YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
世界は、大きく変わった。二年前では想像も付かないくらいに。
まず去年の七月、全世界に衝撃が走った。世界の警察を自称し、世界のナンバーワンを自負するアメリカが、突然二つに分かれたのだ。
アメリカには「アメリカ第一主義」という自国の利益を最優先にする標語があるが、そのアメリカが二つに分かれた原因は、とある白人の実業家がこの標語を過激なものにした「白人至上主義」を唱えたことによる。アメリカは言わずと知れた人種のサラダボールだ。アメリカに住む黒人、アジア人、先住民、そのほか様々な人種の人々が、この傲慢な血統主義に猛反発した。
今、アメリカは二つ存在し、そのどちらもがアメリカを自称している。白人至上主義を推し進める南部と合衆国の形態を維持する北部に分かれ、その対立は歴史に詳しいコメンテーター
アメリカはいま混乱の真っ
次にアメリカの分裂から僅か数日後、隣の中国で反乱が勃発した。
中国と言えば共産党による一党独裁の社会主義国家だ。そんな国の体制を
かつて中国では、民主化のデモを国が武力で弾圧した「
若者たちの身をなげうった快挙、国に自由と民主化を求める気炎により、今や中国全土に革命の嵐が吹き荒れているらしい。いま中国の若者たちは白い巾をかぶり、「
香港蜂起の裏では
そして北のロシアはウクライナと停戦した。
ウクライナは国土の東を削減された。ロシアは戦争で一定の成果を挙げたことになるが、その代償はあまりにも大きかった。
ミサイル、火器、戦車戦闘機にドローンなど。
各国が経済封鎖をしたことによってロシアへの支援は断られている。中立を装いつつも実質的な同盟国だった中国は前述のとおりで、北の広大な大地を基に強権を誇ったロシアは今や崩壊目前、あの土地が次々に独立するのでは、とささやかれている。
他、ヨーロッパではEUが解散し、インドはパキスタンとの戦争が勃発した。
主要な大国がみな不安定な情勢に陥った。去年は悪魔の年、ある国の大統領が「終末の到来だ」なんて嘆いたニュースを目にしている。
だが、日本だけは何事もなかった。いや、何事もないと表すには語弊があるが、少なくとも恐慌に陥るような事件は起きず、混迷の世界情勢を対岸の火事として見つめている。
かつての日本は脅威と圧力に
次に隣の中国は、友好を装いつつも日本の領土に手を出し始めていた。軍事力を背景に
北方のロシアも今やてんやわんやだ。日本を取り巻く大国の脅威が
二年前の眼鏡の総理は辞任し、代わってひげを生やした見た目の若い男が総理に就いた。
新しい総理は「論破王」などと一時期ネットか何かで呼ばれていたことを僕は覚えている。軽薄な印象であまり好きになれない人だったが、総理に就任した途端一変し、何というか、非情な判断もためらわずに下せそうな印象へと変貌した。
十四年間しか生きていない僕が言うのも何だが、軽薄な印象が抜けて良くも悪くも政治家らしい顔付きになったとは思う。そんな総理主導の元で日本は急激に変わっている。徴兵令は最たる例だ。他にも国民に労働が義務付けられ、無職の人は国が
そして、物価は更に上がり、追い打ちをかけるように税金も上がった。代わりに学費には補助金が入るようになったが、いま生活が苦しいという人はたくさんいる。去年の二月にあるニュース番組でコメンテーターが「いま日本は軍国化している」と言った。そのコメンテーターも今では「次代のために今は辛抱」などと、上からの圧力なのか懸念を表さなくなったが、増税に徴兵に強制労働、軍国化という表現は的を得ている気がする。
いずれにしろ僕のような庶民の子供は小遣いが減らされた。政治や国際関係など大きい話は分からないし、僕みたいな子供はただ従うしかないのだが、平和で争わずに済む暮らしやすい世の中になって欲しいものである。
「コシロー、ススム。今週の日曜、遊びに行こうぜ」
放課後。帰り道にて師泰が僕と丞を誘った。
今日は水曜日、部活が休みの日だ。僕と師泰と丞は一年のときと同じく共に下校している。
「え? 日曜って師泰、田名河さんとデートなんじゃ?」
僕は今日学校で田名河さんが
師泰が僕と丞を誘う理由を答える。
「市がみんなで遊びたいって言うからよ」
「へえ」
「市も友達連れてくるって言ってっから。な? どうせ暇だろ? 遊びに行こうぜ」
女の子と合同で遊ぶと聞いた丞が、「おー」と嬉しそうに声を張り上げた。
普通なら丞のように喜ぶべきなのだろう。だが、僕は乗り気になれなかった。女の子と遊ぶというのが、後ろめたい気持ちになって引っかかったのだ。
師泰と田名河さんの話になるが、師泰は僕に「女と遊ぶなんてチャラい」と言っておきながら、
僕も誰かのために「強くなりたい」って思って柔道部に入った。だが、僕はその誰かが分からずにいる。勉強しようと思ったのも、オシャレな男になりたいと思ったのも、その誰かのためだった気がする。
誰かが思い出せない。僕は、記憶喪失なのだろうか。変に思われるだろうから誰にも明かせないが、僕は二年の頃から、その誰かがずっと思い出せなくて悩んでいた。
誰かとは、女の子だった気がする。それで僕は喜ぶべき師泰の誘いに後ろめたさを感じてしまうのだ。
「コシロー。おまえ冷めてねえか? 女と遊ぶんだぞ?」
浮かない顔をする僕に師泰が気付く。
「そ、そんなことないよ」
「ま、気持ちはわかるぜ。この
「そうだね」
「コシロー、お前もこれを機に彼女作れよ? 女と遊ぶのって楽しいぞ」
「なんだよそれ。師泰さ、小学校の頃と言ってること全然違くない?」
「へっ、人は変わるもんよ」
師泰の開き直りに僕は苦笑した。
誰かとは、誰なのか。もしかしたらそんな子はいなくて、全部僕の妄想なのかもしれない。
諦めるべきなのか、忘れるべきなのか。誰かを思い出したいが、そもそもそんな子いるのかいないのか分からない。師泰に倣って僕も変わるべきなのだろうか。