YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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カジキ最速伝説

 埼玉県山中葦ヶ久保。木々に囲まれた山深い場所にありながらも、日中は三十分間隔で私鉄が停まり、都内へと直通する列車も走る、埼玉県の西部に位置する集落である。

 近辺ではセメントの原料である石灰石が採れ、その輸送で鉄道が敷かれた歴史を持つ。もう少し奥の方へ行けば「あの日見た●の名前を僕達はまだ知らない」の舞台で知られる町があり、手前ならば「頭●字D」の舞台となった峠の山道がある。

 片側一車線の幹線道路。片方にはガードレール越しに川が流れる、今日は交通量が多いこの道路で今、全ての車が一様に止まっている。

 信号待ちや停車などではない。全ての車が一時停止したようにピタッと止まっている。その一台の車の上に乗る女の子が、宙に浮かぶカジキと、その後ろで同じく浮かんでいるガスマスクで顔を覆った黒ずくめの男を見上げていた。

 カジキと言ったが、魚のカジキである。信じられぬことだが、カジキはその胴に翼を持っており、両翼を広げて宙を巧みに泳いでいた。

 

――ヤクサァァイッ!

 

 宙を泳ぐカジキが口を開けて()える。

 

「〝旗魚座(ドラド)〟! やれっ、あの女を貫け!」

 

 ガスマスクの男が命じ、カジキが突撃した。

 カジキは上顎に鋭い(ふん)を持っている。その剣と言っても差し支えのない吻による一刺しはサメも致命傷を負うほどだ。更に遊泳速度はとても早く、種によっては時速100kmを超えると聞く。

 鋭利な吻が女の子に迫る。これを女の子が、右に体を()らしてかわすが、

 

「あぐうっ!」

 

 カジキは吻を殴打にも使用する。すかさず吻を払い、避けられなかった女の子が()ぎ倒される。

 

「ヘッ。どうした女? さっきまでの威勢はどうした?」

 

 車から転げ落ちて寝そべる女の子を、ガスマスクの男が鼻で笑った。

 負けじと立ち上がる女の子だが、痛みと疲れで既に息が荒い。この(くり)色を主としたドレスを身にまとう女の子はコスモスの戦士である。

 準惑星セレスモデルの戦士で、戦士に変身した姿をオータム・シアリーズと言う。そして、本名を丙山潤奈と言う。部活動が終わって帰りの電車で寝てしまった彼女は、下車した葦ヶ久保にて偶然にも闇の者を発見し、時間を止めて戦いを挑んだが劣勢を強いられていた。

 苦しい表情を浮かべて額の汗をぬぐう丙山潤奈ことオータムに、闇の者であるガスマスクの男が、

 

「俺を甘く見やがって。後悔させてやるぜ」

 

 憤りを(あら)わに親指を立て、自らの首を斬るジェスチャーをする。

 

「今日こそ俺は勝つ! いけっ、ドラド! あの女を串刺しにしろ!」

 

 男とて女の子を葬ることに(ちゅう)(ちょ)がない訳ではない。ましてや相手は花も恥じらう年頃の中学生だ。しかし、男はある事情から、どうしても勝利を得たかった。

 命じられたカジキの吻が、オータムの体を貫かんとする。――が、オータムとカジキの間を光芒(こうぼう)がすり抜ける。

 光芒に止まったカジキ。オータムとガスマスクの男が、光の放たれた方に首を向けると、

 

「セントレア!」

 

 その弓道着に似た華やかな衣装にオータムが歓喜する。光の戦士セントレア・アーチェリーが、弓を構えた格好で浮かんでいた。

 セントレアが帯の大きなリボンを棚引かせながらオータムの元へ下り立つ。

 

「オータム、無事?」

「はい。ちょっと危なかったですけど」

 

 返事を聞いたセントレアが、退いたカジキと後ろのガスマスクの男に振り向き、

 

「〝バリオン〟! もうやめて! 闇の力を捨てて!」

 

 と、願うように呼びかける。

 

「黙れ! やめるなんて出来るものか! 闇の力がなきゃ俺は、俺じゃなくなる!」

 

 バリオンと呼ばれたガスマスクの男が、怒りをむき出しに願いを拒絶した。

 男が己の右手首を左手でつかむ。

 

