YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
僕は
胸がこの上なくドキドキする。頭が火照ったようにカッカカッカとする。さっきから体が震え、熱い汗がにじむように噴き出ている。
僕は彼女が、必ず受け入れてくれると信じている。彼女は何の取り柄もない僕なんかをいつもいつも誘ってくれたし、今だってプレゼントを渡すと、彼女は僕が大好きな笑顔を浮かべて喜んでくれた。
そして、僕には確信がある。彼女が僕の想いを受け入れてくれる根拠が。
この前の日曜。僕が黒い
恐ろしかった。子供に一方的な暴力を振るう、あの闇に染まった彼女の姿はもう見たくない。でも、それは裏返せば、彼女は闇に染まってまで僕のために怒ってくれたのだ。
僕の身を大切にしてくれた彼女。僕は彼女にとって特別であるはずだ。
「…………」
彼女は驚いたように口を開け、僕の目を見つめていた。
今、僕は神様、いや、彼女に祈っている。一生を懸ける気持ちで、彼女という女神に願っている。――頼む、「はい」と言ってくれ、と。
一秒が一秒が、とても長く感じる。胸の中では鼓動が急かすように激しく心を叩いている。しかし、彼女は口を開けたままで言葉を発しない。――もしかしたら、まだ告白は早かったのか、と僕が不安に駆られて悲しい思いに沈みかけたとき、
「鈴鬼くん!」
彼女が眼鏡を外し、僕の胸に飛び込んだ。
僕の胸に頭をうずめる彼女。その両肩は僅かに震えており、髪から香る甘い匂いに、僕がついうっとりと酔ってしまう。
間もなくして、彼女が僕の体に両腕を回し、これに僕がドキッとする。受け入れたと思っていいのだろうか。
「ふ、ふちゅつかものでしゅが、よろしく、おねがいします……」
胸が跳ね上がる。心が小躍りじゃなくて大踊りする。これ以上とない最高の喜びが僕の全身に満ちみちる。
――やった、やった、やった! 彼女が僕を、受け入れてくれた!
「うう、うるとらはっぴーだよぉ……」
「庚渡さん」
「……鈴鬼くん」
僕の胸に頭をうずめていた彼女が顔を上げた。
僕が大好きな愛らしい顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。鼻水まで垂れており、それをすすった彼女の仕草はとてもいじらしかった。
想いが通じ合ってものすごく
「……ん」
しかし、ほっとしたのも
これは――。僕の心がまた大きく跳ねるが、今度はさっきと違ってうろたえてしまう。
「か、庚渡さん」
「して。誰も来ないうちに」
「え、ええっ」
周りを見回すと、確かに誰もいない。でも、僕たちは中学一年だ。この衝動、いや、情動、思いのままに委ねてしまって本当にいいのだろうか。
「はやくー」
「……わ、わかった。いくよ?」
「うん」
僕が勇気を出し、彼女の突き出す桃色の唇に、自分の震える唇を重ねた。
彼女の潤った唇は、ものすごく柔らかかった。このまま溶け合ってしまうのではないか、と錯覚するくらいに。
口を離す。
「鈴鬼くん。緊張してた?」
「そ、そりゃするに決まってるよ。今も、心臓がバクバクしてる」
「ふふっ。私はしなかったよ。二回目だし」
「に、二回目?」
二回目という彼女の言葉に、僕が大きなショックを受けた。
彼女は、これがファーストキスじゃないのか。僕じゃない誰かと既に済ませているのか。
ためらったが我慢できなかった。僕が勇気を出して、
「だ、誰と?」
相手は誰なのか尋ねる。
僕が祈る気持ちで願う。親とか、以前会ったお姉さんとか、僕が傷つかない人が相手であってくれ、と。これに対する彼女の答えは、
「あ、そっか。あのときって、鈴鬼くん気を失ってたんだった」
「気を、失ってた? いつ?」
「去年の十月に、私と陽さんと美月さんで、でっかい
「うん。……あっ、あの僕が溺れたとき?」
「うん。わたし鈴鬼くんに人工呼吸して、そのクチビル奪っちゃった」
「……なんだ」
実にけろっとしたものであり、聞いた僕が心の底からほっとした。
彼女が腕を解き、僕も腕を解く。僕の体から離れた彼女が、僕が大好きな笑顔を浮かべる。
「鈴鬼くん、好き。初めて会った時から大好き」
「え? 初めて会ったときからって。ごめん、気が付かなくて」
「ううん。……えっとね、鈴鬼くん。私、鈴鬼くんに謝らなくちゃならないの」
「謝る?」
「鈴鬼くんを、リープゾーンに引き込んじゃったこと。私、鈴鬼くんにトゥインクルスターとしての私を見てもらいたくて、鈴鬼くんを想いながらユニヴァーデンスクロックのボタン押しちゃったの」
「え、そうだったの?」
「だから、鈴鬼くんが前に入院した本当の原因って、たまちゃんじゃなくて私なの。他にもいっぱい危険な目に遭わせて、本当にごめんなさい」
彼女が僕に深く頭を下げた。
時効に決まっている。あの日直の仕事を押し付けられた残暑の日、引き込んでくれなければ、僕は彼女に気付けなかった。
僕は彼女が誰よりも好きだ。
「気にしないでいいよ。引き込んでくれなきゃあんな体験絶対にできないし、引き込んで君に出会えたおかげで、僕も、男として成長できたかなって思ってるから」
「ありがとう。……鈴鬼くん、本当にありがとう。今日は今までで最高に幸せハピネスな日だよ。生きてるって感じ」
「僕こそ、ありがとう。僕なんかを好きになってくれて」
僕と彼女がほほえみ合い、僕が、彼女の小さな手を握る。
「家まで送ってくよ。このあと坎原さんちと約束あるんだよね?」
「うん。鈴鬼くんは、……優しいね」
「そ、そうかな?」
「うん。あ、今のは褒めてないからね。ま、そんな鈴鬼くんがおねえさんは愛おしいんだけど」
「おねえさんって。僕ももうすぐ誕生日だよ」
「ふふっ、ちょっと早いけどおめでとー。ねえ鈴鬼くん、これからは、二人のとき茶籐くんみたいに、小四郎って名前で呼んでいい?」
「えっ、かまわないけど。じゃあ僕も、二人のときは紬実佳って呼ぶけど」
「うん、呼んで呼んで」
「……紬実佳」
「うん、小四郎」
「照れるな」
「ほんとだね、ふふっ」
さっきから僕は落ち着いたふりをしているが、内心は叫んで走り回りたい気分だった。
やった。本当にやった――。想い続けてから約半年、僕は彼女とようやく結ばれた。