YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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見逃してくださいザケンナー

「アトラクトさん」

 

 時が止まった亜嵯霞市郊外の一画。亜嵯霞市には陸上自衛隊の駐屯地があるのだが、その敷地内で彼・鈴鬼小四郎が、男を見つけて空から下り立った。

 彼が呼んだ男は背を向けて立っている。精霊の変身を既に解いており、黒いサルの仮面をかぶっている。

 

「着いたか。もう一人狩っちまったぞ」

 

 振り向いた男が、血にまみれた装いで彼に伝えた。

 血だらけの男に彼が(いぶか)しみ、その奥に倒れている人の体を見つけたため、それに視線を移すと、

 

「……うっ」

 

 まるで胸をケダモノにでも食い荒らされたような女の子の体が彼の()に映った。

 女の子の体は、まだピクピクと痙攣(けいれん)している。丙山潤奈の死骸である。彼は彼女を知らないが、その凄惨な有様に眉をひそめてしまう。

 拒絶感を表す彼にサルの仮面をかぶる男が、

 

「仕方ないんだ。女を殺すなんてことはしたくないが、あいつを(よみが)らせるためだ」

 

 視線を()らしながら己が残虐な所業を弁解した。

 どうしてこんな(ひど)いことを――。そう思わない彼ではなかったが、男の事情を知っているが(ため)に吐きかけた非難を()み込む。

 男はコスモス二人に話しかける前、彼に「この前の二人を見つけた。これから狩る」と電話で伝えていた。それで女の子が一人死んでいるため、彼が以前葦ヶ久保で(のぞ)き見たコスモスの内の一人であることを察する。

 運がなかったんだ――、と彼が諦めるものの、事実として年端も行かない女の子が一人死んでいる。その気まずい空気による沈黙の後、男が空を見上げ、彼も見上げる。

 

「オータム! どこ、オータム!」

 

 北の方角から探す声が聞こえる。

 

「ボイド、コスモスはもう一人いる。狩りってものを今から見せてやる」

 

 彼は闇の力を得てまだ一月程度であり、この新人に早くコスモスの死体に慣れてもらうべく、男が狩りの手本を見せんとする。

 

「ここだコスモス! 早く来いよ!」

 

 男がもう一人のコスモス、セントレア・アーチェリーを大きな声で呼んだ。

 間もなくして北の空からセントレアが現れ、現場に下り立つ。オータムの声が聞こえなかったために気が気じゃない彼女が、相棒にして一つ下の可愛がっている子を探すが、

 

「遅かったな。お前の相棒、あそこで死んでるぜ」

 

 そんな彼女に対して男が、親指で丙山潤奈の死体を指し示した。

 セントレアの瞳に、ほんの少し前まで一緒に笑い合っていた、一つ下の子の(むご)たらしい死体が映る。

 

「潤奈。うそ、でしょ……」

 

 非情で残酷な現実にセントレアはショックを隠せず、手にする丸木弓を落とした。

 セントレアが膝を突き、両手も突いて放心する。覚悟していたことだけど、いざ目の当たりにするとその事実は受け止められず、頭の中は唯々(ただただ)真っ白で、死に対するプロセスが働かなかった。

 戦意喪失したセントレアに男が息を()き、それからチャンスをやろうと思い付く。勝者の余裕もあるが男には確信がある。――このコスモスは強くない、絶対に勝てる、という確信が。

 

「おい。俺が憎くないのか?」

 

 セントレアが男の問いかけに顔を上げる。

 

「お前ら仲良かったんだろ? 楽しそうに話してたじゃないか。そんな友達が、あんな無様に死んでよ」

 

 男が丙山潤奈の死体を視線で指してセントレアを()きつける。

 

「あの子、お前に(かたき)を、って言いながら死んでったぜ? フフッ、それならあの子のためにも仇とらなきゃな」

 

 死人に口なし。男が死んだ丙山潤奈の(おも)いをでたらめに吹いた。

 挑発に乗るセントレア。丙山潤奈との思い出を振り返り、殺された怒りと仇の使命感が闘志を駆り立てる。

 ふらりと立ち上がったセントレアが、目から大粒の涙を累々とこぼしながら、右手に光の矢を生む。この泣き顔に彼が「見ちゃいられない」と視線を伏せる。

 

「このおっ!」

 

 そして、セントレアが矢を逆手に握って飛び掛かったが、男はそんな怒りの(やじり)をかわした。

 止まらないセントレア。涙を落としながら、

 

「よくも! よくも潤奈を、あんな姿にぃ!」

 

