YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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悲しみや憎しみは誰かが歯を食いしばって断ち切らなくちゃダメなんです

「何が、起きてるの……」

「ねえさん」

 

 伊井兌唯紗奈が目を覚まし、そばに座っているハウメアが唯紗奈を呼んだ。

 唯紗奈が体を起こして状況を確認する。驚いたのが、知らぬ子供がこの時の止まった場にいることだ。顔を(ひど)く腫らしたボロボロな巫女(みこ)姿の子供が、トゥインクルスターとその彼に敵意をむき出しにしている。

 コスモスはトゥインクルスターを除いた他の子たちは変身が解除された状態で倒れており、唯紗奈の同志も半数は倒れ、残る半数の同志はたじろいでいる。

 

「望搗さん……」

 

 唯紗奈が胸に置く右手を握り締め、子供から下がった所に立つ望搗という男を見つめる。

 トゥインクルを除くコスモスの子たちも起き上がり始める。巫女姿の子供に、トゥインクルと彼が相対している。

 

「トゥインクル、鈴鬼くん……」

 

 坎原環が、親友とその彼の名をつぶやき、事の推移を見守る。

 

「このっ、このっ、この下郎があ! よくもこの卑弥呼に、こんな狼藉(ろうぜき)を働きおって!」

 

 巫女姿の子供が、角髪(みずら)のほどけた髪を振り乱して怒りをぶちまけた。

 口内の血を飛ばしながらまくしたてる子供の怒り。これにトゥインクルが、彼をかばうようにして前へ出ると、

 

(ひっ……)

 

 子供が(おび)え、その場から一歩下がる。

 先のトゥインクルを子供は恐れていた。いくら怒りで己を奮い立たせても、心に植え付けられた恐怖心をぬぐい去ることはできず、また打ちのめされることに(おのの)いている。

 恐れるあまりに腰が引けた子供。よって怒りは虚勢にしか見えず、腫れで熱い顔面の裏では、凍るような汗が背筋に垂れている。そんな怖がる子供の心境を推し量るように、

 

「もうおやめください、卑弥呼様」

「エクリプス」

「そのお姿では。まずはお怪我(けが)を治さないと」

 

 望搗という男が前に立ち、なだめるようにして子供を止めた。

 トゥインクルが男の意外な行動に戸惑う一方で、男が子供に(ひざま)いて進言する。

 

「ここは私に任せ、同志を連れてお引きください」

「任せる?」

「はい。前におっしゃられたでしょう? この戦い、負けは許されぬと。大敗を喫したどころか卑弥呼様にご足労まで(いたた)く始末。このような大敗を引き起こした責任を取りたく存じ上げております」

「……貴公、あれを使う気か?」

「はい。この子たちは所詮子供。あれを使えば戦意を喪失するでしょう。なにしろ穴があったら入りたい心境です。この責任を私に取らせてください」

 

 男が恭しくかしこまって子供に退却を申し上げた。

 だが、子供が男に吐き捨てる。子供は望搗という男の才を認めている一方、男の心は信用していない。

 

「エクリプス。貴公はこの卑弥呼に対し、叛乱(はんらん)(たくら)んでおったな?」

「…………」

「この卑弥呼を、この日本を腐らせている元凶と憎んでおるな? だからあそこにいるコスモスを」

 

 子供が唯紗奈とハウメアを指す。

 

「味方に引き入れる真似をした。知らぬ卑弥呼ではないぞ?」

流石(さすが)慧眼(けいがん)。返す言葉もありません」

 

 あっさりと認めた男に子供が舌打ちする。

 望搗という男は、ヘイズという集団の破壊も企んでいた。コスモスとの殺し合いを宿命付けている体制に憤りを感じて。

 子供は男の反論を期待していた。忠義を尽くす一方で叛乱を企てる男は、子供にとって理解しがたい人間であり、男が反論すれば本音が(かい)()見えたので期待したのだが、男は従前どおり従順な振りを崩さなかった。

 この男、相変わらず何を考えているか分からぬ――、と息をついた子供が男に告げる。

 

「されど、卑弥呼は貴公が(つく)り直す未来に期待しておった。貴公の創る未来はまさしく割れた世界、時間の競合は最高潮に加速した。期待していたからこそ卑弥呼は、貴公の企みを知りつつも飼っていたのじゃ」

