YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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君がいた夏は遠い夢の中

 八月を迎えた夏も(たけなわ)。今日もむわっとした暑い日が続いた。

 青かった空が(かげ)り、日が傾き始めた夕刻。薄紅色の着物を着る()宿(ぼし)(けい)が最寄りの駅に向かっていた。

 杜田(とだ)市立()(じょ)中学校の三年五組に所属する彼女には多くの友人がいる。今日は隣町に住む友人から祭りに誘われ、それで電車に乗るべく駅へと歩いている。

 

「おおっ慧ちゃん、今日は可愛い着物きてるねえ。もしかしてこれからデートかい?」

「ははっ。そうだったらいいんですけど。残念ながら」

「あらー、慧ちゃんとっても可愛いのに。おばさんが男だったらほっとかないわー」

 

 近所のおばさんに声をかけられた慧が苦笑しながら返事した。

 クリッとした二重の快活な目を備え、笑った顔は朗らかであどけない。同じ中学に通う男子から「可愛い」と評判の慧だが、交際している男子はいなかった。

 しかし慧には、気になっていた彼がいた。その彼は、生ぬるい風が吹く六月の下旬、爆発事故に巻き込まれて亡くなっている――。

 

(鈴鬼くんが、もしいたらな……)

 

 もう()えぬ彼に慧が思いを()せる。

 五月の下旬、三年五組に転入して来た彼はどこか寂しそうで、故に慧は気になった。そのあと慧は、彼が家族を五・〇二騒擾事件で亡くしたと聞き、寂しそうに見える訳に独り納得した。

 慧は彼に通ずるものを感じた。慧は同級生の間でも中心的な存在、いわゆるスクールカーストの上位であり、一方の彼は己の不幸を嘆く心の(すさ)んだ少年。共通点など全くないのだが、慧は何故(なぜ)か彼に運命のような必然性を感じた。また慧は、彼の笑う顔を見たかった。

 誰にも分け隔てなく接する慧だが、それでも(とし)が近い男子とは一定の距離を測っている。そんな慧が六月の下旬、歓迎会を開くという口実を付けて彼を誘う。

 

 男子を誘うなんて初めてであり、この上なく勇気を振り絞った。しかし、結果はあえなく断られてしまった。

 慧は落胆した。けれど通じ合える直感は断られた程度で忘れられず、友人は「あんな暗い男ほっときなよ」と慰めるが、その忠言に反して慧は(おも)いをますます募らせた。

 なぜ慧が彼にこだわるのか。それは、慧も同じく寂しさを抱えていたから。友人の多い慧だが、実は誰にも明かせない秘密があり、親にも友人にも話せない秘密を抱えるあまり寂しさを感じていた。しかし五月の下旬、転入して来た彼に慧は、誰にも話せない自分の秘密を明かしても良い気を感じた。

 慧は自分の全てを受け入れる人が欲しくて、彼にその素養を見出してもいた。通ずるものを感じる彼は慧にとって特別な異性だった。しかし、誘った翌日、彼が事故に巻き込まれて亡くなった旨を聞く。あのとき強く誘っていれば――、と慧は彼の死に後悔し、それを今も引きずっている。

 

(電話)

 

 駅のホームで電車を待つ慧のスマートフォンが着信を告げる。

 

「もしもし」

「慧せんぱーい。今どこにいますか~?」

(じゅん)()

 

 電話は齢が一つ下の女の子からだった。

 元気で少し騒がしい年下からの声に、慧が電光掲示板に目を向けると、電車が来るまでにまだ五分あり、控えめな声で通話を続ける。

 

西(にし)杜田(とだ)駅だけど、どうしたの?」

「駅? お出かけですか? あーっ、そっか。今日(おお)美耶(みや)でお祭りでしたよね?」

「うん。潤奈は何してるの?」

「いやー、それがですねー。部活終わって帰りの電車の中でついついうたたねしちゃったら、なーんか(あし)()久保(くぼ)って所に着いちゃいましてー」

「……え?」

 

 葦ヶ久保とは、ざっくりと言ってしまうと埼玉(さいたま)県の山中に所在する集落である。

 慧がいる町からは電車で早くとも二時間は要する。そんな所にいると気楽に言っている子に慧があきれた。

 

「うたたねどころかもうぐっすりじゃない、葦ヶ久保って」

「今日は街中のリサイクルショップ探し回って疲れちゃったんですよ~。OGの人が、学校に残したペンギンのペンちゃんって言う置き物さがしてて、でもそのペンちゃんこの前リサイクルセンターに持ってっちゃったから」

