YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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ズル休み 誰も知らないブルーエンジェル

 今日は三月十三日の水曜日。三学期もそろそろ終わる。

 水曜なので平日なのだが、僕は学校を休んだ。彼女と坎原さんと用事ができたからだ。僕たち三人は朝早くに出発し、また八代行きのローカル線に乗っていた。

 電車の車窓からは、川沿いを進む一月(ひとつき)前も見た光景が見渡せる。僕たち三人が学校を休んでまでローカル線に乗る理由、それは三日前の日曜に繰り広げられた決戦の公園に用があるからである。それにしても、彼女と坎原さんと一緒に学校を休むなんて、明日師泰になんと言われるだろうか。

 

「このまえ乗ったの、このバスだったよね?」

 

 ()(おん)駅に着き、バスを前に坎原さんが尋ねたので僕が首肯した。

 乗車した僕たち。だが、もしも行き先が間違っていたら大変である。念には念を入れておいた方がいいだろう。

 

「すみません。この公園なんですけど」

「ああ。このバスで通るから大丈夫だよ。バス停の名前は……」

 

 僕がバスの運転手にスマホの地図アプリを見せながら尋ねると、運転手のおじさんが決戦の公園最寄りのバス停の名を教えてくれた。

 安心した僕たちが座席に座り、程なくしてバスが発車する。今日は僕たちを案内した伊井兌という人はいない。決戦の公園まで自力で着かなければならない。

 バスに乗って一時間ほど経過した所で、運転手のおじさんが教えてくれたバス停がアナウンスされたため、僕たちがボタンを押してバスから降車する。

 

「おーい、紬実佳ちゃーん、環ちゃーん。それにスズキくーん」

 

 無事迷わずに公園へ辿(たど)り着くと、陽さんが大きく手を振って二人と僕を呼んだ。

 陽さんと合流した僕たちが、前に未来のパンを食べた場所の(あずま)()に連れられると、既に美月さんと震堂という人、己枦という子が陣取っていた。

 日曜の面子が勢ぞろいだ。ただし、もう一人いた。僕たちに未来のパンを勧めた女の子、(きのと)()というサンバイザーの子が座っている。

 

「あの、皆さん、飛んできたんですか?」

 

 彼女がコスモスの力を使って飛んで来たのか東屋の面々に尋ねる。

 

「そりゃ飛んでくるでー。下道使ってここまで来ちょーものなら、いくらかかるかわかりゃんせんもん」

「下道って。逸弥ちゃん、スズキ君にその言葉の意味わからないわよ」

「おー、そうだったにゃー美月たん。ごめんなースズキ君。まー遠いところ行くに交通費浮くのはええよね」

「コスモス同士の旅に限られるけどね。っていうか、逸弥ちゃんそんなに飛んでるの?」

「いや、そんな飛ばんよ? むやみやたらに時を止めるとうさピョンが注意しに来るし、変身した姿ヒトに見られんように気をつけなあかんし」

 

 震堂という人と美月さんがコスモスらしい受け答えをした一方で、

 

「あの、紬実佳さん」

「なあに?」

 

 己枦という子が彼女に()く。

 

「紬実佳さんこそ、なんで飛んでこなかったんですか?」

「だって、鈴鬼くんをおぶってここまではさすがに来れないよ」

 

 彼女が少し困った感じで答えると、己枦という子が立って彼女の右耳をつまむ。

 己枦という子が彼女の耳に口を寄せ、

 

「……しろ、チャン……ないん……」

 

 ささやいたが、この内緒話はよく聞こえず、

 

「そうなんだけど……、うう、紫暗ちゃんのいじわる」

 

 彼女が内緒話に苦笑いを浮かべて答えた。

 何を言われたのだろうか。彼女はもじもじとしており、そんな彼女を己枦という子が前髪から(のぞ)かせる目をジトッとさせて見つめ、これに僕が首を(かし)げてしまう。

 それにしても、サンバイザーの子は先から浮かない顔をして一人席の隅にたたずんでいた。まあ、それはそうだろう。なにせ同じコスモスであるにも関わらず敵だったのだ。戦闘の最中に伊井兌という人を裏切って彼女と坎原さんを助けたと聞いているが、それでもこの場に居合わせるにはバツが悪いだろう。何故(なぜ)この公園に来たのだろうか。

 

「全員集まったベエ」

 

 皆が陣取るテーブルのど真ん中に妖精が現れた。

 

「アルベルト~」

 

 己枦という子が妖精を抱え、妖精のもふもふな外被に頬ずりする。

 そして、匂いを嗅ぐ己枦という子。未来のAIである妖精から良い匂いなどするのだろうか、などと思う僕をよそに妖精が伝える。

 

「今日みんなに集まってもらったのは、ブルーマリンについてだベエ。戦士ブルーマリンはコスモスを降りたベエ。というか、ボクが降ろしたベエ」

 

