YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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クエスチョン 男に乳首が必要な理由を答えられるか

「コシロー、お前なに飲む? コーラでいいか?」

「うん」

 

 中間テストをどうにか終えた週の日曜日。僕は小学校からの友人、()(とう)師泰(もろやす)と遊びに出かけた。

 ガコン――、と自販機の取り出し口に落ちた缶ジュースを、師泰がかがんで取り出す。

 

「ほら」

「ありがと」

 

 師泰がジュースをおごってくれるとは。缶を受け取った僕がふたを開けた。

 ――が、ふたを開けた途端、飲み口から(あめ)色の泡が景気の良い音を上げて吹きこぼれ始める。

 

「うわわっ」

「ハハッ。こぼすなよー」

 

 してやったり、と師泰が笑った。缶の中身は炭酸であった。

 僕がこぼさぬよう急いで口を付ける。くそっ、師泰め、イタズラしたな。おごってくれるなんておかしいと思った。

 

「おい〝ススム〟。家帰ってから見ろよ」

「んなこと言うなよ茶籐。俺ずっとこの漫画が映画になるの楽しみにしてたんだ。茶籐も鈴鬼も一緒に見ようぜー」

 

 (たか)()()(すすむ)が、映画館で購入したパンフレットを僕と師泰に見せてきた。

 目をキラキラと輝かせて見せる丞は、中学校に進学してから知り合った友人である。野球部に所属する人懐っこい性格の持ち主で、少しサルっぽい顔をしている。

 丞が開くパンフレットには、緑と黒の市松模様の羽織を着た少年が描かれていた。今日、僕と師泰と丞は、少年マンデーに連載されていた漫画「()(めつ)(かたな)」の映画が上映されるとのことで観に出かけた。観た感想としては月並みだが面白かったと思う。

 映画に影響されたのか丞が、二つの木の枝をそれぞれ両手に握って構える。

 

「〝()(てん)()(つるぎ)(りゅう)〟!」

「それ違う漫画じゃね? お前ホントに観てたのかよ」

「んなー茶籐。俺がボケかましたんだから、ちょっとはウケろよう」

「面白くねーし。唐突過ぎて付いていけんわ」

 

 師泰がヤジるとおり面白くはなかった。

 

「なあ茶籐、鈴鬼よー」

「あん?」

「男ってのは、どうして乳首があるんだろうな」

「はあ? んなのしらねーよ」

「いや、だって要らなくねえ? 女なら赤ん坊にミルクあげるんだから必要だけどよ、男からは出ないだろ? 神はなんだって男に乳首つけたんだろうな」

 

 更に唐突な疑問を投げかけた丞。これに僕と師泰があきれてしまう。

 しかし、どうして男に乳首があるのか。それは生物なら雄雌問わずみんな持っているから、というありふれた回答しか思い浮かばず、何のためにあるのか必要性は解けなかった。

 言われてみれば生命の謎であるが、中学一年の僕たちが論じても詮無きことである。考え込む丞に僕が「頭のいい人に任せようよ」と申し立てると、

 

「そういやコシロー、おまえ今回の中間の順位上がったんだよな?」

「うん」

 

 話題は身近なものへと変わる。師泰がジュースの缶を置き、僕にテスト結果を確認した。

 中間テストは週初めに実施され、おととい結果と学年順位が配られた。彼女のために勉強した僕の学年順位はそれなりに上がっていた。

 続けて()く師泰。丞は興味ないのかパンフレットに目を通している。

 

「いくつくらい上がったんだよ?」

「五十くらいかな」

「かな、って、なんだよお前。かなも何もないだろが。ちぇ、急に勉強に目覚めやがってよ、この裏切り者が」

「そういう訳じゃないよ」

 

 口をとがらせた師泰に僕は苦笑した。

 僕が少し申し訳なく思う。「そういう訳じゃない」と言った僕だが、実のところ勉強に目覚めている。今までは答えが解けずに悩むことが多くて勉強を敬遠していたが、基礎から学び直して答えを導き出す法則をある程度理解すると、勉強がそこまで苦ではなくなっていた。

 今までの僕は基礎がなっていなかった。だから問題を解くまでに時間を要しており、集中力が続かず答えが投げやりになっていた。多少はスラスラと解けるようになった今では、勉強が案外と楽しくなっている。

