YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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あまずっぱぁ? 初めてのキスはココナッツの味

 僕は(つい)に、募る彼女への(おも)いを告白してしまった。

 胸がこの上なくドキドキする。頭が火照ったようにカッカカッカとする。さっきから体が震え、熱い汗がにじむように噴き出ている。

 僕は彼女が、必ず受け入れてくれると信じている。彼女は何の取り柄もない僕なんかをいつもいつも誘ってくれたし、今だってプレゼントを渡すと、彼女は僕が大好きな笑顔を浮かべて喜んでくれた。

 自惚(うぬぼ)れじゃなくて好意を抱いてくれている。僕はそう信じている。なお、今日三月十五日は彼女の誕生日、忘れるわけがなかった。

 

 そして、僕には確信がある。彼女が僕の想いを受け入れてくれる根拠が。

 この前の日曜。僕が黒い巫女(みこ)姿の子供に殺されそうになったとき、彼女はまとうドレスを闇に染め、子供を(たた)きのめした。

 恐ろしかった。子供に一方的な暴力を振るう、あの闇に染まった彼女の姿はもう見たくない。でも、それは裏返せば、彼女は闇に染まってまで僕のために怒ってくれたのだ。

 僕の身を大切にしてくれた彼女。僕は彼女にとって特別であるはずだ。

 

「…………」

 

 彼女は驚いたように口を開け、僕の目を見つめていた。

 今、僕は神様、いや、彼女に祈っている。一生を懸ける気持ちで、彼女という女神に願っている。――頼む、「はい」と言ってくれ、と。

 一秒が一秒が、とても長く感じる。胸の中では鼓動が急かすように激しく心を叩いている。しかし、彼女は口を開けたままで言葉を発しない。――もしかしたら、まだ告白は早かったのか、と僕が不安に駆られて悲しい思いに沈みかけたとき、

 

「鈴鬼くん!」

 

 彼女が眼鏡を外し、僕の胸に飛び込んだ。

 僕の胸に頭をうずめる彼女。その両肩は僅かに震えており、髪から香る甘い匂いに、僕がついうっとりと酔ってしまう。

 間もなくして、彼女が僕の体に両腕を回し、これに僕がドキッとする。受け入れたと思っていいのだろうか。

 

「ふ、ふちゅつかものでしゅが、よろしく、おねがいします……」

 

 胸が跳ね上がる。心が小躍りじゃなくて大踊りする。これ以上とない最高の喜びが僕の全身に満ちみちる。

 ――やった、やった、やった! 彼女が僕を、受け入れてくれた!

 

「うう、うるとらはっぴーだよぉ……」

「庚渡さん」

「……鈴鬼くん」

 

 僕の胸に頭をうずめていた彼女が顔を上げた。

 僕が大好きな愛らしい顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。鼻水まで垂れており、それをすすった彼女の仕草はとてもいじらしかった。

 想いが通じ合ってものすごく(うれ)しい。僕も彼女の小さな体を(いと)おしく抱き締める。

 

「……ん」

 

 しかし、ほっとしたのも(つか)の間。彼女が目を閉じ、口を少しだけ前に突き出した。

 これは――。僕の心がまた大きく跳ねるが、今度はさっきと違ってうろたえてしまう。

 

「か、庚渡さん」

「して。誰も来ないうちに」

「え、ええっ」

 

 周りを見回すと、確かに誰もいない。でも、僕たちは中学一年だ。この衝動、いや、情動、思いのままに委ねてしまって本当にいいのだろうか。

 

「はやくー」

「……わ、わかった。いくよ?」

「うん」

 

 僕が勇気を出し、彼女の突き出す桃色の唇に、自分の震える唇を重ねた。

 彼女の潤った唇は、ものすごく柔らかかった。このまま溶け合ってしまうのではないか、と錯覚するくらいに。

 口を離す。上手(うま)くできただろうか。別に味などなかったはずなのに、妙にふんわりとした甘い後味を自分の唇から感じる。例えるならココナッツだろうか。

 