「なんかよく分かんないけど大変だったのね。潤奈の部活、トロピカる部だっけ?」

「はい! 今一番大事なことをやる部ですから!」

「いっつも思うけど、よく部活の先生顧問を引き受けたよね」

「でもたまには寝過ごすのもいいですね。いい匂いするなぁ、ってフラフラっと駅の外に出たら」

「え。駅の外に出ちゃったの?」

「はい。だって戻りの電車、三十分も待たなきゃならなくて暇で」

「電車賃だってバカにならないのに」

「それでですね、駅の外出たらタコ焼き売ってるワゴン車がありましてー。〝イカカフェ〟って言うんですけどー」

「タコ焼きなのにイカなの?」

「ええ。タコ焼きめっちゃおいしかったんですよ。口の中がポコポコして、はー、おいしかった。……あ」

「どうしたの?」

「犬のフン踏んじゃった」

「うえーっ!」

 

 つい大声を上げてしまった慧が、スマートフォンを耳にあてながら周りの電車待ちしている人達に頭を下げた。

 慧に電話をかけた子の名は(あき)(やま)(じゅん)()と言う。慧が住む町から二つ町をまたいだ先の町に住む中学二年生で、当然ながら他校の子である。

 違う町に住み、生まれた年も違う。本来なら知り合うことがない二人だが、とある事がきっかけで知り合っている。

 

「んもう。早く洗ってきなさい。それと潤奈かわいいんだから、フンなんてはしたないこと言っちゃもったいないでしょ」

「またまた~。慧先輩には敵わないですよ~。それじゃ何て言えばいいんですか?」

「心の種にしときなさい」

「イヌの心の種ですね。わかったわん。……えっ?」

 

 スマートフォンから聞こえる一つ下の子の声が急に不穏な調子に変わったため、慧が(いぶか)しんだ。

 

「慧先輩」

「なに?」

「変身して来てもらっていいですか?」

「変身? えっ、ちょっと待って潤奈、急にどうしたの?」

「アイツがいたんです」

 

 切羽つまった子の声に慧が動揺する。

 

「アイツって、このまえ逃げられた人?」

「はい。このまえ闇の力を使って暴れてた男です。あたしこれから()けます」

「ちょっと潤奈。……分かった。()ぐ行くから、無茶しないでね」

「オーライです」

 

 慧が通話を切り、懐から懐中時計に似た器具を取り出した。

 そして器具のボタンを押す。すると、慧の前後に並ぶ電車を待つ人達が、電光掲示板に映るスクロール文字が、まるで一時停止したように止まっている。

 まさに時の止まった空間。その中で一人動ける慧が、続いて手のひらサイズの丸い物を取り出してふたを外す。それは手鏡のようで、慧が自分を鏡に映している。

 

「シンダーエラ! ターンイントアドヴァンシング!」

 

 慧が口上を述べると、手鏡がまばゆい光を放ち、慧の手からひとりでに離れた。

 光に照らされる慧の着物が変容する。慧の着物が、紅色と桜色の上衣二枚と、後ろの結び目に大きなリボンを付けたきらびやかな帯、そして(はかま)へと変わる。

 胸当てが現れ、それが慧の胸部に付けられる。まるで弓道着のような衣装に早変わりした慧の衣装。そして慧が、左手を天にかざすと、その手にイチイの木による丸木弓が現れる。

 慧が右手で両目を覆う。それから右手を払うように目から離すと、その両目には美しい紅色のアイシャドウが引かれている。

 

「夢に向かって走る青雲の志を未来に! 光の戦士〝セントレアアーチェリー〟!」

 

 先に誰にも明かせない秘密が慧にあると述べたが、その秘密とはこれであった。

 慧はコスモスの戦士だった。コスモスとは、日本の破壊を(たくら)む闇の者に対抗する光の戦士の総称である。日本の各地に点在し、年若い女子によって構成されている。

 コスモスに属する者は、それぞれ星をモデルとした姿に変身して戦っている。変身することで現代の科学では説明のつかない力を身に付ける。そんな彼女たちの戦いを知る者はいない。彼女たちは未来よりもたらされたツールを使って時間を止めてから変身し、人知れず戦っている。

 慧は何千万分の一に選ばれた、ほとんどの人間がその存在を知らない変身ヒロインにして戦士なのである。この秘密を慧は丙山潤奈を除いて誰にも明かしてないが、既に亡き彼だけには明かしても理解を得られそうな印象をどうしてか感じていた。

 

「急いで行かないと」

 

 一つ下の子、丙山潤奈は尾行する、と言っていた。

 闇の者との戦いは直ぐにでも始まるだろう。慧、もとい小惑星カリクローモデルの戦士セントレアが高く飛び立った。

 

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