YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「あ、う、ぐぅっ……」
男がガスマスクを外し、血を吐きながら
道路の上を
「バリオン。お願いだから、もう抵抗しないで。
と、側で膝を突いて呼びかける。
「何を寝ぼけたことを。俺は、
「…………」
「俺を治せるのはあのお方だけだ。くそう、せめて俺が、コスモスを殺せていたら……」
男が口から泡混じりの血を垂らしながら、殺したくても殺せなかったセントレアとオータムの二人を悲しそうに見つめる。
既に男は観念していた。いま男の肺は、刺される痛みと締め付けられる苦しみを感じている。例えるなら有刺鉄線で縛られるような痛みで、肺が侵されたら厳しい、と男は同志たちから聞いている。
男が仰向けに寝転がり、目を閉じて鼻で息を
「なあ。
その生い立ちと闇に身を
「俺の親父は結構有名でな、あの
「笹紀兵蔵? まさか、あの政治家だった?」
「ああ。でもあのクソ親父は、俺を子供と認知しなかった。俺と俺の母親を、ゴミクズのように捨てたんだ」
二人が言葉を詰まらせる。男が政治家の隠し子であることを明かした。
続ける男。政治家という職業はある種のアイドルだ。有権者たちの
強く優しく美しく、ではなく清く正しく誇らしく。クリーンでなければならず、そのイメージを保つためには時として手段を選ばない。スキャンダルとなれば女性からの支持はまず失ってしまう。
女性が社会において活躍するようになった昨今だが、それでも昔からの価値観が変わっているとはまだまだ言い難い。父親からの愛を知らず、経済的にも厳しかったであろう男に、二人が居た
「母親は俺を育てるために身を粉にして働いた。昼も夜も、休むこと無くな。でも、無理が
「…………」
「クソ親父は葬儀にも現れなかった。俺を生まれさせておいて、マジで赤の他人程度にしか俺たちのことを見てなかった。……ぶっ殺してえって、アイツをテレビで見る度に思ってた頃だ。あの方が俺の前に舞い降り、俺に闇の力を授けてくれた」
「あの方? っていうかバリオン、もしかしてあなたが」
「ああ。クソ親父は俺が殺した。泣きべそ
男の父親である政治家は既に没しており、凄惨な
口を閉ざすコスモス二人。闇の者に悲しい事情があることを二人は知っているが、それでも実の父親を殺害した男の自白にショックを受けている。
ちなみに、二人は「あの方」について知らない。闇の妖精と言うべき存在が闇の者に付いていることを知らない。
「それから俺は、力を授けてくれたあの方の
「…………」
「でも、全然敵わなかった。イキってコスモスに挑むも、いつも勝てなくて逃げていた。あの方に合わせる顔がなくてよ、俺は沙門でも、クソ未満のゴミクズだったんだ……」
「そんなこと」
「そんなことだと? 役に立てないってのは辛いぞ? 見向きもされない
なじられたセントレアが共感を覚える。彼女は彼・鈴鬼小四郎に勇気を出すも素気なく断られている。
だが、男は勘違いした。敵と言えど自分を心配する女の子を傷つけてしまった。
「……悪い。言い過ぎた」
うつむくセントレアに男が己の狭量さを恥じて
「責めるつもりはなかったんだ。許してくれ。まあ、そんな俺に、違う夢を与えてくれた人がいたんだが……ゲブッ!」
「バリオン!」
「ゲェッ! ゲゲッ、ガ……ガフッ!」
男が黒く濁った、明らかに死を臭わせる血を大量に吐いた。
苦しさにゆがんだ男の顔から、血とは裏腹の生気が急激に失われている。これにセントレアが、
「オータム! もう見ちゃいられない、病院に連れて行こう!」
後ろに振り返って救助を呼び掛ける。
「よせっ! 俺はもう、助からない」
「そんな! 諦めちゃダメだよ、しっかりして!」
「もういい。全ては弱い俺が悪い……。でも最期に、お前らみたいな優しいヤツと
「バリオン」
男が目を閉じ、
「エクリプスさん、今から俺も……」
と、
戦いは終結した。しかし、目の前で死なれてしまった二人の気分は重い。二人は男を救うつもりで戦っていた。
無力さに打ちひしがれる二人。立ち尽くしているオータムが、うつむくセントレアに
「また、助けられなかったですね」
「うん……」
コスモス二人が闇の者と会敵するのは、この男で二人目だったりする。
一人目は退けこそしたものの、目の前で力を使い果たされ、死んでしまった。そしてこの男も、目の前で力を使い果たされ、同じく死んでしまった。
使えば使うほど命を削る闇の力。二人は闇の力が、この世にあってはならない物、と思って戦っている。だから二人は闇の者に力の破棄を呼び掛けているのだが、その思いは一人目にも男にも通じなかった。
しかし、光の戦士はくじけない。呼び続ければいつかは分かってくれる、と希望を捨てずにいる。
「オータム。次こそ頑張ろう」
「はい」
セントレアが涙を拭って立ち上がる。
決意を新たにした二人。そんなコスモス二人を、黒いサルの仮面をかぶる男と、顔に包帯を巻いた少年が、物陰に身を隠しながら
包帯を巻いて顔を隠す少年は、彼・鈴鬼小四郎である。
「遅かったか。ボイド、あれがコスモスだ。よく見ておけよ」
サルの仮面をかぶる男が彼に告げる。
「アトラクトさん」
「ん?」
「僕、あれに似た感じの奇麗に着飾った女の子、どこかで見たことあります」
「……は?」
アトラクトと呼ばれたサルの仮面をかぶる男が、彼の意外な返事に間の抜けた声を上げた。
彼が頭を押さえて思い出そうとする。
「どこで見たんだろう。記憶はうっすらとあるんだけど……」
「お前っておかしなヤツだな。リープゾーン内をなぜか動けるし」
「アトラクトさん。あの人と、どういう関係だったのですか?」
「昔さ、ある人の元で一緒に働いてたんだ。
サルの仮面をかぶる男が、死んだ男と旧知の間柄であったことを彼に伝えた。
男が振り返ってサルの仮面を被り直し、彼に背を向けたまま呼ぶ。
「ボイド、見つかる前に
「はい」
サルの仮面をかぶる男と彼が、コスモス二人に気取られぬよう高く飛んで山中葦ヶ久保から撤収した。