「鈴鬼くん。緊張してた?」

「そ、そりゃするに決まってるよ。今も、心臓がバクバクしてる」

「ふふっ。私はしなかったよ。二回目だし」

「に、二回目?」

 

 二回目という彼女の言葉に、僕が大きなショックを受けた。

 彼女は、これがファーストキスじゃないのか。僕じゃない誰かと既に済ませているのか。

 ためらったが我慢できなかった。僕が勇気を出して、

 

「だ、誰と?」

 

 相手は誰なのか尋ねる。

 僕が祈る気持ちで願う。親とか、以前会ったお姉さんとか、僕が傷つかない人が相手であってくれ、と。これに対する彼女の答えは、

 

「あ、そっか。あのときって、鈴鬼くん気を失ってたんだった」

「気を、失ってた? いつ?」

「去年の十月に、私と陽さんと美月さんで、でっかい水瓶(みずがめ)と戦ったの覚えてる?」

「うん。……あっ、あの僕が溺れたとき?」

「うん。わたし鈴鬼くんに人工呼吸して、そのクチビル奪っちゃった」

「……なんだ」

 

 実にけろっとしたものであり、聞いた僕が心の底からほっとした。

 彼女が腕を解き、僕も腕を解く。僕の体から離れた彼女が、僕が大好きな笑顔を浮かべる。

 

「鈴鬼くん、好き。初めて会った時から大好き」

「え? 初めて会ったときからって。ごめん、気が付かなくて」

「ううん。……えっとね、鈴鬼くん。私、鈴鬼くんに謝らなくちゃならないの」

「謝る?」

「鈴鬼くんを、リープゾーンに引き込んじゃったこと。私、鈴鬼くんにトゥインクルスターとしての私を見てもらいたくて、鈴鬼くんを想いながらユニヴァーデンスクロックのボタン押しちゃったの」

「え、そうだったの?」

「だから、鈴鬼くんが前に入院した本当の原因って、たまちゃんじゃなくて私なの。他にもいっぱい危険な目に遭わせて、本当にごめんなさい」

 

 彼女が僕に深く頭を下げた。

 時効に決まっている。あの日直の仕事を押し付けられた残暑の日、引き込んでくれなければ、僕は彼女に気付けなかった。

 僕は彼女が誰よりも好きだ。()ぐ調子に乗るところも、待ち合わせに遅刻するところも、テストが迫っているのに遊んでしまうお気楽なところも、みんなみんな含めて愛している。

 

「気にしないでいいよ。引き込んでくれなきゃあんな体験絶対にできないし、引き込んで君に出会えたおかげで、僕も、男として成長できたかなって思ってるから」

「ありがとう。……鈴鬼くん、本当にありがとう。今日は今までで最高に幸せハピネスな日だよ。生きてるって感じ」

「僕こそ、ありがとう。僕なんかを好きになってくれて」

 

 僕と彼女がほほえみ合い、僕が、彼女の小さな手を握る。

 

「家まで送ってくよ。このあと坎原さんちと約束あるんだよね?」

「うん。鈴鬼くんは、……優しいね」

「そ、そうかな?」

「うん。あ、今のは褒めてないからね。ま、そんな鈴鬼くんがおねえさんは愛おしいんだけど」

「おねえさんって。僕ももうすぐ誕生日だよ」

「ふふっ、ちょっと早いけどおめでとー。ねえ鈴鬼くん、これからは、二人のとき茶籐くんみたいに、小四郎って名前で呼んでいい?」

「えっ、かまわないけど。じゃあ僕も、二人のときは紬実佳って呼ぶけど」

「うん、呼んで呼んで」

「……紬実佳」

「うん、小四郎」

「照れるな」

「ほんとだね、ふふっ」

 

 さっきから僕は落ち着いたふりをしているが、内心は叫んで走り回りたい気分だった。

 やった。本当にやった――。想い続けてから約半年、僕は彼女とようやく結ばれた。

 

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