YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「
田名河さんが所望した菓子を買い占めている女の子四人。そのうちの背が小さな一人に丞が声をかけた。
声をかけられた子が丞に振り向く。すると、――トクンっと、僕の胸がどうしてか高鳴った。
「ロボ女だよな? オレオレ、高波市丞。小三の頃クラス一緒だった」
「あっ、高波市君か。久しぶりだね」
「おう、すっげえ久々だな。中学に上がったときさ、庚渡みねえなー、とか思ったけど、聞けば
「ふふっ、懐かしいね」
「おまえ眼鏡してなかったか? 外した?」
「うん。今はコンタクト」
丞と話す女の子に、僕は
胸のドキドキが止まらない。話をしてみたい。僕はあの子と、どこかで会っている――。
「しっかしさすがは白山学院、庚渡の友達みんなアイドルみたいじゃん。……初めまして。僕、庚渡紬実佳さんと同じ小学校に通っていた高波市丞と申します」
白山学院とは、ここ香陵市の私立学校で、お嬢様学校として名高い中高一貫校である。
菓子を並べたテーブルを囲む他の三人に、かしこまって自分の名前を告げた丞に僕が、
「丞」
「うん? なんだ鈴鬼? おまえもお嬢様たちに挨拶したいのか?」
「うん」
「……へ?」
「丞。庚渡さん、でいいんだよね? 僕に紹介してくれないかな?」
自分でも驚くようなことを頼んでいた。
丞の知り合いなら同級だろう。僕が女の子の愛らしい顔を見つめながら記憶を掘り起こす。
女の子の名前は庚渡紬実佳さん。僕はこの子とどこかで会っている。しかし、いつ、どこで、どのように。思い出せそうで思い出せず、とてももどかしい。
「おい、コシロー」
「鈴鬼くん」
後ろから師泰と田名河さんの声が聞こえたが、僕は振り向かなかった。
僕の視線は引き寄せられている。どこかで
「ええっと、庚渡さん」
口をぽかんと開けている庚渡さんに僕が話しかけた。
「は、はい」
「突然すみません。僕、鈴鬼小四郎って言います」
「鈴鬼、小四郎くん」
「はい。いきなりなんですが、僕と、友達になってくれませんか?」
またしても驚くようなことを僕は申し込んでいた。
後ろの師泰と女の子三人。そして隣の丞。誰もが言葉を発せずにいる。そりゃそうだろう、女の子に縁のない僕が、生まれて初めて異性にアプローチしているのだ。
自分でも分かっている、身の程知らずだって。でも、どう思われたっていい。この機会を僕は見過ごしたくないし、どこで逢ったのかも知りたい。
「庚渡さん」
「は、はい?」
「君とは、初めて会った気がしないんです。僕のこと覚えていないでしょうか?」
「……え? それって」
「あっ、あ。ごめんなさい、今のは忘れてください。改めてお願いします。僕と友達になってください」
しまった、
分からないということは、僕の独りよがりな妄想で会っていないのか。困らせてしまって動転する僕が周りに目を泳がせると、庚渡さんと向かい合って座る
ただでさえ紅潮している顔が更に紅潮する。自分の行いが招いた大失敗だ。もう「初めて会った気がしない」なんて言うのはやめよう。落ち着いて考えればひどい口説き文句である。
そして、恥じ入る僕を更に責める者がいる。庚渡さんの隣に座る子が手にする菓子を置き、
「ちょっと待ってよ、さっきから聞いてればさ」
立ち上がって敵意むき出しな目を僕に向ける。
「いきなり何なのあんた。紬実佳こまってるじゃない」
髪を右にまとめたサイドテールの子が僕と庚渡さんの間に立ちふさがった。
丞が「アイドルみたい」と言ったのもうなずける。ネコのようにパッチリとした目、潤った桃色の唇。その子の容姿はまるで漫画の世界から飛び出したように華がある。
美しさは時として人を卑屈にする。住む世界が違う、と思わせるような美少女に阻まれた僕が気後れする。
「鏡見てきなよ。あんたみたいな男が紬実佳と釣り合うわけないじゃない」
サイドテールの子が追い討つように顎をしゃくって僕を排除した。
言われるとおりだ。お嬢様学校に通う子をナンパするなんて。僕が当事者ではなかったら鼻で笑っていただろう。
しおれる僕の心。ところが、庚渡さんが僕を救うが
「待って
サイドテールの子を呼び止める。
「紬実佳」
「私も鈴鬼くんとは、初めて会った気がしないの」
庚渡さんの言に僕の胸が飛び跳ねた。
僕の心に希望という名の幸福が注ぎ込まれる。まさか庚渡さんも、僕と同じ
「どうしてだろう。今日初めて会ったはずなのに」
「え、え? 紬実佳」
「……鈴鬼くん」
「は、はい!」
「私からもお願いします。私と、友達に」
友達になれるのか。無理とばかりに諦めていた僕の心が膨らむ。しかし――。
「ダメぇ!」
障壁が再び阻む。サイドテールの子が無理やり遮った。
まさに
「なに言ってんの紬実佳! ダメだよこんな軽そうな男!」
「環。軽そうには見えないけど」
「どこからどう見ても軽いじゃない、ナンパしてくる男なんて。あたしは認めないから。行きましょう
まくしたてるサイドテールの子に、栗毛の女の人と黒髪の女の人が菓子をすべて回収した。
栗毛の女の人は「やったー、環ちゃんありがとう」なんて言っている。そうして、女の子四人がこの場を後にし、去り際にサイドテールの子が庚渡さんを押しながら振り返る。
明らかに敵意ある視線。その鋭い目つきに僕がたじろぐ。
「あんたみたいな男、絶対に認めない。紬実佳はあたしんのだ」
追いかけたいが追いかけれず、
「おいコシロー」
師泰が声をかけ、これに僕が気もそぞろに振り向いた。
「おまえ、あーいうのが好みだったのか?」
「……分からない」
「は?」
「自分でも驚いているんだ。なあ師泰、師泰は覚えてないか?」
「覚えてない?」
「うん。さっきから言ってるけど、僕あの子とは初めて会った気がしないんだ。師泰は覚えてたりしない?」
「……いや、知らねえな」
小学校以来の付き合いの師泰も知らないと言った。
師泰も知らない庚渡さん。分かっているのは丞と小学校が一緒な事だけだった。
あーいうのが好み、と言った師泰だが、庚渡さんは小さい子で、ともすれば「ロリコン」とからかわれる。僕にロリコンな趣味などないとは思う。僕は
「しかしまさか鈴鬼に、あそこまで積極的な一面があったとは」
「俺もコシローがあんなにグイグイいくとは意外だったわ」
突飛だった僕の行動に師泰と丞があきれ交じりな感想を述べると、
「ちょっと鈴鬼くん! 今のどういうこと? 君ってそういう男だったっけ?」
田名河さんが師泰を押しのけて僕を激しく非難した。
確かにわきまえるべきだったのかもしれない。女の子と遊んでいるのに、別の女の子にちょっかいを出したのだ。田名河さんらの面目は丸潰れになるだろう。
でも、見過ごせなかった。運命と言うべきか導きと言うべきか、そういったものを僕は庚渡さんから感じた。僕の本能が庚渡さんに話しかけろ、と命じたのだ。
「鈴鬼くん見損なったよ。もー誘わない。……愛加那、元気出して」