YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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チュロスのギザギザ 揚げたときの生地の破裂を防ぐため

「女ってのは、どうして買い物なげーんだろうな」

「ほんとだね」

 

 師泰が飽き飽きとした顔でぼやき、それに僕も飽き飽きとした顔で答えた。

 日曜日。隣町・(こう)(りょう)市の駅から歩いて五分程度の場所。そこで僕と師泰は待っている。

 今日は本来なら師泰と田名河さんのデートで、僕はこの場にいないはずだったのだが、田名河さんから「みんなで遊ぼう」と誘われたので、僕と丞は師泰に付いて来た形で、田名河さんとその友達の二人の女の子と遊んでいる。

 

()(とう)さん。火藤さんは中で買い物してこないの?」

 

 僕が隣に立つ田名河さんの友達に尋ねる。

 

「私はいいよ。ここで市たちを待つよ」

「そっか」

 

 田名河さんの友達・火藤さんが答え、これに僕が返事した。

 ()(とう)愛加那(あやな)さん。やや()り上がった目が特長的な、ショートカットが似合う他組の女の子である。ものすごく可愛い訳ではないが、可愛い方だと思う。

 僕と師泰と火藤さんは、田名河さんともう一人の友達を待っていた。田名河さんともう一人の子は、服も扱っているコスメショップの中で飽くなき物色をしている。

 丞は? と言うと、

 

「できました! どうよ、このメイク?」

「やだー高波市くん。その太すぎなまゆげ熱血すぎ!」

 

 コスメショップに入り、田名河さんたちと楽しんでいた。

 自分の顔にメイクを施し、それをツッコまれている丞。化粧品で遊ぶのはどうかと思うが、なに食わぬ顔してコスメショップに入り、その状況を楽しむ順応性は見習うべきなのかもしれない。

 師泰が丞を眺めながら「あいつ楽しそうだな」とぼやく。それから師泰が店の入り口を見上げ、これに僕と火藤さんも釣られて見上げる。

 

「市が言ってたけど、この店って人気なんだよな~」

「ああ。妹もしょっちゅう来てるみたいだよ」

 

 店の看板には「プリプリホリック」と描かれていた。

 一つ下の妹いわく、女の子に人気の店らしい。妹が「このまえ一番乗りした」と誇っていたことを僕が思い出す。

 首を下げて視線を店内に戻すと、隣の火藤さんが僕に()く。

 

「ねえ鈴鬼くん。鈴鬼くんって、妹いるの?」

 

 僕の目を上目遣いで見つめながら訊いたため、この視線に僕がいささか戸惑いながらも答える。

 

「うん。一つ下にいるよ」

「へー。鈴鬼くんの妹なら、きっと可愛いんだろうね」

「可愛いって。全然可愛くないし、〝鈴鬼くんのなら〟ってどういう意味?」

「あっ、ごめんごめん、変な意味で訊いたわけじゃないの。鈴鬼くんってさ、カッコいいから、その妹さんもきっとカワイイんだろうなって」

「僕がカッコいい? そんなわけないよ」

「謙遜しないで。鈴鬼くんはカッコいいよ。会ってみたいなー、鈴鬼くん、今度妹さん紹介してよ?」

「え? う、うん」

 

 今日初めて会った火藤さんが、妹に会いたいと言ったために僕は戸惑った。

 妹に会いたいとはどういう魂胆なのだろうか。それだけじゃない、火藤さんは今日初めて会った僕に、「趣味はなに?」とか、「食べもの何が好き?」とか、僕の事について色々と詮索した。

 意図が分からない。僕のことなど知ってどうするのだろう。依然として僕を見つめる火藤さんの視線に、僕が困って師泰に顔を向けると、師泰はボソッとつぶやいてから顔を背けた。

 師泰に見捨てられて困った僕が店頭に目を向ける。店頭にはガーデニング(など)で使われそうな(しゃ)()た形の台座があり、その上では看板娘ならぬ看板白ネコが僕と火藤さんを見ていたのだが、僕が助けを求めるべくその白ネコに顔を向けると、白ネコまでにもそっぽを向かれてしまう。

 

「師泰、おまたせ~」

 

 グッドタイミングとでも言うべきか、田名河さん達と丞が店から出てきた。

 やっと出てきたか、とボヤいた師泰の一方、田名河さんの友達は紙袋を提げている。店で何か購入したもよう。

 丞がアトラクションから戻ったような笑顔を浮かべ、

 

