解けてしまう。

 

「逸弥ちゃんまで。この子供は」

 

 四人があっという間に倒され、この非常事態にムーンライトが動揺した。

 ムーンライトが黒き巫女姿の子供から邪悪なるものを感じる。無邪気を装いつつも悪事を眉一つ動かさず働く、真の邪悪さ及び狡猾(こうかつ)さを。

 四人が倒れた結果をムーンライトが踏まえ、

 

やぎ座(カプリコーン)! 力を貸して!」

 

 子供だからと侮らずに全力で倒さねば、と銀の人魚に変身する。続いてサンシャインも、

 

しし座(レオ)! 行くよ!」

 

 獅子(しし)(はく)()。全身をパンプアップさせ、ボディビルダー顔負けの肉体を身に付ける。

 とっておきのエースカード、黄道の精霊を駆ってムーンライトとサンシャインが臨む。しかし子供は、

 

「ほー。ぬしら、山羊(やぎ)と獅子を使うのか。では、この卑弥呼も使おうかの」

 

 そんな二人を余裕綽々(しゃくしゃく)に眺めており、トゥインクルとリングレットがクリスマスの日に戦った女の子が所持していた、ポケベルに似た精霊召喚機を懐から取り出した。

 召喚機が光り、黄金色に輝く魔法円を宙に映す。そして、

 

mahutsu(マフツ), kusanagi(クサナギ), iyasaka(イヤサカ)... 余が弟〝牡牛座(スサノヲ)〟よ、顕現せい」

 

 魔法円の中心より、美形ながらも険しい顔つきをした、髪の長い男の顔面が現れた。

 続いて男が上半身を現す。魔法円から()い出るように現れたその両肩はさながら岩石で、胸にははち切れんばかりの隆々とした筋肉が備わっている。

 間もなくして、男の全身が露わとなる。長身を支える脚は荒々しき岩肌だ。戦うために生まれたような豪傑が、腰巻を履いた姿で魔法円より現れ、この強者の風格が漂う偉丈夫の雄姿にサンシャインとムーンライトの二人が息を()む。

 (にら)み合う二人と男。だが、

 

「負けるかあっ!」

 

 睨み合っていても(らち)が明かないためにサンシャインが先に仕掛けた。

 サンシャインが男と両手を組み合い、力と力の真っ向勝負を挑む。獅子座(レオ)の怪力をもって男を倒そうとするが、男はまるでその場に何百年と座る巨大な岩の如し。微動だにしない男にサンシャインが動揺する。

 そして、サンシャインが押される。男の押す力に上背を反らし、

 

「ううっ、だっ、ダメだ、ああっ!」

「サンシャイン!」

 

 倒されたサンシャイン。無双の怪力を誇る獅子座(レオ)を宿したサンシャインが男にねじ伏せられた。

 

「このおっ!」

 

 代わってムーンライトが右の籠手を(とが)らせて男の肉体を斬りつけた。

 男の胸を裂くように斬ったムーンライト。しかし、斬れなかった。傷一つ付かず、それどころかムーンライトの方が斬れずに跳ね返った衝撃に右手を痛めている。

 男の発達した肉体は、鋼さながらに堅かった。痛みに顔をしかめるムーンライトの腕を、男がつかんで放り、あしらわれるように投げられたムーンライトの人魚姿が地面を滑る。

 

「この精霊」

「強いわ、あまりにも……」

 

 上体を起こす仰向けのサンシャインに、地に手を突くムーンライトだが、屹立(きつりつ)する男の強さに自信を失くす。

 

「ほほっ。(たわむ)れはこのへんにしようぞ。弟よ、そろそろ消せ」

 

 子供が男と二人の実力差に笑いながら指示をすると、男が僅かに腰を落として両腕を×の字に交差した。

 気を()めているような男の構えに二人がたじろぐ。間もなくして、男が交差した両腕を解き、その両手を腰の高さに構えた。この構えた両手には目に見える形の気が現れており、殺意ある気を目の当たりにした二人が気色ばむ。

