YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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あなたのおうちのわんだふる♥

 彼が黒いスマートフォンをポケットから取り出した。

 スマートフォンは卑弥呼と名乗る子供から受け取った物で、それをかざした彼が意識を集中して言葉を呪文のようにつぶやく。

 

tyutaro(チュウタロウ), mogumogu(モグモグ), yeti(イエティ)...来るんだ、〝子犬座(ワンダフル)〟!」

 

 すると、液晶より幾何学模様がきめ細やかに描かれた円、言うなれば魔法陣が映し出され、その中心からイヌが飛び出した。

 イヌは小型犬で、耳が(はね)を広げた(ちょう)のような形をしている。犬種としてはパピヨンで、なぜか頭に宝冠(ミトラ)のような(かぶ)り物をかぶっている。

 彼は精霊を召喚した。精霊とは以前述べているが、闇の者が召喚あるいは身体(からだ)に宿すことができる、星座をモチーフとした支援強化プログラムの呼称である。召喚することで戦わせることができ、身に宿すことで黒き球状の物体(アリマニド)が寄生した体に更なる強化を図ることができる。

 

「ハハッ。ボイド、そんな小さいの呼んでどうしようって言うんだ?」

 

 小型犬を召喚した彼を黒いサルの仮面をかぶる男が笑った。

 星座をモチーフとする精霊にはランクがある。ランクの高い星座の精霊を行使するほど強い力を得られるのだが、彼が召喚した星座の精霊・子犬座はランクとしては最低の部類に入った。

 先に男が鳥と人をかけ合わせた姿へと変身したが、これは精霊・鷲座(アクゥイラ)を身に宿したことによる。鷲座は最高ではないものの次点ほどの力を得ることができ、そんな高位の精霊を駆る男が、彼の呼んだ精霊があまりにも格下であったために笑ったのだった。

 男が「精霊とはこう使うものだ」と見せつけんばかりに鷲座を再び行使する。裸足(はだし)だった足が湾曲した爪を備える(うろこ)に覆われた(あし)に変わり、サルの仮面を外した端正な顔が(くちばし)を持つ獰猛(どうもう)な鳥へと変わる。

 

「ボイド。本当にその子を助けるために俺と戦う気か?」

「はい。あなたには沙門としての力や振る舞いを教えてもらった恩がありますが、これだけは譲れません。あなたを止めます、絶対に」

「おもしれえ。沙門同士で争うってことがどういうことになるか、お前にその身をもって教えてやる」

 

 鳥男と化した男が彼に飛び掛かった。

 まずは挨拶代わり、と高く飛んだ男が彼を踏みつけようとする。これを彼がバックにジャンプしてかわすが、地面を踏んだ男の足元がその衝撃でひび割れる。

 続いて男が回し蹴りを繰り出す。彼が蹴りを防ぐが、高ランクの精霊を(まと)いし蹴りの衝撃は殺せずに彼が倒される。

 

「ヘッ」

「クッ。……いけっ、子犬座(ワンダフル)!」

 

 鼻で笑って見下す男に、彼が体を起こしながら子犬座に攻撃を命じる。

 

「フン」

 

 しかし、同じ精霊と言えども所詮は低ランクの小型犬。男が飛び掛かる子犬座を腕の翼で軽くあしらった。

 吹っ飛ばされた子犬座。彼は諦めず、

 

「クッ、もう一度だ、子犬座(ワンダフル)!」

 

 立ち上がりながら(なお)も子犬座に命じる。

 子犬座は忠実に従い、愚直に牙を剥いて男に飛び掛かるが、

 

「二度も言わせるな。その小さいので何ができる、って言っただろ?」

「……クッ」

 

 やはり翼で振り払われ、この結果に彼が苦虫を()み潰すような顔をした。

 子犬座は通用しない、と分かった彼に、男が右の肢を大きく上げていわゆる「ヤクザキック」を繰り出す。大振りなモーションのために彼がキックをかわしたが、すかさず男が右の翼を素早く振って彼を刈ろうとする。

 鎌のごとき軌道の翼が彼の首に迫る。だが、男は知らなかった。彼が元柔道部員であり、全国大会に出場するほどの有段者であることを。彼が男の翼を、受け流すようにしてつかみ、

 

「てやああっ!」

 

 一本背負いを繰り出す。

 

「ぐはっ!」

 

 背を(たた)き付けられた男が衝撃で嘴から唾を飛ばした。

 受け身を取れなかった男。立ち上がるがよろめいており、これに彼が、男の反撃に備えて構え直す。

 

「意外とやるじゃないか。油断しちまったぜ。だが」

 