 殺意をむき出しに矢を振り乱す。しかし、男は慣れた調子で涼しげにいなす。

 避けながら男が鼻で笑う。やはりコイツ弱い――、と。頭に血が上った弱者の無力さを(あわ)れみながら、

 

「フンッ」

「あっ! ぐっ……」

 

 隙を突いてセントレアの腹に膝蹴りを入れた。

 痛みに(もだ)えるセントレアの髪を、男が乱暴につかみ、

 

「終わりだな」

 

 頭を地面に(たた)きつける。

 衝撃は(すさ)まじく、地面がセントレアの頭を中心にひび割れる。そして、脳震盪(のうしんとう)を起こしたセントレアが気を失い、光に包まれる。

 光が解け、セントレアが元の姿の箕宿慧に戻る。

 

「……えっ」

 

 箕宿慧の姿に、彼が激しく動揺した。

 葦ヶ久保で覗き見たコスモスの子のもう一人。その正体は、彼が爆発事故に巻き込まれる前、クラスメートの女の子だった箕宿慧だった。

 

「ハッ、他愛ねえ。さて、こいつも殺しておくか」

 

 彼の動揺に気付いていない男が足下の箕宿慧を見下ろす。

 沙門に属する闇の者は、コスモスの子を殺すと報酬を得られる決まりとなっている。その報酬とは何でも(かな)う願い。億万長者になること、不妊に悩む女性が元気な子供を授かること、先立たれてしまったたった一人の大切な人を蘇らせることも夢ではない。

 本当に夢が、女の子を殺すだけで叶うのだ。この報酬があるからこそ闇の者はコスモスの子を付け狙う。しかし、そんな夢を叶えようとしている男の前に、

 

「待ってください!」

 

 同じ闇の者であるはずの彼が男を止めた。

 

「なんだボイド」

「いま、変身が解けて知ったんですけど、この子僕の知り合いです」

「ああ?」

「すみません、見逃してやってもらえないでしょうか」

 

 彼が膝と手を突き、男に土下座をした。

 箕宿慧は彼にとって知らない子ではない。そんな子が丙山潤奈のような姿に変わることは彼にとって耐えられなかった。それに、彼女は独りぼっちだった彼をクラスに馴染(なじ)ませようと歓迎会に誘っている。

 彼は箕宿慧の誘いを断ったが、その気遣いは恩として受け取っている。だから彼が男に懇願する。しかし男は譲らない。箕宿慧を殺害する気でいる。

 

「おいボイド。ねむてーこと言ってんなよ? 俺がコスモスを殺したがってるわけ分かってんだろ?」

「はい、分かってます。でも、もう願いは叶うんでしょう?」

「…………」

「お姉さんを生き返らせるのは十分なんでしょう? この子まで殺す必要ないじゃないですか。お願いします、この子を見逃してやってください」

 

 男は本名を()(ばやし)浪速(なにわ)と言い、男には同じく沙門に属する双子の姉がいた。

 男と姉は、生まれて()ぐ親に捨てられた。それが元で二人はいじめられ続け、施設を飛び出して親を探すが、宛てがなく施設に戻される、ということを度々繰り返していた。

 もう何度目になるか分からない親探し、その途上で彼と姉は沙門に誘われる。それからは姉と共に沙門として活動し続けていたのだが、つい一年ほど前に姉はコスモスとの交戦の末、力を使い果たして死んでしまった。

 血を分けたたった一人の肉親。男は姉を蘇らせる方法を掛け合い、蘇すためにはコスモスを三人殺せ、と命じられた。それから一人でコスモスと戦い続け、二人をどうにか殺した。そして丙山潤奈で三人目となり、姉を蘇らせる条件を先ほど満たしたのだった。

 確かに一人は殺さずとも姉は蘇る。男がそのことを念頭に置く。

 

「ボイド」

「……はい」

 

 男に声をかけられた彼が顔を上げる。しかし、

 

「どけっ!」

 

 彼が顔を男に蹴飛ばされた。

 倒れた彼に男が憤る。男にとって姉を蘇らせることがゴールではない。男はこれからも沙門として活動し続け、己を虐げ続けたこの国を壊したがっている。

 壊した後に我が物とする。闇の力を思う存分利用して。そのためには、一人でも多くコスモスを殺すことが近道と考えている。

 

「寝言は寝て言え。俺はあの方に選ばれた沙門だ。コスモスを殺して、この手に栄光をつかむんだ」

 

 説得の通じない男に彼が立ち上がり、

 

(戦うしか、ないのか)

 

 箕宿慧を救うために男と戦う決意を固めた。

 

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