 そして、男が両手を天地上下の構えに突き出して気を発射する。放たれた強烈強大な気、言い表すならば有るもの全てを()ぎ倒す波動砲であり、

 

「うっ、うわあああっ!」

「あああっ!」

 

 波動に呑まれた二人が成す術なく悲鳴を上げる。

 二人が気を失って倒れ、光に包まれる。変身が解けてしまう。

 

「ほーほっほ。他愛ない。さあ同志よ、立ち上がって息の根を止めるがよい。願いは早いもの勝ちぞ」

 

 子供が使役する牡牛座(タウレス)の精霊を消し、倒れている同志に呼びかけた。

 ヘイズに属する者は、コスモスの子を殺すと願いが(かな)えられる決まりになっている。この垂涎(すいぜん)の褒美を子供が微笑しながら喚起する。

 倒れていた敵が一人二人と、体を起こし始め、

 

「ま、待て、みんな」

 

 望搗という男が止めようとするが、その声は同志の耳に届かない。

 しかし、倒れたコスモス六人のうち、一人だけは変身が解けていない者がいる。

 

「庚渡さん! 庚渡さん!」

「……うん?」

 

 彼が、倒れていながらもまだ変身が解けていないトゥインクルに呼びかけており、この懸命な声に子供が()(げん)な顔をして振り向いた。

 子供が彼とトゥインクルの元へ歩み寄る。

 

「一匹仕留め損なっていたか。にしても、なんじゃぬしは。なにゆえただの男が、この時が止まった空間内で動いておる?」

 

 コスモスではないのになぜ動いているのか、子供が彼に訊くが、これに彼は反抗的に答える。

 

「……知るかよ」

「なんじゃと。毛も生えそろっておらぬ小僧が。理解(あた)わぬわ、駆除してやろうぞ」

 

 子供が彼を()めつけながら宙に向かって右手を掲げると、その(てのひら)から黒き球体が生まれた。

 球体はみるみると、禍々(まがまが)しい気を放ちながら瞬く間に膨らむ。これに彼が自身を覆い尽くすその大きさを見上げながら圧倒される。

 そして、球が気球ほど巨大に育ったところで子供が告げる。

 

「カサカサと這いずり回るゴキブリめが。ちりも残さぬほどに消してやろうぞ」

 

 子供がかざす黒き球体を彼に放り投げた。

 風船のごとくゆっくりと落下する巨大な黒き球。しかし、風による圧が落下に合わせて巻き起こっており、その質量は風船と同様などとは決して見るべきではないだろう。

 見上げる彼がその場にへたり込む。あの黒い球に呑み込まれたら、自分はどうなってしまうのか――と。彼は入院した経験から敵に危害を加えられることが十分すぎる程に分かっている。しかもコスモス六人が倒された。その事実が彼に死を悟らせている。

 彼がガクガクと体を震わせ、小動物のごとく(おび)える。逃れられない死のカウントダウン。ところが、

 

「鈴鬼くん」

「か、庚渡さん」

 

 立ち上がっていたトゥインクルが黒き球体を両手で受け止めた。

 だが、倒壊する建物を受け止めるが如き抵抗。黒き球体が質量でトゥインクルを押し潰さんとする。

 

「つまらぬ真似を。小僧ともども潰れるがよい」

 

 耐えるトゥインクルに子供が冷淡に告げる。しかし――。

 

「鈴鬼くんにぃ」

「……うん?」

「鈴鬼くんに、なんてことをぉっ!」

「なっ!?」

 

 両手で止めているトゥインクルが怒りを露わに()えると、黒き球体が弾けるようにして消えた。

 消されるとは思ってもいなかった子供がたじろぐ。そして、彼が目を見開く。

 

「庚渡さん。その、姿は……」

 

 トゥインクルの着る黄の明るいドレスが、陰を帯びたように暗く染まっていた。

 

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