YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「せんぱ~い、お待たせしました~」
「潤奈」
今日は八月二十二日。盆のシーズンを過ぎ、あと少しで八月が終わる。
七月下旬より始まった学生の夏休み。自治体によって差はあれど残りが指で数えられるようになり、ある生徒は
新学期に対する心構えは人それぞれだろう。そんな夏の暑い日に、コスモスの戦士「オータム・シアリーズ」こと丙山潤奈が、同じコスモスの戦士「セントレア・アーチェリー」こと箕宿慧との待ち合わせ場所に到着した。
場所は埼玉県
「潤奈」
「はい?」
「今日はラフなコーディネートだね?」
本日の短パンにシャツといった出で立ちの潤奈に慧が尋ねた。
異性と遊ぶわけではないが、それでも駅前に繰り出すのだ。慧はスカートを履いたりして多少はオシャレに気を遣っているのだが、今日の潤奈の格好はラフという表現もお世辞になる。
潤奈の格好は、有り体に言えば部屋着だ。ついでに頭の天辺あたりの髪がハネている。そんな身だしなみすら
「夏休みだし、暑いからこれでいいかなって」
「髪ハネてるし」
「夏休みだし、知り合いともそんなに会わないですよ」
緩んだ顔の潤奈。知り合いに会わずとも身だしなみくらいはまともにするべきだろう。
二度も述べるが、ここは二本の鉄道路線が交差する場所だ。当然のことながら人の往来は激しい。夏休みで身も心もダラダラな潤奈に慧が息を
「そんなんじゃお嫁にいけないじゃない。まったく、潤奈カワイイのに」
「でへへ~」
「潤奈。夏休みの宿題、終わってる?」
潤奈のだらしなさが気になった慧が、宿題を済ませたか尋ねると、
「宿題なんてまだやんなくて平気ですよ。夏休みは長いんだし」
案の定、といった回答をしたため、また慧が息を吐いた。
二人は違う学校に通っており、住んでいる町も
慧が潤奈に事実を伝える。後回しの魔女になってはいけないのだ。
「もう残り半分もないけど」
「え、うそ。1、2、3……あれ、おかしいな」
潤奈がスマートフォンを取り出してカレンダーを展開し、夏休みの残り日数を数え、その両目を「○」にした。
まだまだ八月は長い、と独り勘違いしていた。しかし、今日は遊ぶ日と決めている潤奈が、
「いや、へーきへーき。夏休みはまだ残ってますから。ほら、昔から言いましたよね?
強がってトンチンカンな間違いをし、これに慧ががっくりと眉尻を下げる。
「それを言うなら急いてはことを仕損じるでしょ」
「ハハハ、そうでしたっけ?」
「そう言ってるうちに間に合わなくなっちゃうんだから」
「慧先輩は宿題もう済ませたんですか?」
「全部終わってるよ」
「ぜんぶぅ!?」
潤奈が目を大きく剥いて顔を慧の顔に近付け、この迫真する顔に慧が引きながら答える。
「う、うん」
「へー、えらいですね。ちゃんと計画的にやってるんですね」
「後が大変だからね。……そうだ、今日は潤奈の宿題やろうか? 宿題を終わらせれば、残りの夏休み気分すっきり過ごせるよ?」
勉強が苦手な一つ下の子のために慧が提案した。
思いやりのある先輩に潤奈の心が揺れる。今日は遊ぶ日と決めているし何よりも遊びたい。しかし、折角の先輩からの申し入れだ。宿題が
宿題はいずれやらなければならない。それならば今日手を付けるべきではないか。潤奈の心に、キラキラとした瞳の天使が現れ、
(そうですよ、やりましょう)
遊びたい盛りな潤奈の理性に呼びかけるが、
(ちょーとまったぁ、今日は慧先輩と遊ぶって決めてるんだろ? 宿題なんてあとあと、遊ぶのは楽しいぞ~、面白いぞ~)
続いて悪魔が現れ、天使の呼びかけをかき消さんとまくしたてる。
天使と悪魔の合戦が始まる潤奈の心。次第に天使が押され、隅に追いやられる。
初志貫徹。元々遊ぶと決めていた潤奈は決断する。天使と悪魔で揺れていた心のメーターが悪魔側へと振り切らん勢いで傾く。
「いいですよ、せっかく慧先輩と会えたんだし遊びましょう!」
「でも」
「大丈夫、今日は慧先輩と遊びたいんです! 宿題なら夏休みの最終日に一気に片付けますから! レッツエンジョイ夏休み~!」
悪魔の誘惑に負けた潤奈の心。理性より享楽への本能が勝った。
千里の道も一歩から。日頃から宿題をまめに消化しない子が、夏休み最後の日に全部片付けるなんてまず無理だろう。しかし、潤奈は慧のために遊ぶ選択肢を選んだ。
宿題よりも慧を優先したのだ。慧が「仕方ない」と息を吐きながら喜び、中学二年の宿題ならばある程度は見てやれるか、と考える。――だが、この慧と潤奈の会話を、先から聞いている男がいた。
慧と潤奈の二人を注視している男。いつ話しかけるべきか見計らっている。
「それじゃどこへ行く?」
「そうですね」
二人が特に決めていなかった行き先について話し合うと、
「宿題した方がいいんじゃねえのか?」
急に外から
黒いTシャツに黒のハーフパンツ、黒いサンダルを履いた若い男が、右手に黒い何かを持ちながら二人に近付いている。
「いいな宿題なんて。俺は学校に通いたくても、もう通えないからさ」
男はどこか諦めたように笑っており、これに二人が
絡んできた男を二人がもちろん知る訳がない。だが、男は容姿が整っていた。短髪で鼻が高く、シュッとした
「あなた、誰?」
顔は良くとも知らない男のため、慧が尋ねると、
「やっぱコスモスの女って可愛いな。これからヤらなければならないと思うと、実に惜しいぜ」
「えっ、コスモス。ってことは」
「そうさ。俺は沙門の〝アトラクト〟って言う。さあ、早く時間を止めてくれ」
闇の者と判明した慧が、急いで懐から懐中時計に似た銀色の器具を取り出し、備え付けのボタンを押下する。
時が止まる。歩く人々が一斉に停止する。この時が止まった周りを確認した男が、手に持つ黒いサルの仮面をかぶる。
「この辺に住んでんじゃねえかなってヤマ張って
「…………」
「悪いが二人とも今日が最期だ。あいつを