YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
暗く染まったトゥインクルの異様なドレス姿に、
「さっきの、見間違いじゃなかったっスか……」
割座しているハウメアが
ハウメアはトゥインクルに殴られた後、その黄色いドレスが暗鬱に染まった時を目撃している。その後にブルーマリンが水の刃を生み出し、それをリングレットが防いだ時には、元の明るい黄色に戻っていたため、目の錯覚と思っていた。
しかし、再び染まったトゥインクルのドレスは、先にハウメアが見た色よりも更にダークに染まっている。その赤みを帯びた暗い色は、まるで
不吉な色だった。光を
「庚渡さん」
呼びかける彼・鈴鬼小四郎だが、
「鈴鬼くん、待ってて。あいつ、殺すから」
トゥインクルが振り向かずに告げ、黒き
「はあああっ!」
叫ぶトゥインクルの、闇に染まった拳を、子供が先と同じように受け止める。
子供は高をくくって拳を片手で受けた。姿を変えたトゥインクルをコケ
「うっ! なんじゃと!?」
先とは比べ物にならない桁違いの威力に、子供が激しく
受け切れずに倒れた子供。すかさず起き上がるが、この子供にトゥインクルが拳の甲を下に向け、
「死ねえっ!」
「ごふっ!」
暗黒の拳をボディブローの要領で子供の腹に深く撃ち付ける。
逆流する内容物に子供が頬を膨らませ、
殴られたことで首がグリッと横にひねられた子供の髪をトゥインクルがつかむ。そして、子供の左まぶたに容赦ない殴打をお見舞いする。
「こいつぅ! 絶対に殺してやる!」
「がはっ! こ、この下郎! この卑弥呼に向かって」
「うるさい! 死んでよ! 死になさいよ!」
「ごっ! うぐ、ぐ、ぐぅ……」
子供を滅多打ちにするトゥインクルの壮絶な有様に、
「スズキ」
「忠四郎」
彼がそばに現れた妖精にたまらず
「なんなんだ忠四郎、あの庚渡さんの姿は」
「…………」
「人が変わったみたいで、すごく怖いぞ。なあ忠四郎、一体どうしちゃったんだ庚渡さんは」
彼はショックを受けていた。好きな子の口から「殺す」「死ね」などという言葉が出てきたから。
間違っても聞きたくなかった言葉。それを聞いた今の彼は、トゥインクルに初めて恐ろしさを抱いている。
「あれが、トゥインクルの覚醒、いや、本来の姿だベエ」
「本来の姿だって?」
訊き返した彼に、妖精がウサギの顔を険しくして答える。
「トゥインクルは不思議にも未来のマテリアル、トゥルーダークマターに誰よりも適した体の持ち主だベエ。スズキ、実を言うと、ボクはトゥインクルをコスモスにするかはかなり迷ったベエ」
「迷った? どういうことだ?」
「ボクはトゥインクルを初めて見たとき、トゥルーダークマターの力を最大限に発揮する、すさまじい潜在能力を感じ取ったベエ。でも、強大な力におぼれてしまわないベエか、力に振り回されず自分を正しく保てるベエか……」
「危ういから、迷ったって言うのか」
「そうだベエ。ボクはコスモスの子に一騎当千な力は不要と考えてるベエ。仲間と手と手をつないで助け合う、または足りない力を自覚して他の何かで補う子なら、決して力におぼれないからだベエ。でも、偶然見つけてしまったトゥインクルの秘めたる力を、ボクのこだわりと言うべき自論で諦めるにはもったいなかったベエ。ブラックホール団に先を越されるくらいだったらと、ボクは危うさが分かりつつもトゥインクルをコスモスに誘ったベエ」
「……そんなにも、庚渡さんはすごいのか」
「今まではその力を引き出さずに済んでいたベエが、
妖精がトゥインクルをコスモスに誘った経緯を彼に話した。
彼は思った、なぜ彼女をコスモスに誘った、と。しかし、妖精が反省を示し、「敵に誘われるよりは」という事情も、学校でいつも独りだった紬実佳を知っていて納得できたので責める気にはなれなかった。
妖精が彼に首を向け、彼の目を見て頼む。
「そしてスズキ、オマエも歯止めだベエ」
「僕が?」
「あの力は、トゥインクルを不幸にしかしないベエ。トゥインクルを止めてくれだベエ」
「当たり前だろ! 歯止めだろうが何だろうが止めるさ。あの姿は、僕が好きな庚渡さんじゃない!」
彼がトゥインクルの元へ走る。
「このおっ! はやく、早く死んでよ! 死になさいよ!」
「がっ! べっ、おばばっ!」
仰向けの子供に
トゥインクルは怒りの
「だ、誰か! がふっ……助けい! こ、この、卑弥呼を……」
同志に助けを求めるが、暴力を狂ったように振るうトゥインクルに誰もが二の足を踏む。
歯茎からの出血と鼻からの血が子供を呼吸困難に陥らせている。そんな正に息も絶え絶えな子供をトゥインクルは無我夢中で殴り続けている。愛する彼を虫けらのごとく殺そうとした、その怒りが彼女を狂気に走らせている。
このまま殴られ続ければ子供は間違いなく死んだ。その子供を殺すべく、トゥインクルが歯の数本食い込んだ拳を一際暗く染め、子供の顔面を打ち抜こうとしたとき、
「やめるんだ庚渡さん!」
彼が止めたため、トゥインクルが振り上げた拳を止めた。
「もうやめてくれ。それ以上は、人殺しになってしまう……」
「…………」
「敵と変わらなくなってしまう。クリスマスに言ってたじゃないか、ブラックホール団に悪いことをやめさせるって」
「…………」
「元の優しい君に戻ってくれ。これは、僕がなって欲しい君じゃない……」
拳を下ろしたトゥインクルの小さな背を、彼が慈しむように抱き締めた。
彼が心の底から願う。光に満ちあふれる恋焦がれた女の子の姿を。すると、暗赤色に染まっていたトゥインクルのドレスが、洗われるようにして元の明るい黄色に戻る。
抱き締められるトゥインクルが、
「……うん」
彼の匂い、彼の感触、彼の愛を
彼が抱擁を解き、泣き始めたトゥインクルに手を差し伸べる。
「立って。庚渡さん」
「うん……」
トゥインクルが鼻水をすすりながら彼の手をとって立ち上がる。
「うっ、う……」
「庚渡さん、泣かないで」
「ううっ。ごめん、ごめんね鈴鬼くん。お願いだから、嫌いにならないで……」
「ええっ。ちょっと、庚渡さん……」
彼の胸に、トゥインクルが寄りかかるようにして顔をうずめ、この密着した好きな子に彼が戸惑った。
だが、一件落着に見えて落着ではない。黒き巫女姿の子供が、体をがくがくと震わせながら立ち上がる。
ふらふらとよろめく子供。寸でのところで踏みとどまり、
「この、下郎めが……」
醜く腫れあがった顔と歯の抜けた口で、むき出しの殺意を表した。