「来たなコスモス。俺の力、見せてやる……」

 

 右手を見つめながらつぶやく男。手首の肉が食い込み、右手に(しび)れを感じるほど強く握っている。

 間もなくして男が右手をバッと開き、使役するカジキに開いた右手をかざす。

 

「ドラド! 俺の力を吸え!」

 

 右手から闇のオーラと言うべき黒い気が放たれた。

 黒い気がカジキに注ぎ込まれる。すると、拡大したかのようにカジキが巨大化する。それは体長13メートルを超すザトウクジラと言っても過言ではない。

 大きさとは分かりやすい力の象徴だ。急に現れた巨大生物にコスモス二人が息を()む。そんな二人に男が右手を下ろし、ガスマスクより(のぞ)く目を大きく開いて意気を()く。

 

「俺は変わる! 負けるのはもうたくさんだ! お前らを殺して勝ち組になってやる!」

 

 巨大化したカジキが二人めがけて突撃した。

 先の(とが)った大きな質量が二人に迫る。二人から見ればカジキは飛行機の如し。止められない威力が二人を襲う。

 二人が大きく飛んでかわすが、巨なる質量は追尾する。カジキが縦に旋回し、上に飛んだ二人を追いかける。

 迫るカジキを、二人が今度は左に飛んでかわすが、避けられたカジキが旋回し、二人にまたも吻を向ける。

 

「これじゃキリがない!」

 

 オータムが、追われる重圧に耐えかねて声を上げると、

 

「私に任せて」

「セントレア」

 

 セントレアが弓を構え、右手に光の矢を生んだ。

 光の矢を(つが)えるセントレア。その瞳が見据える目標は、迫るカジキの額。

 カジキの泳ぐスピードはとても速い。高速で近付く敵の額を矢で()()けば、まず無事で済まないはず。そうセントレアが弓の(つる)を引き、光の()(はず)を震えながらも放す。

 光がカジキへと伸びる。流星の如き矢の軌跡に、オータムが拳を握って撃破を確信するが、

 

「そっ、そんな!?」

「止まらない!?」

 

 結果に二人が(きょう)(がく)する。光の矢は額に命中したのだが、カジキの泳ぐ勢いに負け、折れてしまった。

 頭部をえぐられながらも迫るカジキ。油断していたオータムは逃げ遅れ、一方で撃ったセントレアは折れた結果にショックを受けている。

 近付く大きな吻。セントレアは心の底で不安を感じていた。

 

「きゃああっ!」

「ああっ!」

 

 カジキの体当たりを二人がまともに食らう。

 吻に刺されなかったものの道路に(たた)き付けられた二人。セントレアが身を起こして立とうとするが、足に力が入らず前に倒れてしまう。

 四つん()いのセントレアが悔いる。実はセントレアとオータムのコスモス二人、戦士としてのキャリアはそこまででもない。一年ほど前に光の戦士として選ばれたものの、闇の者との交戦経験は浅かったりする。

 

(この手が、震えなければ……)

 

 自信の無さが矢に現れてしまったセントレアが経験不足を嘆いた。

 二人が立ち上がる力なく、無様に地面を這っている。この光景に男が勝利を確信する。

 男が笑う。負け続けの人生に終止符を打つ時、己を捨てた男へ真の(ふく)(しゅう)を果たす時。これまでの過去を顧みた男が、栄光の階段を駆け上がる姿を夢見てカジキにとどめを命じようとするが、

 

「……ゲフッ! ゲホッ、ゲホ!」

 

 そんな男の体を異変が襲った。

 男が激しい(せき)をし、口から赤い血がとめどなく垂れる。これに合わせてカジキも動きを止める。

 セントレアが()()うの体で立ち上がる。痛みを堪えながら光の矢を生み出し、

 

「〝ピアッシングハート〟!」

「げはっ!」

 

 矢を放って男の体を打ち抜いた。

 地面へと墜落する男。続いて立ち上がったオータムが大きく飛び上がり、

 

「〝グロリアーナどっかんキック〟!」

「ヤクサァァイッ!」

 

 渾身(こんしん)のドロップキックをカジキに食らわせ、この一撃にカジキが消滅した。

 

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