「茶籐、鈴鬼、どうよこのメイク? セクシーだろ?」

 

 目の周りにアイシャドウをタヌキよろしくと言わんばかりに塗りたくり、眉間のやや下に水色のハートを描いていたため、僕と師泰があきれた。

 丞が師泰に尋ねる。

 

「茶籐、ちょっとは進展あったか?」

「いやー、それが。コシローが鈍感なのは分かってたけどよぉ」

「師泰、鈍感ってなに?」

 

 僕たち男三人の会話に割り込むように、

 

「ねえ、そこの男三人。これからお茶しにいかない?」

 

 田名河さんが人差し指を立てながらウインクし、次の行き先を提案した。

 あざといな。田名河さんの仕草に僕がそう思う。

 

「茶?」

「うん。ここからちょっと歩くんだけど、行ってみたいカフェがあるの」

 

 付き合っている子に誘われては行くしかないだろう。師泰がうなずき、次の行き先が決定した。

 丞がビジュアル系ならぬピエロ系の顔のメイクを落としながら、田名河さんに連れられる形で歩くこと約十五分。目的のカフェ、と言うよりは店に到着する。

 カフェと言うからオープンテラスなコーヒー屋を想像していた。到着した店は、テイクアウトじゃなければ店内での飲食に限られるような店であり、

 

「何がカフェだ。市、ここパティスリーじゃねえか」

「へへ~」

 

 僕が思ったことを師泰がツッコむ。

 それにしても「パティスリーって何だ?」と思った僕をよそに、スマホを取り出した田名河さんが一枚の画像を僕たちに見せながら勧める。

 

「こまけーことはいいんだよ。このフラミンゴチュロスってのがすっごくおいしいって聞いたからさ、師泰、一緒に食べよ?」

「……おう」

 

 師泰が田名河さんから目を()らしながら承諾した。

 甘酸っぱい。と思ったことはさておき、田名河さんがスマホに映した菓子は、チュロスがピンク色の鳥を形作っており、そして鳥の上に描いたハート型のホイップが甘そうで、確かにおいしそうである。

 写真映えも良い。チュロスで鳥を形作るなんてちょっとした芸術だ。僕たちが田名河さんを先頭に店に入り、田名河さんがさっそく先の菓子を頼もうとするが、

 

「ええっ。フラミンゴチュロス、売り切れなの~?」

「申し訳ありません。先ほど全て売れてしまって」

「そんなぁ」

 

 店員に謝られてガッカリとする田名河さん。先の菓子は完売していた。

 仕方なく星形の穴が開いたドーナッツと茶を頼み、僕たち六人がテーブルを探す。

 

「あっ」

 

 田名河さんの驚いた声に振り向くと、その視線の先にあるテーブルには、先の菓子がたくさん並べられていた。

 そして、四人の女の子が、先の菓子を並べたテーブルを囲んでいる。買い占めたのだろうか。

 僕たちが先の菓子があるテーブルから近いテーブルを囲む。悔しがる田名河さんを師泰がなだめる一方、四人の女の子による少々やかましい会話が耳に聞こえる。

 

「外はカリッ、中はモッチリ。そして中々のデコレーション……。これはおいしいでぷるんす」

()(づき)ー、もう自分の食べちゃったよ。ブツブツ言ってないで一つちょうだいよ」

「あなた食べるの早すぎなのよ。キルパティ新作のスイーツ、ちゃんと味わって食べないと。それにスイーツコンクールは来月なのよ。チュロスの断面がなぜ星の形なのか、この神の舌で早く解明しないと……」

「けちんぼー。じゃあ(たまき)ちゃん、(うま)そうに食ってないでさ、このお姉さんに一つちょうだいるん」

「お断りですにゃん。これはあたしの家、坎原(かんばら)家の大変価値のあるスイーツです。初めてこれを食べたとき、あたしは(いた)く感動しました。それと同じくらい、先ほどの金がない乾出さんの財布にも感動しました。であれば、文化も、(とし)の垣根も越えて、このチュロスの味その価値! (いぬい)()さんにもお分かりいただけるはず」

「ものは試し、おひとついかがですか? って言ってくれないの?」

「およー」

「えーい、じゃあ売って! あたしの全財産で勝負だー」

「五十円ってキラ☆やばー。乾出さんほんとに高校生ですか? 小学生よりお金もってないですにゃん」

 

 訳の分からない会話が聞こえる一方で丞が気付く。

 

「あれ? あいつって」

 

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