 伊井兌という人からコスモスの資格を剥奪した、と妖精が告げ、その処遇に僕は納得した。

 伊井兌という人は、あの望搗という人に恋慕していたとは言え、敵と手を組んでコスモスの子を害そうとし、妖精にも歯向かった。妖精にとっては裏切者となる。

 とは言え、少し心配してしまう。望搗という人は自決した。そのショックを僕の立場で表すならば、彼女が死ぬと同義だ。望搗という人が消えた後、伊井兌という人は泣き崩れてしまい、僕たちはサンバイザーの子に後を任せて公園を去ってしまった。

 今は何をしているのだろうか。自殺とか考えてなければいいが、などと僕が伊井兌という人を一度殺されかけたくせに気にかけてしまう。

 

「ねえさん、あたしのこと、覚えてなかったっス……」

 

 サンバイザーの子がぽつりと話し始めたが、僕はその言葉に眉をひそめた。

 覚えていなかった、とはどういうことだ。皆も同じことを感じたようで、皆が妖精に振り向くと、

 

「ブルーマリンの因果をいじり、ブルーマリンがボクと出会わない〝今〟に過去を改竄(かいざん)したベエ」

 

 妖精が衝撃の発言をした。

 仰天した僕。だが、そんな僕に反してコスモスの子たちはそこまで驚いておらず、一応の納得を表している。

 前に僕は彼女から、妖精は戦いで生じた被害をなかったことにする事ができる旨を聞いている。クリスマスの日に生じた被害が魔法のように復元されたことは記憶に新しい。だが、「なかったこと」というのは過去を変え、それの応用で伊井兌という人が妖精と出会わない「今」に変えたのだろうか。

 今更ながらに恐ろしい。何もかもが妖精の思うがままではないか。すっとぼけたウサギの面でテーブルの上の茶菓子をぽりぽりと食べ始めた妖精に、僕が恐れをなしてしまう。

 

「なので今のブルーマリンには、コスモスとしての記憶がないベエ。ハウメアには酷だベエが、これもブルーマリンのためだベエ」

「分かってるっス。望搗さんがあんなになって、コスモスとしての記憶は消した方がいいっス。でも、昨日下校中のねえさんに会いに行ったら、〝だれ?〟って顔されたのが、辛くて、悲しくって……」

 

 うつむくサンバイザーの子からは涙が落ちていた。

 サンバイザーの子が顔を上げる。鼻を赤くし、目から涙をぽろぽろと流して。

 

「ねえさん、本当は優しい人なんス。家のことで〝コスモスとして戦うのがイヤになったの〟なんて言いつつも、ピンチのあたしをヒーロー参上とばかりに助けてくれたりして……。あと、すごく笑い上戸な人で、鼻にニンジン付けただけでケラケラ笑ったり、一緒に水族館に行ったとき、〝いるかはいるか?〟とか、〝これが魚? まさかな~〟とか、あたしがくだらないダジャレを言うとすごく笑ってくれたんス……」

 

 伊井兌という人を弁護するサンバイザーの子の言葉には熱い気持ちがこもっていた。

 僕たちにとって敵だった伊井兌という人。だが、サンバイザーの子にとっては「ねえさん」と呼び慕うほどに良き先輩だったのだろう。

 妖精が問う。良き先輩は脱落せざるを得なくなったが、それでも続けるか否か。

 

「ハウメア。ボクは見込みのない子を誘ったりはしないベエ。ブルーマリンは残念だベエが、その悲しみを乗り越えて戦士を続けてもらいたいベエ」

 

 サンバイザーの子も妖精が見込みし光の戦士だ。しかし――。

 

「……いや、あたしはもう自信がなくなっちゃったっス。あたしの命はねえさんがいなければ、今ここになかったっスから」

「そうだベエか」

「そんな命の恩人と言うべきねえさんを裏切っちゃうなんて……。もう、あんな辛い思いはごめんっス。悪いけどリタイアするっス」

「分かったベエ。ハウメア、今までご苦労様だベエ」

 

 サンバイザーの子は首を振り、コスモスを辞す旨を妖精を含めた皆に伝えた。

 そして、変身するための鏡と時を止める装置をテーブルの上に置いたサンバイザーの子が、この東屋を去ろうとすると、

 

「待って」

 

 彼女と坎原さんが引き止める。

 

「あのとき、助けてくれてありがとう」

「本当に助かったよ。ありがとう。それと、冷たくしちゃってごめんなさい」

 

 頭を下げて謝った彼女と坎原さんを、

 

「いいっスよ。あたしはここで降りるっスけど、二人はどうかこれからもみんなのために頑張ってくださいっス」

 

 サンバイザーの子が笑って励ました。

 サンバイザーの子は彼女と坎原さんと同い年だ。一緒に楽しく麦を育てる青春を夢見てたのだろうか。

 三人は同じ(とし)のコスモスで、仲良くなれるはずだったのに、少しだけ()み合わなくて仲良くなれなかった。だからか東屋を去ったサンバイザーの子が、名残り惜しそうに振り返りながら公園を後にした。

 




※彼が聞き取れなかった紫暗の内緒話は「むしろチャンスだったんじゃないんですか」になります
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