YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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オトナなショーツを今一度洗濯いたし申し候

(あーあ。〝行くな〟って言ってくれたら、たまちゃん()に行かないで一緒にいたのにー)

 

 庚渡紬実佳が、明倫中学の制服を脱ぎながら、晴れて交際することになった彼・鈴鬼小四郎に対するぼやきを内心でつぶやいていた。

 ここは紬実佳の自室。親も兄も姉もみな出かけており、いま紬実佳は独りで家にいる。

 

(小四郎、もっとオラオラして私を求めてくれたらなぁ。すれば私、全部あげちゃうのに)

 

 スカートを下ろす紬実佳。今日は気合いの入った、少しオトナなショーツを履いていた。

 明倫中の制服をハンガーに掛け、余所(よそ)行き用の服に着替え始める。紬実佳はこの後、親友の坎原環の家に「仕方なく」行く。

 本当なら紬実佳は、彼をこの部屋に呼び、親や兄姉のいないこの隙にめちゃくちゃにされたかった。壊れるくらいに自分を激しく求め、忘れられない思い出を刻み付けられたがっている。だから心の中でぼやいており、先ほど彼に向かって「優しい」と言ったのである。

 

(でも、私の期待どおり、私の誕生日に告白してくれるなんて、やっぱ小四郎ステキ。告白してくれたときの顔、キスした後の顔、めちゃめちゃ可愛かった……うふふ)

 

 紬実佳が余所行き用のスカートを履きながら彼に()え、独りニヤニヤしていた。

 紬実佳は自分の誕生日に彼が告白することを期待していた。それで彼が期待に(たが)わず勇気を出して告白したため、さすがは私が見込んだ男の子、と上から目線で喜んでいる。

 しかし、不安もあった。それは日曜、黒い巫女(みこ)姿の子供を半殺しにする、とても醜いところを見られてしまったから。嫌われずに済んでいたようで紬実佳が胸をなで下ろす。

 

(……ふふっ、ふふふ)

 

 そして、先ほど重ねた唇をなめ、気味の悪い笑みをもらす。

 少し乾いていた彼の感触、少しだけしょっぱく感じられた彼の味。セーターを着ながら、親友の環になんてのろけようか考える。

 いま紬実佳の脳内は幸せで満たされている。だが、これでも全然足りない、紬実佳を満足させるには至らない。まだ中学一年生の彼女だが、彼のすべてを知りたがっている。

 

(キスが限界かなぁ。あーあ、キスより先の思い出、欲しかったなぁ)

 

 余所行き用の格好に着替えた紬実佳が、ベッドに腰掛けてため息を吐いた。

 性急ではないか。これから付き合うのだから、ゆっくりと愛を育めばいいのでは。しかし、そうはゆかない事情が紬実佳にはあった。

 紬実佳が彼との思い出を欲しがるのには理由がある。それは、今日で彼と別れてしまうから――。

 

「トゥインクル」

「べーちゃん」

 

 別れの使者である妖精が紬実佳の前に現れた。

 

「お別れは済んだベエか?」

「……うん」

 

 本音は全然満足していない。愛する彼に自分のすべてを(ささ)げたかった。

 しかし、予断を許さない状況にあった。彼を失うところを見たくないため、涙を()んで首を縦に振る。

 今一度紬実佳が、妖精から知らされている明日について問いただす。

 

「ねえべーちゃん。このままだと、小四郎が、明日死んじゃうってホントなんだよね?」

「うむだベエ。この前トゥインクルがボコボコにした子供が、いま血眼になってスズキを探してるベエ」

「…………」

「明日スズキは捕まり、口に出すのも(はばか)られる(むご)拷問(ごうもん)をスズキは受けるベエ。そして(やつ)は、わざわざとトゥインクルの前に変わり果てたスズキを引きずり出して(わら)ってから、スズキを虫けらのごとく殺すベエ」

 

 紬実佳は妖精から、以前ぶちのめした黒い巫女姿の子供に彼が明日殺されてしまうことを聞いていた。

 妖精は彼が明日捕まる、と言っていた。それならば、

 

「べーちゃん。予知できてるなら、私があした小四郎のそばに四六時中いて」

 

 と、紬実佳が彼を守ることで彼の死を回避できるか問うが、

 

「残念だけど、たとえトゥインクルが守っても防ぎきれるモンじゃないベエ。あの子供はこの国の表の世界も裏の世界も(ほしいまま)にする黒幕みたいな力の持ち主だベエ。あらゆる手段でスズキを追い詰めるベエ」

「……そんな」

「所詮スズキはただのニンゲン、(こら)えることができないベエ。これがリングレットを始めとするコスモスの子だったなら、奴も手を出さなかったんだベエが」

 