「もったいないお言葉です」

「それが見れないのは少し残念じゃ。しかしエクリプス、もう始まっている」

「…………」

「貴公がおらずとも未来は変わる。世界は割れるのじゃ。エクリプス、安心して()くがよい」

「ハッ」

 

 切り捨てた子供に、男が深く頭を下げた。

 子供は男が創る暗黒の未来を見てみたかった。子供も妖精と同じく(ひょう)(へん)することを予知しており、その聖人面がどこまで非情な面に変わるか楽しみにしていた。

 望搗という男を買ってもいた。面が良く、敵味方問わず手なずける求心力があり、()(えん)な手段を(いと)わない根気強さがある。更に指導者に不可欠な決断力にも長けており、出自以外は非の打ち所がない完璧な男である。子供は近い未来、己の体に初潮が(きた)したら、精を受けるならまずはこの男か、などと考えていた。

 切り捨てるには少々惜しい男だった。しかし、子供は男の一度決めたら梃子(てこ)でも曲がらない性格を理解している。したがって軽蔑しながらも惜しむ複雑な思いの子供に、跪く男が感謝の意を述べる。

 

「卑弥呼様。小生、貴方(あなた)を憎んでいるのは事実ですが、この私をヘイズに誘っていただき、感謝していることも事実です」

「……ふん。貴公がもっと利口であったなら」

「虐げられ続けましたから。反抗は私の常です。それでは、私はここで退場します。卑弥呼様、長い間お世話になりました」

「仕方ない、貴公に免じてこの場は退()こうぞ」

「ありがとうございます。……みんな、卑弥呼様をよろしく頼む」

 

 望搗という男が同志たちに呼びかけた。

 ヘイズの者達が子供の元に集まる。トゥインクルと彼は、この場を執り行う男の貫禄(かんろく)に口を挟めず、他のコスモスも変身が解除されている(ため)に手を出せずにいる。

 空へ飛び立つヘイズの者達。一人、また一人と引き上げ始めるが、

 

「おのれ。この下郎めが。覚えておれよ……」

 

 最後に残った子供が、トゥインクルと彼に忌々しく吐き捨ててからこの場を飛び去る。

 

「さて。コスモスの諸君。それに鈴鬼くん」

 

 望搗という男がコスモスと彼を見回して呼んだ。

 男が仮面を外す。相変わらず整ったその容姿に、未練や悔しさは一筋も感じさせない。晴れ渡った男の顔である。

 

「君たちの僕を思う言葉、とても(うれ)しかった。本音を言うとアリマニドを手放そうかと考えたくらいだ」

 

 男が自身の説得を試みた乾出陽と巽島美月に首を向けて礼を述べた。

 陽が「それなら」と、すかさず口に出すが、

 

「だが、僕はこの敗戦の責任をとらなければならない」

 

 告げた男の胸には光が宿っていた。

 男の胸に(とも)る光は支援強化プログラム(精霊)。しかし、その光は陽や美月が宿すような黄道の精霊による輝きに比べると明らかに弱い。

 弱くとも精霊は精霊であり、身構えるコスモスの子たちに、男が諦めた笑みを浮かべて己が宿す精霊の役割を伝える。

 

「僕は〝祭壇座(アーラ)〟という精霊をこの体に宿している。この精霊は少し特殊でね、戦いに使うものではないんだ」

 

 男の言に皆が不審がる。

 

「この精霊は、消えるためのもの。これより僕は自決する」

 

 男が自らの死を皆に予告した。

 唯紗奈が駆け始める。責任と聞いて嫌な予感をしていた彼女だが、今の彼女は変身していないただの女子高生、運悪く石につまずいて転んでしまう。

 転んだ唯紗奈の必死に願う顔に、望搗という男が柔らかな笑みを浮かべ、

 

「唯紗奈くん、君の気持ちには感付いていたが、やはり僕には応えられそうもない。今までありがとう、君は君で幸せになってくれ。……祭壇座(アーラ)!」

 

 精霊の名を口にすると、男の体が弾けるようにして消えた。

 ハラハラと舞う衣服の切れ端。男が着ていた黒い衣服の破片のみが残される。

 

「望搗さん! あっ、いや、いやあああっ!」

 

 男の凄惨な自害に、コスモスの子たちと彼が言葉を失う一方、最愛の人がこの世から消滅した事実に唯紗奈が絶叫した。

 

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