YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
(ハウメアもボクと会わない今に
と、妖精は言っていた。
敵として彼女たちと戦った、伊井兌という人と乙木というサンバイザーの子。二人の今は妖精と出会わない今へと変わり、コスモスと関係ない人生をそれぞれ歩むのだろう。
しかし、納得できない点がある。帰宅した僕が、
「忠四郎」
と、部屋で呼んでみると、
「なんだベエ?」
「うわっ」
僕の目の前に、妖精がテレポートしたように現れた。
彼女たちコスモスの子が妖精を呼ぶと瞬時にして現れることは聞いていた。だから僕も軽い気持ちで呼んでみたのだが、まさか本当に現れるとは思わず、いささか面を食らう。
「うわっ、って呼びつけておいてそりゃなんだベエ」
妖精がウサギの顔を少しムッとさせて僕を責める。
「悪い悪い。本当に現れるとは思ってなくて」
「ボクは忙しいんだベエ。呼びつけたんだから、それなりの対価は払ってもらうベエ」
「はいはい。この前と同じでいいか?」
「よかろうベエ」
めんどくさいが仕方ない。軽い気持ちで呼ぶなんて僕が悪かった。今は妖精に従おう。
僕が台所から茶と菓子を適当に選ぶ。そして自分の部屋に運び込む。
「うむ、くるしゅうないベエ。……おっ、この貝殻の形をしたクッキーは、だベエ」
「台所にあった物だけど、知ってるのか?」
「何度か食したことがある魔法のクッキーだベエ。ボクはこれを食べると、はぐっ……。どうしてか〝くるるん〟としゃべってしまうくるるん」
「なんだそりゃ。魔法って、フツーに売ってるクッキーだし。……忠四郎さ、庚渡さん達コスモスの子にもそんな調子でお茶と菓子をせがんでるのか?」
「いや、コスモスの子は戦ってもらってるからこんなマネできないベエ。スズキだけだベエ」
「あーそうかよ」
本当にかわいくないな、こいつ。
「あー食った食ったベエ。それでスズキ、コスモスでもないオマエがボクに何の用だベエ?」
「合点いかないことがあってさ、
「よかろうベエ。聞いてやるベエ」
妖精が個人の今を変えられるなら、
「あの伊井兌って人のことなんだけど、どうしてさっさと今を変えなかったんだ?」
「…………」
「あの人、忠四郎に歯向かって、挙句の果てには敵と手を結んだじゃないか。あの人の今を変えられるなら、敵と手を結ぶ前に変えるべきじゃなかったのか?」
「なるほどベエ」
「それにさ、忠四郎ほどのAIが、それを見通せないのが分からないんだ。忠四郎のことだ、どうせこうなることが予測できてたんだろう? なんで伊井兌って人と乙木って子が、庚渡さん達と戦うことを黙って見てたんだよ?」
未来過去今、妖精は何でもお見通しな存在である。なぜ自ら選んだ戦士が、彼女たちと争う事態を見過ごしていたのか、僕には分からなかった。
いま伊井兌という人にコスモスとしての記憶はない。それが妖精の一存でできるならば、たとえサンバイザーの子が嘆いたとしても、さっさとコスモスの係わりを断ってコスモス同士の激突を回避すべきだろう。
事態はコスモス同士が争うまでこじれてしまった。今を変えられるのなら、そうなる前に手を打つべきではなかったのか。
「おにい、誰かいるのー?」
「電話だよ」
部屋の外から妹が尋ねたので適当にあしらう。
「スズキは慣れるのが早いベエ。トゥインクルもリングレットもサンシャインもムーンライトも、
「ただの冷たいヤツじゃないか。そんなの褒められてもうれしくないよ。で、答えは? なんで庚渡さん達と戦うことを見過ごしてたんだよ?」
僕が腕を組んで妖精を問い詰めると、妖精が僕の誤った前提を指摘する。
「スズキ。まず最初に断っておくベエが、いくらボクとて全てが予測できる訳ではないベエ」
「えっ。そうなのか」
「ある程度は予測できるベエ。でも、ヒトの気持ちはなんとも御しがたいものだベエ。所詮ボクは決められた行動しかできないプログラム、そこんところは分かってほしいベエ」
「そうか。悪かったよ」
僕は妖精を全知全能な存在と勘違いしていた。振り返れば妖精は、コスモスの子のみならず僕にも謝ったりしている。
妖精は以前コスモス探しに難儀している旨を僕に話している。未来のツールがもたらす力におぼれない、心が強い女の子を探して。と言うことは代わりが利くということはない。ようやく見つけた女の子、大事に育てて多少の誤りは大目に見るべきであろう。
伊井兌という人がコスモス側に戻ることを願ったのだろうか。しかし、そんな僕の予想は外れ、なぜ伊井兌という人をコスモスからさっさと降ろさなかったのか、その訳を妖精が教える。
「ブルーマリンの過去を早く改竄しなかった訳ベエが、ボクはブルーマリンにあることを期待してたベエ」
「あることを、期待って?」
「アイツがブルーマリンの前に姿を現すことだベエ」
「アイツ? この前の
「違うベエ。ボクと同じ、ブラックホール団におけるプログラムだベエ」
プログラムと言われて思い出す。確か望搗という人は「あのお方」なんて言葉を口にしていた。
望搗という人は「一目で未来から来た者だと分かる方」とも言っていた。それが妖精の言うアイツであり、敵における未来からのAIだろうか。
望搗という人に限った話ではなかった。メテオと名乗った
「ボクはアイツを捕まえるために未来から送られてきたんだベエ」
「そうなのか」
「でも、アイツは用心深い知能のプログラム、そう
「……なるほど」
「でもでも、ブルーマリン以外にも手が欲しかったベエ。スズキ、サンシャインがアリマニドの破壊を喜んだとき、ボクが水を差したのを覚えてるベエか?」
「うん。ドラゴンの人のときだったよね?」
「ボクはブラックホール団と係わりを持つコスモスが他にも欲しかったベエ。アリマニドの破壊をあまり望まなかったのはそれが理由だベエ。まあ、ブルーマリンのようになっちゃうコトも考えると難しいところではあるし、あのメテオという男のように」
「メテオ? 忠四郎、あの井沓って人にも何か
「あの男はサンシャインムーンライトと幾度となく交戦し、ブラックホール団である自分に疑問を抱き始めていたベエ。ボクは頃合いを見て説得し、アイツを捕まえるために内通してもらうつもりだったベエが、そうなる前にあの男は力を使い果たしてしまったベエ」
妖精は妖精で色々考えているようで、僕は一応納得することにした。
敵における妖精のような存在。それこそが敵に闇の力を与え、世界を分けようとしている元凶だろうか。でも、妖精のような存在など果たして捕まえることができるのか。なにせ妖精は未来からのプログラム、物理的にはもちろん無理だろう。
先に妖精が述べた、コスモスの子が用心深い敵の妖精と接触する方法。しかし、伊井兌という人がコスモスではなくなり、その方法は断たれてしまった。妖精は違う手を考えているのか。
僕が手について考えてみるが、僕になど考えが及ぶ訳がない。しかし、それでも――と、考えが及ばないのに無駄に考えている僕に、妖精が告げる。