 テストが終わっても勉強は続けているし、今日も家に帰ったら勉強するつもりだ。それもこれもすべては彼女のためである。早く彼女に勉強を教えたい。そして、彼女ともっと親密になり、ゆくゆくは付き合いたい。しかし、

 

「ところでお前さ、庚渡紬実佳とどんな関係なの?」

「ぶっ!」

 

 師泰が、そんな僕の不意を突いて彼女の話題を振ったため、僕が思わずジュースを口から吹き出してしまった。

 

「おい、きったねえなー」

「なっ、なんだよ、どんな関係って」

「しらばっくれるなよ。お前がロボ女と一緒に歩いているのを見たって目撃情報はあがってんだよ」

 

 事実であるため、僕は何も言い返せなかった。

 もうバレたのか、見つからないよう細心の注意を払ったはずなのに。ちなみに師泰が言った「ロボ女」とは、主に男子の間で呼ばれている彼女の蔑称である。彼女の顔を隠すようなミディアムボブの髪型と丸眼鏡な外見に起因している。

 答えに詰まる僕に、師泰が嫌らしく口を曲げる。

 

「二学期始まってからおまえ庚渡紬実佳のことよく見てたもんなー。んでコシロー、ロボ女と付き合ってんの?」

 

 師泰が直球で僕を問い詰めると、

 

「えっ、ロボ女がどうかした?」

 

 これには興味が湧いたのか、丞がパンフレットを閉じて話に交じってきた。

 

「おうススム。コシローと庚渡紬実佳が、付き合ってんじゃねーかって疑惑が上がっててよ」

「ああ、ロボ女かー。鈴鬼おまえロリコンだなー。でもあいつ、眼鏡外すと結構かわいいんだよなー」

 

 丞は意外にも彼女を肯定した。

 僕のことはロリコンとからかったが、彼女は可愛いと評した。

 

「は? ロボ女が?」

 

 一緒になって冷やかすと思っていた師泰が丞の言を疑う。

 

「ああ。オレ小学校一緒だったから知ってんだけど、あいつ割と人気あるよ」

「ええっ?」

 

 すると丞が、同じ小学校に通っていた者だから知る評価を伝え、これに師泰が驚いた。

 話題が()れて僕がほっとする。僕と師泰は中学で彼女と出会ったが、丞は同じ小学校に通っていた。

 

「まあ、俺はよく分かんねーけどな。あいつ小学生みたいだし。俺はダンゼン二年の担任つとめてる、よし美センセイの方が」

「丞」

「どした鈴鬼」

「なんで庚渡さんロボ女なんて呼ばれてるの? 小学の頃から呼ばれ続けてるみたいだけど」

「それなー、別の中学に行ったヤツの話になるんだけど、あいつのこと好きなヤツがいてさ。でも照れくさいからって素直に呼べなくて、ロボ女って呼び始めたんだよ。そっから呼ばれてんじゃないかな?」

「へえ」

 

 彼女にまつわることは何でも知っておきたい。僕が丞の話を頭にインプットした。

 しかし彼女、割とモテるようである。まあ、眼鏡を外すと印象がガラリと変わり、第一僕が眼鏡を外した彼女に一目()れしている。他の人が好きになったとしてもおかしくはないだろう。

 この先ライバルが生まれるのか、それとも既に生まれているのか。僕が不安を覚える一方でちょっとした優位を感じた。僕はいま彼女と最も仲が良い男だ、たぶん。

 優越感に浸る僕の肩を、丞がポンとたたく。

 

「よかったなロリコン鈴鬼。背が小さい同士でお前らお似合いだぞ」

 

 祝福した丞だが、何もうれしくなかった。

 いや、祝福なんてしていない。丞の顔は笑いをこらえている。

 

「ロリコンはやめてくれよ。彼女の背が伸びるかもしれないだろ」

「そりゃねーよ。あいつ昔っから背並びで一番ま」

「……?」

 

 急に丞の言葉が途切れ、僕は疑った。

 師泰に振り向くと、師泰も止まっている。これは、まさか――。

 いつの間にか無音と化していた周囲。僕がすかさず空を見上げる。

 

「あれは」

 

 これで三度目になるため、驚きこそしたものの(おび)えはしなかった。

 白い翼を広げる、首の長い大きな鳥。あれは、白鳥か。飛行機の(ごと)き大きな白鳥が、青空を悠然と羽ばたいてた。

 

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