 男が翼を仰いで突風を彼に吹き付ける。

 突風の威力は先にセントレアが受けた通り。動きを縛る(すさ)まじい気流に、彼が己をかばう。

 彼は詰めが甘かった。よろめく男を見て更に攻めるべきだった。この点に関しては彼がルールに則って勝負するスポーツマンであったことが(あだ)となったと言え、

 

「甘いなボイド! 沙門なら俺を倒したときに追撃すべきだった! ここからは俺のターンだ!」

 

 そんな彼の甘さを男が指摘したが、男も男で彼を戦闘の未経験者と侮っていた。男が二度目の不覚を避けるべく気を引き締める。

 彼への認識を改めた男が真上に()(しょう)し、空を飛び始めた男を彼が見上げる。

 

「さあ行くぜ! 覚悟するんだな!」

 

 男が()(はく)色の角膜に覆われる眼を鋭くし、彼に向かって急降下した。

 彼に接近したところで男が、翼を広げて両肢の爪を振り上げる。この硬質の爪を彼がかわすが、彼がすれ違いざまに振り向くと男は既に上昇している。

 上空に逃げた男。そしてまた男が急降下し、彼に爪を振り上げる。かわして振り返る彼だが、男は空高くに離れており、彼は急降下と急上昇のヒットアンドアウェイを繰り返す男を捕まえられなかった。

 

「捉えたぜ! 食らいなっ!」

「ぐっ!」

 

 そして、五度目の急降下で彼がかわし切れずに爪を浴びる。

 彼が右肩を切り裂かれ、傷を左手で押さえながら上昇する男を見上げる。バレーボールがそうであるように上を見ながら運動することは案外と辛い。まして急降下に備えなければならず、彼の息は既に上がっている。

 戦いの主導権を男に握られ続けていた。翻弄される彼が額の汗をぬぐい、手立てが見つからないジリ貧な状況に焦ってしまう。

 

「はあっ!」

 

 彼が高く飛び上がって空を舞う男を追いかけた。

 しかし、男の思う(つぼ)である。相手の土俵に躍り出る愚行であり、男は空中戦に絶大な自信を持っている。

 

「ハハッ、(しび)れを切らしたなボイド! 風に踊れ!」

 

 男が両翼を仰いで彼に容赦ない突風を浴びせる。

 もし彼が男とオータムの戦いを見ていれば空で挑まなかっただろう。宙では踏ん張れない彼が強風にあおられてしまい、

 

「う、うわああっ!」

 

 きりもみ回転しながら墜落する。

 地面に叩き付けられ、仰向けに倒れた彼のそばに男が着地し、彼の体を肢で踏みつける。湾曲した爪が彼の胸に食い込む。

 

「これで分かったかボイド。俺の邪魔をするな」

 

 沙門同志で争ったのだ。しかも彼はコスモスを見逃せ、などとのたまっている。

 重い罰が必要だ、と男は考え、一時は彼の命を奪おうとした。しかし男は考えを改める。彼はまだ闇の力を授かって一月程度の新人だ。それに先程の一本背負い、油断していたとは言え男に効いていた。

 男には姉を蘇らせる他に、(ふく)(しゅう)したい相手がいる。生かしておけば戦力になるかもしれん、と思い(とど)まり、釘を刺す程度にして彼に服従を強いた。

 だが、彼は諦めていない。何としてでも箕宿慧を助けんと闘志を絶やさずにいる。彼が叩きつけられた痛みを堪えながら、

 

「いえ、分かりません」

 

 服従をはっきりと拒絶する。

 

「この野郎が! 情けをかけてやれば!」

 

 男が踏みつける肢に力を入れ、彼の胸を踏み抜かんとする。しかし――。

 

子犬座(ワンダフル)!」

 

 彼が呼ぶ。彼の使役する子犬座が男に後ろから飛び掛かり、その首元にかみついた。

 

「なっ! こっ、コイツ!」

 

 振り払わんとする男だが、子犬座は放さない。

 彼は分かっていた。子犬座は精霊の中でも下位、対する男の鷲座は精霊の中でも上位、まともに戦わせても歯が立たないことを理解していた。

 活用するなら不意を突くしかない。そう考えた彼は緒戦、下位と上位の差を知るに併せて雑に飛び掛からせ、男に子犬座を侮らせた。「柔よく剛を制す」ではないが、彼は低位である子犬座の使い道を格上相手によく練っていた。

 男は自身が得意とする空に彼をおびき寄せたが、彼も彼で罠を張っていた。しかし、彼は今回はじめて精霊を使役した。彼は何故(なぜ)か子犬座の使い道を自然と思い付いていた。

 不意打ちは成功し、子犬座に動揺する男の肢を彼が押しのけた後、

 

「でやあああっ!」

「ぐうはっ!」

 

 翼をつかんで渾身(こんしん)の背負い投げを繰り出し、男を背中から叩きつけた。

 

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