YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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これからもみんなと一緒にいたい

 五月も中旬中頃を迎え、彼が地元を離れる時が来た。

 引っ越しはこれから世話になる彼の祖父母が(ほとん)どを済ませた。彼が今まで住んでいた家は売りに出される()(はず)となっている。

 下校時間を迎えた明倫中学校。その正門にて、

 

「コシロォ」

 

 彼の小学校以来の友人・師泰が、目から涙を落として彼の名を呼んだ。

 今日は彼の最終登校日。彼の友人と知人が、校門に集まって花束を持つ彼を見送っている。

 

「ふざけんなよコシロー。お前が、転校なんて……」

 

 師泰が周りをはばかることなく泣いて彼との別れを惜しんでいる。

 悲しむ師泰を前に彼が思い出を振り返る。出会いは小学二年のころ、当時流行(はや)った対戦格闘ゲームを二人で夢中になって遊んだ。強引なところやからかってくる癖に腹を立てたこともあったけど、成長した今となっては「それも師泰」と割り切る余裕ができた。

 彼は師泰の情に厚い性格が好きだった。そんな友人との別れは彼だって辛い。だが、転校という事情は彼にとってどうしようもないため、彼が「しょうがないよ」と無理に笑って己のために泣く友人を慰める。

 

「惜しい。鈴鬼、今年の全国大会、お前には期待していたのだが」

 

 続いて柔道部顧問の教師・八馬本が彼に告げた。

 一年の冬、柔道部に入部した彼をこの教師は熱心に指導した。厳しかったが、彼が自分に自信を付けることができたのはこの教師のおかげと言っても間違いではない。

 彼はこの教師に恩義を感じていた。よって彼が「先生、ありがとうございました」と深く頭を下げて礼を述べると、190cmを超える背丈の八馬本が、その強面に据わる瞳から熱い涙を流す。

 

「鈴鬼。これが今生の別れって訳じゃないよな? 帰ってきたら遊ぼうぜ」

「うん。こっちに来ることがあったら連絡するよ」

「おう。約束だぜ。指切りげんまんでもしとくか?」

「ハハ。みんなが見てるし遠慮しとくよ。でも、約束する」

「フフッ」

 

 笑顔で見送る丞に彼が(こた)えると、

 

「鈴鬼くん」

「田名河さん」

 

 田名河於市が師泰の後ろから現れ、申し訳なさそうに呼んだ。

 彼が僅かに驚く。彼は連休前の日曜の一件で彼女を怒らせている。

 

「えっと、無視してごめん。まさか、転校するなんて」

「ううん、全然気にしないでいいから。 田名河さんが怒るのは当然だと思ってるし」

「そうなんだ。……ええっと、鈴鬼くん、元気でね」

「うん。田名河さんこそ師泰と仲良くね」

 

 和解を兼ねた別れを彼と田名河於市が済ませた。

 彼と田名河於市は小学校からの知己である。互いに一言も交わさず別れるのは後味の悪さを感じていたため、二人が最後に仲を修復できて息を()く。

 

「鈴鬼、引っ越し先でも元気にやれよ」

「鈴鬼くん、大変だろうけど頑張ってね」

 

 三年三組のクラスメート及び一・二年のときに知り合った皆が彼を励ました。

 そして、長年の友人師泰が最後に声をかける。

 

「コシロー、落ち着いたら帰ってこいよ。それと連絡しろよ」

「うん。それじゃ、みんな元気でね」

 

 こうして、彼が校門を後にした。

 花束を右手に彼が、一人で下校しながら考える。果たして、上手(うま)く別れられただろうか、と。

 彼は自制していた。(そね)みや(ねた)みが(おもて)に表れないよう努めていた。妹と両親を失った彼の心は(すさ)んでおり、温かな日常を持つ先の見送った皆を心の底で羨んでいる。

 転校などしたくなかった。なぜ僕だけが――、と己の不幸を呪っていると、

 

「鈴鬼くん!」

「えっ。火藤さん」

 

 彼が振り返る。連休前の日曜に知り合った田名河於市の友人、火藤愛加那が彼の元へ駆けてきた。

 肩で息をする彼女。額から汗を垂らしており、懸命な彼女に彼が「何の用だろう?」と疑問を感じる。

 彼は鈍い男である。自分に向けられている異性からの好意に気付く男ではない。

 

「鈴鬼くん、好きです!」

 

 顔を上げた彼女が突然告白したため、彼は面を食らった。

 そして、彼の中で合点がいく。彼女は連休前の日曜、彼に彼自身のことについて色々と詮索していた。

 彼は火藤愛加那を可愛いとは思っている。だが、素直に喜べなかった。

 

「ありがとう」

 

 自分のことを好いてくれた彼女に彼が礼を述べると、

 

「ねえ鈴鬼くん、また会えるよね? そしたら、私と」

 

 火藤愛加那が願うように()いたが、彼は首を横に振った。

 

「どうして」

「僕のことなんか忘れた方がいいよ。火藤さんには僕なんかより、もっと素敵な人が現れるさ」

「そんなことない! 私には、鈴鬼くんしか……」

 

 思い出した彼女が問う。

 

「鈴鬼くん。連休前に会った、あの小さい子のことが気になってるの?」

 

 火藤愛加那が庚渡紬実佳のことを問いただした。

 瞳を潤ます彼女に彼が答える。彼女は彼に告白した。つまり、ありのままの気持ちをさらけ出した。そんな勇気を振り絞った彼女に対して(うそ)を吐くのはフェアじゃない、と彼が偽りのない素直な気持ちを告げる。

 

「ああ」

「……やっぱり」

 

 結果は分かっていたが言葉にされるとやはり重く、彼女の顔が落胆を示した。

 泣き始めた彼女に、彼が「でも」と告げる。断っておくが火藤愛加那を慰めるのではない、不幸な自分を貫く意思を表明するためだ。

 今の彼は親も妹もいない、独りぼっちの子供である。こんな(みじ)めで貧しい男が、女の子と付き合っていい訳がない、と思っている。

 

「僕はあの子のことを忘れるよ」

「……え?」

「僕なんかと、付き合っちゃダメなんだ。だから火藤さんも、僕の事なんか忘れて。それじゃ」

「あ、待って鈴鬼くん!」

 

 彼が呼び止める彼女を振り切って走った。

 駆けながら涙を落とす彼。己の身に起きた不幸が彼に幸せを諦めさせている。孤独で荒んだ心が、彼に幸せを放棄させている。

 忘れなければならない、先に見送ってくれた皆の事、そして庚渡紬実佳の事を。実のところ彼は何度も庚渡紬実佳に電話をかけようとした。また、連休のあと庚渡紬実佳から着信があった。しかし、今の置かれた境遇が彼に電話をためらわせ、庚渡紬実佳からの電話にも出れなくさせていた。

 

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