 妖精はノーと告げ、この答えを聞いた紬実佳が落胆した。

 もし闇に()ちた紬実佳を止めたのが、彼ではなくコスモスの子だったら。例えば環だったら、常人はもちろんのことヘイズの者でも手が出しにくい。

 国家権力、裏社会の勢力、そしてヘイズ。妖精が言ったあらゆる手段とはそういう意味であり、黒い巫女姿の子供が隠然たる勢力の持ち主であることを妖精は示唆している。彼が力のない(ただ)の少年であることが災いした。

 なお、先に述べた三つの内の前者二つが、コスモスの子を害そうとしても歯が立つわけがない。下手に手を出して反撃されれば壊滅的な状態に陥り、今の治安秩序が乱れるおそれがある。したがって紬実佳を止めたのが、もしコスモスの子だったならそれはやらないだろう、と妖精はシミュレートしている。

 

「ねえべーちゃん。あのとき、小四郎を振り切ってでも、あのコ殺すべきだったのかな……」

 

 彼には絶対に聞かれたくない、物騒な言葉を紬実佳が吐いた。

 仕留めておけば、彼も死なずに全てが終わったのではないか。だが、

 

「難しいトコだベエ。確かにあれはブラックホール団の中枢、戦いに終止符が打てたかもしれないベエが、でも、スズキが離れてしまうベエ」

「……そっか。小四郎、怖がってたもんね」

「トゥインクルは全く幸せにならないから、止めてよかったと思うベエ」

 

 殺しても殺さなくても、彼を失う結果は変わらない予測を妖精が伝えた。

 そして、紬実佳が泣き始める。今まで我慢していたが、変えることのできない非情な運命が心を決壊させる。

 (せき)を切ったように涙をこぼす紬実佳。一目見た時から恋し、ようやく結ばれたのに、どうしてこんなことに――。

 

「あれが現れるのは予測できなかったベエ。トゥインクル、ごめんだベエ」

 

 泣く紬実佳に妖精が謝った。

 妖精とて不本意なのである。いくらプログラムと言えども人を愛する気持ちは理解できる。まして自分が選んだ女の子だ、その気持ちは(かな)えてあげたい。

 

「ううん、しょうがない、しょうがないよ……」

 

 しかし紬実佳は気丈にも妖精を慰めた。

 自分に言い聞かせるようにしてつぶやいた紬実佳。これを()(びん)と思った妖精が次策を伝える。ブルーマリンという手が使えなくなった以上、これに賭けるしかないと臨んで。

 紬実佳が私欲で拾った愛玩動物(ペット)、妖精にとってはイレギュラー。しかし、まさかそのイレギュラーに、世界の運命を託す羽目になろうとは――。

 

「トゥインクル、これでスズキとはお別れになるベエが、また()えるベエ」

「……えっ?」

「スズキはいつか、違う形でトゥインクルの前に現れるベエ。ボクも頑張ってそのように仕向けるから、そのときまでどうか負けないで欲しいベエ」

 

 妖精が励まして消えた。

 妖精は見込んではいる。イレギュラーは初め取り合う価値もない凡人だったが、コスモス及び敵と触れ合ったことで価値は見違えるほどに増している。

 男子三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ、とは違うが、かまう気にはなるくらいに認めていた。しかし、それでもかなり厳しい。砂漠に落としたコンタクトレンズを見つける確率、夜空の中から異星人が乗るUFOを見つける確率。自らが課したミッションだが自信なく、励ましが気休めにもならないことは妖精自身が分かっていた。

 一人残された紬実佳が、

 

「……やだ」

 

 認められない思いを吐く。

 

「やだ、やだ、やだぁ! 忘れたくない! せっかく付き合ったのに、小四郎のこと忘れちゃうなんてやだ!」

 

 駄々をこねる紬実佳。彼と別れてしまう悲しみが大声を上げさせる。

 紬実佳が彼を思い出す。彼の顔、彼の感触と匂い、彼の声に彼とのあらゆる思い出。まるで念じるように彼のことで頭をいっぱいにする。

 忘れるもんか、と紬実佳が、脳に身体(からだ)に心にと彼を刻み込む――が、次の瞬間。

 

「……え、私、なんで泣いてるの?」

 

 紬実佳が泣いている自分を(いぶか)しんだ。

 部屋の時計を見る。自分の誕生日を祝ってくれる親友の家にそろそろ行く時間。

 

「もうこんな時間。そろそろ環の家に行かないと」

 

 部屋には、隣町のお嬢様学校、白山学院(しろやまがくいん)の制服が掛けられていた。

 

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